「点検はいつもと同じ手順でやっているから大丈夫」——その油断が、重大事故につながることがあります。
平成7年5月、神奈川県川崎市の石油精製工場で、危険物製造所の定期点検中に硫化水素が漏洩し、死者1名・負傷者46名を出す事故が発生しました。
消防庁はこの事故を受けて全国の石油コンビナートに通達を発出し、翌年にはさらに詳しい安全対策を重ねて示しています。
点検・改修という「非定常作業」にこそ、社内基準の見直しと通報体制の備えが欠かせません。
うちは石油コンビナートやないから、この話は関係ないですよね。
いいえ、危険物施設なら規模を問わず関係があります。
まずは事故がどう起きたのかを見ていきましょう。
点検作業ぐらいで、そんな大きな事故になるものですか。
実は「いつもの点検」だからこそ油断が生まれます。
順番に見ていきましょう。
- 消防庁は平成7年6月1日の通知(消防危第52号・消防特第68号)で、川崎市の石油精製工場の事故を踏まえた安全対策を示しました
- 事故は硫黄回収装置の定期点検中に配管から硫化水素が漏洩し、死者1名・負傷者46名を出しました
- 通達が求めるのは社内保安基準の見直し・指揮監督体制・安全教育・緊急停止措置の4点です
- 翌年の通知では、点検・改修中の事故の多くが確認不十分などの人的要因で起きていることが示されました
- 発見から通報までの遅れも課題とされ、通報体制の整備まで含めて備える必要があります
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目次
石油コンビナートの点検作業はなぜ死亡事故を招いたのか

重油の脱硫を行う硫黄回収装置(危険物製造所)の定期点検中に、配管から硫化水素が漏洩したのです。
配管からの漏洩そのものは珍しい事象ではありませんが、定期点検という「決まった作業」の最中に起きた点が消防庁の注意を引きました。
死者1名・負傷者46名という被害の大きさも、通達が急いで出された理由の一つです。
事故原因は当時「調査中」とされていましたが、消防庁は原因の特定を待たず、まず点検・改修作業全般の安全管理体制を見直すよう求めました。
「うちは事故を起こした工場と設備が違うから関係ない」とは言い切れない通達です。
原因がまだ分かっていないのに、通達を出してしまうんですか。
原因物質より先に体制を見直すという考え方です。
次はどんな施設が対象になるのか見ていきましょう。
どの事業所のどの作業が対象になるのか

石油コンビナート等特別防災区域内に危険物施設を持つ事業所であれば、規模を問わず対象になります。
硫黄回収装置のような危険物製造所は、消防法第14条の3の2に基づく定期点検が法律上の義務です。
つまり通達が対象にしているのは、特別な作業ではなく、どの事業所も必ず行っている点検・改修そのものです。
「うちは点検を委託業者に任せているから関係ない」という考え方も、通達の想定からは外れます。
発注する側の特定事業者にも、作業の中身を把握する責任があります。
点検は外部の業者に任せているので、うちは直接関係ないと思っていました。
発注する側にも管理の責任があります。
次は通達が求める具体的な中身を見ていきましょう。
通達はどんな安全対策を求めているのか

社内の仕組みを見直すだけで着手できる4つの項目です。
まず社内保安基準・作業標準が、実際の点検・改修の内容と食い違っていないかを確認します。
次に、自社と実施業者の指揮監督の体制が現場で機能しているかを見ます。
そのうえで、作業に携わる社員・作業員への安全教育が徹底されているかを確認します。
最後に、危険な状態になったときの緊急停止措置と避難措置まで決めてあるかを点検します。
どれか1つだけでは足りず、4つがそろって初めて機能する対策です。
安全教育はやっていますが、緊急停止の手順まではあまり決めていません。
非常時の一手まで決めておくことが大切です。
次は特に見落としやすい落とし穴を見ていきましょう。
なぜ翌年も同じ事故が繰り返されたのか

消防庁は翌年、より踏み込んだ内容の通知を重ねて発出しています。
前年の通達で4項目が示されたにもかかわらず、事故の大半は確認不十分という人的要因で起きていました。
社内保安基準やマニュアルを作ること自体はできていても、実際の作業者や委託先の作業員まで周知が届いていないケースが少なくありません。
さらに、事故が起きた際の通報までの時間の遅れも、繰り返し課題として指摘されています。
「対策を決めた」ことと「現場で守られている」ことの間には、思った以上の距離があります。
マニュアルはありますが、委託業者にまで確実に伝わっているかは自信がありません。
委託先への周知まで確認することが大切です。
最後に、明日から確認すべきことを整理しましょう。
明日からなにを確認すればよいのか

周知の確認と、通報体制の整備まで含めて1つの流れです。
まず工事・点検マニュアルが、設備の変更や組織の変更に見直されないまま放置されていないかを確認します。
次に、委託業者まで周知が届いているかを、口頭確認だけでなく報告という形で残すようにします。
そして、昼間・夜間・休日それぞれの通報体制が、どんな時間帯でも迅速に機能するかを見直します。
自社だけで完結させず、受託者からの報告や現場巡視まで含めて確認する体制を持っておくと安心です。
まずは委託業者への周知が本当に届いているか確認してみます。
報告という形で残すのがポイントです。
昼夜・休日の通報体制もあわせて見直してみてください。
よくある質問
まとめ
点検マニュアルの周知徹底から見直します!
通報体制も確認してみます!
まずは委託先への周知確認から始めてください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 「石油コンビナート等特別防災区域内の危険物施設における点検、改修中の事故防止について」(平成7年6月1日付け消防危第52号・消防特第68号 消防庁危険物規制課長・消防庁特殊災害室長通知)
- 「石油コンビナート等特別防災区域内の特定事業所における事故防止について」(平成8年8月13日付け消防危第100号・消防特第126号 消防庁危険物規制課長・消防庁特殊災害室長通知)
- 消防法(昭和23年法律第186号)第14条の3の2
- 石油コンビナート等災害防止法(昭和50年法律第84号)第23条・第39条・第40条
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





