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四日市工場爆発事故はなぜ危険物施設に留意事項をもたらしたのか|非定常作業のリスクアセスメントを解説

配管とタンクが並ぶ化学工場の外観

「うちは危険物といっても普段どおりの作業をしているだけ」——その「いつもどおり」こそが、事故の起点になることがあります。
平成26年1月、三重県四日市市の三菱マテリアル(株)四日市工場で爆発事故が発生し、事故調査委員会と危険物保安技術協会の検討会が原因を分析しました。
消防庁はその年の6月、事故の直接の原因となった物質の危険性とあわせて、非定常作業に潜むリスクを全国の危険物施設に周知するよう通知を発出しました。
定常の点検マニュアルには無い「たまに行う分解・清掃」の場面こそ、リスクアセスメントの対象にする必要があります

うちは危険物施設ですが、点検はいつもどおりやっているので大丈夫ですよね。

いいえ、「いつもどおり」で済まない作業ほど注意が必要です。
まずは事故がどう起きたのかを見ていきましょう。

事故があったのは大きな工場の話で、うちには関係ない気がします。

実は物質の名前が違っても同じ落とし穴があります。
順番に見ていきましょう。

この記事の結論
  • 消防庁は平成26年6月26日の通知(消防危第174号・消防特第134号)で、三菱マテリアル四日市工場の爆発事故を踏まえた留意事項を示しました
  • 事故の原因物質は加水分解生成物で、熱や衝撃への感度が高く爆発威力がきわめて大きいことが判明しました
  • 装置や配管を開放・解体する非定常作業こそ、リスクアセスメントが不十分になりやすい場面です
  • 定常作業だけでなく非定常作業にも同じ視点でリスクアセスメントを行うことが求められています
  • ヒヤリハット事例は事業者間・関係業界へ幅広く共有することが推奨されています

四日市工場爆発事故が示した留意事項としてリスクアセスメントで危険性を把握し設計段階で堆積を防ぎ非定常作業のリスクを評価しヒヤリハット事例を共有する流れを示し定常作業だけでなく非定常作業にも同じ視点をと結論づける図解

三菱マテリアル四日市工場の爆発事故はなぜ全国への通知につながったのか

化学工場の配管とタンクのイメージと警告の三角マークが浮かぶイメージを見比べる図
平成26年1月9日、三重県四日市市の三菱マテリアル(株)四日市工場で爆発事故が発生しました。
この事故は事故調査委員会と危険物保安技術協会の両方で分析され、その結果が全国の消防機関へ共有されることになりました。
「三菱マテリアル(株)四日市工場爆発事故を踏まえた保守・点検時等の事故防止に係る留意事項について」(平成26年6月26日 消防危第174号・消防特第134号)=本年1月9日に発生した三重県四日市市の三菱マテリアル(株)四日市工場爆発事故を受け、同社が設置した事故調査委員会から最終報告書が6月12日に公表されました。また、危険物保安技術協会で開催された「危険物施設の保守・点検時の事故防止に係る検討会」においても、今回の事故の分析及び同種事故防止対策の検討が行われ、6月20日に最終報告が取りまとめられたところです。これらにより、今般、下記のとおり、今回の事故の直接の原因となった物質に係る留意事項を取りまとめるとともに、非定常作業時等に予期せぬ危険な反応等により災害の発生のおそれがある場合の留意事項を取りまとめました
通知は1つの事故から2つの検討会報告を経て生まれました
事故そのものを調べた事故調査委員会と、業界横断で対策を検討した危険物保安技術協会の検討会が、それぞれ最終報告をまとめています。
消防庁はこの2つの報告を踏まえ、消防組織法第37条に基づく助言として、都道府県から市町村・消防本部へ周知するよう求めました。
つまりこの通知は、特定の1事業者の話にとどまらず、同じ物質・同じ作業を扱う全国の危険物施設に向けたものです。
自分の施設が「大きな工場ではないから関係ない」と思っていても、対象になり得ます。

うちは小さい施設ですが、それでも関係あるんでしょうか。

規模ではなく取り扱う物質と作業で判断します。
次はどんな物質・作業が対象になるのか見ていきましょう。

どんな物質のどんな作業が対象になるのか

配管の中に固まった残渣が堆積しているイメージを示す図
事故の直接の原因になったのは、クロロシランポリマー類という物質の加水分解生成物でした。
これは特殊な化学物質の名前ですが、通知が示す考え方はもっと広い範囲の物質に当てはまります。
「三菱マテリアル(株)四日市工場爆発事故を踏まえた保守・点検時等の事故防止に係る留意事項について」=クロロシランポリマー類は、可燃性ではあるが、爆発威力は小さい。一方、低温での加水分解により生成していたクロロシランポリマー類の加水分解生成物の発火・爆発危険性は、クロロシランポリマー類と比較して、摩擦感度及び静電気火花感度は低いが、熱感度や打撃感度が高く、爆発威力はきわめて大きいという性状を有していることが明らかになった
もとの物質より、変化したあとの物質のほうが危険になることがあります
クロロシランポリマー類そのものは爆発威力が小さくても、低温での加水分解を経た生成物は熱や衝撃への感度が跳ね上がっていました。
通知はこの教訓をクロロシランポリマー類だけに限定せず、副生成物の危険性や反応過程が十分に把握されていない物質全般に広げています。
装置や配管に付着・堆積する残渣は、投入した原料とは性質が変わっている可能性がある、という前提で見る必要があります。
「扱っている薬品の名前が違うから関係ない」とは言い切れません。

名前も分からない副生成物なんて、うちでは把握しきれない気がします。

分からない物質ほど専門家に確認する姿勢が大切です。
次は通知が求める具体的な対策を見ていきましょう。

通知はどんな安全対策を求めているのか

ヘルメット姿の担当者がチェックリストを確認するイメージと計器盤のイメージを見比べる図
通知は事故物質そのものへの対策として、5つの項目を示しています。
どれも特別な設備投資というより、日々の作業プロセスに関わる内容です。
「三菱マテリアル(株)四日市工場爆発事故を踏まえた保守・点検時等の事故防止に係る留意事項について」=クロロシランポリマー類等の取扱いについては、定常作業、非定常作業のいずれにおいても、構成機器、作業内容、発火・爆発等の危険性等を総合的に勘案し、(略)適切に危険を抽出することにより十分にリスクアセスメントを行い、実態に合った適切な安全対策を講ずること。(略)クロロシランポリマー類等の危険性、リスクアセスメントの結果、得られた安全対策の内容について、従業者への周知・教育を徹底すること
対策は「調べる」「設計する」「教える」の3段階で組まれています
まず定常作業・非定常作業の両方で十分なリスクアセスメントを行い、危険を抽出することが求められます。
次に、設計段階で堆積物が生じにくい構造にする、または安全に除去できる構造にすることが挙げられています。
最後に、リスクアセスメントの結果と安全対策の内容を従業者へ周知・教育することまでが1セットです。
どれか1つだけでは足りず、調査・設計・教育がそろって初めて機能する対策です。

リスクアセスメントはやっていますが、教育まではあまり時間を割けていません。

結果を従業者に伝えるところまでが対策です。
次は特に見落としやすい落とし穴を見ていきましょう。

なぜ非定常作業で事故が起きやすいのか

作業員が配管のフランジを開いて残渣を受け止めているイメージを示す図
定常のマニュアルは、毎日繰り返す作業を前提に作られています。
通知が特に注意を促しているのは、その手前でつまずきやすい「たまにしかやらない作業」です。
「三菱マテリアル(株)四日市工場爆発事故を踏まえた保守・点検時等の事故防止に係る留意事項について」=クロロシランポリマー類以外の物質の取扱いにおいても、今回の事故に見られるように、副生成物等の危険性やその反応過程が十分に把握されていない場合、当該副生成物を取り扱う非定常作業等に伴うリスクを適切に評価することができなくなり、事故が発生する可能性がある。反応、精製過程等において未反応物や副生成物等が残渣として付着した装置や配管等を取り扱う作業における事故の防止として、ア 残渣を洗浄するための機器の解体・取り外し作業、開放作業等の非定常作業、イ 活性が残った物質が触媒に付着している状況での、廃棄までの保管作業 等では、安全対策が不十分なものとなり、思わぬ事故が発生するおそれがある
危ないのは稼働中の設備より、止めて開けたときです
配管や装置の解体・取り外し・開放作業は、頻度が低いぶんリスクアセスメントの対象から抜け落ちやすい作業です。
洗浄前の残渣や、触媒に付着したまま廃棄を待つ物質は、投入時の性質とは異なる危険性を帯びていることがあります。
定常作業用のマニュアルには、こうした不定期の作業の手順が書かれていないことが少なくありません。
「めったにやらない作業だから慣れた人に任せておけば大丈夫」という判断が、実は最も危険です。

年に数回しかやらない清掃作業は、たしかにマニュアルが薄いかもしれません。

頻度が低い作業ほど手順書を作っておくべきです。
最後に、明日から確認すべきことを整理しましょう。

明日からなにを確認すればよいのか

ヘルメット姿の作業員が輪になって情報を共有するイメージを示す図
通知が示す対策は、リスクアセスメントをやって終わりではありません。
現場での共有と、事業者を超えた情報提供まで含めて1つの流れです。
「三菱マテリアル(株)四日市工場爆発事故を踏まえた保守・点検時等の事故防止に係る留意事項について」=① 必要に応じて分析等により危険性を調査した上でのリスクアセスメントの実施、及びその結果に基づく安全対策の実施 ② 作業前ミーティング等における当日の作業計画に関する従業者間での情報共有 ③ 作業を行う従業者への十分な教育の実施 ④ 統括的に現場の安全を管理する者による安全管理体制の確保(略)ヒヤリハット事例等を継続的に分析し、発火・爆発等の危険性が疑われる場合、どのような危険性があるのか調査し、対策を講じていくことが必要である。(略)可能な場合には、関係業界、他社等に幅広く、適切かつ積極的に情報提供を行うこと
明日からできることは、朝礼と手順書の見直しから始まります
まず非定常作業の一覧を洗い出し、それぞれにリスクアセスメントが行われているかを確認します。
次に、作業前ミーティングで当日の作業計画を従業者間で共有する習慣があるかを見直します。
社内のヒヤリハット事例は記録するだけで終わらせず、分析して手順書に反映させるところまで行います。
性状が明確でない物質を扱う場合は、自社だけで抱え込まず、関係業界や専門家に確認する窓口を持っておくと安心です。

まずは非定常作業を洗い出すところから始めてみます。

洗い出しがリスクアセスメントの第一歩です。
作業前ミーティングでの共有もあわせて始めてみてください。

よくある質問

Q通知が対象にしているのはクロロシランポリマー類を扱う施設だけですか?
Aいいえ。事故の直接の原因はクロロシランポリマー類の加水分解生成物でしたが、通知は副生成物の危険性や反応過程が十分に把握されていない物質全般に留意事項を広げています。
Q三菱マテリアル四日市工場の爆発事故はいつ発生しましたか?
A回答は、平成26年1月9日に三重県四日市市の三菱マテリアル(株)四日市工場で発生しました。
Q通知が特に注意を促しているのはどんな作業ですか?
A回答は、装置や配管の解体・取り外し・開放作業等の非定常作業です。残渣や活性が残った物質の危険性が把握されないまま作業すると、安全対策が不十分になりやすいとされています。
Q通知はどんな法律に基づいて発出されましたか?
A回答は、消防組織法第37条の規定に基づく助言として発出されました。法的な強制力そのものではなく、都道府県から市町村・消防本部への周知を求めるものです。

まとめ

消防庁は平成26年6月26日の通知(消防危第174号・消防特第134号)で、三菱マテリアル四日市工場の爆発事故を踏まえた留意事項を示しました
事故の原因物質は加水分解生成物で、熱や衝撃への感度が高く爆発威力がきわめて大きいことが判明しました
留意事項は副生成物の危険性が十分に把握されていない物質全般に当てはまります
対策はリスクアセスメント・設計・周知教育の3段階で組まれています
装置や配管を開放・解体する非定常作業ほどリスクアセスメントが抜け落ちやすい場面です
ヒヤリハット事例は事業者間・関係業界へ幅広く共有することが推奨されています
通知は消防組織法第37条に基づく助言として、都道府県から市町村・消防本部へ周知されています

非定常作業こそ気をつけると分かりました!
朝礼から見直してみます!

まずは非定常作業の洗い出しから始めてください
㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

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お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 「三菱マテリアル(株)四日市工場爆発事故を踏まえた保守・点検時等の事故防止に係る留意事項について」(平成26年6月26日 消防危第174号・消防特第134号 消防庁危険物保安室長・消防庁特殊災害室長通知)
  • 「石油コンビナート等における災害防止対策の推進について」(平成26年5月16日付け消防危第124号・消防特第87号 総務省消防庁次長通知)
  • 消防組織法(昭和22年法律第226号)第37条

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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