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耐火電線はなぜ840度30分間の加熱に耐えなければならないのか|小型加熱炉耐火試験の絶縁抵抗基準と表示を解説

耐火電線はなぜ840度30分の加熱に耐えるのか

耐火電線は、屋内消火栓設備などの非常電源回路の配線を、耐火構造への埋設に代えて使うことが認められた特別な電線です。
ただし書の電線として認められるには、JISの傾斜試験だけでなく840度の加熱炉試験にも合格しなければなりません。
耐熱電線が380度15分間なのに対し、耐火電線は840度30分間というさらに厳しい条件が課されています。
この記事では条文の委任構造から加熱試験の中身、表示の見方まで順番に解説します。

うちの建物では、非常電源の配線がむき出しのケーブルのまま壁を這っています。
これは基準違反にならないんでしょうか。

そのケーブルが耐火電線の基準に適合していれば問題ありません。
まずは条文の委任構造から見てみましょう。

耐火電線と耐熱電線は同じようなものだと思っていました。
何がそんなに違うんですか。

耐火電線は840度30分間という、耐熱電線よりずっと厳しい加熱試験に合格しています。
順番に見ていきましょう。

この記事の結論
  • 屋内消火栓設備の非常電源回路の配線は、消防庁長官が定める基準に適合すれば耐火構造への埋設を省略できます。
  • その基準(耐火電線の基準)は消防法施行規則第12条第1項第4号ホ(ロ)ただし書に基づいて定められています。
  • 一般性能はJIS C3005の傾斜試験で60秒以内に自然に消える難燃性が求められます。
  • 小型加熱炉耐火試験は840度プラスマイナス84度の加熱炉で30分間加熱し絶縁抵抗などを確認します。
  • 高難燃ノンハロゲン耐火ケーブルは追加で3つの試験に合格しなければなりません。

耐火電線の基準をただし書の電線一般性能小型加熱炉耐火試験表示確認の4段階でまとめた図解

耐火電線はなぜただし書で認められた例外なのか

耐火構造への埋設保護と単体の耐火電線による配線の2つの方法を示す図
屋内消火栓設備の非常電源回路の配線は、原則として耐火構造とした主要構造部への埋設などで保護されます。
けれど条文にはただし書があり、そこに耐火電線の基準が結びついています。
消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第12条第1項第4号ホ 配線は、電気工作物に係る法令の規定によるほか、他の回路による障害を受けることのないような措置を講じるとともに、次の(イ)から(ハ)までに定めるところによること。(ロ)電線は、耐火構造とした主要構造部に埋設することその他これと同等以上の耐熱効果のある方法により保護すること。ただし、MIケーブル又は消防庁長官が定める基準に適合する電線を使用する場合は、この限りでない。
耐火構造への埋設保護の代わりに、耐火電線という電線そのものの性能で置き換えることが認められています。
この規則第12条は屋内消火栓設備の非常電源配線の基準ですが、耐火電線の基準は他の設備の同種のただし書からも共通して引用されます。
自動火災報知設備や非常電源回路の配線でも、この告示への適合が「耐火電線」と呼べる条件になります。
つまり耐火電線の基準は一つの設備だけでなく、非常電源系統の配線を横断的に支える基準です。
では耐火電線と認められるには、どんな性能が求められるのでしょうか。

耐火構造への埋設を使わずに配線してよいなんて、意外な気がします。
なぜそんな例外が認められているんですか。

埋設保護の代わりに電線自体の耐火性能で燃え広がりを防ぐという考え方なんです。
次はその性能の中身を見てみましょう。

耐火電線と認められるための一般性能とは何か

傾斜試験で炎が60秒以内に自然に消える耐火電線の一般性能と太さによる試験区分を示す図
耐火電線と名乗るには、まず電気設備としての基本性能をクリアする必要があります。
そのうえで、電線の太さや構造ごとに受けるべき加熱炉試験の種類が変わります。
耐火電線の基準(平成9年12月18日消防庁告示第10号)第三 一般性能 耐火電線の一般性能は、次に定めるところによる。一 ケーブルにあっては、次によること。(一)(略)電気設備に関する技術基準を定める省令の規定に適合するものであること。(二)保護被覆の難燃性は、JIS C3005の傾斜試験を行った場合において、60秒以内に炎が自然に消えるものであること。
保護被覆は、傾けた状態で炎を当てても60秒以内に自然に消える難燃性が求められます。
これはJIS C3005という規格の傾斜試験で確かめます。
そのうえで、電線の太さや構造によって受ける加熱炉試験の種類が変わります。
細いケーブルは小型加熱炉耐火試験、太いケーブルは大型加熱炉耐火試験とあわせて燃焼性試験を受けます。
では実際の加熱炉試験では、どんな条件が課されているのでしょうか。

太さによって試験の種類が変わるんですね。
うちの建物のケーブルはどちらに当たるんでしょうか。

屋内配線でよく使う細めのケーブルは小型加熱炉耐火試験の対象になります。
次は試験そのものの中身を見てみましょう。

小型加熱炉耐火試験は何を測っているのか

けい酸カルシウム板に固定した電線を840度の加熱炉で30分間加熱する小型加熱炉耐火試験の図
一般性能だけでなく、実際に高温にさらす加熱炉試験そのものにも合格しなければなりません。
試験体の作り方から判定基準まで、細かく数値が決められています。
耐火電線の基準(平成9年12月18日消防庁告示第10号)第五 小型加熱炉耐火試験 一 試験体 試験体一は、長さ1.3メートルのケーブルを縦300ミリメートル、横300ミリメートル、厚さ10ミリメートルのけい酸カルシウム板等に固定線で二重巻きにして取り付け、その中央部に自重の2倍の加重をかけたものであること。二 加熱炉 (三)試験体を挿入しない状態で加熱した場合において、840度プラスマイナス84度の温度を30分間以上保つことができるものであること。三 加熱方法 試験体を別図第三に示す位置に挿入し、JIS A1304の標準曲線に準じて30分間加熱すること。四 判定 (一)絶縁抵抗は、直流500ボルトの絶縁抵抗計で測定した値が、低圧ケーブルにあっては加熱前50メガオーム以上、加熱終了直前0.4メガオーム以上であること。(三)保護被覆は、加熱を終了した後において、加熱炉の内壁から測定して150ミリメートル以上燃焼していないこと。
試験体はけい酸カルシウム板に固定した電線に自重の2倍の加重をかけ、840度前後の加熱炉で30分間加熱します。
耐熱電線の380度15分間と比べても、840度・30分間という条件は格段に厳しいものです。
加熱前は絶縁抵抗が50メガオーム以上、加熱終了直前でも0.4メガオーム以上を保てなければ不合格です。
保護被覆が炉の内壁から150ミリメートル以上燃えてしまった場合も不合格になります。
点検の場では試験を再現できないので、メーカーの試験成績書で確認することになります。

840度で30分間なんて、かなり過酷な条件ですね。
耐熱電線とはまったく別物な気がしてきました。

非常電源回路を守る耐火電線だからこそ、この厳しさが必要なんです。
次はさらに試験が増えるケースです。

高難燃ノンハロゲン耐火ケーブルだけ試験が増えるのはなぜか

高難燃性試験発煙濃度試験燃焼時発生ガス試験の3つの試験装置を示す図
耐火電線の中には、絶縁物にハロゲンを使わない種類があります。
このタイプだけ、加熱炉試験に加えてさらに3つの試験を受けなければなりません。
耐火電線の基準(平成9年12月18日消防庁告示第10号)第二 用語の意義 五 高難燃ノンハロゲン耐火ケーブル 耐火電線のうち、絶縁物、保護被覆を構成する材料にハロゲン(ふっ素、塩素、臭素、よう素及びアスタチンをいう。)を含まないケーブルをいう。第八 高難燃ノンハロゲン性試験 高難燃ノンハロゲン性試験は、次の各号に定めるところによりケーブルの高難燃性試験、発煙濃度試験及び燃焼時発生ガス試験を行い、そのいずれにも適合するものを合格とする。二 発煙濃度試験 (四)次の式により求めた発煙濃度の平均が、150以下であること。三 燃焼時発生ガス試験 (四)ガス洗浄容器内の水素イオン濃度の最小値の平均が3.5以上であること。
高難燃ノンハロゲン耐火ケーブルは、燃えにくさだけでなく発煙と発生ガスの安全性まで試験で確認します。
高難燃性試験は上端まで燃焼しないことを、発煙濃度試験は煙で視界がどこまで奪われるかを確かめます。
燃焼時発生ガス試験は絶縁物を燃やしたときに出るガスを水に通し、水素イオン濃度の平均が3.5以上であることまで求めます。
ハロゲンを含む電線は燃えると有毒なガスや強い腐食性の煙を出しやすいため、含まない代わりにこの3試験で安全性を裏付ける仕組みです。
避難経路に近い場所ほど、この高難燃ノンハロゲン耐火ケーブルが選ばれる理由でもあります。

ハロゲンを含まないほうが、かえって試験が増えるんですね。
なぜそうなるんですか。

ハロゲンが無い分、発煙や発生ガスの安全性を別に確かめる必要があるからです。
次は現場での確認方法です。

現場では耐火電線をどう確認すればよいのか

ケーブルの表示タグと点検チェックリストの図
試験の中身を知っているだけでは足りず、実際のケーブルがその基準に適合しているかを確かめる必要があります。
現場で見るべきは、ケーブルそのものに付けられた表示です。
耐火電線の基準(平成9年12月18日消防庁告示第10号)第九 表示 耐火電線には、次の各号に掲げる事項を見やすい箇所に容易に消えないように表示するものとする。一 製造者名又は商標 二 製造年 三 耐火電線である旨の表示 四 金属電線管配線等に使用することのできるものにあっては、その旨の表示 五 高難燃ノンハロゲン耐火ケーブルにあっては、NH
  • 配線が耐火構造への埋設ではなくケーブル単体で通っている箇所を見つける
  • 製造者名・製造年・耐火電線である旨の表示がケーブルに付いているかを確認する
  • 金属電線管配線等に使う場合はその旨の表示があるかも見る
  • 高難燃ノンハロゲン耐火ケーブルであれば「NH」の表示があるかも見る
  • 表示だけで判断できない場合はメーカーの試験成績書を取り寄せる
表示の確認こそが、告示の基準を満たしているかどうかの唯一の手がかりです。
見た目だけでは普通のケーブルと区別がつかないからこそ、この表示を見落とさないようにしましょう。

ケーブルそのものに表示があるなんて知りませんでした。

「NH」の文字まで確認できれば確実です

よくある質問

Q耐火電線を使えば、必ず耐火構造への埋設を省略できますか?
Aいいえ、対象は屋内消火栓設備の非常電源回路の配線に限られ、そこに耐火電線の基準に適合する電線を使う場合だけです。
Q耐火電線の一般性能は、どんな試験で確認しますか?
AJIS C3005の傾斜試験で、60秒以内に炎が自然に消えることを確認します。
Q小型加熱炉耐火試験の加熱炉は何度で何分間加熱しますか?
A840度プラスマイナス84度の温度で30分間加熱します。
Q高難燃ノンハロゲン耐火ケーブルかどうかは、どこで見分けますか?
A表示に「NH」の文字があるかどうかで見分けます。

まとめ

耐火電線の基準(平成9年12月18日消防庁告示第10号)は、消防法施行規則第12条第1項第4号ホ(ロ)ただし書に基づいて定められています。
非常電源回路の配線は、耐火構造への埋設の代わりに耐火電線という電線そのものの性能で満たすこともできます。
一般性能はJIS C3005の傾斜試験で60秒以内に自然に消える難燃性が求められます。
小型加熱炉耐火試験は840度プラスマイナス84度の加熱炉で30分間加熱し、絶縁抵抗などを確認します。
保護被覆は加熱炉の内壁から150ミリメートル以上燃焼していないことが合格条件です。
高難燃ノンハロゲン耐火ケーブルは高難燃性試験・発煙濃度試験・燃焼時発生ガス試験の3つに追加で合格しなければなりません。
現場ではケーブルの表示を確認し、高難燃ノンハロゲン耐火ケーブルなら「NH」の文字も見ておきましょう。

耐火電線の基準がここまでよく分かりました!

ケーブルの表示を見比べるところから始めましょう
㈱防災屋でもご相談を承っております。

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お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第12条第1項第4号ホ
  • 耐火電線の基準(平成9年12月18日消防庁告示第10号、改正 平成26年4月14日消防庁告示第11号・令和元年6月28日消防庁告示第2号)

※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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