避難安全検証法の計算では、居室から出口までの移動にかかる時間を式で求めます。
建築基準法施行令第129条第3項第1号イが定めるこの計算には、在室者が歩く速さを表す歩行速度という数値が使われています。
歩行速度は、建物や居室の用途、階段か平らな部分かによって数値が細かく分かれており、同じ距離でも歩行時間の計算結果が変わってきます。
この記事では、告示が定める歩行速度の数値と、数値そのものが定められていない用途があることを整理します。
うちのビル、確認申請の書類に「検証法」って書いてあった気がします。
歩く速さまで数値で決まっているんですか。
はい、歩行速度という数値が決まっています。
まずは、どの計算式で使うのかから見ていきましょう。
歩行速度、初めて聞きました。
どこで決まっている数値なんですか。
国の告示が、用途ごとの歩行速度を定めています。
1つずつ条文で見ていきましょう。
- 歩行速度は、避難安全検証法で歩行時間を計算するために使う数値で、建築基準法施行令第129条第3項第1号イが計算方法を国土交通大臣に委任している
- 具体的な数値は国土交通省告示第510号(令和2年に全部改正。旧建設省告示第1441号)が定めており、建物や居室の用途によって数値が変わる
- 用途は劇場等・百貨店等(病院等除く)・学校事務所等の三区分に分かれ、階段の上り下りと平らな部分でも数値が違う
- 病院・診療所・児童福祉施設等の居室には、この表の数値そのものが定められていない
- 告示は令和2年に全部改正されているため、古い告示番号のまま止まっている資料には注意する
▼
目次
歩行時間の計算になぜ歩く速さが必要なのか

その計算の中に、在室者が出口へ向かって歩く「歩行時間」という項目があります。
施行令第129条第3項第1号イは、居室からの避難を終了するまでの時間を計算する方法の要素の一つに歩行距離を挙げ、具体的な計算方法は国土交通大臣が定めるとしています。
この委任を受けて、現在は国土交通省告示第510号が歩行時間の計算式と歩行速度の数値を定めています。
歩行速度は歩く距離を時間に変換するための係数で、値が大きいほど同じ距離でも歩行時間は短く計算されます。
次の見出しから、この歩行速度がどのように用途で分かれているのかを見ていきます。
歩行距離を歩行時間に変換するには、歩く速さの数値が要るということですね。
それはどこで決まっているんですか。
はい、国土交通省告示第510号が歩行速度を定めています。
次は、その具体的な数値を見てみましょう。
歩行速度はなぜ用途によって三段階に分かれているのか

告示は、建物や居室の用途を三つのグループに分けて、それぞれ別の数値を定めています。
建築物又は居室の用途の区分:劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場その他これらに類する用途/百貨店、展示場その他これらに類する用途又は共同住宅、ホテルその他これらに類する用途(病院、診療所及び児童福祉施設等を除く。)/学校(幼保連携型認定こども園を除く。)、事務所その他これらに類する用途
三区分は、不特定多数の客が集まる施設か、決まった人が日常的に使う施設かという違いにおおむね対応しています。
学校・事務所等の区分がもっとも歩行速度が速く設定されており、劇場等の区分がもっとも遅く設定されています。
同じ「その他の部分」でも区分が変われば数値が変わるため、まず自分の建物や居室がどの区分に当たるかを確認する必要があります。
次の見出しで、階段の上り下りと平らな部分の数値の違いを具体的に見ていきます。
うちは事務所ですが、劇場や百貨店とは違う数値を使うということですね。
どのくらい違うんでしょうか。
はい、区分によって数値の差があります。
次は具体的な数値を見てみましょう。
階段の上り下りと客席部分でなぜ数値が変わるのか

実際の数値を確認します。
劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場その他これらに類する用途 階段(上り)毎分27メートル・階段(下り)毎分36メートル・客席部分 毎分30メートル・その他の部分 毎分60メートル
百貨店、展示場その他これらに類する用途又は共同住宅、ホテルその他これらに類する用途(病院等を除く。) 階段(上り)毎分27メートル・階段(下り)毎分36メートル・その他の部分 毎分60メートル
学校(幼保連携型認定こども園を除く。)、事務所その他これらに類する用途 階段(上り)毎分35メートル・階段(下り)毎分47メートル・その他の部分 毎分78メートル
学校・事務所等では、階段の上りが毎分35メートル、下りが毎分47メートル、階段以外の部分は毎分78メートルと、同じ建物内でも最大で二倍以上の差があります。
上りは下りより体力を要するため遅く、下りは上りより速く、平らな廊下はさらに速く歩けるという実際の歩行感覚に近い数値になっています。
劇場等だけは客席部分にも専用の数値(毎分30メートル)があり、座席の間を移動する動きの遅さが反映されています。
検証法の計算では、居室の出口までの経路上でどの数値を使うかを部分ごとに選ぶ必要があります。
階段の上りと下りで数値が違うのは知りませんでした。
経路ごとに数値を選ぶんですね。
はい、経路の区間ごとに数値を選んで計算します。
次は見落としやすい点を見てみましょう。
病院や児童福祉施設はなぜこの表に数値が無いのか

見落とすと検証法の前提そのものが崩れるので、確認しておきます。
除外された用途の居室について、告示の歩行速度の表には対応する数値そのものが存在しません。
数値が無い以上、病院の病室や高齢者施設の居室を含む階に、この表の数値をそのまま当てはめて検証法を使うことはできません。
似た用途だからといって百貨店等や学校等の数値を代用してよいとは告示に書かれておらず、根拠のない代用は検証結果の信頼性を損ないます。
病院や児童福祉施設等が含まれる建物で検証法を使うときは、個別に確認・計算できる専門家へ相談するのが確実です。
病院や施設が入っていると、この表の数値は使えないんですね。
知らずに代用しそうでした。
そうなんです、数値が定められていない用途があります。
次は明日からの確認事項を見てみましょう。
明日からなにを確認すればよいのか

歩行速度を定める告示の名称が変わっている点もあわせて確認しておきたいところです。
古い設計資料や解説書には「建設省告示第1441号」の名称のまま載っていることがありますが、現在の正式な根拠は国土交通省告示第510号です(数値そのものは同じ表が引き継がれています)。
確認申請書類や検査済証の副本に「階避難安全検証法」の記載があれば、その建物は検証法を使って設計されています。
検証法を使っている建物では、テナントの用途変更や間仕切りの変更で居室の用途区分が変わると、使うべき歩行速度の数値も変わる可能性があります。
不明な場合は、設計者や特定行政庁に確認申請時の図書を確認してもらうのが確実です。
告示の番号が変わっていたとは知りませんでした。
用途変更のときは特に注意します。
はい、用途変更のタイミングが特に注意です。
次はよくある質問を見ていきましょう。
よくある質問
まとめ
歩行速度が用途と部分で細かく分かれていることがよく分かりました。
迷ったときはお気軽にご相談ください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法施行令第129条第3項第1号(避難上の安全の検証を行う建築物の階に対する基準の適用、e-Gov法令検索)
- 階からの避難に要する時間に基づく階避難安全検証法に関する算出方法等を定める件(令和2年4月1日国土交通省告示第510号)一 ロ 歩行速度の表
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





