建築基準法第34条第2項は、高さ31メートルを超える建築物(政令で定めるものを除く)に、非常用の昇降機の設置を義務付けています。
高層の建築物が増えるにつれて、建てた当時は基準を満たしていた建築物でも、その後の増築によって状況が変わることがあります。
こうした「既存不適格建築物」が増築や改築をしようとすると、原則としては非常用の昇降機についても建物全体を現行基準に合わせる必要が生じます。
けれども一定の要件を満たせば、建築基準法施行令第137条の6により、この負担が一部緩和されます。
うちのビルは高さが31メートルを超えていて、非常用の昇降機を設置しています。
増築するなら、その基準も今の内容に合わせないといけませんか。
いいえ、要件を満たせば増築しても今の非常用の昇降機のままで構いません。
建築基準法施行令第137条の6という緩和の規定があるんです。
緩和があるんですね、少し安心しました。
どんな増築や改築が対象になるんでしょうか。
対象になるのは、法第3条第2項により非常用の昇降機の規定の適用を受けない建築物の増築や改築です。
この記事で、対象と要件を順番に確認していきましょう。
- 高さ31メートルを超える建築物も、要件を満たせば増築や改築ができます(建築基準法第86条の7第1項)。
- 対象となるのは、法第3条第2項により現行の第34条第2項の規定の適用を受けない建築物です(施行令第137条の6)。
- 要件は増築と改築で異なり、それぞれ高さと床面積の割合の両方を満たす必要があります。
- 増築の場合は、増築に係る部分の高さが31メートルを超えず、かつ床面積の合計が基準時における延べ面積の2分の1を超えないことが必要です。
- 改築の場合は、床面積の合計が基準時における延べ面積の5分の1を超えず、かつ高さが基準時における当該部分の高さを超えないことが必要です。
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目次
なぜ高さ31メートルを超える建築物に非常用の昇降機の設置が義務付けられているのか

建築基準法第34条第2項は、高さ31メートルを超える建築物に、非常用の昇降機の設置を義務付けています。
非常用の昇降機は、火災時に消防隊が消火活動や救助のために使う昇降機で、平常時のエレベーターとは別に設置が義務付けられています。
高さのある建築物も、建てた当時はほとんどが適法でした。
その後の増築で建築物の高さが基準に届いたり、基準そのものが見直されたりすると、建てたときは適合していた昇降機の扱いが、その後の基準に適合しなくなることがあります。
これが建築基準法第3条第2項が定める「既存不適格建築物」で、そのまま使い続けること自体は認められています。
問題になるのは増築や改築をするときで、原則としては工事にあわせて非常用の昇降機についても現行の第34条第2項の基準に適合させなければなりません。
高さが31メートルを超える建物で、非常用の昇降機を設置しています。
増築したら、この昇降機の扱いはどうなりますか。
増築や改築の内容によっては、今の昇降機のままで構わないことがあります。
次の章で対象と範囲を確認しましょう。
どんな建築物のどんな増改築が緩和の対象になるのか

対象になる建物と工事の範囲は、法律と政令の両方で決められています。
建築基準法第86条の7第1項は、第3条第2項により第34条第2項など複数の規定の適用を受けない建築物について、政令で定める範囲内で増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合に、その規定を適用しないと定めています。
このうち非常用の昇降機に関する増築・改築の範囲を具体的に定めているのが、次の章で見る施行令第137条の6です。
この条項は高さ31メートルを超える建築物に限った規定で、それ以下の高さの建築物はもともと第34条第2項の適用対象外のため、この緩和を使う場面もありません。
高さ31メートルを超える建築物が対象なんですね。
具体的にはどんな要件を満たせばいいんでしょうか。
要件は増築と改築で内容が分かれています。
次の章で条文を確認しましょう。
緩和を受けるにはどんな要件を満たす必要があるのか

施行令第137条の6は、増築と改築で異なる要件を、それぞれ号ごとに定めています。
増築の場合は、増築に係る部分の建築物の高さが31メートルを超えないこと、かつ増築に係る部分の床面積の合計が基準時における延べ面積の2分の1を超えないことの両方が必要です。
改築の場合は、改築に係る部分の床面積の合計が基準時における延べ面積の5分の1を超えないこと、かつ改築に係る部分の建築物の高さが基準時における当該部分の高さを超えないことの両方が必要です。
いずれも「かつ」で結ばれた要件で、「いずれかに該当する」という選択肢の表現ではありません。
増築と改築で要件が違うんですね。
混同しないためには何に気をつければいいでしょうか。
はい、割合と高さの基準の組み合わせを取り違えやすい点があります。
次の章で見落としやすいポイントを説明します。
増築と改築で要件はどう違うのか

他の137条の6系の緩和と比べると、割合の基準にも違いがあります。
敷地内の避難上及び消火上必要な通路に関する緩和(施行令第137条の6の3)は、増築でも改築でも20分の1という同じ割合の基準を使います。
これに対して、非常用の昇降機関係(施行令第137条の6)は、増築なら2分の1、改築なら5分の1と、増築と改築で異なる割合が定められています。
「他の137条の6系と同じように増築でも改築でも同じ割合を使えばよい」と思い込むと、実際には適用されない割合で試算してしまうおそれがあります。
さらに、増築の高さの基準は31メートルという絶対値であるのに対し、改築の高さの基準は基準時における当該部分の高さという相対値である点も混同しやすいところです。
増築と改築で割合も高さの基準も違うんですね。
混同しないための確認手順を知りたいです。
はい、条項ごとの違いに注意してください。
最後に実務での確認手順をまとめます。
増築や改築を計画するときは何を確認すればよいか

判断に迷う部分があれば、早めに専門家へ相談するのが安全です。
- 自分の建築物が高さ31メートルを超え、非常用の昇降機の設置義務があるかを確認する
- 自分の建築物が法第3条第2項の適用を受ける既存不適格に当たるかを確認する
- 計画が増築なのか改築なのかを区別する
- 増築なら高さが31メートルを超えないこと、かつ床面積の合計が基準時の延べ面積の2分の1以内に収まることを確認する
- 改築なら床面積の合計が基準時の延べ面積の5分の1以内に収まること、かつ高さが基準時の当該部分の高さを超えないことを確認する
- 他の137条の6系が使う20分の1という割合と取り違えていないかをあわせて確認する
設計が固まってから要件を満たさないと分かると、計画の手戻りが発生します。
増築と改築で要件が違うことを踏まえて、早めに試算しておけば無理のない計画ができそうです。
次はよくある質問も見てみます。
はい、あわせてご確認ください。
次によくある質問をまとめました。
よくある質問
まとめ
増築や改築の計画を立てるときは、高さと割合の要件を確認しながら進めます!
建築物の増築や改築をお考えの際は、いつでもご相談ください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第3条・第34条・第86条の7
- 建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)第137条の6・第137条の6の3
※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄の特定行政庁または専門家にご確認ください。





