自分では火を使っていないのに、工事の立会いを任されていただけで、火災の責任を問われることはあるのでしょうか。
昭和54年に大阪市のウレタンフォーム加工工場で、リフトの補修工事中に溶断の火花が燃えやすい材料へ燃え移り、7名が亡くなる火災が起きました。
工事に立ち会っていた工場部門の責任者は、業務上失火罪などに問われ、最高裁判所が昭和60年10月21日に上告を棄却して有罪の判断が確定しています。
決定が示したのは、燃えやすい物を管理する立場にある人は、火災防止の職務を負う「業務者」にあたるという考え方です。
自分で火を使っていなくても、責任を問われるのでしょうか。
火気の安全に配慮する立場なら、業務上の責任が認められました。
順に見ていきます。
防火責任者という決まりがなかったとしても同じですか。
実際の職務で判断されました。
肩書や決まりの有無だけでは線を引けません。
- 昭和54年に大阪市の工場で起きた火災で、7名が死亡しました
- 最高裁は、火気の安全に配慮すべき地位にある人の失火を、業務上失火罪にあたると判断しました
- 防火責任者を明確に定めた書類がなくても、実際に担っていた職務から責任者と認められました
- 工事の立会いを任された人が、火花の飛散を防ぐ措置をとらずに作業を許したことが過失とされました
- 下請業者の工事でも、注文者側の責任者の注意義務は否定されませんでした
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目次
どんな火災だったのか

本件の判決で認められた事実だけを順に見ます。
- 昭和54年5月21日の午後2時ごろ、大阪市にあるウレタンフォームの加工販売を営む会社の工場で出火しました
- 工場内では、資材を運ぶ簡易リフトの補修工事を、外部の工事業者が行っていました
- 工場1階には、燃えやすいウレタンフォームの原反が高く山積みされていました
- 4階で行われた鉄板のガス溶断で、多量の火花が約10m下の1階に落ち、原反などに着火しました
- 建物は全焼し、工場の従業員ら7名が死亡しました
いずれも刑法の業務上失火罪と業務上過失致死罪が問われ、第一審は有罪、控訴審も有罪の判断を維持しました。
このうち工場部門の責任者だけが上告し、最高裁判所は昭和60年10月21日に上告を棄却する決定をしました。
決定は裁判官全員一致で、有罪の判断が確定しています。
工事をしたのは外部の業者だったのですね。
立会っていた責任者の過失も問題になりました。
次にその争点を見ます。
立会いを任された責任者はどこが問われたのか

争点は、責任者に刑法上の「業務」があったかどうかです。 検察官は、責任者が火災防止の職務を担う立場にありながら、必要な措置をとらなかったと主張しました。
具体的には、溶断すれば火花が飛ぶことを知り、近くに燃えやすい原反が大量にあることも把握していたのに、火花の落下を防ぐ措置も、階下の安全確認も、防火対策もとらず、作業を許したという点です。
責任者側は、自分の職務は業務上失火罪などにいう「業務」にあたらないと主張しました。
会社は社長が一人で指揮する小さな会社で、自分は工場長のような地位になく、防火に従事してもいなかったという言い分です。
あわせて、工事は下請業者の従業員が行ったもので、注文者側にまで責任は及ばず、仮に注意義務があっても道義上のものにとどまるとも主張しました。
争点の中心は、火気の安全に配慮すべき地位に責任者がいたかどうかです。
会社に防火責任者の決まりがなければ、責任者にならないのでしょうか。
決まりの有無ではなく、実際の職務が見られました。
次の判断を確認します。
裁判所は責任者の業務をどう判断したのか

業務上失火罪と業務上過失致死罪の判断について、決定は次のように述べています。
控訴審は、この責任者が会社の取締役であり、工場部門の従業員の上司として機械設備や原材料を管理していたことを認めました。
さらに、少量危険物の取扱いの責任者として消防署に届けられ、保管場所にも名前が掲示されていたことを挙げています。
ウレタンフォームが燃えやすいことを熟知し、消火器や「火気厳禁」の標示板を設置していたことも認定されました。
防火責任者とする明確な職務分担の証拠はないが、実質上担当していたと判断しています。
溶断すれば火花が飛ぶことを知りながら、火花が階下に落ちない措置も階下の安全確認も防火対策もとらず、作業を暗黙のうちに許したことが過失とされました。
防火の肩書がなくても、実際にやっていたことが基準になるのですね。
燃えやすい物を管理する立場そのものが、業務の中身になります。
責任者の言い分はなぜ通らなかったのか

どの言い分がどう退けられたかを順に見ます。 下請業者の工事だから注文者側の責任者には責任がない、という言い分は退けられました。
控訴審は、民事上の契約関係の有無で、刑事上の過失の有無は決まらないと判断しています。
契約関係がなくても、実際にその場で立ち会い、作業を許す立場にいれば、過失を否定する理由にはなりませんでした。 注意義務は道義上のものにとどまる、という言い分も退けられました。
裁判所は、この注意義務が過失犯について法的に要請される注意義務として判示されたものだと述べています。
大きな会社でなく、社長が一人で指揮していたから自分は責任者ではないという言い分も、会社内での地位や職務、これまでの行動から認められませんでした。
最高裁も、決定の中で責任者側の憲法違反や事実誤認などの主張を、上告理由にあたらないとして退けました。
契約の相手でなくても、責任を免れられないのですね。
立場と職務の実態が、書類上の関係より重く見られました。
溶断などの工事に立ち会うときは何をすればよいのか

ここでは、判決で責められた点を裏返して確認します。 溶断を始める前に、火花がどこまで落ちるのかと、その先に燃えやすい物がないかを確認します。
本件では、4階の溶断で出た火花が約10m下の1階まで落ち、山積みの原反などに着火しました。
作業を始めさせる側は、火花の落下を防ぐ措置と、階下の安全確認と、防火対策のいずれもとらないまま許すと、過失とされるおそれがあります。
燃えやすい物の保管場所を把握している人が、作業の立会いに入ることも重要です。
本件の責任者は、燃えやすい原反が大量にあることを知っていたと認定されました。
工事を下請業者に任せていても、注文者側で火気の管理を担う人の注意義務はなくなりません。
溶接・溶断の作業に火災予防条例が求める措置は、市町村ごとに内容が異なります。
工事の内容を決める前に、所轄消防署へ確認してください。
工事に立ち会うときは、火花の行き先まで確認するのですね。
作業を許す前の確認が、責任者の役目になります。
よくある質問
まとめ
火気の安全に配慮する立場なら、実際の職務が見られます!
工事の立会いと火気の管理は所轄消防署にも確認を。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
監修:㈱防災屋
参考・出典
- 昭和60年10月21日 最高裁判所第一小法廷 決定(昭和58年(あ)第829号)
- 刑法第117条の2、第211条(当時の条番号と現行の条番号は同じ)
- 刑法(e-Gov法令検索)
※判決文の引用中の人名は、いずれも役割を示す表記に置き換えています。本記事は確定した判決の内容を要約したものです。判決当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。





