テナントが複数入ったビルでは、特例認定(防火優良認定証)の手続きが一つの建物だけの話では済みません。
用途を変えただけで「管理を開始した時」は動くのか、新築を足したら起算点はどうなるのか、まとめて1枚で申請できるのか。
消防庁は、こうしたテナントビルならではの疑問に一つずつ回答してきました。
この記事では、そのうち五つの質疑応答を選び、現行の消防法第8条の2の3や消防法施行規則第4条の2の8などと照らして読みます。
うちのビル、テナントが入れ替わったり増築したりで、特例認定の手続きがよく分からなくなっています。
管理会社がまとめて1回で済ませられないんでしょうか。
実は管理権原者ごとに手続きが分かれます。
五つの質疑応答で、どこまでが一括りにできる話なのかを見ていきましょう。
一部屋の不備で建物全体が認定を受けられなくなる、みたいなこともあるんですか。
一つずつ確かめます。
現行の条文に当てはめて読みましょう。
- 用途を飲食店からキャバレーに変えても、「管理を開始した時」の起点はそのまま動きません
- 同一敷地に新築を加えても、起点は既存の防火対象物が対象になった時点のままです
- テナントが複数あるときは、管理権原者ごとに別々の申請が必要です
- 一の部分だけの不備であれば、その部分だけが認定要件を満たさないことになります
- ただし加圧送水装置や受信機など共有設備の故障は、区画の外でも認定に影響します
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目次
用途を変えただけなら「管理を開始した時」は動くのか

用途を変えただけで、この起点が動くのかが問われました。
消防法第8条の2の3第1項第1号は、管理を開始した時から3年の経過を認定の要件に挙げていますが、ここでいう管理開始は消防法第8条の2の2第1項の防火対象物に該当することそのものを指します。
飲食店からキャバレーへの用途変更は、点検報告の対象であることに変わりがないため、起点をリセットする事情にはあたりません。
一方で、点検報告の対象からいったん外れ、その後また対象に戻った場合は、対象へ再び該当することとなった時点が新しい起点になります。
用途変更の履歴だけでなく、点検報告の対象であり続けたかどうかを確認することが先です。
テナントの業種を変えただけなら、また3年待たなくていいんですね。
はい。
点検報告の対象であり続けている限り、起点は動きません。
同じ敷地に建物を増やしても起算点は変わるのか

実際に新築部分を建てた場合の扱いが照会されました。
消防法施行令第2条の適用を受けて同一敷地内の複数の防火対象物が一の防火対象物とみなされる場合でも、管理開始の起点はみなし前から継続している既存部分の該当時点を基準にします。
新築部分だけを見て増築した日から数え直してしまうと、申請できる時期を後ろへずらしてしまいます。
同一敷地内で複数の建物をみなし規定でまとめている建物ほど、この取り違えが起きやすいところです。
増築のたびに起点を確認し直す習慣をつけておくと安心です。
新しい建物を建てたら、そっちの竣工日から数え直すんだと思っていました。
実はそうではありません。
既存の建物が対象になった時点が、今も起点のままです。
テナントが複数あるとき、まとめて1枚で申請できるのか

共同で防火管理者を選んでいても、申請の単位は別だと示されました。
特例認定は管理権原者ごとに出す制度で、共同選任された防火管理者がまとめて1通で済ませられる仕組みにはなっていません。
バラバラの時期に申請すると、先に認定を受けた権原者だけ表示を掲げられる期間が3年未満に縮む不公平が生まれます。
テナントビル全体で特例認定を揃えたいなら、各権原者に同じ時期の申請を促す調整役が要るということです。
管理会社やオーナーが音頭を取り、申請日を合わせる段取りを先に組んでおくとよいでしょう。
うちは管理会社がまとめて1枚で出せばいいと思っていました。
権原者ごとに別々の申請が必要です。
時期だけは揃えるよう声かけしてください。
一部屋の不備は建物全体の認定を妨げるのか

一部分の不備が全体に波及するかが照会されました。
防火管理者が建物全体で共通でも、認定要件の充足は申請者ごとの部分に着目して判定されるため、他のテナントの不備がよそのテナントの認定を道連れにすることはありません。
裏を返せば、自分のテナント部分さえ基準を満たしていれば、隣の区画の状況にかかわらず申請を進められるということです。
ただしこのあとに見るとおり、不備のある設備が建物全体で共有されている場合は話が変わります。
まずは自分の権原の範囲内の設備が技術基準どおりに維持されているかを、単独で確認しましょう。
隣のテナントの設備が壊れていても、うちの認定には関係ないんですね。
その部分だけの不備なら、です。
全体共有の設備は次の話として別に確認します。
認定の可否はどの範囲を見て判断するのか

判定の範囲そのものがどこまでかが、最後の論点です。
消防法施行規則第3条第3項は、権原が分かれた防火対象物の防火管理者に、消防計画の中で自分の権原の範囲を定めるよう求めており、認定の判断もこの範囲を基準にします。
ただし、加圧送水装置や受信機のように建物全体で共有する設備は、境界線の外にあっても結果を左右します。
自分の区画の中だけを確認しても、共有設備の故障が放置されていれば、そのしわ寄せで認定要件を満たせなくなることがあります。
消防計画の範囲図と、共有設備の稼働状況の両方を見比べる習慣が欠かせません。
自分の部屋さえ無事なら大丈夫だと思っていましたが、甘かったですね。
消防計画の範囲と共有設備、両方を確認してください。
区画外の故障も認定に響きます。
よくある質問
まとめ
うちのビルも、権原者ごとに申請の段取りを組み直してみます!
起点の確認と共有設備のチェック、どちらも忘れずに。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法第8条の2の2・第8条の2の3
- 消防法施行規則第3条・第4条の2の8
- 防火対象物定期点検報告制度に関する執務資料について(平成15年4月 消防庁防火安全室)
- 消防実務六法 質疑応答編
※本記事は公表されている法令および執務資料に基づく一般的な解説です。掲載した回答は発出当時のもので、条番号や制度の名称等は当時のものです。その後の改正により運用が変わっている場合があります。個別の事案についての適用は、所轄消防署にご確認ください。





