高層や地下のある建物では、停電の瞬間に逃げ道を照らす非常用照明装置と、消防隊が外から突入するための非常用進入口が、避難と消火活動を陰で支えています。
ところがこの2つの設備には、病院の裏方部屋は設置対象から外れる、配線は分電盤に直結しなければならない、といった細かい線引きが数多く残っています。
昭和40年代の行政実例が示した判断は、条項の番号こそ変わっても、いまの建築基準法施行令にそのまま引き継がれています。
5つの質疑応答が示したのは設備の種類ごとに「どこまでが対象か」を線引きする視点です。
うちの病院は検査室や霊安室にも非常用照明を付けないといけませんか。
非常用進入口も全部の外壁に要るのでしょうか。
実は対象から外れる部屋があります。
条文がどこで線を引いているかを確認しましょう。
配線や窓の構造まで細かく決まっているんですね。
そうなんです。
照明装置の除外部分・配線・進入口の位置・窓の構造・共同住宅の代替措置の5つを順に見ていきます。
- 非常用照明装置は、夜間に患者が通常使わない検査室や病理解剖室、霊安室などは設置を通常要する部分に含まれません
- 非常用照明の配線は照明器具と分電盤を直接つなぎ、途中にコンセントやスイッチを設けてはいけません
- 非常用進入口は道または道に通ずる幅員4メートル以上の通路に面する外壁に設ける必要があります
- クレセント錠を壊せば開く窓は進入を妨げる構造とはみなされません
- 共同住宅はバルコニーや階段室を経由して各住戸に到達できれば非常用進入口を省略できます
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目次
非常用照明装置はなぜ病院の一部の部屋だけ除外されるのか

しかし「照明装置の設置を通常要する部分」には含まれない部屋があると、行政実例が具体的に示しています。
建築基準法施行令第126条の4は、劇場や病院など特殊建築物の居室と、そこから地上に通ずる廊下・階段に非常用の照明装置の設置を義務づけていますが、対象になるのは「照明装置の設置を通常要する部分」に限られます。
行政実例は、夜間に患者が通常使わない臨床検査室やX線装置室、病理解剖室、霊安室、さらには研究に関連する会議室や宿直室を除いた事務室まで、具体的に除外部分を示しました。
現行の同条でも「照明装置の設置を通常要する部分」という文言と、病室そのものを除く規定(同項第二号)は変わっておらず、この除外の考え方は今もそのまま使えます。
検査室や霊安室を設計に含むときは、動線が夜間に患者が通る部分かどうかで、非常用照明の要否を一つずつ仕分けてください。
霊安室や宿直室まで対象外になるのは意外でした。
対象かどうかは夜間に患者が通るかで決まります。
部屋の使われ方を確認してみてください。
非常用照明の配線はなぜ直接ブレーカーに繋がなければならないのか

行政実例は、配線を他の回路に接続してよい場合をごく狭い範囲に限定しています。
非常用の照明装置の構造を定める昭和45年建設省告示第1830号は、照明器具と分電盤(ブレーカー)を直接接続し、その途中にコンセントやスイッチを設けないことを原則としています。
行政実例は、この原則の例外として認められるのは「他の電気回路に起因する人為的又は機器の故障に基づく電源遮断」を許容しない場合だけだと回答し、それ以外の接続方法を安易に広げることを戒めました。
この告示は現在も改正を重ねながら効力を持ち続けており、近年は特区民泊のような既存建築物への後付けに限って、予備電源内蔵の照明器具をコンセント接続する例外が追加されています(ただし差込みプラグが容易に抜けない措置が別途義務づけられます)。
増改築で配線ルートを見直すときは、非常用照明の回路が他の照明やコンセントと共用になっていないか、まず分電盤の系統図で確認してください。
停電と同時に消えてしまっては意味がないですものね。
そのとおりです。
専用回路かどうかを配線図で確かめておきましょう。
非常用進入口はどの道路に面していればよいのか

行政実例は、進入口を設けるべき壁面の条件を具体的に解釈しています。
令第126条の6第2号は、非常用進入口を「道又は道に通ずる幅員4メートル以上の通路その他の空地に面する」外壁面に設けることを求めていますが、行政実例は「道」と「道に通ずる通路」をどちらか一方を満たせばよい選択的な要件と解釈しました。
現行の建築基準法施行令第126条の6第2号・第126条の7第1号でも、この「道又は道に通ずる幅員4メートル以上の通路その他の空地に面する」という文言はそのまま使われており、どちらか片方の条件を満たせば設置場所の要件を満たします。
敷地の一辺だけが道路に接し、他の三辺が敷地内通路という配置でも、道路に接する壁面だけに進入口を集中させることが可能です。
接道状況が複雑な敷地では、「道」と「通路」のどちらで要件を満たすのかを配置図にあらかじめ書き込んでおくと、消防協議がスムーズです。
敷地の一辺しか道路に接していない建物でも大丈夫なんですね。
はい。
道に通ずる通路でも要件を満たせます。
窓はどんな構造なら進入を妨げないと判断されるのか

行政実例は、具体的にどんな窓が「進入を妨げる構造」に当たらないかを挙げています。
令第126条の6第2号は、代替の開口部について「格子その他の屋外からの進入を妨げる構造を有しないもの」を要件としていますが、行政実例は固定窓(ハメコロシ窓)で網入りガラスでないものや、クレセント部分だけを壊せば開く引違い窓のいずれも、有効な進入口として扱ってよいと回答しました。
ただし固定窓については、ガラス片の飛散による二次的な事故のおそれがあるため、望ましくない場合があると留保を付けています。
現行の第126条の6第2号でも「屋外からの進入を妨げる構造を有しないもの」という要件は変わっておらず、格子や防犯フィルムを後付けする改修では、この要件を崩していないかの確認が必要です。
防犯目的で窓を改修するときは、鍵を壊せば開く構造を保てているか、非常用進入口にあたる窓だけでも事前に消防や特定行政庁に相談してください。
防犯フィルムを貼ると進入できなくなりそうで心配です。
フィルムの種類次第です。
壊せば開く構造を保てているかを確認しましょう。
共同住宅はどんな代替措置で非常用進入口を省略できるのか

行政実例は、バルコニーや階段室を経由する3つの代替措置を具体的に示しました。
行政実例は、各住戸のバルコニーを隣戸と行き来できる構造にする、階段室型共同住宅は各階段室に進入可能な開口部を設ける、廊下型共同住宅は廊下や階段室に各住戸から歩行距離20メートル以下の開口部を設ける、という3パターンのいずれかを満たせば、他の外壁面に窓を増やさなくても非常用進入口の要件を満たすと整理しました。
この代替措置は、各住戸のバルコニーを隣戸と行き来できる構造にする、階段室の踊り場に進入可能な開口部を設けるなど、住棟全体で1つの進入経路を共有する発想に立っています。
現行の第126条の6第2号も「道又は道に通ずる…空地に面する各階の外壁面に窓その他の開口部を…設けている場合」を代替要件としており、バルコニーや階段室の開口部をこの要件にどう当てはめるかという考え方は今も変わっていません。
住棟のリノベーションでバルコニーの仕切りや階段室の開口部を変更するときは、①〜③のどの代替措置で非常用進入口を省略しているのかをまず確認し、仕切り板の撤去や開口部の封鎖で要件を崩さないよう注意してください。
リフォームでバルコニーの仕切りを撤去しても大丈夫でしょうか。
撤去の仕方次第です。
隣戸への進入経路が保てているかを確認してから進めてください。
よくある質問
まとめ
設備ごとの線引きがよく分かりました。
うちの建物も図面を見直してみます。
除外部分、配線、進入口の位置、窓の構造、共同住宅の代替措置。
この5つを図面で確かめれば大きく外しません。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法施行令第126条の4・第126条の5・第126条の6・第126条の7
- 昭和45年建設省告示第1830号
- 消防実務六法 質疑応答編
※本記事は公表されている法令および行政実例に基づく一般的な解説です。質疑応答自体は過去のものですが、対応する現行の建築基準法施行令の条文を確認したうえで解説しています。個別の事案についての適用は、建築主事または所轄の特定行政庁にご確認ください。





