階段がひとつしかないビルに飲食店やカラオケ店が入ると、避難器具に特別な仕様が求められます。
国の規則は、バルコニーに設けるか、常に使える状態で置くか、一動作で使えるもののどれかにするよう定めています。
津市消防本部は、2階と階段が2系統ある階についてはこの仕様を求めない特例を審査基準に書いています。
この記事では国の条文から津市の特例までをたどり、鈴鹿市・埼玉県央広域消防本部・東大阪市の扱いと比べます。
津市で3階にスナックが入る3階建てのビルを管理しています。
階段がひとつなので、避難器具は全部特別な仕様にしないといけないのでしょうか。
特定一階段等防火対象物に当たると、原則として全部の避難器具が対象になります。
ただ、津市の基準には2階を外せる特例があります。
2階だけ外せるというのは、どの市でも同じですか。
鈴鹿市や埼玉県央広域、東大阪市にも同じ型の特例がありますが、外せる範囲が少しずつ違います。
条文から順にたどって比べていきましょう。
- 消防法施行規則第27条第1項第1号は、特定一階段等防火対象物の避難器具をバルコニー等・常時使用できる状態・一動作のいずれかにするよう定めています
- 津市は2階と、直通階段が2以上ある階の避難器具について、施行令第32条を適用して第1号を適用しないことができるとしています
- 津市はこの特例に特例適用申請は不要と明記する一方、新築は第1号どおりに指導するとしています
- 鈴鹿市と埼玉県央広域は同じ型の例を6つ示し、東大阪市は第3号の表示まで外せるとしています
- 大阪市・堺市・四日市市の基準には同じ特例の記載が無いため、管轄の消防署に個別に相談します
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目次
階段がひとつのビルでは避難器具の何が変わるのか

階段がひとつのビルで効いてくるのは、第27条第1項第1号です。
イ 安全かつ容易に避難することができる構造のバルコニー等に設けるもの。
ロ 常時、容易かつ確実に使用できる状態で設置されているもの。
ハ 一動作(開口部を開口する動作及び保安装置を解除する動作を除く。)で、容易かつ確実に使用できるもの。
特定一階段等防火対象物は、(1)項から(4)項まで・(5)項イ・(6)項・(9)項イの用途が避難階以外の階にあり、そこから地上へ直通する階段が2未満の建物を指します(施行規則第23条第4項第7号ヘ)。
この「避難階以外の階」は施行令第4条の2の2第2号で1階及び2階を除くとされているので、特定用途が1階や2階だけなら当てはまりません。
ところが、3階以上に特定用途があって当てはまると、条文は「特定一階段等防火対象物又はその部分に設けるもの」と書いているため、2階の避難器具も第1号の対象に入ります。
国の条文をたどると、次の順で市の特例につながります。
- 施行令第25条第1項で、避難器具を置く階が決まる(2階以上の階が対象になる用途がある)
- 施行規則第27条第1項第1号で、特定一階段等防火対象物の器具はイ・ロ・ハのどれかにする
- 定義では1階と2階は「避難階以外の階」から除かれている
- 施行令第32条で、消防長又は消防署長が認めれば基準を適用しないことができる
- 市の審査基準が、2階や階段が2系統ある階を第32条で外す場面を例示している
うちの建物は2階に事務所、3階にスナックです。
2階の避難器具も特別な仕様にする必要があるのですか。
条文どおりなら2階も第1号の対象です。
まず管轄の消防本部の基準に2階の特例があるかを確かめます。
津市ではどんな階なら特別な仕様にしなくてよいのか

特例になる条件は2つで、どちらか一方に当てはまればよいとしています。
(柱書)なお、手続きとしては、同意事務処理要綱に定める消防用設備等の基準の特例適用申請は不要とする。
1 特例基準 規則第27条第1項第1号に規定する特定一階段等防火対象物又はその部分に設ける避難器具は、次の⑴又は⑵に掲げるいずれかの条件に該当する場合にあっては、政令第32条の規定を適用して、規則第27条第1項第1号の規定を適用しない(略)
⑴ 当該避難階以外の階から避難階又は地上に直通する階段及び傾斜路の総数が2(当該階段及び傾斜路が屋外に設けられ、又は規則第4条の2の3に規定する避難上有効な構造を有する場合にあっては、1)以上設けられていること。
⑵ 規則第27条第1項第1号の規定を適用される階が2階部分であること。
⑴は、建物全体では特定一階段等防火対象物でも、直通階段が2以上ある階は第1号を外せるという意味です。
⑵は、2階部分の避難器具なら階段の数にかかわらず外せるという意味です。
津市はこの特例に特例適用申請は不要と書いているので、申請書の提出までは求めない書き方です。
理由までは書かれていませんが、定義でも1階と2階が除かれていることと揃えた扱いと読めます。
⑴の「2以上」は、屋外階段なら1本でも数えられるのですか。
屋外階段や施行規則第4条の2の3の避難階段なら1本で足ります。
普通の屋内階段だけなら2本必要です。
階段の通り方で特例の範囲はどう変わるのか

階段の通り方ごとに、特定一階段等防火対象物に当たるかと、どの階で特例が使えるかを並べると次のとおりです。
⑴ 図-1の例に示すとおり、特定用途部分が避難階以外の階に存し、屋内階段(略)が1系統の場合は、特定用途部分が存しない階を含めて、特定一階段等防火対象物として取り扱うこと。
| 階段の通り方 | 特定一階段等防火対象物か | 特例が使える階(津市) |
|---|---|---|
| 屋内階段が1系統 | 当たる(特定用途の無い階も含む) | 2階 |
| 2系統のうち1系統は全階、もう1系統は特定用途以外の階まで | 当たる | 階段が2系統になる階 |
| 地階へは1系統、地上階は2系統 | 当たる | 階段が2系統になる階 |
| みなし従属で特定用途とみなされる部分が避難階以外の階にある | 当たる | 2階 |
| 2系統あるが避難上有効な開口部の無い壁で区画された部分と区画されない部分がある | 当たる | 階段が2系統になる階 |
特定用途が3階だけでも、1系統の階段しか無ければ1階や2階を含めて建物全体が特定一階段等防火対象物として扱われます。
2本目の階段が途中の階で止まっている建物は、2本が通る階だけを第1号から外せます。
避難上有効な開口部の無い壁で区画すると、階段が2本あっても区画ごとに数えるので、区画の取り方で判定が変わります。
自分の建物がどの型に近いかを、断面図に階段を書き込んで確かめるのが近道です。
階段が途中で止まっているかどうかで、階ごとに扱いが分かれるのですね。
そのとおりです。
断面図に階段の系統を色分けすると、どの階が外せるか一目で分かります。
鈴鹿市や埼玉県央広域や東大阪市の扱いはどこが違うのか

例の数、外せる規定の範囲、書きぶりを並べると違いが見えてきます。
2階部分の避難器具については、規則第27条第1項第1号及び第3号の規定を適用しないことができる。
| 消防本部 | 示している例 | 外せる規定 | みなし従属の扱い | 書きぶり |
|---|---|---|---|---|
| 津市 | 当たる例5つ | 施行規則第27条第1項第1号 | 2階の器具 | 第32条を適用して「適用しないことができる」・申請不要 |
| 鈴鹿市 | 当たらない例1つ+当たる例5つ | 第1号 | 特定用途とみなす部分の器具 | 「適用しない」(第32条の語は無し) |
| 埼玉県央広域 | 当たらない例1つ+当たる例5つ | 第1号 | 特定用途とみなされる部分の器具 | 「適用しないことができる」(第32条の語は無し) |
| 東大阪市 | 当たる例5つ(表11) | 第1号及び第3号 | 特定用途とみなされる部分の器具 | 「特例(令第32条適用)」と明記 |
| 大阪市・堺市・四日市市 | 第1号イ・ロの用語や第3号の標識の解釈だけで、2階や2系統の階を外す特例の記載は無い | |||
東大阪市は第1号に加えて、避難器具設置等場所の表示と標識を定めた第3号まで適用しないことができるとしています。
鈴鹿市と埼玉県央広域は、2系統の階段のうち1系統は全階、もう1系統は特定用途の階まで通じている建物を「当たらない例」として先に示しています。
みなし従属の例では、津市が2階の器具と書くのに対し、ほかの3本部は特定用途とみなす部分の器具を外せると書いています。
行田市と羽生市は審査基準を公開していないため、今回は扱いを確かめられませんでした。
管轄が違うと、同じ建物でも外せる範囲が変わることがあるのですね。
図面が同じでも基準の書きぶりで結論が変わり得ます。
計画地の消防本部の基準を先に開いておきましょう。
新築や改修のときに特例を当てにしてよいのか

特例があるからといって、新しく建てる建物にまで同じように使うことは想定していません。
新築については、安全性を高める観点から、規則第27条第1項第1号に基づき指導するものとする。
津市の特例は、主に既存の建物にテナントが入って特定一階段等防火対象物になる場面で効く書き方です。
新築では2階や2系統の階も含めて、一動作型などのイ・ロ・ハに合わせるよう指導されると考えて計画します。
既存の建物でも、テナントの入れ替えで3階以上に特定用途が入ると判定が変わるので、入居前に用途と階段の数を確かめます。
大阪市・堺市・四日市市のように特例の記載が無い管轄では、施行令第32条を使えるかどうかを図面を持って事前に相談します。
既存のビルに新しくスナックが入る予定ですが、まず何をすればよいですか。
断面図に用途と階段を書き込み、特例が使える階を洗い出します。
そのうえで管轄の消防署に相談すると話が早いです。
よくある質問
まとめ
うちのビルの断面図に階段の系統を書き込んで、2階の扱いを確かめてみます!
外せる階が分かれば、避難器具の更新計画も立てやすくなります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法施行令第4条の2の2第2号、第25条第1項、第32条
- 消防法施行規則第4条の2の3、第23条第4項第7号ヘ、第27条第1項第1号・第3号
- 津市消防本部「津市予防事務審査検査基準」3-3 特定一階段防火対象物又はその部分に設ける避難器具の特例基準 津市消防本部「予防関係審査基準」のページ
- 鈴鹿市消防本部「鈴鹿市消防用設備等に関する審査基準」第4章 第15 避難器具 4 特定一階段等防火対象物又はその部分に設ける避難器具 鈴鹿市「消防用設備等に関する審査基準」のページ
- 埼玉県央広域消防本部「埼玉県央広域消防本部消防用設備等に関する審査基準」第4章 第15 避難器具 4 特定一階段等防火対象物又はその部分に設ける避難器具 埼玉県央広域消防本部「消防用設備等に関する審査基準」のページ
- 東大阪市消防局「避難器具の設置に係る運用基準」7 特定一階段等防火対象物の取扱い(表11) https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000041303.html
- 大阪市消防局「消防用設備等の設置に係る運用基準」第3章 第1節 避難器具 第5 特定一階段等防火対象物又はその部分に設ける避難器具の取り扱い https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000350878.html
- 堺市消防局「堺市消防同意・消防用設備等審査基準」第17 避難器具 https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/bosai/shobo/shokai/reiki/kijyun/index.html
- 四日市市消防本部「四日市市消防同意事務審査基準」第2章 第15 避難器具 四日市市消防本部「審査基準・告示・ガイドライン」のページ
※本記事は各消防本部が公開している審査基準・運用基準と法令に基づく一般的な解説です。運用基準・条例は改正されることがあるため、最新の内容は管轄の消防署・消防本部で確認してください。特例が使えるかどうかは建物の用途・階段の構造・区画の状況によって変わるため、計画の前に所轄の消防署にご確認ください。





