屋内消火栓設備は、建物の階ごとに、どの場所にもホースが届くように置くのが国の基準です。
ただ、浴室や便所、エレベーターの昇降路、屋上のエレベーター機械室だけの階にまで、同じように消火栓を置かなければならないのかは、図面を前にすると迷うところです。
大阪市消防局の「消防用設備等の設置に係る運用基準」は、屋内消火栓設備の「第12 特例基準」で、屋内消火栓設備を設置しないことができる部分を項目ごとに挙げています。
この記事では、大阪市の特例基準の3〜6と12を国の条文から順にたどり、堺市の審査基準と比べます。
大阪市で5階建ての事務所ビルを管理しています。
改修の打合せで、屋上の機械室の階にも消火栓がいるのか聞かれました。
大阪市の運用基準に、ちょうどその階の項目があります。
条件がそろえば、その階に設置しないことができるとしています。
それは国の法令に書いてあることですか。
国の条文には、機械室の階を外すとは書かれていません。
特例の仕組みから順にたどってみましょう。
- 国の消防法施行令第11条は、屋内消火栓を階ごとに、その階の各部分から水平距離25メートル(2号消火栓は15メートル)以下となるように設けるとしていて、浴室や機械室の階を外す書き方はありません
- 大阪市の特例基準は、消防法施行令第32条又は大阪市火災予防条例第47条を適用して、屋内消火栓設備を設置しないことができる部分を挙げています
- 浴室・シャワー室・便所・洗面所は構造の条件なし、エレベーターの昇降路とパイプシャフトは特定主要構造部が耐火構造であることが条件です
- エレベーター機械室やポンプ室だけの階は、耐火構造で、直上階か直下階の屋内消火栓から有効に注水できれば、その階に設置しないことができます
- 外気に開いた駅のプラットホームと、床面積に算入されないバルコニーにも項目があり、堺市は機械室だけの階を同じ文で定め、さらにb階・PH階の項目を持っています
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目次
大阪市の特例基準は何を根拠に屋内消火栓を外しているのか

屋内消火栓設備がいる建物は、消防法施行令第11条第1項が用途と延べ面積で決めています(たとえば(15)項の事務所は延べ面積1,000平方メートル以上)。
置き方は、同じ条の第3項にあります。
(1) 屋内消火栓は、防火対象物の階ごとに、その階の各部分から一のホース接続口までの水平距離が十五メートル以下となるように設けること。
国の基準は「階ごと」「その階の各部分」なので、浴室も、エレベーター機械室だけの階も、本来はホースの届く範囲に入れて考えます。
この基準によらなくてよい場合を決めているのが、消防法施行令第32条です。
大阪市火災予防条例第39条第1項第2号は、国の基準とは別に、地階を除く階数が5以上の防火対象物にも屋内消火栓設備を求めているからです(耐火構造で5階以上の床面積が小さいもの等は除かれます)。
この条例の付加基準について特例を定めているのが、第47条です。
第12の見出しには、大阪市の凡例で行政指導を表す◆は付いていません。
それでも、令第32条も条例第47条も消防長などが認めるときの規定なので、最終的には建物ごとに所轄の消防署が判断します。
第12の1(不燃材料で造られた倉庫等)は大阪市の金属だけの倉庫の記事で、9・10(2号消火栓の水平距離)は大阪市の2号消火栓の記事で解説しています。
大阪市の特例は、国の令第32条と市の条例第47条の両方を使っているのですね。
はい、どちらの基準で設置義務が出たかで使う特例が変わります。
次は、浴室と昇降路の項目を見ましょう。
浴室や便所やエレベーターの昇降路に屋内消火栓はいらないのか

5 特定主要構造部が耐火構造である防火対象物のエレベーターの昇降路、パイプシャフトその他これらに類する部分については、屋内消火栓設備を設置しないことができる。
5のエレベーターの昇降路やパイプシャフトは、特定主要構造部が耐火構造の建物に限られます。
特定主要構造部は、消防法施行令第11条第2項が建築基準法第2条第9号の2イを引いて使っている言葉で、主要構造部のうち、防火上及び避難上支障がないものとして政令で定める部分以外の部分を指します。
どちらも、令第11条第3項の「その階の各部分」のうち、ホースが届く範囲に入れなくてよい部分として扱われる、と読めます。
同じ大阪市の運用基準でも、自動火災報知設備の特例では、浴室に「除く場合」の条件が付いていて、書き方が違います。
感知器のほうの読み方は大阪市の感知器がいらない場所の記事で解説しています。
便所や浴室は、構造に関係なく外せるのですね。
はい、ただし昇降路とパイプシャフトは耐火構造が条件です。
次は、機械室だけの階を見ましょう。
エレベーター機械室やポンプ室だけの階はどう扱うのか

大阪市の特例基準の6は、この階を取り上げています。
- 建物の特定主要構造部が耐火構造であること
- その階にあるのが、エレベーター機械室・ポンプ室・受水槽室などこれらに類する用途だけであること
- 直上階か直下階の屋内消火栓から、その階に有効に注水できること
倉庫や事務室が少しでも同じ階にあると、「これらに類する用途のみ」に当たらないので、この項目は使えません。
国の条文から6までを、番号つきでまとめます。
- 消防法施行令第11条第1項(又は大阪市火災予防条例第39条第1項)で、建物に屋内消火栓設備の設置義務が出る
- 令第11条第3項が、屋内消火栓を階ごとに、その階の各部分から水平距離25メートル(2号消火栓は15メートル)以下となるように設けるとする
- そのままなら、塔屋のエレベーター機械室だけの階にも、その階の消火栓が必要になる
- 令第32条(条例の付加基準なら条例第47条)が、消防長などが認めるときは基準を適用しないとする
- 大阪市の運用基準 第12の柱書が、令第32条又は条例第47条を適用して、各項のとおりとする
- 第12の6が、耐火構造で機械室等だけの階は、直上階か直下階の屋内消火栓で有効に注水できればその階に設置しないことができるとする
機械室だけの階は、下の階の消火栓のホースが届くかどうかが決め手ですね。
はい、下の階から有効に注水できるかを図面で確かめます。
次は、駅のホームとバルコニーです。
駅のプラットホームや外気に開いたバルコニーはどこまで外れるのか

(1) 壁、柱、はり、屋根及び天井が準不燃材料で造られ、かつ、少数の椅子等のほかに可燃物が存しないものについては、屋内消火栓の防護の対象としないことができる。
(2) (1)以外のもので、当該プラットホーム部分に設置した屋内消火栓箱内に、その全ての部分に有効に注水することができるホースを設けている場合は、令第11条第3項第1号イ、第2号イ(1)又はロ(1)の規定は適用しないことができる。
(1)は、壁から天井まで準不燃材料で、少しの椅子のほかに燃えるものがなければ、消火栓で守る対象から外せるとしています。
(2)は、(1)に当たらないホームでも、消火栓箱のホースで全部に注水できれば、令第11条第3項の水平距離25メートル・15メートルの規定を外せるとしています。
(2)は消火栓そのものをなくす項目ではなく、水平距離の決まりの代わりに、ホースの長さで全体に届かせる項目です。
続いて、バルコニーの項目です。
バルコニーに荷物や可燃物を多く置くと、「可燃物の存置が少ない」に当たらなくなるので、管理の段階でも物を置かないことが前提になります。
ホームの(2)は、消火栓をなくすのではなく、ホースで届かせる話なのですね。
はい、項目ごとに外れる中身が違います。
最後に、堺市と比べてみましょう。
堺市と比べると屋内消火栓の特例は何が同じで何が違うのか

エ メゾネット型共同住宅等の出入口がある階に設ける屋内消火栓により、メゾネット型共同住宅等の出入口がない階の住戸部分(以下この項において「出入口のない階の住戸部分」という。)を有効に注水することができる場合は、政令第32 条又は条例第72 条の規定を適用し、出入口のない階の住戸部分には屋内消火栓を設置しないことができる。★
オ 階数に算入されない階(b階、PH階)については、上階又は下階に設置された屋内消火栓の消防用ホースを延長し、ノズルからの放水距離以内で放水した場合に有効に放水できる範囲内に限り、政令第32 条又は条例第72 条の規定を適用し、当該階に屋内消火栓を設置しないことができる。★
★は、堺市の凡例で「堺市消防局として防火安全性の向上を図ることを目的として定めたもの」を表す印です。
堺市の条例第72条も、大阪市の条例第47条と同じく、火災予防条例の付加基準の特例です。
メゾネット住戸について、大阪市は特例基準の8で、ホース接続口を廊下階の階段室や非常用エレベーターの乗降ロビーなどに置き、各部分から歩行距離25メートル(2号消火栓は15メートル)以下とすれば、令第11条第3項の水平距離の規定によらないことができるとしています。
堺市のエは、出入口のある階の消火栓で出入口のない階の住戸部分に有効に注水できれば、その部分に設置しないことができるという書き方です。
一方、浴室・便所、エレベーターの昇降路、駅のプラットホーム、バルコニーにあたる項目は、堺市の屋内消火栓設備の節には見当たりませんでした。
確かめた範囲を表にまとめます。
| 項目 | 大阪市(運用基準 第12) | 堺市(審査基準 7(2)) |
|---|---|---|
| 特例の根拠 | 令第32条又は大阪市条例第47条(柱書) | 令第32条又は堺市条例第72条(各項目) |
| 浴室・シャワー室・便所・洗面所 | 設置しないことができる(4) | この節には項目が見当たらない |
| エレベーターの昇降路・パイプシャフト | 耐火構造なら設置しないことができる(5) | この節には項目が見当たらない |
| エレベーター機械室・ポンプ室等だけの階 | 直上階か直下階から有効に注水できれば不要(6) | 大阪市とほぼ同じ文(ウ★) |
| 駅のプラットホーム | 防護の対象外か、水平距離の規定を外せる(3) | この節には項目が見当たらない |
| 外気に開いたバルコニー | 包含範囲としないことができる(12) | この節には項目が見当たらない |
| メゾネット住戸 | ホース接続口を廊下階に置き歩行距離で確かめる(8) | 出入口のない階の住戸部分は不要にできる(エ★) |
| 階数に算入されない階(b階・PH階) | この節には項目が見当たらない | 上か下の階のホースが届けば不要(オ★) |
同じ「機械室だけの階」でも、大阪市と堺市はほぼ同じ条件で、ほかの項目は市ごとに書き方が違います。
どちらの市でも、特例は令第32条や条例の特例を当てはめるものなので、改修や用途変更の前に所轄の消防署で確かめるのが確実です。
大阪市の仮設建築物の特例(第12の2)は大阪市の仮設建築物の記事で、内装で設置基準の面積が2倍・3倍になる仕組みは屋内消火栓の倍読みの記事で解説しています。
機械室の階は大阪市も堺市も同じ考え方で、ほかは市ごとに違うのですね。
はい、項目があるかどうかから市ごとに違います。
図面ができたら、所轄の消防署に相談しましょう。
よくある質問
まとめ
改修の前に、塔屋の階にどんな部屋があるかを図面で確かめます。
まずは下の階からホースが届くかを見てみます!
部屋の用途とホースの届く範囲がはっきりすれば、消防署との相談もスムーズに進みます。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 大阪市消防局「消防用設備等の設置に係る運用基準」第1章 第2節 屋内消火栓設備 第12 特例基準 柱書・3・4・5・6・8・12 https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000350878.html
- 大阪市火災予防条例第39条・第47条(大阪市例規データベース)
- 堺市消防局「堺市消防同意・消防用設備等審査基準」(第二十二版)第1章 総則 4 凡例/第3章 第1節 第2 屋内消火栓設備 Ⅱ 細目 7 消火栓箱等 (2)設置方法 ウ・エ・オ https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/bosai/shobo/shokai/reiki/kijyun/index.html
- 堺市火災予防条例第72条(堺市消防局 公開資料の解説及び運用)
- 消防法施行令第11条・第32条
※本記事は公表されている法令および各市の公開資料に基づく一般的な解説です。運用基準や審査基準は改正されることがあるため、最新の内容は管轄の消防署・消防局で確認してください。大阪市と堺市の比較は、各市が公開している基準で確かめた範囲のものです。個々の建物で屋内消火栓設備を省略できるかどうかは、所轄消防署にご確認ください。





