消防法第35条は、放火又は失火の疑いのあるときはその火災の原因の調査の主たる責任及び権限は消防長又は消防署長にあるものとすると定めています。
一方で消防機関には捜査権がなく、証拠物を押収することもできません。
では供述書は誰の名で作るのか、証拠物の保全とはどこまでを指すのかが実務上の問題になります。
この記事では放火等の疑いがある火災の原因調査の扱いを消防庁の質疑応答に沿って整理します。
放火の疑いがある火事やと、調べるんは警察がメインとちゃうんか。
原因調査は違います。
回答では警察機関よりもむしろ消防機関にその責任と権限が帰属することを現わしたものとされています。
ほな証拠はどうすんのや。消防が集めて持って帰るんか。
そこが誤解の多いところです。
集めるとは一箇所に集める等の意味ではないとされ、むしろ火災現場の保全に重点を置くべきとされています。この記事でまとめて解説します!
- 火災の原因調査に関しては警察機関よりもむしろ消防機関にその責任と権限が帰属する
- 質問権とその効果としての供述書の作成は消防長又は消防署長の一身専属権的な地位に属する職務である
- 消防庁から捜査協力の勧告がなされた場合でも消防機関が捜査権を行使することはできない
- 証拠物を集めてその保全につとめるとはそれを一箇所に集める等の意味ではない
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目次
火災の原因調査は警察よりも消防に責任と権限が帰属する

消防法第35条第1項は放火又は失火の疑いのあるときは、その火災の原因の調査の主たる責任及び権限は、消防長又は消防署長にあるものとすると定めています。
この主たる責任と権限という文言の意味が問われました。
そのうえで求められる姿勢も示されています。
この意味において、消防長又は消防署長は、その責任と権限のもとに、火災の原因調査について充分の努力を払わなければならないとされました。
捜査権がないという制約と引き換えに、原因を突き止める責任は消防の側にあるという構図です。
原因調査の主役は消防です。
供述書の作成は消防長や消防署長の一身専属的な職務にあたる

原因調査のために部下の消防吏員が供述を聴き取ってよいかという照会があります。
回答はまず部下の消防吏員が調査に当たり、供述書を作成して差し支えないとしつつ、立場を分けて説明します。
同じ人が動いていても立場が二つに分かれるという整理です。
その理由も述べられています。
火災原因別及び損害額の調査におけるいわゆる物的調査の段階においては、そこに対人的な考慮が入らない限り、消防長又は消防署長の分身として調査事務を補助執行することは差し支えないとされます。
消防法第32条第1項の質問権の範疇に入るもの、及びそれの効果としての供述書の作成については、日本国憲法第3章に規定する基本的人権尊重の要請から、あくまでも消防長又は消防署長の一身専属権的な地位に属する職務であると考える方が妥当であるとされました。
だから署名の書き方まで指定されています。
供述書の作成は常に消防長又は消防署長の名において行なわるべきものであるから、仮りに消防吏員がこれの処理を命ぜられた場合は、必ず消防長又は消防署長の代理者として署名すべきであるとされています。
単に自分の役職名だけを記すのではなく、誰の代理であるかを明らかにして署名することが求められます。
消防職員以外の吏員や団員に立入検査を命じるのは適当でない

調査のための立入検査を誰に命じられるのかについても照会があります。
消防職員以外の市町村吏員又は消防団員に、火災の原因調査のために関係のある場所に立ち入つて検査を命ずることは、適当でないと思うが、如何であるかという問いでした。
理由は消防組織法及び消防法の規定からして、消防職員以外の市町村吏員及び消防団員が、火災の調査に関しては、消防長又は消防署長の補助機関でないことは明白であるという点にあります。
では権限を委任すればよいのかという点にも答えています。
消防長又は消防署長のこの権限は、その内容及び性格並びに消防法の精神からして、むしろ一身専属的な権限に解せられ、これらの者に委任又は代理させるに適しないと解すべきであるとされました。
第34条の規定についても補足があります。
消防職員の性格に鑑みて、法律上立入検査の権限が消防職員に留保されているものと解すべきであるとされ、消防長又は消防署長の命令があれば、消防職員は立入検査を行ないうるという関係が示されています。
捜査協力の勧告があっても消防が捜査権を行使することはできない

昭和27年5月2日付け国消管総発第48号は、消防庁の行なう捜査協力の勧告の性格についての照会です。
消防法第35条第2項は消防庁において放火又は失火の犯罪捜査の協力の勧告を行なうときは、これに従わなければならないと定めているため、この勧告に基づいて地元消防機関が捜査権を行使しうるかが問われました。
そのうえで消防法第35条の勧告の性格は、警察の行なう捜査に対して消防の立場から協力することを意味するものと解すべきであるとされました。
勧告に従うことと、捜査を行うことは別だということです。
協力しても捜査にはなりません。
証拠物を集めるとは一箇所に集めることではない

証拠物の押収について問う照会もあります。
回答ではまず押収の定義が示されます。証拠物の押収とは、刑事訴訟法上認められた対物的処分方法の一つであつて、証拠となるべき物に対し、強制的に又は任意的に、その占有を取得することであるとされ、強制的方法には差押及び提出命令があり、任意的方法には領置がある。この三者を総称して押収というと説明されます。
これに対する消防側の義務が説明されます。
消防機関の証拠保全義務は、同項の通報義務とともに、消防の職務内容たる火災の原因調査と警察の捜査事務との能率及び迅速を図るため、両者の協力を強く要請される意味において、消防に課せられたものであるとされました。
さらに証拠物を移動することは往々にして証拠価値を減殺するものであり、したがつて、証拠の保全にはならないと明言されました。
結論としてむしろ、火災現場の保全に重点を置く必要があることを注意すべきであるとされています。
動かさないことが保全です。
火災のあとに現場を片付けたくなるのは自然なことですが、調査が済むまでは現場をそのままにしておくことが原因の解明につながります。
よくある質問
まとめ
- 火災の原因調査に関しては警察機関よりもむしろ消防機関に対内的にも対外的にも責任と権限が帰属する
- 調査の執行は補助職員としての立場で供述の聴取及び供述書の作成は消防長又は消防署長の代理としての立場で行なう
- 質問権とその効果としての供述書の作成は消防長又は消防署長の一身専属権的な地位に属する職務である
- 消防吏員が供述書を作成する場合は必ず消防長又は消防署長の代理者として署名すべきである
- 消防職員以外の市町村吏員又は消防団員に火災調査のための立入検査を命ずることは適当ではない
- 消防庁から捜査協力の勧告がなされても消防機関が捜査権を行使することはできない
- 証拠物の押収は強制捜査権を付与された警察官の権限であり消防機関には与えられていない
- 証拠物を集めてその保全につとめるとは一箇所に集める意味ではなく火災現場の保全に重点を置く
片付けたら証拠が消えてまうんやな。焦って触らんほうがええわ。
そのとおりです。
片付けや復旧の着手時期は所轄消防署にご確認ください。設備の復旧はお手伝いできます。
参考・出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)第32条・第34条・第35条・第35条の2 e-Gov法令検索
- 消防組織法(昭和22年法律第226号) e-Gov法令検索
- 刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第218条から第222条 e-Gov法令検索
- 日本国憲法 第3章 e-Gov法令検索
- 消防本部設置市町村における吏員または団員の火災調査のための立入検査について(鶴岡市消防署長あて回答)
- 原因調査の供述書聴取について(彦根市消防長あて回答)
- 消防庁の行なう「捜査協力の勧告」の性格について(昭和27年5月2日付け国消管総発第48号 総務課長から津山市消防長あて回答)
- 証拠物の押収について
- 「消防実務六法 質疑応答編」(消防実務研究会編・東京法令出版)の放火等の疑ある火災の原因調査に関する質疑応答を参考に、独自に解説を作成
※本記事は2026年8月時点の法令解釈に基づく一般的な解説です。個別の運用については所轄消防署にご確認ください。




