技術上の基準に当てはまらない設備を前にしたとき、実務が最後に頼るのが基準の特例です。
危険物の規制に関する政令第23条は、市町村長等が「火災の発生のおそれが著しく少なく、かつ、火災等の災害による被害を最少限度に止めることができると認めるとき」に基準の全部又は一部を適用しないことができると定めています。
とはいえ、条文を読んだだけでは、どこまでがこの条文の守備範囲なのかが分かりません。
この記事では、屋外タンク貯蔵所について実際に令第23条の適用が認められた場面を、消防庁の通達から5つ拾って並べます。
令第23条って、困ったときの逃げ道みたいに言われますけど、実際どういう場面で通ってるんでしょうか。
逃げ道というより、基準が想定していない形のものを個別に評価する枠だと考えたほうが実態に近いです。通達を並べると傾向が見えますよ。
傾向というと、どのあたりですか。
どの回答にも「確認できれば」「適合しているならば」という条件がついています。無条件で外せるわけではなく、代わりの根拠を出すことが前提になっています。
この記事の結論
- 既設の浮き屋根式タンクへのアルミ製ドームの設置は、既設タンクの安全性が損なわれないことが確認できれば令第23条を適用して差し支えないとされています
- そのドームの設置は、タンク本体の変更として捉えることで支障ないとされています
- 球形タンクなど特殊な形状のタンクの保有水平耐力は、告示第79条の計算方法によるのではなく令第23条を適用して照査すべきとされています
- 底部板厚が最小厚さに満たない場合でも、一定の数値要件を満たせば令第23条を適用して保安検査済証を交付するとされています
- 指定数量未満となった屋外タンクを同一防油堤内に存続させることも、令第23条の適用で差し支えないとされています
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目次
既設の浮き屋根式タンクにアルミ製ドームを設置できるか

しかし危険物の規制に関する政令第11条が定める屋根の基準は、こうしたアルミ製の軽量ドームを想定していません。
平成9年10月22日付けの消防危第104号は、この申し出を扱っています。 照会にあるドームは、三角形のトラス構造によるドーム形式の屋根で中間に支柱を有しないものです。
三角形被覆用板をボルトにより三角を構成するトラスのH型ビームに固定し、外周の構造材とボルト又は溶接により屋外貯蔵タンクの側板上部に固定します。
ドーム表面のジョイントやシームは、シーラントを用いることなく防水性を確保している構造とされています。
材質は、トラスと内部テンション・リングが6061-T1又は6351-T5、三角形被覆用板が3003-H16又は同等品です。
答(1) 令第11条に定める浮き屋根が設置されているので、ドームを設置することにより、構造上も保安上も既設タンクの安全性が損なわれることがないことが確認できれば、ドームの材質、板厚、構造等について令第23条を適用して差し支えない。
浮き屋根がすでにあるからこそ、その上のドームは基準どおりの固定屋根でなくてよい、という組み立てになっています。
安全性が損なわれないことの確認が前提です。
照会でも危険物保安技術協会の性能評定を受けて安全性を確認する予定であることが述べられており、確認の手段が用意されていることが判断の土台になっています。
アルミ製ドームの設置はタンク本体の変更として扱う

つまり屋根を足すだけの工事に見えて、タンク本体の応力状態が変わります。
照会側もこの点を意識して、許可するとした場合には側板等の応力評価が必要不可欠と考えられるため、タンク本体の変更として捉えることで支障ないかと尋ねています。
答(2) 差し支えない。
タンク本体の変更として扱うと整理されました。
附属設備の追加として軽く処理するのではなく、本体の変更としての審査を経ることになります。応力評価の資料を用意したうえで臨む前提です。
球形タンクなど特殊な形状のタンクの保有水平耐力

ただしその計算方法は、一般的な円筒縦置きのタンクを念頭に置いたものです。
球形タンクやセミスヘロイドタンクのような形状に、そのまま当てはめてよいのかという疑問が出てきます。
平成10年2月26日付けの消防危第17号がこれに答えています。
答 設問のような特殊な形状を有するタンクに関しては、危険物の規制に関する技術上の基準の細目を定める告示第79条に規定する計算方法により保有水平耐力の計算を行うのではなく、当該タンクの形状の特殊性に鑑み、危険物の規制に関する政令第23条を適用し、有限要素法等の適切な方法により地震の影響による耐力の照査を行うべきであると解する。
形状に合わない計算式を機械的に当てるより、実態に合った方法で照査するほうが安全側だという判断です。
告示の計算方法によるのではないとされています。
なお同じ回答では、特定屋外貯蔵タンクの安全性評価について従前から危険物保安技術協会で実施してきたところであり、このような特殊な形状を有するタンクについても同様であることが申し添えられています。
底部板厚が最小厚さに満たない場合の保安検査済証

新法タンクの場合、告示第4条の17に規定する最小厚さ以上であることが必要です。
では測定値がそこに届かなかったとき、直ちに不適合となるのか。平成2年3月31日付けの消防危第28号が具体的な数値で線を引いています。
最小厚さを満たしていない場合であっても、最小厚さの90%以下である箇所の周囲における測定板厚平均値が最小厚さの80%を超え、かつ、過去の腐食率から、測定板厚が最小である箇所における次期タンク開放時までの最小厚さに対する腐食による板厚の減少が3mmを超えないと認められる場合には、火災予防上支障がないと認め、令第23条を適用し、「保安検査済証」を交付する。
腐食による減少が基準内なら特例で対応できます。
後者は過去の腐食率という実測の履歴を根拠にします。定期的な板厚データを蓄積しているかどうかが、そのまま使えるかどうかを分けます。
指定数量未満となった屋外タンクを同一防油堤内に残す場合

平成2年10月31日付けの消防危第105号が扱ったのは、第2石油類の危険物を貯蔵する容量800リットルの屋外タンクの例です。
このタンクは他の屋外タンク貯蔵所と同一の防油堤内に設置されているため、そのタンク自身の周囲に防油堤が設けられている状況になく、また配管が防油堤内に設けられている状況となっていました。
問 この指定数量未満の屋外タンクが設けられている防油堤内の屋外タンク貯蔵所が、規則第22条第1項及び第2項第11号に定める防油堤の基準以外の位置、構造及び設備の技術上の基準に適合しているならば、当該屋外タンク貯蔵所について令第23条を適用して引き続き当該屋外タンクを同一防油堤内に存続させてよいか。
答 差し支えない。
答 差し支えない。
防油堤の基準以外に適合していることが条件です。
既存の配置を無理に組み替えるより、そのまま残したほうが安全上も現実的だという判断が働いた例といえます。
よくある質問
Q. 底部に溶接される山形鋼等は補修基準の当板やはめ板に該当しますか?
平成7年5月24日付け消防危第49号の問3が扱っています。73号通知の別添1「補修基準」において、スチーム配管、液面計のサポート等を固定するために底部に溶接される山形鋼等は、当板、はめ板に該当すると解してよいかという照会に対し、回答は「お見込みのとおり」となっています。
Q. 補修基準の肉盛り溶接可能面積は孔食の開口部の面積ですか?
同じ消防危第49号の問4が扱っています。73号通知の別添1「補修基準」の表1のうち、肉盛り溶接可能面積は孔食の開口部の合計面積か、肉盛り溶接部の合計面積のどちらと考えたらよいかという照会に対し、回答は「肉盛り溶接部の合計面積とされたい」となっています。
Q. 旧基準の特定屋外タンク貯蔵所が新基準のすべてに適合することとなった日はいつですか?
同じ消防危第49号の問5が扱っています。新基準に適合するための変更の工事が行われ完成検査済証が交付された日、又は新基準に適合するための品名、数量若しくは指定数量の倍数変更届出のなされた日としてよいかという照会に対し、回答は「お見込みのとおり」となっています。
Q. 長さが20メートル以内の辺の防油堤にも伸縮目地は必要ですか?
平成10年10月13日付け消防危第90号の問2が扱っています。平成10年3月20日付け消防危第32号により、防油堤の漏えい防止措置として既設の鉄筋コンクリート製防油堤のおおむね20メートル以内ごとに伸縮目地を設けることとされているが、長さが20メートル以内である辺の防油堤については伸縮目地を設けなくてよいかという照会に対し、回答は「お見込みのとおり」となっています。
まとめ
- 既設の浮き屋根式タンクへのアルミ製ドームの設置は、構造上も保安上も既設タンクの安全性が損なわれないことが確認できれば、ドームの材質や板厚や構造等について令第23条を適用して差し支えないとされています
- その判断の前提には、令第11条に定める浮き屋根がすでに設置されていることが置かれています
- ドームの設置は側板等の応力評価が必要なため、タンク本体の変更として捉えることで支障ないとされています
- 球形タンクやセミスヘロイドタンク等の特殊な形状のタンクは、告示第79条の計算方法ではなく、令第23条を適用し有限要素法等の適切な方法で耐力の照査を行うべきと解されています
- 新法タンクの底部板厚が最小厚さに満たない場合でも、周囲の測定板厚平均値が最小厚さの80パーセントを超え、かつ次期タンク開放時までの腐食による減少が3ミリメートルを超えないと認められれば、令第23条を適用して保安検査済証を交付するとされています
- 指定数量未満となった屋外タンクは、防油堤の基準以外の技術上の基準に適合していれば、令第23条の適用により同一防油堤内に存続させて差し支えないとされています
- いずれの回答にも条件が付されており、代わりの根拠を示すことが令第23条を使う前提になっています
並べてみると、基準を外すというより別の根拠に置き換えてるんですね。数値も具体的に決まってるし。
そこが要点です。性能評定や板厚の履歴といった裏づけをどう揃えるかが実務の勝負どころになります。㈱防災屋でも資料の組み立てからご相談を承っています。
参考・出典
- 危険物規制事務に関する執務資料の送付について〔抄〕(平成9年10月22日 消防危第104号 危険物規制課長から各都道府県消防主管部長あて)別紙 屋外タンク貯蔵所関係 問3
- 危険物規制事務に関する執務資料(特定屋外タンク貯蔵所関係)の送付について(平成10年2月26日 消防危第17号 危険物規制課長から各都道府県消防主管部長あて)
- 危険物規制事務に関する執務資料の送付について(平成2年3月31日 消防危第28号 消防庁危険物規制課長から各都道府県消防主管部長あて回答)問1
- 同前(平成2年10月31日 消防危第105号 消防庁危険物規制課長から各都道府県消防主管部長あて回答)規則第22条関係 問2
- 危険物規制事務に関する執務資料(特定屋外タンク貯蔵所関係)の送付について〔抄〕(平成7年5月24日 消防危第49号 危険物規制課長から各都道府県消防主管部長あて)問3・問4・問5
- 危険物規制事務に関する執務資料の送付について〔抄〕(平成10年10月13日 消防危第90号 危険物規制課長から各都道府県消防主管部長あて)別紙2 屋外タンク貯蔵所関係 問2
- 危険物の規制に関する政令第23条・第11条
- 消防実務六法 質疑応答編
※本記事は公表されている法令および通達に基づく一般的な解説です。個別の施設についての適用は、所轄の消防機関にご確認ください。




