病院や社会福祉施設のスプリンクラー設備は、これまで何度も設置基準が引き上げられてきました。
そのたびに気になるのが、古い建物は今の基準にすぐ合わせなければならないのかという点です。
実は消防法には、既存の建物をどこまで新しい基準に従わせるかを整理した仕組みがあります。
条文をたどると病院や社会福祉施設だけに働く特別な扱いが見えてきます。
うちの病院は古い建物なので、今のスプリンクラー基準を全部満たしていない気がします。
そこは消防法に決まりがあります。
新しい基準がすぐに全部の建物へかかるわけではありません。
でも病院は基準が変わったら、既存の建物もいずれ合わせないといけないんですよね。
病院や社会福祉施設は少し事情が特殊です。
代わりの方法が用意されていることがあります。
- 消防法は技術上の基準が変わっても既存の建物には従前の基準を適用するのが原則です
- ただし病院や社会福祉施設などの特定防火対象物は、この原則の例外として新基準が及びます
- 消防法施行令第32条の特例を使えば、区画や内装等の代替措置でスプリンクラー設置を減らせる場合があります
- 特例の適用は消防長又は消防署長の個別の判断によるものです
- 増築や大規模な修繕をすると特例の前提が崩れることがあります
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目次
病院や社会福祉施設のスプリンクラーはなぜ新基準にすぐ従わなくてよいことがあるのか

そこで消防法は、既存の建物を守るための原則を用意しています。
これがいわゆる「既存不遡及」の原則です。技術上の基準が改正されても、その改正の時点ですでにある建物の消防用設備等には、改正前の従前の規定がそのまま適用されます。
病院や社会福祉施設のスプリンクラー基準も、実は何度か引き上げられてきました。
それでも古い建物のスプリンクラーがいきなり違法になるわけではないのは、この原則があるからです。
ただし、この原則には例外があります。次で見ていきましょう。
基準が変わっても、既存の建物はそのままでいいんですね。
原則はそうです。
ただ例外もあるので油断はできません。
どんな病院や社会福祉施設が新基準の遡及を受けるのか

条文はこうした建物を名指しで区別しています。
四 (略)現に存する百貨店、旅館、病院、地下街、複合用途防火対象物(政令で定めるものに限る。)その他同条第1項の防火対象物で多数の者が出入するものとして政令で定めるもの(以下「特定防火対象物」という。)における消防用設備等(略)
条文がいう特定防火対象物には、病院のほか、社会福祉施設のように不特定または避難に配慮が必要な人が出入りする建物が含まれます。
こうした建物で従前の基準のまま放置すると、火災が起きたときの被害が大きくなりやすいためです。
つまり病院や社会福祉施設は、新しいスプリンクラー基準が既存の建物にもそのまま及ぶ側に立たされています。
基準が引き上げられた分だけ、既存の建物は本来ならフル規格のスプリンクラーを新たに備えなければならない立場になります。
うちの病院、新しい基準のスプリンクラーに全部作り替えないといけないんでしょうか。
そうならないための仕組みも用意されています。
代わりの基準を見てみましょう。
施行令第32条の特例基準は代わりに何を求めているのか

その根拠が施行令第32条です。
これが基準の特例と呼ばれる仕組みです。判断するのは消防長又は消防署長で、誰もが自由に使えるものではありません。
病院や社会福祉施設については、この特例の運用として、病室等を耐火構造の壁や防火戸で区画すること、壁や天井の仕上げを燃えにくい材料にすること、二方向に避難できる経路を確保することなどの条件を満たせば、その部分にはスプリンクラー設備を設けなくてよいとする取扱いが消防庁の通知で示されてきました。
区画の面積や仕上げの基準は建物ごとに細かく決められており、フル規格のスプリンクラーの代わりに、火災を初期の段階で閉じ込める構造で安全を確保する考え方です。
つまり特例は、設備を減らす代わりに建物の側の防火性能を高めることとセットになっています。
設備の代わりに、建物の造りで安全を確保するという考え方なんですね。
そのとおりです。
だから区画や仕上げが崩れていないかが大事になります。
実務で見落としやすいのはどこか

それは工事のタイミングです。
二 工事の着手が第17条第1項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令若しくはこれに基づく命令又は同条第2項の規定に基づく条例の規定の施行又は適用の後である政令で定める増築、改築又は大規模の修繕若しくは模様替えに係る同条第1項の防火対象物における消防用設備等
既存不遡及の原則には、一定規模以上の増築・改築・大規模の修繕や模様替えをした部分を除外する号があります。
特例基準は、区画や仕上げや避難経路といった建物の現況を条件に成り立っているため、その現況を変える工事をすれば、消防長又は消防署長が改めて確認し直す対象になります。
経過措置の期間はとうに終わっている建物がほとんどですが、それは「今の状態のままでよい」という意味ではありません。
特例の適用を受けている建物ほど、工事を計画する段階で早めに所轄消防署へ確認しておく必要があります。
増改築のときに特例が使えなくなることがあるんですね。
はい。
工事の計画段階で所轄消防署に確認しておくと安心です。
明日からなにを確認すればよいのか

消防計画や設備の点検記録、過去の消防同意・検査に関する書類に、特例基準の適用や区画・仕上げの条件が記されていないかを確認します。
書類が見当たらない場合は、所轄消防署に照会すれば過去の届出や検査の記録が残っていることがあります。
区画の壁や防火戸、内装の仕上げが特例の条件どおりに維持されているかも、日常点検の視点で見ておくべき部分です。
増改築や用途変更の計画があるなら、着工前に所轄消防署へ相談し、特例が引き続き使えるのかフル規格の設備が必要になるのかを早めに確かめておきましょう。
まずは自分の建物の記録を確かめるところからですね。
そうです。
不明な点は所轄消防署に照会してみてください。
よくある質問
まとめ
うちの建物がどちら側なのか、消防計画を開いて確かめてみます!
原則と例外、そして特例の3つを押さえれば迷いません。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法第17条の2の5
- 消防法施行令第32条
- 京都市消防局「既存の病院及び特定社会福祉施設に対する屋内消火栓設備等の設置指導基準」
- e-Gov 法令検索
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





