BLOG

空調用蓄熱槽の水は消防用水として使えるのか|温度水量と採水設備の条件を解説

地下の蓄熱槽脇で配管の圧力計を点検する担当者のイメージ

建物の地下や基礎部分に、空調の冷温水をためておく大きな水槽を備えたビルは少なくありません。
省エネルギーのために設けられたこの水槽の水を、火災のときにも使えないかと考える管理担当者は多いはずです。
実は消防庁の通知では、一定の条件を満たせば空調用蓄熱槽水を消防用水として使ってよいとされています。
ただし認められるのは、温度・水質・水量に設備まで、複数の条件をすべて満たした場合に限られます。

うちのビルには空調用の大きな蓄熱槽があるんですが、この水を消防用水として使えたりしないんでしょうか。

実は消防庁の通知で、条件付きで消防用水として使ってよいとされているんです。

そうなんですね。
空調用と消火用で別々に水槽を用意しないといけないと思っていました。

この記事で、条件の中身と実務で気をつけたいポイントを一緒に確認していきましょう。

この記事の結論
  • 空調用蓄熱槽水は、条件を満たせば消防法施行令第27条が求める消防用水として使うことができます。
  • 根拠は消防庁予防課長通知(消防予第42号)で、温度・水質・水量の基準を定めています。
  • 地盤面から4.5メートルを超える部分の水を使うには、採水管と非常電源付きの加圧送水装置が必要です。
  • 採水口の付近には消防用水である旨・採水可能水量・注意事項の掲示が求められます。
  • 空調設備との共用は、双方に必要な水量を常時確保できることが前提です。判断に迷ったら所轄消防に確認しましょう。

空調用蓄熱槽水を消防用水にする4条件を示す図解

空調用蓄熱槽水はなぜ消防用水として注目されているのか

建物の基礎部分にある蓄熱槽と屋上の空調設備をつなぐ配管のイメージ

省エネルギーのため、建物の基礎部分に大きな水槽を設けて空調の冷温水をためる仕組みが広がっています。
この水をふだんの空調だけでなく、火災のときにも役立てられないかという発想が背景にあります。

消防庁予防課長通知(平成9年3月6日消防予第42号) 近年、建築物の基礎部分を利用して、空調用の冷温水を蓄えるための水槽(以下「空調用蓄熱槽」という。)が、省エネルギーの観点等から設置されるようになってきている。空調用蓄熱槽は、一般に水量が大きいものであり、空調用蓄熱槽に蓄えられている水(以下「空調用蓄熱槽水」という。)については、平常時のみならず火災等の災害時における有効利用が望まれているところである。

空調用蓄熱槽水は、条件を満たせば消防用水として活用できます。
消防法施行令第27条は大規模な建物に消防用水の設置を義務付けていますが、新たに水槽を増設しなくても、既にある蓄熱槽の水を活用できれば効率的です。
そこで消防庁は平成9年に、蓄熱槽水を消防用水として使う場合の具体的な取扱いを通知でまとめました。
この通知が示す条件は、温度・水質・水量・設備・他用途との共用の5つに整理できます。
次の章から、それぞれの条件を順番に確認していきます。

うちの蓄熱槽、そのまま消防用水として使えたりするんでしょうか。

条件をクリアすれば、そのまま活用できる可能性があります。

消防用水として使うにはどんな条件を満たすのか

蓄熱槽の水温を計る温度計と水質を確認する担当者のイメージ

消防用水として使ってよいかどうかは、水そのものの状態が満たすべき条件から始まります。
通知は温度・水質・水量の3点を具体的に定めています。

消防庁予防課長通知(平成9年3月6日消防予第42号) 1 空調用蓄熱槽水の温度及び水質について 消防用水として使用される空調用蓄熱槽水の温度及び水質については、次によること。(1)温度は、概ね40℃以下であること。(2)水質は、原水を上水道水とする等消防活動上支障のないものであること。2 空調用蓄熱槽水の水量について 消防用水は、消防活動中において同一箇所から採水できることが望ましいことから、消防用水として利用できる空調用蓄熱槽水の水量は、消防用水として必要とされる量以上の量であること。

水温が概ね40℃を超えていると、消防用水として使うことはできません。
空調用蓄熱槽は冷水と温水の両方をためることがあるため、採水する部分の水温を実際に確認する必要があります。
水質についても、原水が上水道水であるなど消防活動に支障がないことが条件です。
水量は、施行令第27条の計算で必要とされる量以上を、蓄熱槽の水だけで確保できるかがポイントです。
一部だけ蓄熱槽でまかない、残りを別の水槽で補うという組み合わせも条文上は排除されていません。

水温は気にしたことがなかったです。
夏場と冬場で全然違いますよね。

はい、季節や運転状況で変わるので、採水する部分の実測が欠かせません。

地下に埋めた蓄熱槽はどんな設備を追加で必要とするのか

地下の蓄熱槽から地上の加圧送水装置まで伸びる採水管のイメージ

消防用水には、地盤面から4.5メートルを超える部分の水は数えない、という一般的なルールがあります。
蓄熱槽水については、この深い部分を使うための特別な条件が通知に示されています。

消防庁予防課長通知(平成9年3月6日消防予第42号) 3 空調用蓄熱槽の設備について (1)地盤面下に設けられている空調用蓄熱槽のうち、その設けられている地盤面から深さ4.5mを超える部分の水を消防用水として使用するものについては、採水管(地盤面の高さまで空調用蓄熱槽水を採水するための配管をいう。)及び非常電源を附置した加圧送水装置を設けること。(2)吸管投入孔及び採水管の取水部分は、空調用蓄熱槽の部分のうち水温の低い部分に設けること。(3)採水口(採水管端部の消防用ホースと結合するための口をいう。)は、消防ポンプ自動車が2m以内に接近することができる位置に設けること。(4)吸管投入孔及び採水口の付近には、見やすい箇所に消防用水である旨・採水可能水量・注意事項を掲示すること。

深さ4.5メートルを超える部分の水も、設備を追加すれば消防用水として数えることができます。
必要になるのは、水を地上まで汲み上げる採水管と、停電時にも動く非常電源付きの加圧送水装置です。
採水管の取水口は蓄熱槽の中でも水温の低い部分に設け、消防ポンプ自動車が2メートル以内まで近づける位置に採水口を出します。
そして採水口の周りには、消防用水である旨・採水可能な水量・注意事項を見やすく掲示しておく必要があります。
これらの設備や掲示がそろって初めて、深い部分の水量も計算に含めることができます。

4.5メートルより深い部分は最初から諦めていました。
設備を足せば使えるんですね。

はい。
採水管と非常電源付きポンプがあれば、深い部分の水も計算に入れられます。

空調設備と共用するとき見落としやすいのはどこか

一つの蓄熱槽から空調用と消火用の配管が分かれて延びるイメージ

蓄熱槽水は、ふだんは空調のために使われている水です。
消防用水として兼用する以上、両方の目的を同時に満たせるかを確認しておく必要があります。

消防庁予防課長通知(平成9年3月6日消防予第42号) 4 他の水源との共用について 空調用蓄熱槽水を消火設備の水源又は指定消防水利として使用する場合には、それぞれの目的に必要な水量が常時確保されているとともに、それぞれの使用に支障を生じないように必要な措置が講じられていること。(略)3(5)空調用蓄熱槽からの採水又は採水後の充水により、当該空調用蓄熱槽に係る空調設備の機能に影響を及ぼさないようにするため、必要な措置が講じられていること。

消防用水として必要な水量は、空調の運転状況にかかわらず常時確保しなければなりません。
空調が水を多く使う時期に消防用水分の水量が不足していた、という事態は認められません。
逆に、消火活動で採水した後の充水によって空調設備の機能に影響が出ないような配慮も求められます。
スプリンクラー設備の水源など他の消火用水源と兼用する場合も、同じ考え方でそれぞれの必要水量を確保します。
設備担当者だけでなく、空調管理を行う部署とも情報を共有しておくと見落としを防げます。

空調がよく水を使う時期に、消防用水の分まで減ってしまわないか心配です。

常時必要な水量を確保する仕組みになっているか、まず現状を確認しましょう。

明日からなにを確認すればよいのか

採水口の掲示と点検記録を確認する担当者のイメージ

ここまでの内容を、実際の確認作業に落とし込みます。
一度条件を満たしても、それを維持することが欠かせません。

消防法第十七条の三の三 (略)当該防火対象物のうち政令で定めるものにあつては消防設備士免状の交付を受けている者又は総務省令で定める資格を有する者に点検させ、その他のものにあつては自ら点検し、その結果を消防長又は消防署長に報告しなければならない。

確認は、水の状態・設備・掲示・共用の運用という4段階で進めます。
まず、蓄熱槽水の温度・水質・水量が条件を満たしているかを実測し、4.5メートルを超える部分を使うなら採水管と非常電源付き加圧送水装置の有無を確認します。
次に、採水口付近に消防用水である旨・採水可能水量・注意事項の掲示があるかを見て、なければ掲示を整えます。
最後に、空調部門とも情報を共有し、消防法第17条の3の3に基づく点検・報告のサイクルの中で水量が常時確保されているかを確認します。
自分の建物の蓄熱槽がこの取扱いの対象になるかどうか判断に迷う場合は、届出書類を持って所轄消防に相談してください。

うちの蓄熱槽、この条件に当てはまるのか自分では判断がつきません。

図面と届出書類を持って、所轄消防に一度確認してもらうのが確実です。

よくある質問

Q空調用蓄熱槽があれば自動的に消防用水として認められるのか?
Aいいえ。温度・水質・水量などの条件を満たし、必要な設備や掲示が整っていることが前提です。
Q4.5メートルより深い部分の水は最初から使えないのか?
A採水管と非常電源付きの加圧送水装置を設ければ、深い部分の水も消防用水として数えることができます。
Q空調用蓄熱槽水だけで消防用水の必要水量をまかなえない場合はどうするのか?
A不足分は別の防火水槽などと組み合わせて確保できます。必要水量の全体を満たしているかで判断します。
Q空調設備と消防用水を共用していることは、どこで確認できるのか?
A設備図面や届出書類に記載があるはずです。分からない場合は所轄消防に確認してください。

まとめ

空調用蓄熱槽水は、条件を満たせば消防法施行令第27条が求める消防用水として使うことができます。
根拠は消防庁予防課長通知(消防予第42号)です。
消防用水として使う水は概ね40℃以下で、消防活動に支障のない水質が必要です。
水量は消防用水として必要とされる量以上を確保しなければなりません。
地盤面から4.5メートルを超える部分を使うには採水管と非常電源付き加圧送水装置が必要です。
採水口付近には消防用水である旨・採水可能水量・注意事項の掲示が必要です。
空調設備との共用は、双方の必要水量を常時確保できることが前提です。

蓄熱槽の水を消防用水にできるか、これで自信を持って確認できます!

㈱防災屋でもご相談を承っております

防火管理はプロにお任せ下さい

まずはWebで無料お見積りを!

お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 消防法施行令第27条(消防用水に関する基準)
  • 消防庁予防課長通知「空調用蓄熱槽水を消防用水として使用する場合の取扱いについて」(平成9年3月6日消防予第42号)
  • 消防法第17条の3の3
  • e-Gov 法令検索

※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

BLOGカテゴリ
最新の記事
防火管理者代行サービス
無料1分概算見積
地下の蓄熱槽脇で配管の圧力計を点検する担当者のイメージ
建物の地下や基礎部分に、空調の冷温水をためておく大きな水槽を備えたビルは少なくありません。 省エネルギーのために設けられたこの水槽の水を、火災のときにも使えないかと考える管理担当者は多いはずです。 実は消防庁の通知では、...