平成29年2月、埼玉県三芳町の倉庫で大規模な火災が発生しました。
発見者が初期消火を試みたものの、通報と放水の初動対応には課題が残りました。
この教訓を受け、消防庁は大規模倉庫向けの効果的な訓練メニューをリーフレットにまとめて示しました。
設備を設置しているだけでは、火災発生時に使いこなせるとは限りません。
うちの倉庫も、消火栓と自動火災報知設備はちゃんと設置しています。
設置していても、使いこなす手順が現場に浸透していなければ初動対応が遅れることがあります。
はい。
三芳町の倉庫火災を教訓に、消防庁は具体的な訓練メニューを示しています。
この記事の結論
- 平成29年2月の埼玉県三芳町倉庫火災を受け、消防庁は大規模倉庫における効果的な訓練の実施推進を通知した(平成30年1月24日 消防予第20号)
- 教訓は119番通報が約7分遅れたことと屋外消火栓のポンプ起動を忘れたことだった
- 対象は令別表第一(14)項の倉庫等で収容人員50人以上、かつ延べ面積50,000平方メートル以上等の大規模倉庫
- 訓練は通報・放水・くぐり戸避難・シャッター手動操作・消防隊連携の5つの場面で組み立てる
- 訓練は1回で終わらせず、結果を踏まえて避難経路や体制を見直すことまでが求められる
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大規模倉庫の消防訓練はなぜ通報と放水だけで終われないのか
平成29年2月、埼玉県三芳町の倉庫で大規模な火災が発生しました。
消防庁はこの火災を踏まえた検討会を開き、教訓を通知とリーフレットにまとめています。
大規模倉庫における効果的な訓練の実施推進について(平成30年1月24日 消防予第20号) 記 1 埼玉県三芳町倉庫火災の教訓について (1)火災発生に際して、発見者は自ら初期消火を試みたものの、結果として、自動火災報知設備の鳴動から約7分が経過するまで、119番通報が行われなかったこと。(2)屋外消火栓設備を用いた初期消火の際、ポンプの起動操作が行われておらず、初期消火に必要な放水量が得られなかったこと。(3)今回の火災では、逃げ遅れによる人的被害はなかったものの、火災発生時に多数の従業員が迅速かつ的確な避難を行うため、実火災の具体的な状況を想定した避難訓練を実施することが有効であること。
設備の設置基準を満たしていることと、いざというとき使いこなせることは別の話です。
三芳町の倉庫火災では、発見者が初期消火を試みたにもかかわらず、
自動火災報知設備の鳴動から約7分が経過するまで119番通報が行われませんでした。
屋外消火栓設備を使った初期消火でも、
ポンプの起動操作を忘れたために必要な放水量が得られませんでした。
消防庁はこの教訓を「埼玉県三芳町倉庫火災を踏まえた防火対策及び消防活動のあり方に関する検討会」で分析し、事業者による初動対応の実効性向上を図る訓練の徹底が必要だと提言を受けました。
これを受けて作られたのが、通報・放水・避難までを具体的に指導するリーフレットです。
発見者が自分で消そうとしたことが、結果として通報を遅らせたと分析されています。
どの大規模倉庫が重点的な訓練指導の対象になるのか
通知はすべての倉庫を対象にしているわけではありません。
用途区分・収容人員・面積の3段階で線引きされています。
大規模倉庫における効果的な訓練の実施推進について(平成30年1月24日 消防予第20号) 3 消防本部における訓練指導について (1) 上記1の教訓を踏まえた上記2の消防訓練について、特に、次のいずれかに該当する防火対象物に対し、当該防火対象物の状況に応じた効果的な訓練の計画及び実施を重点的に指導されたいこと。 ア 消防法施行令別表第一(14)項に掲げる防火対象物又は令別表第一(16)項に掲げる防火対象物(同表(16)項に掲げる防火対象物においては、同表(14)項に掲げる防火対象物の用途に供される部分が存するものに限る。)のうち、収容人員が50人以上のもので、かつ、次のいずれかに該当するもの (ア) 延べ面積が50,000平方メートル以上(令別表第一(16)項に掲げる防火対象物にあつては、同表(14)項に掲げる防火対象物の用途に供される部分の床面積の合計が50,000平方メートル以上)のものであること。 (イ) 令第19条第1項の規定により屋外消火栓設備の設置が義務付けられ、かつ、床面積が4,500平方メートル以上の階が存するもののうち、屋外消火栓設備を用いた消火訓練の実施について具体的に消防計画で定めていないことや、防火シャッターにより形成される防火区画を介して避難することが必要であること等により、同様の火災の被害が懸念されるものとして、消防本部において、訓練指導が必要と認めるものであること。
対象になるかどうかは、用途区分・収容人員・面積の三段階で決まります。
まず
消防法施行令別表第一(14)項の倉庫、または(16)項の複合用途で(14)項部分を含む建物であること。
次に
収容人員が50人以上であること。
そのうえで
延べ面積50,000平方メートル以上か、屋外消火栓設備の設置義務があって床面積4,500平方メートル以上の階があり、消防本部が訓練指導を必要と認めるもの、のいずれかに該当する倉庫が重点的な指導の対象になります。
うちの倉庫、延べ面積は50,000平方メートルには届かないんですが対象外ですか。
面積が届かなくても、屋外消火栓設備の設置義務があれば消防本部の判断で対象になり得ます。
リーフレットは訓練で何を求めているのか
対象になった倉庫には、具体的な訓練メニューが示されています。
柱になるのは通報・放水・避難・手動操作・連携の5つの場面です。
大規模倉庫における効果的な訓練の実施推進について(平成30年1月24日 消防予第20号) 2 教訓を踏まえて必要と考えられる消防訓練について (1) 火災の発生場所や燃焼物などを具体的に想定したロールプレイング形式の模擬的な通報訓練 (2) 屋外消火栓設備又は屋内消火栓設備を使用して実際に放水する訓練 (3) 防火シャッターが閉鎖している場合に、各々の従業員が、くぐり戸を介して地上まで避難するための経路を把握するとともに、実際に当該経路を歩行することにより、従業員全員が円滑に避難できることを確認する訓練 (4) 避難が完了しているエリアにおいて、防火シャッターが降下しない場合を想定し、防火シャッター近傍の手動操作装置を起動させる手順を確認する訓練 (5) 事業所における消防隊への情報提供等に係る体制について確認する訓練(消防隊との連携訓練等)
訓練は通報と放水だけでなく、避難と手動操作の確認まで含めた5つの場面で組み立てます。
(1)の通報訓練は、実際の
火災の発生場所や燃焼物を具体的に想定したロールプレイング形式で行う点がポイントです。
(2)の放水訓練は屋外・屋内どちらの消火栓を使ってもよいとされています。
(3)のくぐり戸経路の訓練は経路を知っているだけでなく、
実際に歩いて確認することまで求められます。
(4)の手動操作装置と(5)の消防隊連携は、シャッターが降りたあとや通報後の場面を想定した訓練です。
通報の訓練って、ただ119番するだけじゃダメなんですか。
火災の発生場所や燃焼物を具体的に想定したロールプレイング形式で行うことが求められています。
実務で見落としやすいのはどこか
設備の設置基準を満たしていることと、火災時に安全に使いこなせることは別問題です。
リーフレットが想定する悪条件を知っておくと、訓練の狙いが分かりやすくなります。
大規模倉庫における効果的な訓練の実施推進について(平成30年1月24日 消防予第20号) 3(3)ウ 大規模倉庫の中は棚やコンベヤ等が配置され避難ルートが複雑になっている場合があり、さらに火災になると、濃煙が立ちこめ、停電により暗い状態で、防火シャッターが閉鎖し、くぐり戸を介しての避難となるなど、火災時の避難が極めて困難になることが想定されること。このため、火災が発生した場合の具体的な状況を想定し、火災時に危険な状態になるまでの時間内に、従業員全員が避難できることを確認する訓練を実施すること。また、当該訓練結果を踏まえて、避難経路や体制等について必要な改善を図ること。
大規模倉庫の避難は、棚やコンベヤで複雑な通路・停電による暗さ・シャッター閉鎖という悪条件が重なる前提で考えます。
リーフレットには
火災時に危険な状態になるまでの時間を算出するシートまで用意されています。
三芳町の火災でも、119番通報の遅れと屋外消火栓のポンプ起動忘れという
基本動作の抜けが被害の背景にありました。
訓練は1回実施して終わりではなく、
結果を踏まえて避難経路や体制を見直すところまでが通知の求める範囲です。
訓練は1回きちんとやれば、それで安心していいですよね。
訓練の結果を踏まえて、避難経路や体制を継続的に見直すことまでが求められています。
明日からなにを確認すればよいのか
自分の倉庫が対象基準に当たるかどうかの確認から始めます。
消防本部への事前相談も活用できます。
大規模倉庫における効果的な訓練の実施推進について(平成30年1月24日 消防予第20号) (2) 火災予防運動や各種行事等の機会をとらえ、消防本部が事前相談を受けることや訓練の実施に立ち会うこと等により、訓練が効果的に実施されるよう指導されたいこと。 4 その他 本リーフレットの電子データ等は、消防庁ホームページに掲載するので、必要に応じ、ダウンロードして活用されたいこと。
まずリーフレットを入手し、自分の倉庫が対象基準に当たるかどうかを確認するところから始めます。
対象に当たりそうなら、
消防本部への事前相談を活用し、訓練の実施に立ち会ってもらうこともできます。
通報・放水・くぐり戸避難・手動操作・消防隊連携の
5つの場面を、いきなり全部ではなく1つずつ計画に落とします。
対象基準に届かない倉庫でも、三芳町の教訓は倉庫共通の課題として参考になります。
消防庁のホームページで公開されています。
まずは自分の倉庫が対象かどうかの確認から始めましょう。
よくある質問
Q対象基準に届かない中小規模の倉庫は訓練をしなくてよいのですか?
A対象基準はあくまで消防本部が重点的に指導するラインです。対象外でも三芳町の教訓は倉庫共通の課題であり、訓練自体は規模を問わず有効です。
Q屋外消火栓と屋内消火栓、どちらを使った放水訓練でもよいのですか?
Aはい。通知は屋外消火栓設備又は屋内消火栓設備のいずれを使用してもよいとしています。
Qくぐり戸を使った避難訓練は、経路を確認するだけでよいのですか?
Aいいえ。通知は経路を把握するだけでなく、実際に当該経路を歩行することまで求めています。
Q訓練リーフレットの電子データはどこで手に入りますか?
A消防庁のホームページに掲載されており、必要に応じてダウンロードして活用できます。
まとめ
✔平成29年2月の埼玉県三芳町倉庫火災を受け、消防庁が大規模倉庫の訓練実施を通知した(平成30年1月24日 消防予第20号)。
✔教訓は119番通報の遅れと屋外消火栓のポンプ起動忘れだった。
✔対象は令別表第一(14)項の倉庫等で収容人員50人以上、かつ延べ面積50,000平方メートル以上等の大規模倉庫。
✔面積基準に届かなくても屋外消火栓設備の設置義務があれば消防本部の判断で対象になり得る。
✔訓練は通報・放水・くぐり戸避難・シャッター手動操作・消防隊連携の5つの場面で構成する。
✔大規模倉庫内部は棚やコンベヤで複雑・停電で暗いという悪条件が重なる想定で訓練を組む。
✔訓練は1回で終わらせず、結果を踏まえて避難経路や体制を見直すことまでが求められる。
通報・放水・避難の順に、うちの倉庫の訓練計画を見直します!
それがいちばんの近道です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
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この記事を書いた人
㈱防災屋Web編集部
元消防士、行政書士、高専卒など
防火管理者には「セルフ選任」と「プロ代行」の2択があることをもっと多くの方々に知ってもらい、世の中の防火管理レベルをもっと上げていきたい。
0にはできない火災リスクとの向き合い方を伝え、救える命を増やし、悲しみの総量を減らしたい。
後悔してからでは遅すぎる火災予防に、Webの力で取り組む㈱防災屋の編集部です。
監修・編集者
青木 俊輔
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
主な活動
参考・出典
- 大規模倉庫における効果的な訓練の実施推進について(通知)(平成30年1月24日 消防予第20号)
- 根拠条文 消防法施行令第19条第1項、消防法施行令別表第一(14)項・(16)項
- 埼玉県三芳町倉庫火災を踏まえた防火対策及び消防活動のあり方に関する検討会 報告書(抜粋)
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。