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非常用エレベーターを降りてもなぜ30メートルしか歩けないのか|建築基準法施行令が定める避難階の歩行距離の基準を解説

エレベーターホールで白ヘルメットの点検員が廊下の奥にある出口を見ている様子

非常用エレベーターは、消防隊を避難階から火災階の近くまで運ぶための昇降機です。
では籠を降りたあと、消防隊はどこまでなら歩いてよいのでしょうか。
建築基準法施行令は、避難階の中でも歩ける距離そのものに数値の上限を置いています。
非常用エレベーターは降りたあとの経路まで含めて一つの設備として設計されています

うちのビルの非常用エレベーター、避難階に着いたらそこがゴールだと思っていました。

降りてから屋外に出るまでも基準の対象です。
まずどんな仕組みなのか見ていきましょう。

降りたあとの通路が長いビルもありますよね。
そのあたりはどうなっているんでしょうか。

実は30メートルという上限が決まっています。
数え方と出口の条件を順番に見ていきます。

この記事の結論
  • 建築基準法施行令第129条の13の3第5項は避難階における非常用エレベーターの出入口から屋外への出口までの歩行距離を30メートル以下と定めている
  • 起点は昇降路の出入口だが、乗降ロビーを設けている場合はその出入口が起点になる。
  • 終点の屋外への出口は、道または道に通ずる幅員4メートル以上の通路・空地等に接する部分に限られる
  • 居室から直通階段までの通常の歩行距離とは別に定められた、非常用エレベーター専用の基準である。
  • 図面上の距離だけでなく、実際に歩いて出口の先が道に接しているかを確認する必要がある

非常用エレベーターの避難階の昇降路出入口から道に接する屋外出口まで歩行距離30メートル以内と図面で確認する流れを示した図解

非常用エレベーターを降りても、なぜそこから歩ける距離が決まっているのか

消防隊員が非常用エレベーターの籠から降り床の矢印に沿って先へ進んでいく様子
籠を呼び戻して消防隊を避難階まで運んでも、そこで基準が終わるわけではありません。
降りたあとに屋外までたどり着けなければ、設備としての意味が半分になってしまいます。
建築基準法施行令第129条の13の3第5項 前各項の規定にかかわらず、避難階においては、非常用エレベーターの昇降路の出入口(第三項に規定する構造の乗降ロビーを設けた場合には、その出入口)から屋外への出口(道又は道に通ずる幅員四メートル以上の通路、空地その他これらに類するものに接している部分に限る。)の一に至る歩行距離は、三十メートル以下としなければならない。
降りてから外に出るまでの距離にも上限があります
非常用エレベーターは、火災時に消防隊を上層階へ運ぶための設備ですが、活動を終えて避難階へ戻ってきたときに、外へ出るまで時間がかかりすぎては困ります。
そこでこの条文は、避難階の中だけに絞って、出入口から屋外の出口までの歩行距離を30メートル以下に制限しています。
上層階の歩行距離ではなく、あくまで避難階という1フロアだけに適用される基準です。
どこからどこまでを測るのかは、次に詳しく見ていきます。

避難階だけの話だったんですね。
他の階の歩行距離とは別物なんですか。

はい、別の条文で定められています。
次は起点の数え方を見ていきましょう。

どこからどこまでの距離を30メートルと数えるのか

昇降路の出入口と、その手前に設けられた乗降ロビーの出入口を並べた様子
30メートルの起点は、いつも同じ場所とは限りません。
条文は起点を2通りに書き分けています。
建築基準法施行令第129条の13の3第5項(抜粋) 非常用エレベーターの昇降路の出入口(第三項に規定する構造の乗降ロビーを設けた場合には、その出入口)から屋外への出口の一に至る歩行距離は、三十メートル以下としなければならない。
乗降ロビーがあるかどうかで起点が変わります
乗降ロビーを設けていない建物では、非常用エレベーターの昇降路の出入口そのものが起点になります。
一方、同条第3項の構造を満たす乗降ロビーを設けている建物では、そのロビーの出入口が起点に置き換わります。
つまり乗降ロビーが昇降路の出入口から離れた位置にあるほど、実際に消防隊が歩く距離はロビーの分だけ短く数えられることになります。
自分の建物にロビーがあるかどうかを、まず図面で確認してください。

うちのビルに乗降ロビーがあるかどうか、正直分かっていません。

確認済証や竣工図で確認できます。
次は終点の出口の条件を見ていきましょう。

屋外への出口はどんな出口でもよいのか

道路に接する屋外出口と、塀で囲まれた行き止まりの空地にしか接していない屋外出口を並べた様子
とにかく外に出られる扉であれば数えてよい、というわけではありません。
条文は終点の出口にも条件を付けています。
建築基準法施行令第129条の13の3第5項(抜粋) (略)屋外への出口(道又は道に通ずる幅員四メートル以上の通路、空地その他これらに類するものに接している部分に限る。)の一に至る歩行距離は、三十メートル以下としなければならない。
屋外への出口は、道に接する部分でなければ数えられません
建物の裏口や非常口であっても、その先が道路、または道路に通じる幅員4メートル以上の通路や空地に接していなければ、この条文がいう「屋外への出口」には当たりません。
塀で囲まれた行き止まりの中庭や、隣地との境界にしか面していない扉は対象外です。
消防隊が実際に道路まで抜けられる出口かどうかが、判断の分かれ目になります。
複数の出口がある建物では、そのうちの一つがこの条件を満たしていれば足ります。

裏口があるから大丈夫、とは言えないんですね。

その先が道路に接しているかまで見る必要があります。
次は実務で間違えやすい点を見ていきます。

実務で見落としやすいのはどこか

乗降ロビーが無く昇降路出入口から出口までの通路が長く伸びた建物と乗降ロビーがあり通路が短い建物を並べた様子
この基準は、居室から階段までの歩行距離と混同されやすい条文です。
まず、通常の歩行距離基準がどんなものかを確認しておきます。
建築基準法施行令第120条第1項(抜粋) 建築物の避難階以外の階においては、避難階又は地上に通ずる直通階段を(略)当該各居室からその一に至る歩行距離が(略)数値以下となるように設けなければならない。
令120条の歩行距離とは、根拠となる条文も測る区間もまったく別です
令120条は各居室から直通階段までの一般的な避難経路の基準で、構造や用途に応じて30メートルから60メートル程度の幅があります。
これに対して令129条の13の3第5項は、非常用エレベーターの出入口から屋外への出口までに絞った、消防隊のための専用の基準です。
実務で見落としやすいのは、増築や間仕切りの変更で通路の経路が伸びても、この30メートルの基準までは意識されにくい点です。
乗降ロビーの位置を移設したり、屋外出口の一つをふさいで別の出口だけに頼るようになったりした履歴があれば、あらためて距離を測り直してください。

増築のときにこんな数字まで確認するとは思っていませんでした。

建物側の履歴を追う中で確認する項目の一つです。
最後に明日からの手順をまとめます。

明日からなにを確認すればよいのか

点検員が巻尺と図面で避難階の経路の長さを確認している様子
条文の中身が分かったところで、実務でどう確認すればよいかを整理します。
自分の建物に当てはめて、順番にチェックしてみてください。
  • 避難階に乗降ロビーがあるかどうかを竣工図で確認し、起点をどちらで数えるか把握する
  • 非常用エレベーターの出入口から屋外への出口までの経路を、図面上で実測してみる
  • その屋外への出口の先が、道路または幅員4メートル以上の通路・空地に接しているかを現地で確認する
  • 増築や間仕切り変更で経路が伸びていないか、過去の図面と今の状態を見比べる
  • 乗降ロビーや通路に什器を置いて、実際の経路をふさいでいないか確認する
手順はまず竣工図で起点と終点の位置を確認することから始めます。
次に現地を歩いて、図面どおりの経路が確保されているかを確かめてください。
最後に、屋外への出口の先が本当に道路まで通じているかを、建物の外に出て見ておくと安心です。

今度の点検のときに、出口の先まで一緒に見てもらいます。

図面と現地の両方を見ておくと確実です。
次によくある質問もあわせてご確認ください。

よくある質問

Q30メートルの歩行距離は避難階以外の階にも適用されるのか?
A建築基準法施行令第129条の13の3第5項は避難階だけに限った基準です。避難階以外の階については、この条文の対象になりません。
Q乗降ロビーが無い建物ではどこが起点になるのか?
A乗降ロビーを設けていない建物では、非常用エレベーターの昇降路の出入口そのものが起点になります。乗降ロビーを設けている場合だけ、そのロビーの出入口に起点が置き換わります。
Q屋外への出口が複数あるときはどう判断すればよいのか?
A条文は「屋外への出口の一に至る歩行距離」としているので、複数ある出口のうちいずれか一つが条件を満たしていれば足ります。すべての出口が条件を満たす必要はありません。
Q通常の歩行距離基準と両方とも満たす必要があるのか?
Aはい、根拠条文が別なのでどちらも満たす必要があります。令第120条は居室から直通階段までの基準、令第129条の13の3第5項は非常用エレベーターの出入口から屋外への出口までの基準で、対象とする区間が異なります。

まとめ

非常用エレベーターは、避難階に降りたあとの歩行距離まで含めて基準が定められています
昇降路の出入口から屋外への出口までの歩行距離は30メートル以下としなければなりません。
乗降ロビーを設けている場合は、そのロビーの出入口が起点に置き換わります
屋外への出口は道路または道に通ずる幅員4メートル以上の通路・空地等に接する部分に限られます。
この基準は、居室から直通階段までの通常の歩行距離基準とは別の、非常用エレベーター専用の基準です
増築や間仕切り変更で経路が伸びていないか、図面と現地の両方を見比べてください。
乗降ロビーや通路に什器を置いて経路をふさいでいないか、日頃から確認しておきましょう。

非常用エレベーターの歩行距離の考え方がよく分かりました。
ありがとうございました!

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第129条の13の3第5項
  • 建築基準法施行令第129条の13の3第3項
  • 建築基準法施行令第120条第1項

※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。個別の建物への適用や特定行政庁の運用は異なる場合があります。個別の判断は建築主事または指定確認検査機関にご確認ください。

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