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旅館やホテルの客室に避難経路図を貼る義務はあるのか|火災予防条例が定める宿泊室への掲出を解説

旅館やホテルの客室の入口付近の壁に避難経路図を掲げる枠が取り付けられている様子

旅館やホテルの客室に入ると、扉のそばに小さな見取り図が貼ってあることがあります。
あれは親切で貼っているものだと思われがちですが、実は貼らなければならないと書かれた条があります。
しかもその条は消防法の本体ではなく、市町村が定める火災予防条例のほうに置かれています。
どの建物のどこに何を掲げるのかを、条文の書きぶりのまま確かめておきます

小さな旅館の防火管理者をしています。
客室の避難経路図は前からありますが根拠を聞かれると答えられません。

根拠は市町村の火災予防条例にあります。
東京都火災予防条例では第52条が避難経路図の掲出を定めています。

ロビーに大きな図を一枚出しておけば足りますか。

条文は宿泊室の見やすい場所にと書いています。
掲げる単位が部屋ごとである点をまず押さえてください。

この記事の結論
  • 宿泊室への避難経路図の掲出は消防法ではなく市町村の火災予防条例に置かれています
  • 東京都火災予防条例では第52条がその条にあたります
  • 対象は旅館とホテルと宿泊所で掲げる単位は建物ではなく宿泊室です
  • 図は当該宿泊室から屋外へ通ずる避難経路を明示したものにします
  • 備え付けるのではなく見やすい場所に掲出することが条文の求めです

旅館やホテルの宿泊室に避難経路図を掲出する決まりとしてどの建物かとどこに貼るかとなにを描くかとだれが確かめるかを示した図解

宿泊室の避難経路図はどんな決まりで求められているのか

左に出入口のあるホテルの建物と右に寝台と小机のある客室が並び客室の壁に長方形の板が掛かっている
消防法をいくら探しても、客室に図を貼れという条文は見つかりません。
この義務は市町村の条例のほうに置かれています。
東京都火災予防条例第五十二条 旅館、ホテル又は宿泊所には、宿泊室の見やすい場所に、当該宿泊室から屋外へ通ずる避難経路を明示した避難経路図を掲出しなければならない
一文しかない短い条です
短いぶん、書かれている語をそのまま読むことがそのまま実務の手順になります。
主語は建物の側で、宛先は旅館とホテルと宿泊所の三つです。
求められている行為は掲出であり、掲げる場所は宿泊室の見やすい場所と指定されています。
この条は東京都火災予防条例の第六章にあたる避難及び防火の管理等の章に置かれていて、避難施設の管理や劇場等の定員といった条と同じ並びにあります。
東京都火災予防条例第一条 この条例は、(略)消防法(昭和二十三年法律第百八十六号。以下「法」という。)の規定に基づく火を使用する設備の位置、構造及び管理の基準等、(略)について定めるとともに、火災予防上必要な事項を定めることを目的とする

消防法だけ見ていても出てこないわけですね。

火災予防条例は市町村ごとに定めるものです。
まずは自分の建物がある市町村の条例を手元に置いてください。

どの建物のどの部屋が対象になるのか

寝台と壁の板がある建物が3棟並びその右に板の無い集合住宅が離れて置かれている
宿泊させる建物なら何でも入るのかというと、条文はもう少し狭く書いています。
消防法施行令の別表と読み比べると違いがはっきりします。
消防法施行令別表第一(五)項イ 旅館、ホテル、宿泊所その他これらに類するもの
条例の側にはその他これらに類するものという言葉がありません
令別表第一の(5)項イは旅館とホテルと宿泊所に加えてその他これらに類するものまで含めていますが、東京都火災予防条例第52条はその三つを並べたところで文が切れています。
自分の建物が消防法令の上で(5)項イに区分されていても、条例の掲出義務がそのまま同じ範囲でかかるとは限らないということです。
一方で掲げる場所のほうは、建物にひとつではなく宿泊室の見やすい場所と書かれています。
客室が30室あれば30室ぶんの見やすい場所が対象になる、という読み方になります。

研修所の宿泊棟はどちらに入るのか迷います。

用途の区分は建物ごとの実態で判断されます。
迷う建物こそ所轄消防署に用途を確かめておいてください。

避難経路図には何を明示すればよいのか

左に壁の板がある客室と中央に廊下と右に階段と屋外へ通じる出入口が並んでいる
図の作り方には決まった様式がありません。
そのかわり条文の一文に、外せない要素が三つ入っています。
東京都火災予防条例第五十二条(再掲) 旅館、ホテル又は宿泊所には、宿泊室の見やすい場所に、当該宿泊室から屋外へ通ずる避難経路を明示した避難経路図を掲出しなければならない。
起点と終点と明示の三つです
起点は当該宿泊室ですから、その部屋から見た経路でなければ条文の言葉には合いません。
終点は屋外へ通ずるところまでですので、廊下の突き当たりや階段の入口で図が終わっていないかを見ます。
明示というのは経路がたどれるかどうかということで、部屋の位置だけを打った見取り図では経路を示したことになりません。
逆に言えば、寸法や紙の大きさや使う言語について条文は何も書いていないので、そこは所轄の指導に合わせる部分になります。

つまり部屋ごとに起点が変わるということですね。

条文が当該宿泊室からと書いているとおりです。
同じ階でも部屋の位置で近い出口は変わります。

実務で見落としやすいのはどこか

左に引き出しの中にとじられた冊子と右に壁に掛けられた板が並んでいる
図そのものはあるのに、置き方や中身で指摘を受けることがあります。
条文の言葉に戻ると見落としの場所が絞れます。
消防法第4条第1項 消防長又は消防署長は、火災予防のために必要があるときは、(略)当該消防職員にあらゆる仕事場、工場若しくは公衆の出入する場所その他の関係のある場所に立ち入つて、消防対象物の位置、構造、設備及び管理の状況を検査させ、若しくは関係のある者に質問させることができる。
見られるのは管理の状況までです
まず条文が求めているのは掲出であって備え付けではないので、案内ファイルにとじて引き出しに入れている運用は書きぶりと合っているかを確かめる必要があります。
次に古い図が残っている場合で、模様替えで通路の向きが変わったのに図だけ以前のままという状態は、当該宿泊室から屋外へ通ずる経路を明示したことになりません。
なお東京都火災予防条例の罰則の条である第66条と第67条には第52条が挙げられていませんが、立入検査で管理の状況として見られる項目であることに変わりはありません。
消防計画の側にも避難施設の維持管理及びその案内に関することという記載事項があるので、掲げた図と計画の中身がずれていないかも合わせて見ておきます。

罰金が無いなら後回しでもよいのでしょうか。

条文は掲出しなければならないと書いています。
罰則の有無と義務の有無は別の話として扱ってください。

明日からなにを確認すればよいのか

左に用紙を持つ人と中央に板の掛かった客室が2室と右に電話の置かれた受付台が並んでいる
やることは多くありません。
条文の語をそのまま確認項目に置き換えれば足ります。
消防法第2条第4項 関係者とは、防火対象物又は消防対象物の所有者、管理者又は占有者をいう
回るのは全室です
はじめに自分の建物がある市町村の火災予防条例を開いて、避難経路図の掲出にあたる条があるかどうかと、その条番号を控えます。
次に鍵を持って全部の宿泊室に入り、図が壁に掲げられているかと、入口から見て見やすい場所にあるかを一室ずつ見ます。
そのうえで図の起点がその部屋になっているかと、経路が屋外まで続いているかを実際に歩いて突き合わせます。
建物を借りて営業している場合でも、関係者には占有者が含まれますので、貸主任せにせず自分の持ち場として確認しておいてください。

清掃の日に合わせて回れば一度で見られますね。

その方法なら手間が増えません。
見た日付と部屋番号を残しておくと次の点検が楽になります。

よくある質問

Q避難経路図の掲出は消防法に書かれた義務ですか?
A消防法の本体には宿泊室に避難経路図を掲出せよという条はありません。掲出を求めているのは市町村の火災予防条例で、東京都火災予防条例では第52条がこれにあたります。
Q共同住宅やウィークリーマンションも対象になりますか?
A東京都火災予防条例第52条が並べているのは旅館とホテルと宿泊所です。令別表第一の(5)項イのようにその他これらに類するものとは書かれていませんので、自分の建物がどれにあたるのかは所轄消防署にご確認ください。
Q客室の案内ファイルにとじておくのではいけませんか?
A条文が使っている言葉は掲出で、しかも宿泊室の見やすい場所と場所まで指定されています。とじて収める運用がこの書きぶりを満たすかどうかは、所轄消防署にご確認ください。
Q図の大きさや外国語の併記に決まりはありますか?
A条文が求めているのは当該宿泊室から屋外へ通ずる避難経路を明示することだけで、寸法や様式や言語までは書かれていません。ただし条例も運用も市町村ごとに異なりますので、所轄消防署にご確認ください。

まとめ

避難経路図の掲出は市町村の火災予防条例に置かれた義務です
東京都火災予防条例では第52条がその条にあたります
条文が並べているのは旅館とホテルと宿泊所の三つだけです
掲げる単位は建物ではなく宿泊室の見やすい場所です
図の起点は当該宿泊室で終点は屋外へ通ずるところまでです
条例の罰則の条には第52条が挙げられていませんが立入検査では見られます
借りて営業していても占有者は関係者に含まれます

今週の清掃に合わせて全室の避難経路図を見て回ります。
古い図が残っていないかも一緒に確かめます。

その一巡が次の立入検査の備えになります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
主な活動

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

参考・出典

  • 消防法(昭和23年法律第186号)第2条第4項・第4条第1項・第8条第1項
  • 消防法施行令(昭和36年政令第37号)別表第一(5)項イ
  • 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第3条第1項
  • 東京都火災予防条例(昭和37年東京都条例第65号)第1条・第52条・第66条・第67条
  • e-Gov法令検索(デジタル庁)
  • 東京都例規集データベース

※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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