防火管理者を選ぶのは管理権原者です。
ところが、そのビルの管理権原者が誰なのかは、建物の登記を見ただけでは決まりません。
マスターリースや区分所有、指定管理者制度が入ると判断はいっそう難しくなります。
消防庁が平成24年に整理したのは所有形態と契約形態から総合的に判断するという考え方でした。
ビルのオーナーから、うちのテナントでも防火管理者を出してほしいと言われました。
1フロアを借りているだけなのに、こちらが管理権原者になるのでしょうか。
借りている部分については、なる可能性が高いです。
管理権原はひとつの建物にひとつとは限りません。
ビル全体の管理権原者はオーナーひとりだと思い込んでいました。
共用部分についてはそのとおりです。
専有部分との分け方は、消防庁が平成24年に出した通知が整理しています。
- 管理権原者とは防火の管理に関する事項について法律や契約や慣習上当然行うべき者のことです
- 代表的な例は所有者と占有者ですが、所有形態と管理形態と運営形態と契約形態から総合的に判断します
- 複合用途防火対象物の管理権原は複数が基本で、ひとつにまとまるのは例外の場合だけです
- マスターリースや信託や指定管理者制度では、共用部分と専有部分で管理権原者が分かれます
- 消防用設備等を設置し維持する関係者は管理権原者とは別の概念で、同じ人とは限りません
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目次
管理権原者の考え方はなぜ通知で整理されたのか

その管理権原者が誰なのかで迷う現場が多かったため、消防庁は考え方を文書で整理しました。
条文には管理権原者を定義した規定が無いので、現場では誰に選任を求めるべきかで判断が割れていました。
この通知は消防組織法第37条に基づく助言として出されたもので、新しい義務を作ったものではありません。
それでも、消防機関が指導するときの物差しがここで揃いました。
自分のビルの立場を確かめたいときは、まずこの通知の整理に当てはめてみるのが近道です。
条文に管理権原者の定義が書いていないとは知りませんでした。
だからこの通知が出ました。
迷ったときの拠りどころはこの整理だと覚えておいてください。
管理権原者とはどういう立場の人を指すのか

そのうえで、両方を合わせた管理権原者の姿を一文で示しました。
社長だから管理権原者になるのではなく、火気の使用や防火の管理について当然行うべき立場かどうかで決まります。
代表例として挙がっているのは所有者と占有者で、テナントとして借りている事業主も占有者に含まれます。
なお通知は、消防用設備等を設置し維持する関係者とは別の概念だと念を押しています。
点検の請求書が来る相手と防火管理者を選ぶ相手が同じとは限らない、と読み替えると分かりやすいです。
設備の点検をお願いしている相手と、防火管理者を出す相手は別ということですね。
重なることも多いですが、法律上は別の概念です。
契約書を見て、防火の管理まで任されているかどうかを確かめてください。
所有形態が変わると管理権原者はどう変わるのか

共用部分と専有部分に分けて、形態ごとに誰が管理権原者になるかを示したものです。
| 形態 | 共用部分 | 専有部分 |
|---|---|---|
| 所有者自身が管理する場合/親会社所有の建物を子会社に管理委託する場合 | 所有者 | 所有者/所有者との賃貸借契約により入居している事業主 |
| マスターリースとサブリースの場合 | 所有者/ビルを一括して借りる事業主 | 所有者/ビルを一括して借りる事業主との賃貸借契約により入居している事業主 |
| 区分所有や共有の場合 | 所有者/管理組合 | 所有者/所有者等との賃貸借契約により入居している事業主 |
| 信託する場合 | 信託会社 | 信託会社との賃貸借契約により入居している事業主 |
| 不動産証券化の場合 | 信託銀行/特定目的会社/アセットマネージャー等 | 信託銀行等との賃貸借契約により入居している事業主 |
| 指定管理者制度の場合 | 地方公共団体/指定管理者 | 地方公共団体/指定管理者 |
| PFI事業の場合 | 地方公共団体/特定目的会社等 | 地方公共団体/特定目的会社等 |
同じ建物でも、所有者が自分で回しているのか、不動産会社が一括で借り上げているのかで答えが変わります。
区分所有のビルでは管理組合が共用部分の管理権原者になる場合があり、規約と契約の中身を見ないと決められません。
指定管理者制度やPFI事業は、条例や事業契約で任された業務の範囲から判断するとされています。
自分の建物がどの行に当たるかを先に押さえておくと、消防署との話が早く進みます。
つまり、うちのビルはサブリースなので一括で借りている会社も管理権原者になるわけですね。
表ではそう整理されています。
最後は契約書の中身しだいなので、原本を手元に置いて確かめましょう。
複合用途のビルで管理権原がひとつになるのはどんなときか

通知はここで、管理権原が単一になる場合を2つに限って挙げています。
ア 防火対象物全体としては複合用途防火対象物であるが、当該防火対象物を1人の管理権原者が使用していると認められる場合
イ 管理権原者と各賃借人との間で、以下のように防火管理の責務を遂行するために必要な権限がすべて付与される取り決めが確認でき、統一的な防火管理を行うことができる場合
(ア) 管理権原者が、各賃貸部分を含め防火対象物全体の防火に関する権限を有していること。
(イ) 管理権原者又は管理権原者が選任した防火管理者が、防火管理上、必要な時に防火対象物の部分に立ち入ることができること。
(ウ) 管理権原者又は管理権原者が選任した防火管理者が、各賃借人に対する防火に係る指示権限を有していること。
雑居ビルで管理権原者がオーナーひとりだと考えていると、この原則から外れてしまいます。
イの場合に必要なのは、全体の防火に関する権限と、立入りができること、そして各賃借人への指示権限の3つです。
3つのうちひとつでも欠ければ単一とは扱えないので、口約束ではなく取り決めとして確認できる状態にしておく必要があります。
管理権原が分かれている建物では統括防火管理者の選任が別途問題になるので、そちらも合わせて確かめてください。
うちのビルは賃貸借契約にそこまでの取り決めが書いてある気がしません。
書いていなければ複数として扱うのが原則どおりです。
テナントごとに防火管理者を立てる前提で消防署に相談してください。
明日からなにを確認すればよいのか

指摘された内容は、そのまま建物側の確認事項にもなります。
まず賃貸借契約書と管理委託契約書を出して、防火の管理をどこまで任されているかを読み直してください。
そのうえで共用部分と専有部分に分け、それぞれの管理権原者を書き出します。
管理的または監督的な地位にある人がどうしても置けないときは、令第3条第2項による外部委託の道があります。
ここまで整理してから所轄の消防署に相談すると、選任届の出し直しを避けられます。
まず契約書を出して、共用部分と専有部分に分けて書き出してみます。
その一覧があれば話が早いです。
置ける人がいないときは外部委託という選択肢も残っています。
よくある質問
まとめ
誰が管理権原者かを先に決めればよいと分かりました。
さっそく契約書を出してきます。
共用部分と専有部分に分けて書き出すところから始めてください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 防火対象物等の「管理について権原を有する者」について(平成24年2月14日 消防予第52号 消防庁予防課長)
- 新築の工事中の建築物等に係る防火管理及び防火管理者の業務の外部委託等に係る運用について(平成16年3月26日 消防安第43号)
- 消防法第8条第1項
- 消防法第17条第1項
- 消防法第36条第1項
- 消防法施行令第3条第2項
- 消防法施行令第3条の2
- 消防組織法第37条
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





