病院の火災で死傷者が出たとき、病院の運営を任されていた事務長はどこまで刑事責任を問われるのでしょうか。
昭和52年に札幌市の病院で起きた火災では、新生児3名を含む入院中の4名が亡くなりました。
病院長と事務長は避難の訓練をしていなかったなどとして業務上過失致死傷罪に問われましたが、2人とも無罪とされています。
一方で病院長は、防火管理者を解任したのに届け出なかった点で罰金刑を受けました。
この判決が示しているのは刑事責任の線引きと消防法上の義務は別に考えなければならないということです。
無罪なら、訓練はしなくても問題ないということですか。
そう読むのは危ない判決です。
では、どうして事務長は無罪になったんですか。
職員への信頼が理由でした。
認められたことと認められなかったことを、順に見ていきます。
- 昭和52年の札幌市の病院火災で、事務長は差戻し後の第一審で無罪とされ、確定しました
- 夜警員や当直の看護職員が通報・救出をすると信頼してよかったとして、訓練をしなかった過失は否定されました
- 凍った配管を火で溶かす作業の方法まで指示する義務も、過大な要求だとして否定されました
- ただし事務長が病院の防災の職責を負っていたこと自体は認められています
- 病院長は、防火管理者を解任したのに届け出なかった点で罰金1万円の有罪となりました
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目次
どんな火災だったのか

判決と事件の経過から、事実だけを並べます。
- 昭和52年2月6日午前7時20分ごろ、札幌市内の病院の旧館で出火した
- ボイラー担当の職員が、凍った暖房配管の蒸気抜きパイプをトーチランプの炎で溶かそうとして、外壁の内部の下地板に火を付けた
- 旧館2階の全部と1階の一部が焼け、新生児3名を含む入院中の4名が亡くなり、2名が負傷した
- 旧館2階には屋外の非常階段へ出る非常口があったが、扉は内側から施錠され、鍵は2階の看護婦詰所に置かれていた
- 夜警員は出火場所へ向かったが、居合わせた職員に消防への通報を頼んだだけで新館へ避難した
- 2階の当直の職員は、以前にも誤って鳴ったことがあったため火災報知ベルを火災ではないと考えて確認せず、煙に気づいたあとも非常口を開けなかった
ボイラー担当の職員、理事長兼病院長、そして常務理事として実質的に事務長を務めていた職員です。
札幌地方裁判所は昭和54年2月28日、3人とも有罪としましたが、3人とも控訴しました。
札幌高等裁判所は昭和56年1月22日、ボイラー担当の職員の控訴を棄却し、病院長は業務上過失致死傷について無罪とする一方、防火管理者の解任届を出さなかった点で罰金1万円としました。
事務長については審理のやり直しを命じ、差戻し後の札幌地方裁判所は昭和57年12月8日に無罪を言い渡して、この判決が確定しています。
非常口の鍵が、すぐ近くにあったんですね。
開ける時間もあったと認定されています。
事務長は何を問われたのか

検察官の主張と、裁判所が前提にした事実をあわせて見ます。 争点は訓練と作業の監督の2つでした。
1つ目は、火災のときの通報・救出・避難誘導の訓練を行い、非常口の鍵をすぐ開けられるようにしておく義務があったかどうかです。
2つ目は、凍ったパイプを火で溶かす作業で火災を起こさないよう作業の方法を指示する義務があったかどうかで、検察官が差戻し後に追加した主張です。
トーチランプはボイラー担当の職員の申請で、事務長の決裁を経て購入されたもので、事務長は使うときは十分注意するよう指示しただけでした。
一方で、夜警員は火災のときに通報することが職務とされ、当直の看護職員は約3年6か月の勤務経験があったことも認定されています。
訓練をしていなかったのは事実なんですよね。
それでも刑事責任は別の物差しでした。
裁判所が認めたのはどこか

病院長の届出義務違反は、控訴審で次のように認定されました。
当時の消防法第8条第2項は、管理について権原を有する者に、防火管理者を定めたときだけでなく解任したときも届け出るよう求めていました。
病院長はこの届出をしなかったとして、当時の第44条第6号により第一審・控訴審とも有罪とされ、控訴審で罰金1万円が言い渡されています。
また差戻し後の判決は、事務長が病院の防災や建物・物品の管理について職責を当然に負っていたこと自体は認めました。
無罪になったのは、その職責の中身を刑法上の注意義務としてどこまで求めるかという点です。
防火管理者が辞めたら、届出も必要なんですね。
今も同じ義務があります。
事務長の過失はなぜ否定されたのか

検察官が主張した2つの注意義務は、どちらも認められませんでした。
判決は、夜警員は通報が職務であり、経験のある当直の看護職員は救出や避難誘導をするはずだと事務長が期待し信頼することが許されたと判断しました。
そのため、職員が動かない場合まで考えて対策を定め訓練しておく義務を事務長に負わせるのは、過大な要求だとされています。
パイプを溶かす作業についても、ボイラー担当の職員が適切な方法で行うと期待し信頼することが許されたとして、作業の方法を細かく指示する刑法上の義務は否定されました。
なお控訴審も、病院長の業務上過失致死傷について同じ考え方で無罪としています。
職員に任せておけば大丈夫、という意味ではないですよね。
判断したのは刑事責任の範囲だけです。
明日からなにをすればよいのか

この事案で問題になった届出と初動の備えに絞ります。 まず届出と手順を確かめます。
現在の消防法第8条第2項も、防火管理者を定めたときと解任したときの届出を求めており、怠れば第44条第8号の罰則の対象です。
同条第1項は、防火管理者に消防計画を作らせ、それに基づく消火・通報・避難の訓練を行わせることを管理について権原を有する者に求めています。
判決の事実では、ベルを誤報と考えて確認しなかったことや、非常口の鍵を持ち出せなかったことが被害につながりました。
誰がベルの確認に行き、誰が鍵を開けて誰を運び出すかを決めて動いてみることは、㈱防災屋でもご相談いただけます。
防火管理者が替わったときの届出から確かめます。
夜間の当直者の動きも決めておいてください。
よくある質問
まとめ
夜間の当直で、誰が何をするかを決めておきます。
決めたら一度は実際に動いて確かめてください。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 昭和54年2月28日 札幌地方裁判所判決(業務上失火、業務上過失致死傷等被告事件)
- 昭和56年1月22日 札幌高等裁判所判決(控訴審)
- 昭和57年12月8日 札幌地方裁判所判決(差戻し後の第一審・確定)
- 消防法第8条第1項・第2項(当時・現行)、第44条第6号(当時)・第8号(現行)
- 刑法第211条(当時)
※判決文の引用中の人名は、いずれも役割を示す表記(事務長・防火管理者・消防署長など)に置き換えています。本記事は確定した判決の内容を要約したものです。判決当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。






