危険物施設への立入検査では、タンクや配管の状況だけでなく、事業所の内部情報まで見えてしまいます。
そこで消防職員に課されるのが秘密保持義務です。
ところが弁護士会や捜査機関から照会が来ると、この義務との関係が現場で悩ましくなります。
危険物施設立入検査標準マニュアルは、秘密保持義務にも例外があることを具体的に示しています。
先日の立入検査の内容について、弁護士会から照会が来たと聞きました。
秘密保持義務があるのに答えていいのでしょうか。
秘密保持義務が課されているのは事実です。
ただし「みだりに」漏らしてはならないという意味で、例外もあります。
どこまでが例外に当たるのか、正直よくわかりません。
そこを確かめましょう。
根拠と照会の種類を、通達の解説に沿って順に見ていきます。
- 危険物施設の立入検査でも、消防法第16条の5第3項が第4条第2項から第4項までを準用し秘密保持義務が課されています
- 「みだりに」とは正当な理由なくしてという意味で、正当な理由があれば第三者に伝えてよいとされました
- 弁護士会や捜査機関からの照会には、弁護士法第23条の2や刑事訴訟法第197条第2項という法律の根拠があります
- 照会の内容にプライバシーの侵害や職務遂行上の支障が生ずるおそれがある場合は、応じなくてよいとされました
- 現場では照会文書の根拠条文を確かめてから上司や消防本部に相談することが実務の基本です
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目次
危険物施設の立入検査でも秘密保持義務はあるのか

この場面でも消防職員には、防火対象物への立入検査と同じ縛りが及びます。
第四条第二項から第四項までの規定は、前二項の場合にこれを準用する。
消防法第4条第4項は「関係者の秘密をみだりに他に漏らしてはならない」と定めていて、通常は防火対象物への立入検査を想定した規定です。
危険物施設への立入検査は第16条の5第1項が根拠で、同条第3項がこの第4条第2項から第4項までをそのまま準用しています。
つまり危険物施設でも、証票の提示・業務の妨害の禁止・秘密の保持という同じ3つの縛りが消防職員に課されているということです。
まずはこの準用の関係を押さえておくと、この先の「例外」の話がすっと入ってきます。
危険物施設だから別扱いというわけではないんですね。
そのとおりです。
根拠条文が違うだけで、縛りの中身は同じと考えてください。
通達がいう「みだりに」とは何を指すのか

そこでマニュアルは、この言葉の中身を具体的に示しています。
みだりに 「正当な理由なくして」という意味で、次の場合には「正当な理由がある」と考えられる。
・職務上必要な事項として、上司に検査結果を報告する場合
・通知書の内容について、他の公的機関から法令に基づく照会を受け、それに回答する場合
条文の言葉をそのまま読むと「一切話してはいけない」ようにも見えますが、通達はそこに「正当な理由」という物差しを立てました。
上司へ検査結果を報告することは、まさに職務そのものなので当然に正当な理由があります。
他の公的機関から法令に基づく照会があり、それに回答することも同じく正当な理由がある扱いです。
逆にいえば、職務と無関係に話すことや、根拠もなく求められるままに答えることは、この「正当な理由」に当たりません。
「法令に基づく照会」というのが、次に気になるところです。
マニュアルには代表例として弁護士会と捜査機関からの照会が挙げられています。
次はその中身を見ましょう。
弁護士会や捜査機関からの照会にはなぜ応じてよいのか

マニュアルはここで、具体的な法律名まで示しています。
※1 照会 弁護士会、捜査機関などから立入検査結果の通知書について、法律の規定(弁護士法第23条の2、刑事訴訟法第197条第2項等)に基づく照会があった場合、消防機関は報告する必要がある
弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。
刑事訴訟法第百九十七条第二項
捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
弁護士会照会は弁護士法第23条の2、捜査関係事項照会は刑事訴訟法第197条第2項という、それぞれ別の法律に根拠を持つ制度です。
どちらも公務所や団体に必要な事項の報告を求める仕組みとして、法律で明文化されています。
だからこそマニュアルは、この2つを名指しで「正当な理由がある照会」の代表例として挙げているのです。
届いた照会状に、どちらの法律の規定に基づくものかが書かれているかを、まず確認してください。
法律の名前が書いてあるかどうかで、まず一次判断ができるんですね。
そのとおりです。
ただし根拠があれば無条件で答えてよいわけではありません。
応じなくてよい場合があるのはなぜか

マニュアルはここに、もう一段の歯止めを置いています。
※1 照会(続き) ただし、照会の内容がプライバシーの侵害や職務遂行上の支障が生ずる可能性のある場合はこの限りでない
弁護士法や刑事訴訟法に基づく照会であることは、あくまで「正当な理由があると考えられる場合」の入り口にすぎません。
そのうえで、回答する内容そのものが個人のプライバシーを侵害しないか、事業所の職務遂行に支障を生じさせないかを、あらためて見る必要があります。
たとえば関係者個人の病歴や家庭の事情に踏み込んだ質問、事業所の営業秘密そのものに関わる内容は、この歯止めに当たり得ます。
「法律の根拠があるか」と「この内容まで答えてよいか」は、別々に確認する2段階だと考えてください。
根拠があっても、内容次第で断れることがあるんですね。
はい、その判断は担当者一人で抱えないことが大切です。
最後に現場での動き方をまとめます。
現場ではどう対応すればよいのか

出典に書かれた枠組みを、そのまま手順として使うのが確実です。
検査等により知り得た危険物施設の情報の取扱い 検査等により知り得た危険物施設の情報は、みだりに他に漏らさない。
まず、照会状にどの法律の規定に基づく照会なのかが明記されているかを見ます。
次に、求められている内容が個人のプライバシーや事業所の職務遂行に関わりすぎていないかを確かめます。
どちらか一方でも判断に迷ったら、担当者だけで回答せず上司や消防本部に相談することが、通達が示す「職務上必要な事項として報告する」動き方そのものです。
危険物施設の側としても、届いた照会について消防機関がどんな根拠で動いているのかを尋ねれば、やり取りの見通しが立ちやすくなります。
うちも何か照会が来たら、根拠を聞いてみます。
それが一番早い確認方法です。
法律の名前まで聞いておけば、あとの話もスムーズになります。
よくある質問
まとめ
根拠を確かめてから相談すればいいと分かりました。
安心しました。
照会の根拠、内容、そして相談先。
この3つを確かめれば大きく外しません。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 危険物施設の立入検査等に関するマニュアルの改定について(令和3年3月26日付け消防危第44号 消防庁危険物保安室長)別添1 危険物施設立入検査標準マニュアル
- 消防法第4条第2項から第4項まで
- 消防法第16条の5第1項及び第3項
- 弁護士法第23条の2
- 刑事訴訟法第197条第2項
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





