BLOG

危険物運搬車両はなぜイエローカードを携帯するのか|東名高速の事故を機とした申合せの中身を解説

危険物運搬車両はなぜイエローカードを携帯するのか|東名高速の事故を機とした申合せの中身を解説

危険物を運ぶタンクローリーの運転席には、緊急連絡先や応急措置を記した一枚のカードが積まれています。
法律のどこにも「携行しなさい」とは書かれていないのに、なぜこの慣行が業界の標準になったのでしょうか。
きっかけは平成9年8月、東名高速道路で起きた一件の横転事故でした。
この記事では、消防庁の通知が示した対策会議の中身と、消防法が定める基準との関係を解説します

取引先から「御社の運搬車両にはイエローカードが積んでありますか」と聞かれて困っています。
危険物を扱ってはいますが、そんな話は初耳です。

イエローカードは、平成9年の消防庁通知をきっかけに広まった、事故発生時の応急措置カードです。
まずは通知が出た経緯からご説明しますね。

法律で決まっている運搬の基準とは、別物ということでしょうか。

はい、消防法第16条の基準とは別に、業界の自主的な取り組みとして呼びかけられたものです。
両方の関係を含めて整理していきましょう。

この記事の結論
  • イエローカード平成9年の消防庁通知をきっかけに広まった、事故発生時の応急措置カードです
  • 対象は危険物運搬車両(毒物・高圧ガス・危険物等を運ぶ車両及び移動タンク貯蔵所)の運転者です
  • 記載するのは緊急連絡先や危険物の性状・応急措置で、日本化学工業協会が普及を進めています
  • イエローカードの携行は法律上の義務ではなく、消防法第16条・第16条の2が定める基準とは別の任意の取り組みです
  • 事故が起きたときは消防法第16条の3の応急措置・通報義務が別途かかります

危険物運搬車両の事故を機に対策会議が設置されイエローカードの携行が広まったが消防法の運搬基準は別に守る必要があることを示す図解

危険物運搬車両の対策はなぜ東名高速の事故をきっかけに動いたのか

東名高速道路でタンクローリーが横転し危険物が流出した事故現場を消防と警察が確認しているイメージ
平成9年8月、静岡県内の東名高速道路でタンクローリーの単独横転事故が起き、積載していた危険物が流出しました。
住民に不安を与えたばかりか、道路の復旧に長い時間を要したことが、国レベルの対策を動かすきっかけになりました。
危険物運搬車両の事故防止等対策の実施について(平成9年12月12日 消防危第116号 消防庁危険物規制課長) 本年8月、静岡県内の東名高速道路において発生したタンクローリーの単独横転事故では、積載していた危険物が流出し、住民等に不安を引き起こした。また、積載していた危険物の特定、当該危険物の取扱い要領の確認、除去等のための資材の確保、横転タンクローリーのタンク内の危険物の積替え車両の確保及び現場路面の清掃等により、事故現場道路の復旧に多くの時間を要したため、約15時間(上り線は約10時間)にわたって通行止めが行われ、我が国産業経済活動等の大動脈である東名高速道路に多大な影響を与えることとなった。
一件の事故が、省庁をまたぐ対策会議を生みました
警察庁・厚生省・通商産業省・運輸省・建設省・日本道路公団・消防庁が参加する「危険物運搬車両の事故防止等対策会議」が設置され、平成9年12月12日に「危険物運搬車両の事故防止等対策についての申合せ」が決定されました。
通知に登場するこれらの官庁名は当時のもので、その後の中央省庁再編で経済産業省・国土交通省などに引き継がれています。
タンクローリー1台の事故が、全国レベルの事故防止の枠組みを作ったという経緯を押さえておきましょう。

うちの運搬車両も、いつかこんな事故を起こすかもしれないと思うと怖いです。

事故そのものはまれでも、高速道路で起きると被害が大きくなりやすいと通知にも書かれています。
だからこそ日頃の備えが大切なんです。

イエローカードの携行が求められるのはどんな車両の運転者か

タンクローリーの運転者がイエローカードを手にし隣に危険物標識付きの小型トラックが並ぶイメージ
対象になるのは、危険物や毒物、高圧ガスなど「危険有害な物質」を運ぶ車両と、これらを移送するタンクローリーです。
通知は運転者本人に対し、日頃からの携行を指導するよう都道府県に求めています。
危険物運搬車両の事故防止等対策の実施について ついては、危険物運搬車両(毒物、高圧ガス、危険物等の危険有害な物質を運搬する車両及びこれらを移送するタンクローリーをいう。以下同じ。)による事故防止と事故処理対策等について、下記事項に留意の上必要な措置を講じることとされたい。(中略)3 イエローカードの普及等 (1)危険物運搬車両の運転者に対し、イエローカードの携行を指導すること。
消防法第16条の2(抜粋) 移動タンク貯蔵所による危険物の移送は、当該危険物を取り扱うことができる危険物取扱者を乗車させてこれをしなければならない。(略)危険物取扱者は、第一項の規定により危険物の移送をする移動タンク貯蔵所に乗車しているときは、危険物取扱者免状を携帯していなければならない。
イエローカードの対象は、免状を持つ危険物取扱者だけではありません
消防法第16条の2が求めるのは移動タンク貯蔵所に乗る危険物取扱者免状の携帯ですが、通知が求めるイエローカードの携行は、それとは別に運転者本人に向けられています。
毒物や高圧ガスを運ぶ車両も対象に含まれるため、危険物取扱者の資格を持たない運転者にも関係する場面があります。
自社の車両がどちらの基準の対象になるか、あわせて確認しておく必要があります。

うちの運転者は危険物取扱者免状を持っていません。
対象外ということでしょうか。

通知が対象にしているのは運転者本人です。
免状の有無にかかわらず、携行を指導する対象になります。

イエローカードには何を書くよう求められているのか

運転者がイエローカードを手にし緊急連絡先の電話アイコンと危険を示す標識が並ぶイメージ
通知には、日本化学工業協会が定める書式に沿った作成上の留意点が別添として添えられています。
中身は「事故のとき何を伝えるか」を運転者本人にも分かる形でまとめたものです。
移動タンク貯蔵所等の移送中の事故防止について(平成9年9月16日 日本化学工業協会) イエロー・カードの作成にさいしては水又は空気と反応して毒性・腐食性の物質並びに加熱されて毒性・腐食性の物質を生じる物質については必ず記載すること。(中略)緊急連絡先の荷送会社(荷主)は24時間対応可能な事業所等とする。原則的には輸送時の化学品の所有権のある会社とするが専門的な対応が困難な場合は製造元や荷受人に緊急連絡先を委託するなどの体制を確立しておく。
危険性の情報は、多いほうが安全側に働きます
特性表示は異常・事故等を想定し、水と反応する場合の危険性も含めてできるだけ多く記載するよう求められています。
緊急連絡先は輸送時の化学品の所有権がある会社を原則とし、24時間対応できる体制を確保することとされています。
輸送している化学品以外のカードを一緒に携行させない、という運用面の注意も添えられており、事故現場で迷わないための工夫が随所にあります。

何をどこまで書けばいいのか、正直迷います。

通知は「水や空気と反応する危険性は必ず書く」と具体的に示しています
迷ったら通知の留意点に立ち返るのが近道です。

イエローカードを積んでいれば運搬の基準を満たしたことになるのか

イエローカードを積んだタンクローリーと固定が不十分な容器から漏れが起きているタンクローリーを対比したイメージ
ここが最も誤解されやすいところです。
イエローカードの携行と、法律が定める運搬・移送の基準は、別々に守る必要があります。
危険物運搬車両の事故防止等対策の実施について 1 法令遵守の徹底 危険物の運搬車両及び移動タンク貯蔵所の所有者、管理者又は占有者及び運転者に対し、消防法第16条に規定する運搬の基準、同法第16条の2に規定する移送の基準等の遵守の徹底を図ること。
消防法第16条 危険物の運搬は、その容器、積載方法及び運搬方法について政令で定める技術上の基準に従つてこれをしなければならない。
通知は1番目の項目を、あえて「法令遵守の徹底」から始めています
イエローカードの普及は申合せによる自主的な取り組みであり、消防法第16条・第16条の2が定める容器・積載方法・移送基準そのものを置き換えるものではありません。
イエローカードを積んでいても、容器や積載方法が基準を満たしていなければ運搬の基準違反は別に問われます。
両方をセットで確認することが、通知が本来求めていることです

カードさえ積んでおけば安心だと思っていました。

カードは事故が起きた後の備えです。
起こさないための基準は、消防法第16条側で別に確認する必要があります。

イエローカードについて明日からなにを確認すればよいのか

チェックリストを持った担当者が駐車場のタンクローリーを点検しているイメージ
通知が示した4つの柱をもとに、自社で確認できることを整理します。
どれも今日から始められる、実務のチェックポイントです。
危険物運搬車両の事故防止等対策の実施について 4 危険物等のデータベースの構築等 現在、消防庁において、危険物運搬車両による事故が発生した場合、早期に対策を実施するために、危険物の性質、特性及び取扱い要領等について、データベース化するとともに、必要な時に現場から容易に検索できるシステムについて検討中である。
確認すべきは、カードの有無だけではありません
①運搬車両にイエローカードが積まれ、内容が最新の積荷と一致しているか、②緊急連絡先が24時間対応できる体制になっているか、③消防法第16条・第16条の2が定める容器・積載・移送の基準を満たしているか、④事故発生時に消防法第16条の3の応急措置・通報の流れを運転者が理解しているか、の4点です。
通知が出てから四半世紀以上が経ちますが、イエローカードの考え方そのものは今も業界団体を通じて受け継がれています。
自社の運搬車両が対象になっていないか、この機会に一度点検してみてください。

つまり、カードと法令基準の両方を定期的に確認すればいいんですね。

その通りです。
次に運搬車両を点検するときに、ぜひ両方をチェックリストに加えてみてください。

よくある質問

Qイエローカードは危険物取扱者免状の代わりになりますか?
Aなりません。危険物取扱者免状は消防法第16条の2に基づく法定の資格証明で、移動タンク貯蔵所に乗車する際の携帯が義務です。イエローカードは事故時の応急措置カードで、両者は別の制度です。
Qイエローカードを携行していないと罰則がありますか?
A通知が求めるイエローカードの携行そのものは法律上の義務ではなく、業界団体を通じた任意の取り組みです。ただし消防法第16条・第16条の2が定める運搬・移送の基準に違反すれば、別途責任を問われます。
Q対象になるのは危険物を運ぶ車両だけですか?
Aいいえ。通知が対象にする「危険物運搬車両」には毒物や高圧ガスを運搬する車両も含まれています。危険物以外を運ぶ車両にも関係する場面があります。
Q事故が起きたときはまず何をすればよいですか?
A通知は、事故発生現場で活動する消防職員等への周知を求めています。あわせて消防法第16条の3が定める応急の措置と通報の義務が別途かかりますので、日頃から運転者と手順を共有しておくことが大切です。

まとめ

きっかけは平成9年8月の東名高速でのタンクローリー横転事故でした
事故を機に警察庁・厚生省・通商産業省・運輸省・建設省・日本道路公団・消防庁による対策会議が設置されました
イエローカードの携行は業界団体を通じた自主的な取り組みで、法律上の義務ではありません
対象は危険物・毒物・高圧ガスを運ぶ車両及び移動タンク貯蔵所の運転者です
記載内容は緊急連絡先・危険物の性状・応急措置で、水や空気との反応性も含めて多めに書きます
イエローカードとは別に、消防法第16条・第16条の2が定める運搬・移送の基準を守る必要があります
事故が起きたときは消防法第16条の3の応急措置・通報義務が別途かかります

イエローカードと法律の基準の違いがすっきり分かりました。

カードと法令基準の両方を、ぜひ点検の機会に確認してください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

まずはWebで無料お見積りを!

お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 危険物運搬車両の事故防止等対策の実施について(平成9年12月12日 消防危第116号 消防庁危険物規制課長通知)
  • 移動タンク貯蔵所等の移送中の事故防止について(平成9年9月16日 日本化学工業協会)
  • 消防法第16条・第16条の2・第16条の3

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

BLOGカテゴリ
最新の記事
防火管理者代行サービス
無料1分概算見積
危険物運搬車両はなぜイエローカードを携帯するのか|東名高速の事故を機とした申合せの中身を解説
危険物を運ぶタンクローリーの運転席には、緊急連絡先や応急措置を記した一枚のカードが積まれています。 法律のどこにも「携行しなさい」とは書かれていないのに、なぜこの慣行が業界の標準になったのでしょうか。 きっかけは平成9年...