防火管理者は、建物の利用者や近隣住民に避難行動要支援者がいる場合、市町村が作る個別避難計画と関わることがあります。
これは、避難行動要支援者ごとに「誰が、どこへ、誰の助けで逃げるか」まで具体的に定める計画です。
きっかけは令和元年の東日本台風で、避難情報がうまく伝わらず高齢者等の被災が相次いだことでした。
実はこの計画、作成を求められる市町村だけでなく、支援を担う側にも重い責務が生じることまでは、意外と知られていません。
自治会の役員をしているので、他人事とは思えません。
支援する側の責任まで含めて、順番に見ていきましょう。
この記事の結論
- 「個別避難計画」は、令和3年5月10日 府政防第601号・消防災第60号の通知で運用が示され、市町村長に作成の努力義務が課されました。
- 対象は、避難行動要支援者名簿に掲載された人ごとに、本人の同意を前提として作成されます。
- 計画には避難支援等実施者の氏名・連絡先や避難場所・避難経路を記載します。
- 災害が発生し、又は発生するおそれがある場合は、本人の同意なしに情報を提供できます。
- 計画情報の提供を受けた人には、正当な理由なく秘密を漏らしてはならないという秘密保持義務が課されます。
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個別避難計画はなぜ法律で作るよう求められるようになったのか
名簿があっても、実際に逃げる段取りまでは決まっていませんでした。
まずは制度ができた経緯を確認します。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について 令和3年5月10日 府政防第601号・消防災第60号)甚大な災害をもたらした令和元年東日本台風(台風第19号)等においては、避難勧告、避難指示の区別等、行政による避難情報が分かりにくいという課題が顕在化したことに加え、避難しなかった又は避難が遅れたことによる被災、豪雨・浸水時の屋外移動中の被災、高齢者等の被災等も多数発生した(略)。これらの検討課題に対応するため、今般の法改正を行うに至ったものである。
令和元年の東日本台風では、高齢者等の被災が相次ぎました。
背景には、
避難勧告と避難指示の違いが伝わらないという情報面の課題がありました。
そこで
令和3年の法改正により、避難行動要支援者ごとに具体的な避難支援計画を作る仕組みが設けられました。
これが個別避難計画で、災害対策基本法第49条の14から第49条の17までに定められています。
次は、誰の計画を誰が作るのかを見ていきます。
具体的な避難の道筋までが求められるようになったんです。
次は対象を見ていきましょう。
誰の計画を誰が作ることになっているのか
計画を作るのは誰で、誰を対象にするのかを確認します。
条文の定義を見ていきます。
(災害対策基本法第49条の14)市町村長は、地域防災計画の定めるところにより、名簿情報に係る避難行動要支援者ごとに、当該避難行動要支援者について避難支援等を実施するための計画(以下「個別避難計画」という。)を作成するよう努めなければならない。ただし、個別避難計画を作成することについて当該避難行動要支援者の同意が得られない場合は、この限りでない。
個別避難計画を作る責任は、市町村長にあります。
ただし条文上は
努力義務であり、対象者全員に確実に作られるとは限りません。
作成には
避難行動要支援者本人の同意が前提で、同意が得られなければ作成されません。
名簿の作成(第49条の10)とは別に、計画づくりにはもう一段の手続きが必要になります。
次は、計画の中身と、誰が支援者になるのかを見ていきます。
名簿に載っているだけでは、計画までは作られないんですね。
本人の同意がある人から順に進められます。
次は計画の中身を見ていきましょう。
計画には何を書き誰が支援者になるのか
計画に書く内容と、支援する人の顔ぶれを確認します。
(災害対策基本法第49条の14第3項)個別避難計画には、第四十九条の十第二項第一号から第六号までに掲げる事項のほか、避難行動要支援者に関する次に掲げる事項を記載し、又は記録するものとする。一 避難支援等実施者(避難支援等関係者のうち当該個別避難計画に係る避難行動要支援者について避難支援等を実施する者をいう。)の氏名又は名称、住所又は居所及び電話番号その他の連絡先 二 避難施設その他の避難場所及び避難路その他の避難経路に関する事項 三 前二号に掲げるもののほか、避難支援等の実施に関し市町村長が必要と認める事項
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)避難支援等関係者のうち、特に、福祉専門職は、避難行動要支援者の心身の状況等を熟知していることから、個別避難計画の作成に福祉専門職の参画を得ることが極めて重要である。(略)優先度が高い者から個別避難計画の作成を進めることが適切である。
計画には、支援する人の氏名・連絡先と、避難場所・避難経路を記載します。
この支援する人を
避難支援等実施者と呼び、自治会や自主防災組織のほか、ケアマネジャーなどの
福祉専門職が想定されています。
全員を一斉には作れないため、
優先度の高い人から順番に計画作りを進めることとされています。
建物や事業所が地域の避難支援等実施者として名前を挙げられることもあり得ます。
次は、この情報がどこまで共有され、秘密がどう守られるのかを見ていきます。
うちの施設も、支援する側として頼まれるかもしれません。
頼まれたときの心構えも大事です。
次は情報の扱いを見ていきましょう。
情報はどこまで共有され秘密は守られるのか
計画に書かれた情報は、誰にどこまで渡ってよいのかを確認します。
受け取った側の責任も見ていきます。
(災害対策基本法第49条の15)市町村長は、災害の発生に備え、避難支援等の実施に必要な限度で、地域防災計画の定めるところにより、避難支援等関係者に対し、個別避難計画情報を提供するものとする。ただし、当該市町村の条例に特別の定めがある場合を除き、個別避難計画情報を提供することについて当該個別避難計画情報に係る避難行動要支援者及び避難支援等実施者の同意が得られない場合は、この限りでない。市町村長は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、避難行動要支援者の生命又は身体を災害から保護するために特に必要があると認めるときは、避難支援等の実施に必要な限度で、避難支援等関係者その他の者に対し、個別避難計画情報を提供することができる。この場合においては、個別避難計画情報を提供することについて当該個別避難計画情報に係る避難行動要支援者等の同意を得ることを要しない。
(災害対策基本法第49条の17)第四十九条の十五第二項若しくは第三項の規定により個別避難計画情報の提供を受けた者(その者が法人である場合にあつては、その役員)若しくはその職員その他の当該個別避難計画情報を利用して避難支援等の実施に携わる者又はこれらの者であつた者は、正当な理由がなく、当該個別避難計画情報に係る避難行動要支援者等に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
平常時は、本人と避難支援等実施者の双方の同意を得たうえで情報が共有されます。
一方、
災害が発生し、又は発生するおそれがある場合は、同意を得ずに提供できます。
情報の提供を受けた人には、
正当な理由なく秘密を漏らしてはならないという義務が生じます。
これは名簿情報と同じ考え方で、
職員や支援活動に携わる関係者にも義務が及びます。
なお、この義務そのものに、条文上は
罰則の定めがありません。
支援する側にも、同じくらい重い責任があるんですね。
受け取る立場にも義務が及ぶんです。
最後に確認の手順を見ていきましょう。
明日から何を確認しておけばよいのか
最後に、建物や組織の側で確認しておきたい手順を整理します。
自分たちが計画にどう関わるかを起点に考えます。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)個別避難計画の作成・活用に係る具体的な手順等については、取組指針を改定し示す予定としている。(略)避難支援等関係者のうち、特に、福祉専門職の参画を得ることが極めて重要である。
まず、自分の組織が「避難支援等実施者」として名前を挙げられる立場かどうかを市町村に確認します。
挙げられている場合は、
誰の、どんな支援を担うのかを計画の内容で確かめます。
個別避難計画情報を受け取ったときは、
保管方法や取り扱う人を限定するルールを決めておきます。
福祉専門職や自主防災組織との
日頃の連携窓口を明確にしておくと、優先度の高い人から計画作りが進みやすくなります。
制度は市町村の努力義務ですが、実効性は支援する側の備えにかかっています。
今度の会合で、うちが支援する側になっていないか確認してみます。
組織としての備えになります。
よくある質問もあわせてご確認ください。
よくある質問
Q個別避難計画は、避難行動要支援者名簿に載っている人全員に作られるのですか?
Aいいえ。作成は市町村長の努力義務であり、本人の同意も前提となるため、全員に確実に作られるとは限りません。福祉専門職の関与を得ながら、優先度の高い人から順に作成が進められます。
Q個別避難計画を作る人と、支援する人は同じですか?
Aいいえ。計画を作成する主体は市町村長で、実際に避難を支援するのは「避難支援等実施者」と呼ばれる別の人です。自治会・自主防災組織のほか、ケアマネジャーなどの福祉専門職が想定されています。
Q個別避難計画の情報は、誰にでも共有されるのですか?
Aいいえ。提供先は避難支援等関係者に限られ、平常時は本人と避難支援等実施者の双方の同意が原則必要です。ただし、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合は同意なしに提供できます。
Q個別避難計画情報の秘密保持義務に違反すると罰則はありますか?
A災害対策基本法の条文には、罰則の定めがありません。ただし、正当な理由なく秘密を漏らせば、避難行動要支援者本人やその家族の権利利益を侵害する行為として、別の法律上の責任を問われる可能性があります。
まとめ
✔「個別避難計画」は、令和3年5月10日の通知(府政防第601号・消防災第60号)で運用が示され、市町村長の努力義務とされました。
✔きっかけは令和元年東日本台風で高齢者等の被災が相次いだことでした。
✔対象は、避難行動要支援者名簿に掲載された人のうち本人の同意が得られた人です。
✔計画には避難支援等実施者の氏名・連絡先や避難場所・避難経路を記載します。
✔支援する人には福祉専門職の参画が重要とされ、優先度の高い人から作成が進められます。
✔災害が発生し、又は発生するおそれがある場合は、同意なしに情報を提供できます。
✔情報の提供を受けた人には、正当な理由なく秘密を漏らしてはならない義務が課され、これに罰則の定めはありません。
それが一番の備えになります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
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この記事を書いた人
㈱防災屋Web編集部
元消防士、行政書士、高専卒など
防火管理者には「セルフ選任」と「プロ代行」の2択があることをもっと多くの方々に知ってもらい、世の中の防火管理レベルをもっと上げていきたい。
0にはできない火災リスクとの向き合い方を伝え、救える命を増やし、悲しみの総量を減らしたい。
後悔してからでは遅すぎる火災予防に、Webの力で取り組む㈱防災屋の編集部です。
監修・編集者
青木 俊輔
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
主な活動
参考・出典
- 災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について(令和3年5月10日 府政防第601号・消防災第60号)
- 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第49条の14・第49条の15・第49条の16・第49条の17
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。