テナントが何社も入るビルや病院では、非常放送を自分の区画や病棟だけに流したいという相談があります。
国の消防法施行規則は、操作部や遠隔操作器が2つ以上あるとき、どれからも建物の全区域に放送できることを求めています。
堺市では、堺市消防局の審査基準が、全区域としなくてよい3つの場合を示しています。
この記事では、国の規則と堺市の審査基準を分けて読み、区域を分けられるまでの条件を順にたどります。
大阪市の運用基準とも比べます。
堺市の複合ビルで、各テナントの事務室に非常放送の遠隔操作器を置く計画です。
自分の区画だけに放送できるようにしてもよいのでしょうか。
国の規則では、遠隔操作器からも建物の全区域に放送できることが原則です。
ただし、堺市の審査基準には例外があります。
テナントごとに分けられるなら、計画がずいぶん楽になります。
例外を使うには、防災センター等に全区域へ放送できる操作部があることが前提です。
根拠の順番に見ていきましょう。
- 消防法施行規則第25条の2第2項第3号ヲは、操作部や遠隔操作器が2つ以上あるとき、いずれからも全区域に火災を報知できることを求めています
- 堺市の審査基準は、防災センター等に全区域へ報知できる操作部又は遠隔操作器が1つ以上ある建物に限り、3つの場合に全区域としないことを認めています
- 3つの場合は、管理区分や用途が異なる場合・避難が部分ごとに独立する場合・病室の避難誘導のように一定の場所だけを対象とする場合です
- 堺市は、常時人がいる場所が複数あるときや夜間に人のいる場所が移るときの遠隔操作器の置き場所も示しています
- 大阪市も同じ3つの場合を特例基準に置いていますが、遠隔操作器等の設置場所に放送区域の一覧図を備えることを条件にしています
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目次
非常放送はどの操作部からも建物全体に流せるのが原則なのか

非常警報設備の大もとの考え方は、消防法施行令第24条第4項第1号にあります。
ヲ 一の防火対象物に二以上の操作部又は遠隔操作器が設けられているときは、これらの操作部又は遠隔操作器のある場所相互間で同時に通話することができる設備を設けており、かつ、いずれの操作部又は遠隔操作器からも当該防火対象物の全区域に火災を報知することができるものであること。
ヲは、操作する場所が2つ以上あるときに2つのことを求めています。
1つは操作する場所どうしで同時に通話できる設備、もう1つはどの操作部や遠隔操作器からも全区域に報知できることです。
つまり規則の本文どおりなら、テナントの遠隔操作器からも建物全体に放送できなければなりません。
放送区域の数え方と国の運用通知は、放送設備の放送区域の記事で取り上げています。
条文の組み立てを順番に並べます。
- 施行令第24条第4項第1号が、非常警報設備に全区域へすみやかに報知できることを求めます
- 規則第25条の2第2項第3号ルが、操作部又は遠隔操作器のうち1つを防災センター等に置くことを求めます
- 同号ヲが、操作する場所が2つ以上あるときの同時通話の設備と、いずれからも全区域に報知できることを求めます
- 全区域としなくてよい場合は規則に書かれていないので、消防本部の基準で確かめます
規則だけを読むと、テナントの遠隔操作器から建物全体に放送できないといけないのですね。
はい、ヲの本文はいずれの操作部又は遠隔操作器からも全区域です。
例外は消防本部の基準を見ましょう。
堺市で全区域に流さなくてよいのはどんな場合か

そのうえで、次のaからcのどれかに当たれば、ほかの遠隔操作器等の報知区域を全区域にしなくてよいとしています。
b 防火対象物の構造、使用形態等から判断して、火災発生時の避難が防火対象物の部分ごとに独立して行われると考えられる場合であって、独立した部分に設けられた遠隔操作器等が当該独立した部分全体に火災を報知することができるよう措置された場合
c スタッフステーション等に遠隔操作器等を設けて病室の入院患者等の避難誘導を行うこととしている等のように防火対象物の一定の場所のみを避難誘導の対象とすることが適切と考えられる場合であって、避難誘導の対象場所全体に火災を報知することができるよう措置された場合
区域を分けてよいのは、報知できる範囲を「建物全体」から「その部分全体」にすることまでです。
印の◆は、堺市の審査基準の凡例で指導基準のうち、消防庁の通知等を参考に定めたものを表します。
①は、審査基準の通知一覧にある「放送設備の設置に係る技術上の基準の運用について」(平成6年2月1日消防予第22号)です。
3つの場合を表にします。
| 場合 | 堺市の審査基準での条件 | 遠隔操作器等が報知する範囲 |
|---|---|---|
| a 管理区分・用途が異なる | 一の防火対象物の中で管理区分又は用途が異なる | その遠隔操作器等が設けられた管理区分又は用途の部分全体 |
| b 避難が部分ごとに独立 | 構造・使用形態等から、火災時の避難が部分ごとに独立して行われると考えられる | その独立した部分全体 |
| c 一定の場所だけを避難誘導 | スタッフステーション等から病室の入院患者等の避難誘導を行うなど、一定の場所のみを対象とするのが適切 | 避難誘導の対象場所全体 |
- 建物に操作部と遠隔操作器が合わせて2つ以上あるかを確かめます(1つなら規則ヲの問題になりません)
- 防災センター等に、全区域へ報知できる操作部又は遠隔操作器が1つ以上あるかを確かめます
- 区域を分けたい理由が、aの管理区分・用途、bの避難の独立、cの一定の場所のどれに当たるかを確かめます
- 分けた遠隔操作器等から、受け持つ部分の全体に報知できるよう配線と放送階選択を組みます
- 指導基準(◆)なので、計画の段階で堺市消防局の担当に図面で相談します
テナントの遠隔操作器は、そのテナントの部分全体に流せればよいということですか。
aに当たればそうなります。
ただし防災センター等に全区域用の操作部があることが前提です。
堺市では操作部と遠隔操作器をどこに置くのか

堺市の審査基準は、増幅器等の設置場所についても書いています。
規則ルは、防災センター等に操作部又は遠隔操作器のうち1つを置くことまでしか書いていません。
堺市は、常時人がいる場所が複数あれば主たる場所に操作部、それ以外に遠隔操作器という分け方を示しています。
さらに、夜間などに人のいる場所が宿直室やスタッフステーション等に移る建物では、移った先にも遠隔操作器を置くよう求めています。
防災センターを複数置く建物の消防計画の書き方は、防災センターの複数設置の記事で取り上げています。
置き場所の考え方を表にします。
| 場面 | 堺市の審査基準での置き方 |
|---|---|
| 操作部・遠隔操作器の設置場所 | 自動火災報知設備の受信機又は副受信機と併設(★) |
| 常時人がいる場所が複数ある | 主たる場所に操作部、それ以外の場所に遠隔操作器(★) |
| 夜間などに人のいる場所が移る | 移った先の宿直室・スタッフステーション等に遠隔操作器(★) |
夜は看護師さんがスタッフステーションにいる病院なら、そこにも遠隔操作器が要るのですね。
はい、堺市の★の基準です。
受信機か副受信機と並べて置くことも忘れないようにしましょう。
操作する場所どうしの同時通話には何を置くのか

堺市の(カ)が「全区域としないことができる」としているのは、遠隔操作器等から報知できる区域です。
同時通話の設備については、(カ)には何も書かれていません。
堺市の審査基準は、この設備を「相互通話設備」として別の項で定めています。
ア 設置位置等
(ア) 遠隔操作器等の設けられている直近で、当該機器の操作に有効な位置であること。
(イ) 床面からの高さが0.8m以上1.5m以下の箇所に設けること。
(ウ) 相互通話設備として、次のいずれかの設備が設けられていること。
a インターホン
b 非常電話
c 発信機(P型1級)
d 構内電話で非常用の割り込みのできる機能を有するもの又はこれと同等のもの
大阪市の運用基準は、同じ設備を自動火災報知設備の基準の第3.7に合わせるよう定めています(◆)。
その第3.7は、機器を次のように決めています。
(1) 機器は、次のいずれかであること
ア インターホン
イ 非常電話
ウ T型発信機
エ 構内電話で非常用の割り込みができる機能を有するもの又はこれと同等のもの
2市の書き方を表にします。
| 項目 | 堺市 | 大阪市 |
|---|---|---|
| 定めている場所 | 非常警報設備の(8) 相互通話設備 | 放送設備の基準から自動火災報知設備の基準 第3.7を借りる(◆) |
| 機器 | インターホン・非常電話・発信機(P型1級)・非常用割り込みの構内電話等 | インターホン・非常電話・T型発信機・非常用割り込みの構内電話等 |
| 位置・高さ | 遠隔操作器等の直近、床から0.8m以上1.5m以下 | (第3.7には位置・高さの記載なし) |
| 停電時 | ((8)には記載なし) | 常用電源の停電時にも使用できること |
区域を分けても、操作する場所どうしで話せる設備は要るということですね。
特例が触れているのは報知できる区域だけです。
同時通話の設備は規則ヲのとおりに計画しましょう。
大阪市や東大阪市では同じ扱いなのか

大阪市は、この扱いを消防法施行令第32条を適用する特例として位置づけています。
第32条は、消防長又は消防署長が認めるときに、その節の基準を適用しない規定です。
この4には◆が付いていないので、大阪市の凡例では無印=法令基準の扱いです。
いちばん大きな違いは、大阪市のただし書が遠隔操作器等の設置場所に放送区域の一覧図を備えることを求めている点です。
堺市の(カ)には、一覧図の記載はありません。
東大阪市は、公開している6つの運用基準(自動火災報知設備・誘導灯・避難器具など)に、放送設備の基準が含まれていません。
3市の書き方を表にします。
| 項目 | 堺市 | 大阪市 | 東大阪市 |
|---|---|---|---|
| 置かれている場所 | 第16 非常警報設備 Ⅱ1(1)エ(カ)(細目の中) | 放送設備の基準 第6 特例基準 4(令第32条を適用) | 公開の運用基準に放送設備の基準なし |
| 印 | ◆①(消防庁の通知等を参考にした指導基準) | 無印(法令基準) | ― |
| 前提 | 全区域に報知できる遠隔操作器等が防災センター等に1以上 | 遠隔操作器等が2以上あり、全区域に報知できるものが防災センター等に1以上 | ― |
| 3つの場合 | 管理区分・用途/避難の独立/スタッフステーション等と入院患者等 | 管理区分・用途/避難の独立/ナースステーションと入院患者 | ― |
| 放送区域の一覧図 | (カ)には記載なし | 遠隔操作器等の設置場所に備える | ― |
| 夜間の遠隔操作器 | 宿直室・スタッフステーション等に置く(★) | 放送設備の基準に同じ記載は見当たらない | ― |
- 建物のある市の放送設備の基準(堺市は第16のⅡ1、大阪市は放送設備の基準の第6)を開きます
- 防災センター等に、全区域へ報知できる操作部又は遠隔操作器があるかを確かめます
- 区域を分けたい理由が、3つの場合のどれに当たるかを確かめます
- 大阪市では、遠隔操作器等の設置場所に放送区域の一覧図を備える計画にします
- 東大阪市は公開の運用基準に放送設備の基準がないので、東大阪市消防局に直接確かめます
同じ大阪府内でも、根拠の書き方や一覧図の条件が違うのですね。
はい、堺市は指導基準の◆、大阪市は令第32条の特例です。
建物のある市の基準で確かめましょう。
よくある質問
まとめ
まず、操作部と遠隔操作器の置き場所と、それぞれが受け持つ区域を図面に書き出します。
防災センター等の操作部から全区域に流せるかを消防署に相談します!
区域の分け方と通話設備まで決めておけば、非常放送の計画が早く固まります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 堺市消防局「堺市消防同意・消防用設備等審査基準」第3章 第1節 第16 非常警報設備 Ⅱ 細目 1 放送設備 (1)ウ(ア)(イ)・(1)エ(カ)・(8) 相互通話設備、第1章 総則 4 凡例 https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/bosai/shobo/shokai/reiki/kijyun/index.html
- 大阪市消防局「消防用設備等の設置に係る運用基準」非常警報設備(放送設備)の基準 第6 特例基準 4、自動火災報知設備の基準 第3 7 https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000350878.html
- 東大阪市消防局「消防用設備等の運用基準」(公開の6基準に放送設備の基準なし) https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000041303.html
- 消防法施行令 第24条第4項第1号、第32条
- 消防法施行規則 第25条の2第2項第3号ル・ヲ
※本記事は公表されている法令および堺市・大阪市・東大阪市の公開資料に基づく一般的な解説です。運用基準は改正されることがあるため、最新の内容は管轄の消防署・消防局で確認してください。個々の建物の扱いは、所轄の消防署にご確認ください。





