入所者が自力で避難できない施設で火災が起きたとき、被害を大きくするのは炎でしょうか、煙でしょうか。
平成20年11月13日未明、仙台市の老人福祉施設で火災が起き、33人が負傷しました。
消防庁の通知は、焼損が比較的小さい範囲にとどまったのに、避難経路への煙の流入で多数の負傷者が出たと述べています。
この記事では、緊急点検を求めた通知の中身、現行の条文との関係、施設で確かめたいことを解説します。
火災が小さかったのに、33人も負傷したのですか。
煙が原因というのは意外です。
通知は、通路や階段室に煙が流入したことを挙げています。
まず、通知の書き出しから確かめましょう。
その通知で、施設は何を確かめるよう求められたのですか。
防火区画の確認と、避難訓練の徹底です。
順に見ていきます。
- 消防庁予防課長は、平成20年11月17日の消防予第302号で、仙台市の老人福祉施設の火災を受け、類似の施設の緊急点検と防火対策の徹底を求めました。
- 対象は、主として自力で避難することが困難な者が入所し、スプリンクラー設備が設置されていない老人福祉施設です。
- 重点は二つあり、一つは扉のストッパーによる閉鎖障害と、防火戸の煙感知器との連動の確認、もう一つは避難・通報・消火訓練の徹底です。
- 現行の令第12条第1項第1号ロは、(6)項ロ(1)の施設を面積を問わずスプリンクラー設備の対象としており、通知が対象にした「設置されていない施設」の前提は狭まっています。
- 通知は消防組織法に基づく当時の助言で、当時の規則第13条の内容までは確かめられません。個別の適否は、所轄の消防署で確かめてください。
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目次
消防庁はなぜ仙台市の老人福祉施設の火災を受けて緊急点検を求めたのか

まず、本文の書き出しを引いて確かめます。
現在、この火災の原因については調査が行われているところですが、焼損は比較的小さい範囲にとどまっているものの、避難経路となる通路や階段室に煙が流入し、入所者が順次介助を受けながら避難していた際に、煙を吸う等して多数の負傷者が発生しています。
別紙の火災概要には、建物の規模や被害の数字が並んでいます。
負傷者33人のうち、重症は3人で、顔面・気道熱傷等と書かれています。
焼損床面積は24.36平方メートルで、建物の被害は部分焼にとどまりました。
出火室は1階の短期入所用居室で、火災の原因は通知の時点で調査中とされています。
| 項目 | 別紙の火災概要 |
|---|---|
| 発生 | 平成20年11月13日(覚知は1時24分、鎮火は2時23分) |
| 用途 | (6)項ロ(1階:老人短期入所施設、2階:有料老人ホーム) |
| 構造と規模 | 鉄筋コンクリート造、地上2階建て、延べ面積2,234.88平方メートル、屋内階段1、屋外階段1 |
| 収容人員 | 65人(出火当時の在館者は42人で、うち従業員は3人) |
| 人的被害 | 負傷者33人(重症3人、中等症9人、軽症21人) |
| 建物被害 | 部分焼(焼損床面積24.36平方メートル) |
| 消防用設備等 | 消火器、屋内消火栓設備、自動火災報知設備、消防機関へ通報する火災報知設備、非常警報設備、誘導灯 |
| スプリンクラー設備 | 規則第13条第1項に規定する区画がなされているため設置されていない、と別紙に記載 |
この建物には、スプリンクラー設備が付いていなかったのですね。
別紙は、規則第13条第1項の区画がなされているためと書いています。
この区画が、確認の中心になります。
通知はどの施設を、どんな確認の対象にしたのか

記の1と、本文の依頼、通知の位置づけを並べて確かめます。
貴職におかれましては、下記により類似の老人福祉施設に係る緊急点検を行い、不備が認められた場合には是正措置を講じるなど、その防火対策の徹底を早急に進めるようお願いします。(略)
1 老人福祉施設のうち、主として自力で避難することが困難な者が入所している施設で、スプリンクラー設備が設置されておらず、下記2の徹底が必要と考えられる施設を対象とすること。(略)
なお、本通知は、消防組織法(昭和22年法律第226号)第37条の規定に基づく助言として発出するものであることを申し添えます。
消防庁長官は、必要に応じ、消防に関する事項について都道府県又は市町村に対して助言を与え、勧告し、又は指導を行うことができる。
宛先は、各都道府県消防主管部長と、東京消防庁・政令指定都市消防長です。
対象は、自力で避難することが困難な者が主に入所する施設のうち、スプリンクラー設備がないものに絞られています。
緊急点検で重大な不備があった場合は、概要を消防庁へ送るよう求められ、目途は12月19日とされました。
通知は助言として出されており、新しい義務を定める形ではありません。
| 項目 | 通知の内容 |
|---|---|
| 宛先 | 各都道府県消防主管部長、東京消防庁・政令指定都市消防長 |
| 対象の施設 | 老人福祉施設のうち、主として自力で避難することが困難な者が入所し、スプリンクラー設備が設置されていない施設 |
| 求めた行動 | 緊急点検を行い、不備が認められた場合は是正措置を講じるなど、防火対策の徹底を早急に進める |
| 報告 | 重大な不備があるケースは、概要をe-mail又はFAXで消防庁へ送る(12月19日を目途) |
| 位置づけ | 消防組織法第37条の規定に基づく助言 |
この通知は、施設に直接向けた命令なのですか。
宛先は消防機関で、性格は助言です。
ただし、施設の関係者にも、点検の視点として役立ちます。
防火戸のストッパーはなぜ煙感知器と連動していなければならないのか

その一つ目が、防火区画とストッパーの確認です。
確実に区画を形成して火災を局限化するとともに、速やかに入所者の避難介助等を行うことが人命安全上不可欠であることから、次の点を重点とすること。
① 防火区画等が確実に形成されるか確認すること。この場合において、ストッパー等による扉の閉鎖障害を確認し、特に防火戸でストッパーが設けられているものにあっては、煙感知器の作動と連動して閉鎖するものであることを確認すること。
通知は、ストッパー等による扉の閉鎖障害を確認するよう書いています。
ストッパーが設けられている防火戸には、煙感知器の作動と連動して閉鎖することの確認を求めています。
現行の条文にも、区画の開口部の防火戸に、煙感知器との連動を求める書きぶりがあります。
ただし、現行の規則第13条第1項は令第12条第1項第3号(地階を除く階数が11以上)に関する部分で、通知が引いた当時の規則第13条と同じ内容かどうかは、この記事では確かめていません。
ハの開口部には、防火戸((略))で、随時開くことができる自動閉鎖装置付きのもの若しくは次に定める構造のもの(略)を設けたものであること。
(イ) 随時閉鎖することができ、かつ、煙感知器の作動と連動して閉鎖すること。
ニ 常時閉鎖又は作動をした状態にあるもの以外のものにあつては、火災により煙が発生した場合又は火災により温度が急激に上昇した場合のいずれかの場合に、自動的に閉鎖又は作動をするものであること。
| 通知の言葉 | 現行の条文 | 読み方 |
|---|---|---|
| 防火戸でストッパーが設けられているものは、煙感知器の作動と連動して閉鎖するものであることを確認する | 規則第13条第1項第1号ニ(イ):随時閉鎖することができ、かつ、煙感知器の作動と連動して閉鎖する | 同じ連動閉鎖の考え方。ただし現行の同項は11階以上の建物に関する部分 |
| 防火区画等が確実に形成されるか確認する | 建築基準法施行令第112条第19項第1号ニ:煙の発生や温度の急上昇で自動的に閉鎖する | 防火設備を自動で閉じる仕組みは、建築基準法令にも置かれている |
ストッパーで扉を開けておくのは、だめなのですか。
通知は、外せとは書いていません。
閉鎖の障害になっていないかと、連動して閉まるかを確かめるよう求めています。
避難訓練は何を重点にするよう求められたのか

避難訓練だけでなく、通報訓練と消火訓練も並べられています。
② 防火対象物の関係者に対し、避難訓練、通報訓練及び消火訓練の実施を徹底するよう指導すること。これに当たり、火災時に避難経路への煙の流入防止が特に重要となることから、扉の閉鎖確認等防火区画の形成、排煙設備がある場合にはその起動等を重点とすること。また、必要に応じ、「夜間の防火管理体制指導マニュアル」(平成元年3月31日付け消防予第36号)等により、実効性を確保すること。
訓練は三種類で、通知は避難訓練、通報訓練、消火訓練の実施の徹底を求めています。
その訓練で重点にするのは、扉の閉鎖の確認と、排煙設備がある場合の起動です。
実効性を確保するために、夜間の防火管理体制を扱うマニュアルの活用も、必要に応じて挙げられています。
仙台市の火災が未明に起きたことと、通知が夜間の体制に触れていることは、重なって読めます。
| 項目 | 通知が求めた内容 |
|---|---|
| 訓練の種類 | 避難訓練、通報訓練、消火訓練 |
| 訓練の重点 | 扉の閉鎖確認等の防火区画の形成、排煙設備がある場合はその起動 |
| 重要とされた理由 | 火災時に避難経路への煙の流入防止が特に重要となること |
| 実効性の確保 | 必要に応じ、「夜間の防火管理体制指導マニュアル」(平成元年3月31日付け消防予第36号)等による |
訓練では、排煙設備まで動かすのですか。
通知は、排煙設備がある場合にその起動を重点とするよう書いています。
設備のない施設に求める書き方ではありません。
現行の条文と照らして、自分の施設では何を確認すればよいのか

その前提が今の条文でどうなっているかを、先に確かめます。
スプリンクラー設備は、次に掲げる防火対象物又はその部分に設置するものとする。
一 次に掲げる防火対象物((略))で、火災発生時の延焼を抑制する機能を備える構造として総務省令で定める構造を有するもの以外のもの(略)
ロ 別表第一(六)項ロ(1)及び(3)に掲げる防火対象物
次に掲げる防火対象物
(1) 老人短期入所施設、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、(略)
別表第一の(6)項ロ(1)に老人短期入所施設が挙がり、令第12条第1項第1号ロがその施設を面積の条件なしで対象にしています。
ただし、延焼を抑制する機能を備える構造として総務省令で定める構造を有するものは、この号から除かれています。
通知の「スプリンクラー設備が設置されていない施設」という前提は、現行では狭まっていると読めます。
一方で、扉の閉鎖と訓練という確認事項は、設備の有無にかかわらず点検の視点として使えます。
次の五つは通知に書かれた義務ではなく、通知と条文を踏まえた実務上のおすすめです。
- ストッパーなどで開けたままになっている防火戸がないか、扉の閉鎖を妨げるものがないかを見る
- ストッパーが付いた防火戸が、煙感知器の作動と連動して閉まるか、連動の仕組みと点検の記録を確かめる
- 廊下や階段室の扉が、夜間も閉まる状態になっているかを見る
- 排煙設備がある場合は、その起動の手順を訓練で確かめているかを見る
- 避難・通報・消火訓練が、夜間を想定した内容を含み、記録が残っているかを見る
まず、うちの防火戸のストッパーを見に行きます。
それが入り口です。
煙感知器との連動を、点検の記録から確かめてください。
よくある質問
まとめ
防火戸の連動と訓練から、確かめます!
消防設備の点検は、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防予第302号「老人福祉施設における防火対策の徹底について」(平成20年11月17日 消防庁予防課長)別紙 仙台市老人福祉施設火災概要
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第12条・別表第一 e-Gov法令検索
- 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第13条 e-Gov法令検索
- 建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第112条 e-Gov法令検索
- 消防組織法(昭和22年法律第226号)第37条 e-Gov法令検索
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





