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消防と建築はなぜ別々に立入検査をしてきたのか|簡易宿泊所火災を受けた情報共有・連携ガイドラインを解説

複合ビルを見上げて点検する検査員

消防が立入検査で見つけた建物の不備を、建築部局はいつ知るのでしょうか。
実はつい最近まで、消防と建築はそれぞれ別々に立入検査を行い、情報を共有する決まった仕組みがありませんでした。
平成27年に相次いだ2つの重大な火災を受け、消防庁と国土交通省はようやく両部局の連携ルールを整理しました。
この記事では、合同立入検査から緊急点検まで、両部局が連携する仕組みを解説します。

うちのビル、去年増築したんですが、消防と建築の両方に届出が必要なんでしょうか。

増築の内容によっては、消防と建築の両方が把握して情報をやりとりする仕組みがあるんです。

消防に言えば、建築のほうにも自動的に伝わるということですか。

いいえ、自動ではありません。
ガイドラインに沿って両部局が情報を共有する必要があるんです。

この記事の結論
  • 平成27年の川崎市簡易宿泊所火災と広島市飲食店火災を受け、消防庁と国土交通省は「建築物への立入検査等に係る関係行政機関による情報共有・連携体制の構築について」を発出しました
  • ガイドラインは消防部局と建築部局が合同で立入検査を行う仕組みと、単独で検査した情報を伝え合う仕組みの両方を定めています
  • 増改築や用途変更があった建物、木造3層以上の建物などは、片方の部局が見つけたらもう一方へ情報提供することとされています
  • 大きな被害を伴う火災が起きたときは、類似の建物について両部局が緊急点検を行うことも定められています
  • 連絡会議を定期的に開くことで、立入検査の結果や違反の是正状況を継続的に共有する体制づくりが求められています

消防部局と建築部局の情報共有・連携体制を示した図解

消防と建築はなぜ別々に立入検査をしてきたのか

別々に書類を管理する消防と建築の建物を描いたイラスト
消防部局と建築部局は、もともと別々の法律に基づいて立入検査を行っています。
それぞれの現場で得た情報が、もう一方に伝わる決まりはありませんでした。
建築物への立入検査等に係る関係行政機関による情報共有・連携体制の構築について(平成27年12月24日 消防予第480号 消防庁予防課長) 神奈川県川崎市簡易宿泊所火災(平成27年5月17日)、広島県広島市飲食店火災(平成27年10月8日)など、近年重大な人的被害を発生させた火災事案を踏まえ、建築物への立入検査等について、建築部局、消防部局及び施設の営業等の許認可等を行う部局相互間の情報共有や連携のための体制を強化することが求められてきています
2つの重大な火災がきっかけで、両部局の連携ルールが整理されました。
簡易宿泊所火災では消防法令違反、飲食店火災では避難経路の不備が指摘され、いずれも建物の実態を消防と建築のどちらか一方しか把握していなかった点が課題になりました。
消防部局は消防法、建築部局は建築基準法という別々の法律に基づいて立入検査を行うため、法律上は連携の義務がありませんでした。
そこで消防庁と国土交通省が共同で検討し、消防部局・建築部局・許認可等部局(警察部局・衛生主管部局・介護保険部局)による情報共有・連携体制の構築を求めるガイドラインをまとめました。
このガイドラインは今も消防庁の立入検査標準マニュアルから参照され続けている、現役の枠組みです。

うちの近くにも似たような雑居ビルがあるんですが、消防と建築、それぞれ別に検査に来るんでしょうか。

はい、基本は別々です。
ただ、必要に応じて情報を共有し合う仕組みが今はできているんですよ。

合同立入検査の対象になるのはどんな建物か

増築部分と吹抜きに床を追加した木造建物の断面を描いたイラスト
両部局が連携する方法は1つではありません。
まず押さえたいのは、2つの部局が一緒に検査へ入る「合同立入検査」の仕組みです。
建築物への立入検査等に係る関係行政機関による情報共有・連携体制の構築に関するガイドライン (1)合同立入検査を実施する際の情報共有及び連携 ①両部局は、過去の法令違反の状況や火災危険性等を考慮して、合同で立入検査を実施することが効率的かつ効果的と認める建築物がある場合は、当該建築物について合同で立入検査を実施する時期等を調整する。②両部局は、①により調整を終了した建築物について、合同で立入検査を実施する。その際、両部局はそれぞれの所管法令に関して、法令適合状況を確認する
合同立入検査は、過去の違反歴や火災の危険性が高い建物から優先されます。
消防部局と建築部局が個別に判断するのではなく、両部局が時期を調整したうえで同じ建物へ入り、それぞれ所管する消防法令・建築基準法令への適合状況を確認します。
違反が見つかったときは、それぞれの所管法令に基づいて是正指導を行い、必要に応じて違反の内容や是正状況を両部局で共有します。
風俗営業の用途を含む場合など許認可等部局の対応が必要なケースでは、その部局へも情報提供や対応の依頼を行うこととされています。
つまり合同立入検査は、1回の訪問で両方の法令をまとめてチェックする仕組みです。

うちのビルは前に消防の指摘を受けたことがあるんですが、そういう建物が優先されるんですか。

そうですね。
過去の違反歴や火災の危険性が高い建物は、合同立入検査の対象になりやすいんです。

単独で立入検査したときはどう情報を共有するのか

消防と建築の担当者が机の上で書類をやりとりするイラスト
合同で入らない場合でも、連携はここで終わりません。
片方の部局が単独で検査したときの情報の伝え方も、ガイドラインで決められています。
建築物への立入検査等に係る関係行政機関による情報共有・連携体制の構築に関するガイドライン (2)単独で立入検査を実施する際の情報共有及び連携 ①消防部局又は建築部局は、単独で立入検査を実施した結果、以下に該当する建築物を新たに把握した場合には、もう一方の部局に情報提供する。 ア 関係法令違反が生じるおそれの大きい増改築又は用途変更が行われた建築物(例)階が増設され、又は吹抜きに床が設置された建築物/病院・有床診療所、宿泊施設(ホテル・旅館等)、社会福祉施設又は寄宿舎に用途変更されたことにより、当該用途が新たに設けられた建築物 イ 防火上の観点から著しく危険である可能性が高い建築物(例)木造3層以上の建築物
消防法第4条第1項(抜粋) 消防長又は消防署長は、火災予防のために必要があるときは、(略)当該消防職員にあらゆる仕事場、工場若しくは公衆の出入する場所その他の関係のある場所に立ち入つて、消防対象物の位置、構造、設備及び管理の状況を検査させ、若しくは関係のある者に質問させることができる。
増改築や用途変更があった建物は、どちらかが見つけたらもう一方へ伝える対象です。
階を増設したり吹抜きに床を設置したりした建物、病院や宿泊施設、社会福祉施設、寄宿舎へ用途変更した建物は、法令違反が生じやすいため情報提供の対象になります。
木造3層以上の建物のように、防火上の観点から著しく危険である可能性が高い建物も同じ扱いです。
情報を受け取った部局は、必要があれば単独で、あるいは合同で立入検査を実施し、法令に適合していなければそれぞれの所管法令に基づいて是正指導を行います。
消防部局の立入検査そのものの根拠は消防法第4条にありますが、その先の情報の行き先を定めたのが今回のガイドラインです。

うちは去年、事務所を寄宿舎に用途変更したんですが、これも対象になるんですか。

はい、対象になる可能性が高いです。
用途変更は建築部局から消防部局へ伝わることがあるので、事前の届出を忘れずに。

大きな被害が出た火災のあと緊急点検はどう連携するのか

焼損した建物の隣で類似の建物を点検する担当者のイラスト
日頃の連携だけでは終わりません。
大きな被害を伴う火災が起きたときのための、もう1つの仕組みがあります。
建築物への立入検査等に係る関係行政機関による情報共有・連携体制の構築に関するガイドライン (3)緊急点検実施時の連携 両部局は、関係法令に適合していない等により大きな被害を伴う火災が発生し、他の建築物においても火災による同様の被害が生じるおそれが高いと認める場合は、必要に応じて、関係行政機関で協議の上、火災等が発生した建築物と類似のものについて緊急点検を実施する。その際、必要に応じて、(1)に準じて合同で立入検査を実施するなど、適切な情報共有及び連携に努める。
大きな火災が起きたときは、似た建物をまとめて緊急点検します。
実際に川崎市の簡易宿泊所火災や広島市の飲食店火災のあとも、消防庁は類似の用途・構造の建物を対象にした緊急点検の通知を重ねて出しています。
このときも両部局は必要に応じて協議を行い、日頃の合同立入検査の枠組みに準じて連携することとされています。
つまり緊急点検は特別な手続きではなく、日頃の合同立入検査の延長線上で運用される仕組みです。
自分の建物が対象になるかどうかは、用途や構造が似た建物で火災が報じられたときに、所轄消防署へ確認しておくと安心です。

近くのビルで火災があったニュースを見たんですが、うちも急に点検が来ることがあるんですか。

用途や構造が似ていると判断されれば、緊急点検の対象になることがあります。
慌てず対応しましょう。

連絡会議の設置に向けてなにを確認すればよいか

円卓を囲む複数の部局を示すイラスト
ここまでの仕組みを、実際に機能させるための土台があります。
それが両部局による「連絡会議」の設置です。
建築物への立入検査等に係る関係行政機関による情報共有・連携体制の構築に関するガイドライン 3留意事項 両部局においては、情報共有・連携体制をより効果的なものとするため、事務処理要領の策定や連絡会議の設置等の枠組みの構築に努めること。(略)(1)両部局が同一の自治体に属さないケース(例:建築部局は「県」、消防部局は「一部事務組合」)では、自治体の枠を超えた連携が必要となること。(略)(2)構築した情報共有・連携体制が効率的かつ継続的な枠組みとなるよう、連絡会議を定期的に開催するとともに、一定期間ごとに立入検査の実施結果や法令違反の是正指導状況等の情報共有を図ること。
建築基準法第9条第1項(抜粋) 特定行政庁は、建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地については、(略)相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる
連絡会議は、立入検査の結果を定期的に共有するための場です。
建築部局が「県」、消防部局が「一部事務組合」のように、両部局が同じ自治体に属さない地域もあり、その場合は自治体の枠を超えた連絡会議の枠組みづくりが必要になります。
ガイドラインには、風俗営業の用途を含む建物、旅館・ホテル、認知症高齢者グループホームなど、許認可等部局を交えた連携の関係通知も参考として示されています。
建築部局が是正命令を出すときの根拠となる建築基準法第9条も、この情報共有の枠組みがあってはじめて実効性を持ちます。
自分の建物が関わる自治体で、こうした連絡会議や事務処理要領が整備されているかどうかは、所轄消防署や建築部局の窓口で確認できます。

うちの自治体で、そういう会議が実際に開かれているかは、どこに聞けばいいんでしょうか。

所轄の消防署や建築部局の窓口に聞いてみるのが一番早いですよ。

よくある質問

Qこのガイドラインはいつ、どんな理由で出されたのですか?
A平成27年12月24日付けの消防予第480号により発出されました。神奈川県川崎市の簡易宿泊所火災(平成27年5月17日)と広島県広島市の飲食店火災(平成27年10月8日)という、重大な人的被害を伴う火災が相次いだことがきっかけです。
Q合同立入検査はすべての建物で行われるのですか?
Aいいえ。両部局が過去の法令違反の状況や火災危険性等を考慮して、合同で実施することが効率的かつ効果的と認めた建物に限られます。
Q建築部局が把握した情報は自動的に消防に伝わるのですか?
A自動的にではありません。増改築・用途変更があった建物や木造3層以上の建物など、ガイドラインが定める類型に該当する場合に、部局間で情報提供することとされています。
Qこのガイドラインは今も使われているのですか?
Aはい。令和4年に改正された消防庁の「立入検査標準マニュアル」でも参照されており、現役の枠組みとして運用されています。

まとめ

平成27年の川崎市簡易宿泊所火災と広島市飲食店火災を受け、消防庁と国土交通省がガイドラインを策定しました
消防部局と建築部局は、もともと別々の法律に基づいて立入検査を行い、連携の義務はありませんでした
合同立入検査は、過去の違反歴や火災危険性の高い建物から時期を調整して実施されます
増改築・用途変更があった建物や木造3層以上の建物は、単独検査でももう一方の部局へ情報提供されます
大きな被害を伴う火災のあとは、類似の建物について両部局が緊急点検を実施することも定められています
連絡会議を定期的に開き、立入検査の結果や是正指導の状況を継続的に共有する枠組みづくりが求められています
このガイドラインは令和4年の立入検査標準マニュアルでも参照され続けている現役の仕組みです

消防と建築がこんなふうに情報をやりとりしているとは知りませんでした。
これからは増改築のときにちゃんと届け出るようにします!

増改築や用途変更のご相談もお気軽にどうぞ。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

まずはWebで無料お見積りを!

お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 建築物への立入検査等に係る関係行政機関による情報共有・連携体制の構築について(平成27年12月24日 消防予第480号 消防庁予防課長通知)
  • 建築物への立入検査等に係る関係行政機関による情報共有・連携体制の構築に関するガイドライン(総務省消防庁・国土交通省)
  • 消防法第4条第1項(立入検査等)
  • 建築基準法第9条第1項(違反是正命令)

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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