旅館やホテルの入口に掲げられた表示マークを見て、安心して予約したことがある方は多いと思います。
あのマークは消防庁の「防火基準適合表示制度」に基づくもので、基準を満たした施設だけに交付される合格証のような存在です。
ところが平成6年、そのマークが交付されていた旅館で死者5名を出す火災が起きました。
適マークは交付された時点の証明にすぎず、その後も確認を続けなければ意味がないことを、この火災は教えています。
施設に適マークを出してもらっているのに、火災でこんなに死者が出ることってあるんですね。
はい、実際に平成6年に福島県の旅館で死者5名の火災が起きた例があります。
うちも古くからの旅館なんですが、その話はうちにも関係があるんでしょうか。
はい、今回の通知は旅館・ホテル・宿泊所と、これらを含む複合用途の建物が対象なので、順番に見ていきましょう。
- 平成6年12月、福島県の旅館で死者5名を出す火災が起き、その建物には適マークが交付されていた
- 対象は消防法施行令別表第一(5)項イの旅館・ホテル・宿泊所と、これらを含む複合用途防火対象物
- 消防庁は検討委員会を設置し、防火管理マニュアルの客観的な検証と適マーク制度の運用強化を求めた
- 地区音響装置の区分鳴動方式は、自動的に全館鳴動へ切り替わる措置が現在の規則で必要とされている
- 適マークの交付はゴールではなく、日常点検と夜間体制の確認を続けることが防火管理者の役割になる
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目次
適マークのある旅館でなぜ死者が出る火災が起きたのか

平成6年12月、福島県の温泉旅館で起きた火災は、防火安全対策の見直しを迫る大きなきっかけになりました。
まずは通知に書かれた火災の概要から見ていきます。
適マークがあっても、多数の死者を出す火災は起きました。
この火災を受けて消防庁は「旅館・ホテル等防火安全対策検討委員会」を設置し、対応策の検討を始めています。
マークの交付は、その時点で基準を満たしていたことを示すにすぎず、その後の維持管理や夜間の体制まで保証するものではありません。
次の見出しから、この通知がどの建物を対象にどんな対策を求めたのかを具体的に見ていきます。
表示マークをもらった後も、消防の見回りって必要なんでしょうか。
マークは交付された時点の基準適合を示すだけなので、その後の日常点検と夜間の体制確認が欠かせません。
どの旅館やホテルが対象になるのか

事故の直後に消防庁が定めた防火安全対策には、対象となる建物の範囲がはっきり書かれています。
宿泊部分だけの建物とは限らない点に注意が必要です。
宿泊専用の建物でなくても、対象から外れるとは限りません。
下の階に飲食店や物販店が入り、上の階に客室がある複合用途の建物も、旅館・ホテル等を含んでいれば対策の対象になります。
さらに地階を除く階数が11以上、地階の階数が3以上、収容人員が300人以上のいずれかに当てはまる旅館・ホテル等は、非常ベルや自動式サイレンに放送設備を組み合わせて設置する規模とされています。
自分の施設がどの区分に当たるかは、規模だけでなく用途の組み合わせも合わせて確認しておく必要があります。
うちの建物は宿泊のフロアと飲食店のフロアが分かれているんですが、それでも対象になりますか。
はい、宿泊部分を含む複合用途の建物も対象に含まれますので、規模の基準もあわせて確認しましょう。
通知はなにを求めているのか

通知が求めたのは、設備を増やすことだけではありません。
体制そのものを客観的に確かめる仕組みが必要とされました。
検証は施設の関係者だけで完結させないことが求められています。
従来は旅館・ホテル等の関係者が自ら検証する方法が中心でしたが、通知はこれに加えて客観的な視点での検証体制を確立する必要があるとしました。
あわせて、建築基準法違反や不適格建築物として改善指導を受けている建物に適マークが交付されている事例も見られたことから、特定行政庁との連携を密にすることも求めています。
マークの交付基準そのものを見直す検討も、この通知の中で予告されています。
マニュアルの検証って、うちの従業員だけでやっていて大丈夫なんでしょうか。
関係者自身の検証に加えて客観的な視点の確認が求められていますので、外部の目も取り入れてみてください。
実務で見落としやすいのはどこか

火災を出火階と直上階だけに知らせる区分鳴動方式は、パニックを防ぐための仕組みです。
ただしこの方式には、当時から指摘されていた見落としがあります。
区分鳴動は、操作する人がいて初めて機能する仕組みでした。
夜間で人員が手薄なとき、誰も操作しなければ出火階と直上階の外には警報が届きません。
この見落としが指摘された結果、一定時間の経過か新たな火災信号の受信で自動的に全館鳴動へ切り替わる機能が、現在の規則では必要とされています。
導入時の設定のままになっていないか、点検の際にあわせて確かめておきたいところです。
一部の階だけ警報が鳴る仕組みを入れているんですが、それだけで十分でしょうか。
自動で全館鳴動に切り替わる機能まで備わっているか、この機会に確認しておきましょう。
明日からなにを確認すればよいのか

通知は防火管理体制そのものの維持についても、具体的な項目を挙げています。
読者の施設ですぐに当てはめられる内容です。
体制の見直しは、人が入れ替わるたびに必要になります。
従業員の勤務形態が変わったときは、消防計画どおりの配置が保たれているかをそのつど再確認します。
新しく採用した従業員や配置替えをした従業員には、防火管理に関する教育を実施のたびに行います。
そして消防計画には、日中だけでなく夜間の実際の配置を前提にした体制まで明確に書き込んでおくことが欠かせません。
夜間の人員が代わるたびに、体制を見直したほうがよさそうですね。
そのとおりです、配置が変わるたびに消防計画どおりの体制になっているか確かめる習慣をつけましょう。
よくある質問
まとめ
適マークをもらって終わりじゃなくて、日々の確認が大事だということがよく分かりました。
はい、その積み重ねが宿泊客の命を守ります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 「旅館・ホテル等に対する防火安全対策の徹底について」(平成6年12月22日付け消防予第322号消防庁予防課長通知)
- 「旅館・ホテル等における防火安全対策について」(平成7年3月31日付け消防予第46号消防庁予防課長通知)
- 消防法施行令第24条第3項(非常警報設備の設置基準)
- 消防法施行規則第25条の2(地区音響装置の区分鳴動方式)
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





