店舗や事務所に置く消火器を選ぶとき、業者から「10型にしておきましょう」と言われることがあります。
国の消防法施行規則は消火器の数を能力単位と歩行距離で決めていて、「10型」という言葉は条文に出てきません。
ところが四日市市消防本部の審査基準は、ABC粉末の消火器を10型以上とするよう書いています。
国の規則から四日市市の指導までたどり、津市・鈴鹿市・埼玉県央広域と大阪府内の3市の書き方を比べます。
四日市市で新しく借りた店舗に、小さめの消火器を置こうとしています。
業者さんに10型以上でないと困ると言われて迷っています。
四日市市の審査基準には、ABC粉末は10型以上とする行政指導が書かれています。
まず国の法令が何を決めているかから確かめましょう。
鈴鹿市にも支店があるのですが、そちらも同じ決まりなのでしょうか。
鈴鹿市も10型以上が原則ですが、粉末が向かない場合のただし書が付いています。
消防本部ごとの違いを順に見ていきます。
- 国の消防法施行令第10条と施行規則第6条は、消火器を能力単位の合計と歩行距離20mで決めていて、「10型」のような大きさの指定はない
- 四日市市と津市は、効果的な消火を勘案してABC粉末系は10型以上とするよう同じ文で定め、四日市市は下線で行政指導と示している
- 鈴鹿市は「原則として」10型以上、埼玉県央広域は10型を設置指導し、粉末で消しにくい場所は強化液や水系の消火器にできる
- 鈴鹿市と県央広域は、少量危険物や指定可燃物を扱う部分の消火器もABC粉末10型とし、金属粉や禁水性物質などは除いている
- 大阪市・東大阪市・堺市の消火器具の基準には型の指定が見当たらず、大阪市は兼用の図で粉末10型を例に使うだけである
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目次
消火器の大きさは国の法令でどう決まっているのか

何本・どんな消火器を置くかは、同条第2項と消防法施行規則第6条に書かれています。
前項各号に掲げる防火対象物又はその部分には、防火対象物の用途、構造若しくは規模又は消火器具の種類若しくは性能に応じ、総務省令で定めるところにより、別表第二においてその消火に適応するものとされる消火器具を設置すること。(略)
消防法施行規則 第6条第1項(要旨)
令別表第二で建築物その他の工作物の消火に適応するとされる消火器具を、その能力単位の数値(消火器にあっては消火器の技術上の規格を定める省令第3条又は第4条に定める方法により測定した数値)の合計数が、延べ面積又は床面積を表の面積で除して得た数以上となるように設けなければならない。
能力単位は消火器の消火能力を表す数値で、規則第6条第1項の表では、例えば(4)項の店舗は延べ面積100㎡ごとに1単位が必要です。
特定主要構造部を耐火構造とし、壁と天井の室内側を難燃材料で仕上げた建物は、同条第2項でこの面積が2倍になります。
さらに同条第6項で、階ごとに建物の各部分から歩行距離20m以下に1本が届くように置きます。
施行令と施行規則の本文を検索しても「十型」という言葉は1件も出てこず、型の大きさは法令ではなく、各消防本部の基準と製品の表示の世界の話です。
明日やることは、建物の延べ面積と用途から必要な能力単位を計算し、今ある消火器の本体に表示された能力単位と見比べることです。
| 計算の例(説明のための仮の数字) | 必要な能力単位 |
|---|---|
| (4)項の店舗・延べ600㎡・一般の構造 | 600÷100=6単位以上 |
| (4)項の店舗・延べ600㎡・耐火構造+難燃材料仕上げ | 600÷200=3単位以上 |
| 上の2つに共通すること | 単位が足りても、階ごとに歩行距離20m以下で届く本数が必要 |
法令だけなら、小さい消火器を何本も置いて合計を満たしてもよいのですね。
国の条文の上ではそう読めます。
そこに1本ごとの大きさを足しているのが市の基準です。
四日市市と津市はなぜABC粉末を10型以上としているのか

津市の予防事務審査検査基準の5-1「消火器具」にも、一字一句同じ文が載っています。
消火器の設置にあたっては、効果的な消火を勘案してABC粉末系については、10型以上のものとすること。(本文に下線あり)
津市予防事務審査検査基準 5-1 消火器具 1 消火器具の種類
(四日市市と同文)
四日市市の基準は総則で「本市の行政指導であることが明白な部分」にアンダーラインを引くと決めていて、この1の文には全体に下線が引かれています。
総則は、行政指導は関係者に義務を課すものではないとも書いているので、10型以上は法令の義務ではなく、協力を求める指導と読むのが正確です。
津市の基準には凡例の記号がなく、同じ文が下線なしで載っています。
どちらも対象はABC粉末系に限っていて、強化液や二酸化炭素の消火器の大きさまでは決めていません。
明日やることは、置こうとしている消火器がABC粉末かどうかを確かめ、粉末なら本体の型と能力単位を見て、10型以上かを業者に聞くことです。
下線があるかどうかで、義務か指導かが分かるのですね。
はい、ただし審査では指導どおりの計画が求められるのが普通です。
新しく置くなら10型以上で考えておくと話が早く進みます。
鈴鹿市と埼玉県央広域は粉末が向かない場所をどう扱うのか

四日市市・津市と違うのは、粉末が向かない場面の逃げ道を書いていることです。
原則として、粉末(ABC)消火器10型以上とする。
ただし、粉末消火器では消火困難と認める燃焼物がある場合は、浸透性のある強化液消火器等とする。
埼玉県央広域消防本部消防用設備等に関する審査基準 第3章 第1 消火器具 2 消火器具の種類等
⑴ 設置する消火器具の種類は、粉末(ABC)消火器10型を設置指導すること。●
ただし、粉末では、消火困難な燃焼物がある場合、可燃物が大量に保管されている場所又は汚損若しくは故障等の二次災害のおそれのある場所については、強化液、水(潤滑剤等入りを含む。)その他の水系消火薬剤を用いた消火器とすることができる。
⑵ 設置する消火器の構造は、努めて蓄圧式の消火器とすること。▲
両本部の凡例では、無印が法令基準、▲が行政指導、●が法令基準に行政指導を加えた基準を表し、鈴鹿市の1は無印、県央広域の⑴は●です。
鈴鹿市の例外は「粉末消火器では消火困難と認める燃焼物がある場合」だけで、その場合は浸透性のある強化液消火器等にします。
県央広域はこれに加えて、可燃物を大量に保管する場所や、粉末が飛び散ると汚損や故障の二次災害が起きるおそれのある場所も、水系の消火器にできると書いています。
県央広域は⑵で、消火器の構造を努めて蓄圧式にするよう▲で指導している点も、ほかの本部の消火器具の基準にはない記述です。
明日やることは、電算機室や精密機器の部屋、紙や段ボールを大量に置く倉庫がないかを洗い出し、あれば粉末以外にするかを所轄に相談することです。
サーバー室に粉末を撒かれると、火が消えても機械が使えなくなりそうです。
県央広域が書いている二次災害はまさにその心配です。
ただし水系の消火器も、その部屋の電気設備に適応するものを選ぶ必要があります。
少量危険物や指定可燃物を置く部分には何型を置くのか

国の規則が決めているのは、ここでも数え方だけです。
少量危険物(指定数量の5分の1以上で指定数量未満のもの)又は指定可燃物を貯蔵し、又は取り扱うものにあっては、前2項の規定によるほか、令別表第二において危険物又は指定可燃物の種類ごとにその消火に適応するものとされる消火器具を、その能力単位の数値の合計数が、貯蔵し、又は取り扱う少量危険物又は指定可燃物の数量を表の数量(少量危険物は指定数量、指定可燃物は危険物の規制に関する政令第1条の12に規定する数量の50倍)で除して得た数以上となるように設けなければならない。
鈴鹿市消防用設備等に関する審査基準 第4章 第1 4⑴イ
省令第6条第3項の規定により、少量危険物貯蔵取扱所及び指定可燃物を貯蔵取扱所に設ける消火器の種類は、粉末消火器(ABC)10型とする。ただし、少量危険物のうち、第1類のアルカリ金属の過酸化物若しくはこれを含有するもの、第2類の鉄粉、金属粉若しくはマグネシウム若しくはこれらのいずれかを含有するもの、第3類の自然発火性物質及び禁水性物質又は第5類の自己反応性物質は、この限りでない。
鈴鹿市の4⑴イは無印、県央広域の5⑴は同じ中身に●が付いていて、どちらも粉末(ABC)10型とし、粉末や水が向かない金属粉や禁水性物質などを除いています。
両本部とも、能力単位は第1-1表で数え、第4類の危険物と可燃性固体類・可燃性液体類はB火災の能力単位、それ以外はA火災の能力単位を使います。
1未満の端数は切り上げるとしていて、鈴鹿市は無印、県央広域は▲です。
例えば、灯油・軽油と同じ第二石油類のうち指定数量1,000Lの非水溶性液体を400L扱う場合、400÷1,000=0.4を切り上げて、B火災の能力単位で1以上が必要になります(説明のための仮の数字です)。
明日やることは、少量危険物の届出書に書いた品名と数量を見て、置き場の消火器がその類に適応し、B火災の能力単位を満たすかを確かめることです。 鈴鹿市の扱いを、国の規則から順にたどると次のようになります。
- 消防法施行令第10条第2項第1号:別表第二で消火に適応するとされる消火器具を、総務省令で定めるところにより置く
- 消防法施行規則第6条第3項:少量危険物は数量÷指定数量、指定可燃物は数量÷(危険物の規制に関する政令第1条の12の数量×50)以上の能力単位
- 鈴鹿市 第4章 第1 3⑴(無印):1未満の端数は切り上げる
- 同 3⑵・第1-1表(無印):第4類・可燃性固体類・可燃性液体類はB火災、それ以外はA火災の能力単位で数える
- 同 4⑴イ(無印):消火器の種類は粉末(ABC)10型 → 第1類のアルカリ金属の過酸化物・第2類の鉄粉や金属粉・第3類・第5類の自己反応性物質は除く
灯油を置く部分は、A火災ではなくB火災の数字で見るのですね。
そうです。
四日市市と津市の基準には少量危険物の型の指定がないので、そちらは国の数え方で確かめます。
大阪府内の3市と比べると何が違うのか

こちらは型を決めるのではなく、能力単位の数え方を図で示す書き方です。
防火対象物(スーパーマーケット) 用途:(4)項 延べ面積:150㎡ 防火対象物の必要能力単位:1.5単位 付加設置部分必要能力単位:1単位 必要単位合計:2.5単位
凡例 粉末10型消火器(A:3・B:7・C)
大阪市の運用基準は、建物の分と厨房などの付加設置の分を1本で兼ねる例として、粉末10型をA3・B7・Cの消火器として描いていますが、本文で10型を求めてはいません。
東大阪市と堺市の消火器具の基準にも、大型消火器の定義はあっても、普通の消火器の型の指定は見当たりませんでした。
一方、三重県の3市と埼玉県央広域は、いずれも消火器具の章の最初に10型を書いていて、地域によって書き方がはっきり分かれます。
能力単位の数値は製品ごとに違うので、10型だからA3と決めつけず、本体の表示で確かめるのが確実です。
明日やることは、建物の所在地の消防本部の基準で消火器具の章の最初の項目を開き、型の指定があるかを確かめてから発注することです。
| 消防本部 | 普通の消火器の型 | 粉末が向かない場合 | 少量危険物・指定可燃物の部分 |
|---|---|---|---|
| 四日市市 | ABC粉末系は10型以上(下線=行政指導) | 記載なし | 型の記載なし |
| 津市 | ABC粉末系は10型以上(四日市市と同文・記号なし) | 記載なし | 型の記載なし |
| 鈴鹿市 | 原則として粉末(ABC)10型以上(無印) | 消火困難な燃焼物は浸透性のある強化液消火器等 | 粉末(ABC)10型(無印・一部の類を除く) |
| 埼玉県央広域(鴻巣市・桶川市・北本市) | 粉末(ABC)10型を設置指導(●)・努めて蓄圧式(▲) | 消火困難・可燃物の大量保管・汚損故障のおそれは水系も可 | 粉末(ABC)10型(●・一部の類を除く) |
| 大阪市・東大阪市・堺市 | 型の指定は見当たらない(大阪市は図の例に粉末10型) | 記載なし | 型の記載なし |
つまり、同じ消火器でも置く市によって指導のされ方が変わるのですね。
そのとおりです。
複数の市に拠点があるなら、拠点ごとに消火器具の章を開いて確かめてください。
よくある質問
まとめ
まずは今ある消火器の本体を見て、型と能力単位を一覧にしてみます!
一覧に置き場所と歩行距離も添えると、入れ替えの本数がすぐ分かります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法施行令 第10条(e-Gov法令検索)
- 消防法施行規則 第6条・第7条(e-Gov法令検索)
- 消防法 別表第一 備考・危険物の規制に関する政令 別表第三(e-Gov法令検索)
- 四日市市消防同意事務審査基準 第2章 第1 消火器具 1・総則(四日市市消防本部)
- 津市予防事務審査検査基準 5-1 消火器具 1(津市消防本部)
- 鈴鹿市消防用設備等に関する審査基準 第4章 第1 消火器具 1・3・4⑴・第1-7図(鈴鹿市消防本部)
- 埼玉県央広域消防本部消防用設備等に関する審査基準 第3章 第1 消火器具 2・4・5⑴(埼玉県央広域消防本部)
- 消防用設備等の設置に係る運用基準 第1章 第1節 消火器具 図1-1-1(大阪市消防局)
- 消火器具の設置に係る運用基準(東大阪市消防局)・消防用設備等の審査基準 第1 消火器具(堺市消防局)
※本記事は四日市市消防本部などが公表している審査基準・運用基準と、消防法施行令・消防法施行規則に基づく一般的な解説です。四日市市の下線、鈴鹿市・県央広域の▲は行政指導の基準、●は法令基準に行政指導を加えた基準を表します。面積や数量の例は説明のための仮の数字です。「記載なし」「見当たらない」としたものは、各本部の消火器具の基準を確認した範囲の結果です。運用基準・条例は改正されることがあるため、最新は管轄の消防署・消防本部で確認してください。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





