建物を増築したり、テナントの用途を変えたりすると、遡及適用という言葉が出てきます。
これは、もともと設置義務が無かった建物にも、あとから消防用設備等の基準がかかる仕組みです。
ただし遡及適用が及ぶ範囲は、増築の規模や用途変更の部分ごとに細かく線引きされています。
質疑応答が示したのは建物全体ではなく増築や変更の中身で判断されるという線引きです。
増築の相談をしたら、遡及適用で今の基準に合わせる工事が必要かもしれないと言われました。
建物全体をやり直すことになるんでしょうか。
建物全体とは限りません。
増築の規模や用途変更の中身によって、かかる範囲が変わります。
うちのケースがどこに当てはまるのか、正直よく分かっていません。
そこから確かめましょう。
設備の分担、施行日の考え方、用途変更の範囲、増築の規模、駐車設備の扱いの5つを、5つの回答で順に見ていきます。
- 令第9条により別の防火対象物として設置する消防用設備等は、特定防火対象物以外の部分にのみ設置すれば遡及の対象になります
- 新しい基準が既存の建物にかかるのは、消防用設備等の技術上の基準そのものが改正されたときです
- 建物の一部だけの用途変更でも、従属的な部分と認められない限り建物全体に基準が及びます
- 増築で延べ面積が基準を超えても、増築部分自体が1,000平方メートル以上または延べ面積の2分の1以上でなければ設置義務は生じません
- 屋根が可動する機械式の立体駐車設備も建築物として取り扱われ、駐車用の消火設備が必要です
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目次
令第9条で別々に設置義務がある設備にも遡及適用は及ぶか

ただし建物の中には、令第9条によって部分ごとに別の設備を求められる場所もあります。
遡及適用というと、建物全体に新しい基準がかかるようなイメージを持ちがちです。
しかし令第9条は、用途が異なる部分ごとに設置義務を分けて考える規定です。
今回のケースでいえば、屋内消火栓設備が必要なのは事務所部分だけで、特定防火対象物の部分にまで広げる必要はありません。
自分の建物がいくつかの用途に分かれているなら、どの設備がどの部分の義務なのかを消防計画や点検報告書で切り分けて確認しておくと、追加工事の要否をすぐに判断できます。
うちは1階が店舗で2階が事務所です。
屋内消火栓を店舗側にも増設しないといけませんか。
その建物なら、事務所側だけの設置で足ります。
ただし点検報告書に事務所部分の消火栓が記載されているかを確認してください。
新しい基準はいつから既存の建物に適用されるのか

どの時点から新しい基準がかかるのかは、施行日という区切りで決まります。
遡及適用という言葉から、法律が変わった瞬間に工事が必要になると思われがちです。
しかし実際に動くのは、消防用設備等の技術上の基準が改正されたときです。
条文の規定が施行されても、その設備の基準自体が変わっていなければ、既存の建物に新しい義務は生まれません。
自分の建物に関係する改修の話が出たら、いつ何の基準が変わったのかを消防署や点検業者に確認すると、必要な工事かどうかがはっきりします。
法律が改正されたと聞くたびに、うちも工事が必要なのか心配になります。
動くのは設備の技術上の基準が変わったときです。
気になる改正があれば、対象になる設備を一緒に確認しましょう。
建物の一部だけ用途変更した場合も全体に基準は及ぶか

しかし特定防火対象物になるかどうかは、建物全体で判定されます。
5階建てのうち1階だけ飲食店にした、というような場合を考えます。
その1階部分が特定用途にあたれば建物全体が特定防火対象物として扱われ、消防用設備等の基準は建物全体に遡って適用されます。
ただし例外があります。変更した部分が主たる用途に従属的な部分と認められるなら、そもそも用途変更が無かったものとして扱われます。
テナントの一部だけ業種を変えるときは、その部分が独立した営業なのか、他の階に従属する付随的なものなのかを先に整理しておくことが判断の分かれ目になります。
うちは1階だけテナントを飲食店に貸すことになりました。
それだけで建物全体が変わってしまうんですか。
その飲食店が主たる用途に従属していないなら、建物全体が対象になり得ます。
契約前に用途の位置づけを一緒に確認しましょう。
増築で設置基準の規模に達した建物はどう扱われるか

ここでの分かれ目は、増築そのものの規模です。
延べ面積が小さくてもともと設置義務が無かった建物でも、増築して結果的に基準面積を超えることがあります。
このとき問われたのは、増築後の延べ面積ではなく、増築部分そのものの規模でした。
答えは、その増築が1,000平方メートル以上または延べ面積の2分の1以上という増築の規定に該当しない限り、設置義務は生じないというものです。
小さな増築を重ねる予定があるなら、1回ごとの増築面積がこの基準に届くかどうかを、着工前に図面で計算しておくと安全です。
少しずつ増築を重ねてきたので、延べ面積はもう基準を超えています。
今すぐ消防用設備を増やさないといけませんか。
見るのは延べ面積の合計ではなく、直近の増築そのものの規模です。
過去の増築面積を一緒に洗い出しましょう。
屋根が動く機械式の駐車設備は建築物として扱われるのか

屋根が動く方式だと、建築物か工作物かという入口の判定から必要になります。
パズル式の立体駐車設備は、屋根が雨や雪のときだけ動く可動式でした。
動く部分があるから工作物ではないかという疑問はもっともですが、回答は建築物として取り扱うという単純な結論でした。
そのうえで消火設備も、駐車場一般に使う消火器具に加え、令第13条第1項の駐車の用に供する部分に適応する設備を求めています。
機械式駐車場を新設・更新するときは、屋根や壁の可動部分がどんな構造でも建築物としての届出と、駐車用の消火設備の両方が要ることを前提に計画してください。
立体駐車場の屋根が雨のときだけ動く方式だと聞きました。
これも普通の建築物と同じ扱いになるんですか。
はい、屋根が動いても建築物として扱われます。
駐車場用の消火設備も一緒に確認しておきましょう。
よくある質問
まとめ
増築や用途変更のたびに、何を確認すればいいかが分かりました。
肩の荷が下りました。
設備の分担、基準が変わるタイミング、用途変更の範囲、増築の規模、駐車設備の扱い。
この5つを図面と一緒に確認すれば大きく外しません。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
参考・出典
- 特定防火対象物における消防用設備等の遡及適用について(昭和50年6月16日 消防安第65号 安全救急課長から各都道府県消防主管部長あて回答)
- 機械駐車設備の取扱いについて(昭和50年12月19日 消防安第194号 消防庁安全救急課長から岐阜県総務部長あて回答)
- 消防法第17条の2・第17条の3
- 消防法施行令第1条・第9条・第10条・第13条
- 消防実務六法 質疑応答編
※本記事は公表されている法令および通達に基づく一般的な解説です。掲載した回答は昭和50年当時のもので、告示番号や機関の名称等は当時のものです。その後の改正により運用が変わっている場合があります。個別の事案についての適用は、所轄消防署にご確認ください。





