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危険物取扱主任者の立会いなしにタンクローリーで給油した運転手はどう裁かれたか|認められた過失と退けられた抗弁

タンクローリーから住宅の外壁の給油口へホースをつなぎ重油を給油している様子を示すアイキャッチ画像

危険物取扱主任者の資格がない運転手が、タンクローリーで重油を給油しただけで消防法違反に問われることがあります。
昭和44年に関東地方で起きたこの火災では、過剰給油による漏油が原因で従業員が死亡し、運転手と運送会社の管理者が刑事責任を問われました。
判決は業務上の過失を認めた一方で、給油量が少なければ立会いは不要という被告側の主張には明確な線引きを示しています。
この判例が突きつけているのは取扱う数量にかかわらず有資格者の立会いが必要だという事実です。

無資格の運転手が給油しただけで、そんなに重い話になるんですか。

消防法違反として刑事責任が問われた判例があります

うちのタンクローリーの取引でも、量が少なければ立会いは要らないと思っていました。

数量に関係なく立会いは必要です。
認められた過失と退けられた抗弁を、この記事で見ていきます。

この判例の要点
  • 昭和44年に関東地方で起きた火災で、タンクローリー運転手に業務上過失致死・消防法違反の成立が認められました
  • 決め手はバルブの開閉状態の確認と給油量の監視を怠った過失です
  • 「給油量が指定数量未満だから立会いは不要」という主張は退けられました
  • 運転手に資格がないと知りながら単独作業を続けさせた運送会社の管理者にも共謀の責任が認められました
  • 火災原因を自然漏油とする被告側の主張も退けられました

どんな火災だったのか

地下の貯蔵タンク室へ通じる注入管とタンクローリーから伸びるホースを外壁の給油口につないだ状態を示したイメージ
まず、どんな建物でどんな火災だったのかを押さえます。
判決が認定した事実だけを並べます。
  • 昭和44年3月29日午後、関東地方の入浴施設で発生した
  • 建物は防火造2階建て、延べ面積約365平方メートル(地下タンク室を含む)だった
  • 危険物取扱主任者ではない運転手が、タンクローリー車から地下のメインタンクへ重油を給油する作業中に発生した
  • タンクローリーの1号タンクのバルブが緩んでいたのに気づかないまま2号タンクの給油を始め、注文量の1,000リットルを超えて約2,400リットルを過剰給油した
  • あふれた重油が傾斜した床を伝ってボイラー室に流入し、点火中のボイラーの火に引火した
  • 火災により従業員5名が死亡した
量の少なさが、責任の重さを左右したわけではありません
運転手はふだん使っていたタンクローリーが故障したため、不慣れな車両で給油作業に当たっていました。
バルブが緩んでいることに気づかず2号タンクを開けたことで、指定数量の半分にも満たない注文量が、結果として2倍以上の過剰給油に至っています。
あふれた重油はサービスタンク上部の隙間から漏れ出し、傾斜した床を伝ってボイラー室に流れ込みました。
自分の現場でも、代替車両を使うときほど確認の手を抜かないようにしてください。

代わりの車両を使っただけで、そんなに違うものですか。

使い慣れない設備ほど確認が甘くなりがちです

運転手と管理者のどこが問われたのか

タンクローリーの弁と計量表示装置の横に危険物取扱主任者を示す資格証を並べて置いたイメージ
検察官と被告側の主張は、大きく2点で対立しました。
どちらの言い分が通ったのかを見るために、まず争点を整理します。
被告人両名は共謀のうえ、(運転手)において危険物取扱主任者でなく、かつ法定の除外事由がないのに、前記日時場所において危険物取扱主任者の立会なくして消防法所定の危険物である第四類第3石油類(重油)合計約5,000リットルを積載した移動タンク貯蔵所である前記タンクローリー車から前記のとおり約2,400リットルを給油し、もつて危険物を取扱つたものである。
争点は過失の有無と立会い義務の範囲の2点です
検察官は、運転手の業務上の過失(バルブ確認と給油量監視の懈怠)と、無資格のまま危険物を取り扱った消防法違反の両方を主張しました。
被告側は、火災原因はタンクローリーのストレーナーの欠陥による自然漏油であって過剰給油とは無関係だと反論し、さらに給油量が指定数量に満たない以上、立会い義務の対象にもならないと主張しました。
量に関する主張は、危険物を扱う現場なら誰にでも起こりうる誤解です。
自分の現場でも「少量だから立会いは不要」と考えていないか、一度確認してください。

指定数量より少なければ、立会いは要らないと思っていました。

その主張がどうなったか、次で見ていきましょう。

裁判所が過失と義務違反を認めたのはどこか

タンクローリーの弁の開閉を確認する装置と圧力計の針が危険域を指していることを示したイメージ
有罪の決め手になったのは、バルブの確認と給油量の監視という日常の作業でした。
判決が認定した過失の中身を見ていきます。
このような場合、危険物である重油を取扱うにあたつては、過剰給油をして重油を同店の燃料タンクからあふれさせないよう、タンクローリー車の各タンクのバルブの開閉状態を点検するとともに給油量の監視を行いつつ慎重に給油し、過剰給油に伴う漏油による火災およびこの火災による人の死傷等の危害の発生を未然に防止しなければならない業務上の注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、(略)過剰給油したため、(略)出火するに至らしめた。
バルブの点検と給油量の監視は切り離せない一つの義務です
判決は、タンクローリーの各タンクのバルブの開閉状態を点検することと、給油量を監視することをあわせて一つの業務上の注意義務と位置づけました。
さらに消防法第13条第3項が定める危険物取扱主任者の立会い義務についても、取扱う数量の大小にかかわらず適用されると判断し、無資格の運転手が単独で給油した行為を消防法違反と認めました。
運転手には禁錮10月・執行猶予3年、資格のないことを知りながら単独作業を続けさせた管理者には罰金5万円が言い渡されています。
自分の現場でも、バルブの点検と給油量の監視を一体の手順として明文化してください。

点検と監視は、別々にやればいいわけじゃないんですね。

一つの手順としてつなげてください

逆に義務違反とされなかったのはどこか

目盛りの途中までしか液体が入っていない計量タンクの横に危険物取扱主任者を示す資格証を並べて置いたイメージ
判決は被告側の主張をすべて退けたわけではありませんが、2つの反論はいずれも通りませんでした。
どこで線引きされたのかを見ていきます。
次に消防法第13条第3項は、危険物貯蔵所における当該危険物の取扱いについて危険物取扱主任者の立会いを義務ずけているが、この場合の取扱い数量については格別の規制を設けていない。(略)所論のように、指定数量未満の取扱いであれば危険物ではなく、前記条項の適用はないと解すべき理由はない
指定数量という線引きは、立会い義務には及びません
被告側は、注文量が指定数量に満たない以上、立会い義務の対象外だと主張しましたが、判決は取扱い数量に格別の規制はないとしてこれを退けました。
火災原因をストレーナーの欠陥による自然漏油だとする主張も、鑑定と関係者の証言を検討した結果、過剰給油との因果関係を否定するには至らないとして退けられています。
つまり「少量だから」「原因は設備の欠陥だから」という言い訳は、どちらも通りませんでした。
自分の現場でも、少量の取扱いだからと立会いを省略していないか、あらためて確認してください。

量に関係なく立会いが必要というのは、覚えておかないといけないですね。

数量の大小は理由になりません
次で明日からの実務をまとめます。

明日からなにをすればよいのか

タンクローリーの弁の作業場所の横にチェックリストを留めたクリップボードと資格証を吊るしたイメージ
この判例から読み取れる実務は、設備を増やすことではありません。
すでにある確認の手順を、誰が見ても分かる形にすることです。
運送会社において枢要な地位にありながら、危険物取扱に関する消防法規を無視して無資格者による危険物の取扱を認容放置し、ひいては配下の(運転手)をして本件惨事を起こさせる遠因を提供したものであつて、(管理者)に対する本件公訴は単なる行政法規違反であるとはいえず、その及ぼした影響は重大であり、監督者として強い非難を免れないものである。
数量の大小を理由に確認を省略しないでください
バルブの開閉状態の点検と給油量の監視は、注文量が指定数量未満でも省略できない手順です。
無資格の担当者に単独で危険物の取扱いをさせている実態がないか、運行管理者・事業所長の立場でも確認してください。知りながら黙認すれば、共謀の責任を問われることがあります。
使い慣れた車両や設備が使えないときほど、いつもの確認手順を省略しがちです。
今日のうちに、危険物取扱主任者の立会いが必要な作業の一覧と、担当者の資格の有無を突き合わせておいてください。

量が少ないとか、設備が違うとか、理由にならないんですね。

手順を省略する理由にはなりません

よくある質問

Q給油量が指定数量に満たない場合でも、危険物取扱主任者の立会いは必要ですか?
Aこの判決は、消防法第13条第3項の立会い義務について取扱い数量に格別の規制はないとしました。指定数量未満でも立会いは必要です。
Qタンクローリーの運転・移動そのものも「取扱い」に当たりますか?
Aこの判決は、危険物の取扱いとは積み入れ・積み下ろし(給油)を指すのであって、タンクローリーの運転移動そのものは取扱いに当たらないとしました。
Q管理者が当日の給油の詳細を知らなかった場合、共謀の責任は問われませんか?
Aこの判決は、部下に資格がないことを知りながら単独作業を継続させていた事実があれば、具体的な連絡がなくても共謀の責任を肯定できるとしました。
Q火災原因が設備の欠陥だと分かれば、過剰給油との因果関係は否定されますか?
Aこの判決は、鑑定と関係者の証言を検討したうえで過剰給油と火災の因果関係を認め、設備の欠陥だけを原因とする主張を退けました。

まとめ

昭和44年に関東地方で起きた火災で、タンクローリー運転手に業務上過失致死・消防法違反の成立が認められました
決め手はバルブの開閉状態の点検と給油量の監視を怠った過失です
消防法第13条第3項の立会い義務は取扱い数量にかかわらず適用されると判断されました
「指定数量未満だから立会いは不要」という主張は退けられました
火災原因を自然漏油とする主張も過剰給油との因果関係を否定するには至らないとして退けられました
資格がないと知りながら単独作業を続けさせた運送会社の管理者にも共謀の責任が認められました
数量の大小を理由に、バルブ点検・給油量監視・立会いの手順を省略しないことが実務の要点です

まず立会いが必要な作業の一覧を作ります。
資格の有無も突き合わせておきます。

数量が少なくても
立会いの手順は省略しないでください
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参考・出典

  • 昭和48年5月7日 東京地方裁判所判決(確定)
  • 消防法第13条第3項(当時)
  • 「消防実務六法 質疑応答編」(消防実務研究会編・東京法令出版)所収の判例を参考に、独自に解説を作成

※判決文の引用中の人名・法人名は、いずれも役割を示す表記(運転手・管理者・運送会社など)に置き換えています。本記事は確定した判決の内容を要約したものです。判決当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。

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