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文化財の建物の防火訓練はなぜ夜間を想定するのか|消防庁の防火訓練マニュアルが求める初動対応を解説

文化財の建物の防火訓練はなぜ夜間を想定するのか|消防庁の防火訓練マニュアルが求める初動対応を解説

文化財の建物で夜中に火が出たとき、その場にいるのは何人でしょうか。
昼間は職員も参拝者もいますが、夜は無人という文化財の建物は珍しくありません。
消防庁は、その少ない人数でも初期消火まで届くように訓練の作り方をまとめました。
この記事では文化財の建物に向けた防火訓練マニュアルの中身を解説します。

うちの本堂は文化財に指定されています。
訓練は毎年やっていますが昼間に消火器を出すだけです。

消防庁が文化財の建物だけを見た防火訓練マニュアルを出しています。
そこでは夜間を想定した訓練が柱になっています。

夜は誰もいないので訓練のしようがない気がします。
それでも想定しておく意味はあるのでしょうか。

むしろ人が少ないときこそ焼失リスクが高いという整理です。
限られた人数で何ができるかを見極めるのが狙いです。

この記事の結論
  • 令和2年の消防庁の通知が文化財の建物に向けた防火訓練マニュアルを示しました。
  • 対象は国宝や重要文化財の建造物とそれらを保管する博物館等です。
  • 訓練は日中だけでなく夜間など人が少ない状況を想定して組みます。
  • 重点は火災の早期発見と迅速な通報と初期消火の三つに置かれています。
  • 訓練のあとは事後検証まで行って課題に手を打つところまでが一組です。

火災危険の把握と訓練想定の検討と初動対応の確認と事後検証という文化財の防火訓練を組み立てる四つの手順をまとめた図解

文化財の建物に防火訓練のマニュアルが作られたのはなぜか

木造の伝統的な建物と石灯籠と通知の書面を持つ人を並べて文化財の防火対策が求められた経緯を表した図
通知は思いつきで出るものではなく、たいてい実際の火災が先にあります。
この通知の場合は、名前を聞けば誰でも思い当たる火災が二つ並んでいます。
「国宝・重要文化財(建造物)等に対応した防火訓練マニュアル」について(通知)(令和2年3月24日 消防予第67号) 平成31年4月15日に発生したフランスのノートルダム大聖堂の火災及び令和元年10月31日に発生した沖縄県那覇市の首里城跡での火災を受け、同様の惨事が生じないよう、文化財等の防火対策を一層推進することが求められています。(略)このことを踏まえ、今般、消防庁において、別添1のとおり、文化財等における訓練の実施方法を具体化した「国宝・重要文化財(建造物)等に対応した防火訓練マニュアル」(以下「防火訓練マニュアル」という。)を作成しましたので送付いたします。
二つの大きな火災が引き金です。
背景には、文化庁が消防庁および国土交通省と連携して策定した「世界遺産・国宝等における防火対策5か年計画」と、その中で公表された防火対策ガイドラインがあります。
ガイドラインには、夜間等の対応者が少ない状況においても確実に初期消火が実施できるように訓練を実施するという取組事項が書かれていました。
そこで消防庁が、その訓練を実際にどう組み立てるのかを具体化したのがこの防火訓練マニュアルです。
マニュアル自身も、文化財等は火災等によりいったん滅失毀損すれば再び回復することができない国民共有の財産であることを目的の冒頭に置いています。

設備を増やしなさいという通知ではないのですね。
自動火災報知設備なら入っています。

入っている設備を鳴ったときに使い切れるかという話です。
そこを訓練で確かめる筋道が示されています。

どの建物がこのマニュアルの対象になるのか

木造の伝統的な建物と小さな土蔵と横長の博物館の建物を並べてマニュアルの対象になる範囲を表した図
文化財といっても、山あいの小さな社から大きな博物館まで幅があります。
マニュアルはその範囲をはっきり書いています。
同通知 記 3 留意点 (2)防火訓練マニュアルの対象は、国宝・重要文化財(建造物)、国指定の史跡等に所在する建造物(復元建造物を含む。)や建造物群、国宝・重要文化財(美術工芸品)を保管する博物館等であるが、各地方公共団体の条例に基づいて指定された文化財(建造物)等についても、訓練を実施する際の参考とすることが望ましいこと。 (3)消防法上、訓練の実施義務がない文化財等であっても、大切な文化財等を火災から守るために、防火訓練マニュアルを参考として訓練を実施し、防火体制の充実・強化を図ることが望ましいこと
消防法施行令(昭和36年政令第37号)第1条の2第3項第1号ハ 別表第一(五)項ロ、(七)項、(八)項、(九)項ロ、(十)項から(十五)項まで、(十六)項ロ及び(十七)項に掲げる防火対象物で、収容人員が五十人以上のもの
指定を受けた建造物なら規模を問わず対象です。
一方で、消防法上の訓練の義務があるかどうかは別に決まります。文化財の建造物は令別表第一(17)項、寺社は(11)項、博物館は(8)項で、いずれも令第1条の2第3項第1号ハの収容人員が50人以上という線で防火管理者の選任義務がかかります。
(17)項の収容人員は消防法施行規則第1条の3により床面積を5平方メートルで除して算定するので、床面積が250平方メートルあれば50人に達する計算です。
つまり、それなりの大きさの本堂や天守なら義務の側に入りますが、小さな社殿や土蔵は義務がかからないことがあります。
それでもマニュアルは、義務がない文化財等であっても訓練を実施して防火体制の充実・強化を図ることが望ましいとしていて、義務の有無で線を引いていません

市の条例で指定された文化財も見てよいのですね。
うちの蔵は市の指定です。

条例で指定された文化財も参考にすることが望ましいと書かれています。
迷ったら所轄消防署に相談してください。

マニュアルは訓練の前になにを求めているのか

平面図を広げた机と二人の関係者とチェックリストを載せた掲示板を並べて訓練の事前の準備を表した図
マニュアルの分量のほとんどは、訓練そのものではなく事前の準備に割かれています。
順番が決まっているので、そこを外さないでください。
防火訓練マニュアル 2 事前の準備 (1)火災危険の把握 文化財等の関係者は、建物の平面図等を用いて、出火危険がある場所や初期消火が困難な場所等をあらかじめ把握しておく。(略) (2)訓練想定(出火日時、出火場所等)の検討 文化財等の関係者は、日中に火災が発生することを想定した訓練に加え、夜間等文化財等の関係者が少ない状況や利用者が通常よりも特に多い状況等、通常の管理と異なる場合を想定した訓練を実施するため、訓練想定を設定する
まず平面図を広げるところから始まります。
出火危険がある場所としてマニュアルが挙げるのは、電灯や電気配線などの電気設備、線香やろうそくといった裸火、ストーブなどの火気設備がある場所と、ごみ箱や外履きを入れるビニル袋を大量に保管している木箱のような可燃物の集積場所です。
初期消火が難しい場所としては、火災確認を行う者の待機場所からの移動距離が最大となる場所や入口から離れている場所、灯油や塗料を保管する場所が挙げられています。
そのうえで訓練想定を決め、火災発生時の初動対応を具体化し、訓練シナリオを作り、消防機関や防火の専門家に確認を依頼して助言を得るという流れです。
シナリオは日中と夜間と催し物開催時の三つのパターンが例示されているので、自分の建物に近いものを選んで書き換えれば形になります。

ろうそくや線香が危ないというのは腑に落ちます。
ごみ箱まで見る発想はありませんでした。

放火が最も多い出火原因という統計が添えられています。
外に置いた可燃物こそ先に片付けてください。

実務で見落としやすいのはどこか

消火器を抱えて電話に背を向ける人と受話器を耳に当てる人を並べて通報を後回しにしない場面を表した図
マニュアルには豆知識という囲みがいくつも挟まれています。
そこに実際の失敗が名指しで並んでいて、ここが読者にとっていちばん重い部分です。
防火訓練マニュアル 2(3)ウ 消防機関への通報 自動火災報知設備の鳴動等により火災の発生場所を確認した後、電話又は火災通報装置により消防機関へ速やかに火災が発生した旨を通報する。初期消火が失敗してから通報したり、責任者等への連絡・報告を優先するあまり通報が遅れたりすることがないように注意する。(略) <防火の豆知識⑤>消防機関への通報の遅延・失敗例 ・自動火災報知設備のベルが何度も鳴るので、「またか」と思い、火災の発生を確認しなかったり、しっかり確認しなかったために火災に気付かず、通報が遅れた。 ・火災の発見者が文化財等の関係者に連絡することを優先し、119番通報が遅れた。 ・誰かが119番通報していると思い、人任せにした。 ・ボヤで消えたので、通報する必要はないと思った。
落とし穴のほとんどは通報の遅れです。
マニュアルは、自動火災報知設備で感知したときと現場を確認した後の二回に分けて通報する二段通報を勧めていて、人員が少ない場合は第一段の通報を短時間で済ませて現場確認や初期消火に注力するようにと書いています。
もうひとつの落とし穴が、自動消火設備があるから任せておけばよいという思い込みです。マニュアルはスプリンクラー設備が設置されている場合であっても消火が確認できるまでは消火器や屋内消火栓設備等による初期消火を行うとしています。
そのうえで、水損被害を軽減するために消火確認後に制御弁を閉める等の対応方法を確認しておくこととされています。
なお令和元年版消防白書によると、平成30年中に消防隊が放水した建物火災10,684件のうち、覚知から放水開始までに10分を超えたものが50%以上を占めています。それまでは関係者が主体的に動くしかないということです。

消してから電話でよいと思っていました。
順番が逆だったということですか。

ただしパトロール中に直接見つけて消せそうなときは初期消火が先です。
その分かれ目までシナリオに書いておいてください。

明日からなにを確認すればよいのか

屋内消火栓の箱とチェックボードを持つ人と記録を書き込む机を並べて訓練の実施と事後検証の手順を表した図
やることは多くありません。
いま持っている消防計画と訓練の予定に足していくだけで形になります。
防火訓練マニュアル 3 訓練の実施 上記2を踏まえ、文化財等の関係者は、毎年定期的に実践的な訓練を実施する。(略)また、消防用設備等の使用方法を習熟するために実際に自動火災報知設備を作動させるとともに、消火器、屋内消火栓設備、放水銃等から水等を放出することが望ましい。(略) 4 事後検証 訓練実施後、可能な限り速やかに、対応事項チェックリストの記録等を活用し、事後検証(訓練の振り返り)を行う
まず夜間のシナリオを一本足してください。
マニュアルは、関係者が少人数だったり夜間は無人となる小規模な文化財等については、夜間に火災が発生した想定のシナリオ例を参考にして、限られた人員で何ができるのかを見極める必要があるとしています。
次に、屋内消火栓設備が一人で操作できる型なのか二人必要な型なのかを確かめます。マニュアルは操作・取扱い方法について初動対応を行う職員全員が習熟しておくことを求めています。
そのうえで、消防用設備等の設置事業者や保守事業者による操作方法等の説明の機会を定期的に設け、訓練では実際に水等を放出してみます。
最後に対応事項チェックリストに記録を残し、事後検証で出た課題に対して時機を失することなく必要な措置を講じるところまでが一組です。

平面図とシナリオと振り返りが一本につながりました。
次の訓練は夜の想定でやってみます。

その順番で問題ありません。
消防機関に助言を依頼するところまで入れておいてください。

よくある質問

Q訓練の実施義務がない文化財でも訓練は必要ですか?
A法律上の義務ではありませんが、マニュアルは義務がない文化財等であっても訓練を実施し防火体制の充実・強化を図ることが望ましいとしています。なお一部の地域では火災予防条例により収容人員に関わらず訓練の実施が義務づけられています。
Q訓練は年に何回実施すればよいのですか?
A消火訓練と避難訓練を年2回以上と定めた消防法施行規則第3条第10項の対象に(17)項は入っていないため、回数の法定義務はありません。マニュアルは毎年定期的に実施するとしたうえで、延べ面積が1,000平方メートル以上の大規模な木造建造物などでは図上訓練や部分的な実働訓練を毎月実施すること等が望ましいとしています。
Q訓練で消火器を使うのは消防職員ではないのですか?
A通知は、火災発生時の初動対応の実施主体は文化財等の関係者となるため、訓練における初期消火活動は当該関係者が実施するようにすること、消防職員は原則実施しないこととしています。
Qスプリンクラー設備があれば初期消火はしなくてよいのですか?
Aマニュアルは自動消火設備が設置されている場合であっても消火が確認できるまでは消火器や屋内消火栓設備等による初期消火を行うとしています。あわせて水損被害を軽減するため、消火確認後に制御弁を閉める等の対応方法を確認しておくこととされています。

まとめ

令和2年の通知が文化財の建物に向けた防火訓練マニュアルを示しました
対象は指定を受けた建造物とそれらを保管する博物館等で規模を問いません。
準備は平面図で出火危険と初期消火が困難な場所を洗い出すことから始めます
訓練想定は日中に加えて夜間など人が少ない状況まで設定します。
初期消火が失敗してから通報するという順番にしないよう注意します
自動消火設備があっても消火が確認できるまでは初期消火を続けます。
訓練のあとは事後検証を行い出た課題に必要な措置を講じます

今夜さっそく夜間の動線を歩いて確かめてきます!

そのとき受話器までの距離も測っておいてください
㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

まずはWebで無料お見積りを!

お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
主な活動

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

参考・出典

  • 「国宝・重要文化財(建造物)等に対応した防火訓練マニュアル」について(通知)(令和2年3月24日 消防予第67号)
  • 国宝・重要文化財(建造物)等に対応した防火訓練マニュアル(令和2年3月 消防庁)
  • 消防法(昭和23年法律第186号)第8条
  • 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第1条の2第3項・別表第一
  • 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第1条の3・第3条第1項・第3条第10項

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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