工場や事務所として建てた建物を、いつの間にか寄宿舎として使っていないでしょうか。
平成6年、神奈川県海老名市の建設会社の寄宿舎で火災が起き、8名が死亡しました。
建物は事務所兼工場として建てられた後、無届のまま寄宿舎に増築・用途変更されていました。
消防庁が示したのは、用途変更のたびに使用開始の届出をやり直すべきだという原則です。
うちは工場の隣に社員寮を増築しましたが、消防への届出はしていません。
特に問題は起きていないので大丈夫でしょうか。
それは用途変更の無届けにあたる可能性があります。
建物自体は元々の確認申請どおりに建てたので、消防用設備も足りていると思います。
用途が変われば必要な設備も変わります。
海老名市の火災を機に出た通知を見ていきましょう。
- 事務所や工場を寄宿舎に増築・用途変更した場合も、あらためて使用開始の届出が必要です
- 寄宿舎は消防法施行令別表第一(5)項ロにあたり、収容人員50人以上で防火管理者の選任が義務になります
- 一斉点検で不備が見つかれば、文書により是正を指示し改善状況を確認することとされています
- 居住者数が変動しやすい寄宿舎は、収容人員を把握したうえで避難器具の設置等も指導対象になります
- 調理場や居室内の火気管理は消防計画に具体的に定めることが求められます
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目次
工場兼事務所の寄宿舎転用はなぜ一斉点検を招いたのか

平成6年に起きたある火災が、その誤解の危うさを浮き彫りにしました。
海老名市の寄宿舎は、もともと事務所兼工場として法令に従って建てられていました。
そこへ増築が行われ、就寝を伴う寄宿舎として使われるようになっていましたが、消防や建築への届出は行われていませんでした。
その結果、防火管理体制も消防用設備等も、寄宿舎としての基準を満たさないまま放置されていたのです。
消防庁はこの火災を受け、同じような未届転用が他にもないか、一斉点検で洗い出すよう全国の消防機関に求めました。
自分の建物にも、増築や用途変更をしたのに届出をしていない部分がないか、まず思い浮かべてみてください。
うちも工場の一角を改装して、社員が泊まれる部屋にしています。
届出までは考えていませんでした。
その改装は用途変更にあたる可能性が高いです。
次の見出しで対象になる建物を確認しましょう。
一斉点検の対象になるのはどんな寄宿舎か

届出のないまま転用されている疑いのある建物も、まとめて対象にしています。
消防法施行令別表第一(5)項ロには寄宿舎・下宿・共同住宅が並んで規定されており、就寝を伴う施設として同じ枠組みで扱われます。
通知は、もともと寄宿舎として建てられた建物に加え、工場や事務所から無届で転用された疑いのある建物も一斉点検の対象に含めるよう求めました。
点検は消防機関が管内の建物を洗い出す形で進められ、届出の有無や増改築の履歴が確認されます。
自分の建物が(5)項ロに該当する使い方をしているのに、届出の記録が見当たらないという状態にないか確かめてください。
うちの建物は令別表のどの項に当たるのか、正直あいまいなままです。
就寝を伴う使い方なら(5)項ロの対象になります。
次は通知が具体的に何を求めているかを見ていきましょう。
通知が求める是正指導と防火管理の中身はなにか

求めているのは大きく3つです。
不備が見つかれば口頭注意ではなく文書で管理権原者に指示し、後日あらためて改善されたかを確認する、という二段構えが取られます。
使用開始の届出は新築のときだけでなく、用途を変更したときにもやり直しが必要で、これは火災予防条例(例)第43条にも定められている基本ルールです。
居住者数が変動しやすい寄宿舎では、そのつど収容人員を数え直し、防火管理者の選任や避難器具の設置が必要になっていないかを確認することが求められます。
調理場や居室での火気の使い方も、消防計画に具体的に書き込んでおくよう指導の対象になっています。
増築したときに届出をしていれば、今回のような文書指示は受けずに済んだということですね。
そのとおりです。
届出は増築や用途変更のたびにやり直す必要があります。
実務で見落としやすいのはどこか

海老名市の火災も、まさにこの思い込みから不備が積み重なっていました。
建築確認をとって増築したとしても、それだけで消防への使用開始届出まで済んだことにはなりません。
逆に、消防用設備等は据え置きのままで居室だけ増やしてしまい、収容人員が防火管理者選任のラインを超えていることに気づかないケースもあります。
海老名市の建物も、事務所兼工場としての設備のまま就寝施設として使われ続け、不備が長期間気づかれずに残っていました。
「用途は変えていない」ではなく実際にどう使っているかで判断する必要があります。
自分の建物についても、図面上の用途と実際の使われ方がずれていないか、あらためて見比べてください。
増築した部分は事務所として申請したのですが、今は実質的に社員が寝泊まりしています。
その実態こそが判断の基準になります。
申請上の用途ではなく、実際の使われ方を確認しましょう。
明日からなにを確認すればよいのか

特別な工事をしなくても、今日から始められる確認が多くあります。
まず建築確認や登記上の用途と、実際にどう使っているかを見比べ、寝泊まりに使っている部分がないかを確かめます。
用途が変わっていれば、火災予防条例に基づく使用開始の届出をあらためて所轄消防署に提出します。
そのうえで居住者数を数え直し、収容人員50人以上になっていないか、防火管理者の選任義務が生じていないかを確認します。
調理場や居室での火気の使い方は、消防計画に具体的に書き込んでおきます。
判断に迷う点が出てきたら、そこで初めて所轄消防署に相談すれば十分です。
増築部分の使い方を届け出るところから始めてみます。
それが一番の近道です。
順番に進めていきましょう。
よくある質問
まとめ
思い込みが一番危ないと分かりました。
まず自分の建物の使われ方を見直します。
用途変更のたびに届出をやり直すことが基本です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 寄宿舎等の防火安全対策の徹底及び一斉点検の実施について(通知)(平成6年7月11日 消防予第180号 消防庁予防課長)
- 消防法施行令別表第一(5)項ロ/同令第1条の2第3項
- 火災予防条例(例)第43条(防火対象物の使用開始の届出等)
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





