工場の廃液を無許可で用水堀へ流し、危険物の取扱いをめぐって罪に問われた事件があります。
被告人は「これが消防法上の危険物だとは知らなかった」と法廷で主張しました。
しかし裁判所は、現場に残っていたいくつかの事実を積み重ねて、その言い分を退けています。
知らなかったでは済まされない理由を、判決から確認します。
うちの倉庫にも似たようなドラム缶があります。
もし中身を知らなかったと言えば、それで済むのでしょうか。
実際に、それが争われた裁判例があります。
知らなかったという言い分がどう扱われたかを見ていきましょう。
知らなかったと言えば故意が無かったことになりそうです。
裁判所はどう考えたのでしょうか。
本人の言葉ではなく、現場に残った事実で判断しています。
- 東京地方裁判所は昭和49年、工場の廃液を用水堀へ流出させた事件で、「知らなかった」という被告人の主張を退けました
- 決め手になったのは、危険物であることを示す立札や喫煙禁止の掲示があったという客観的な事実です
- 燃えやすい性質の認識・免許取得の必要性の認識・流出量の正確な把握も、認識ありと判断する材料になりました
- 「知らなかった」という言い分は、客観的な状況と食い違えば通りません
- 危険物を扱う現場では、掲示と記録を日頃から整えておくことが自分を守ることにつながります
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目次
工場の廃液を水路に流したのはどんな事件だったのか

被告人は、この廃液を無許可で貯蔵し、水路へ流出させたとして起訴されました。
- 工場の廃液貯蔵タンクには、危険物であることを示す立札が立てられていた
- タンクの周囲では喫煙が禁止されていた
- 廃液はアルコール性で燃えやすい性質を持っていた
- この廃液が用水堀へ流出した
争点になったのは、被告人が「これは消防法上の危険物である」と認識していたかどうかでした。
危険物と知らずに扱っていたのであれば、故意が認められない可能性があったからです。
だからこそ、次の争点が生まれます。
廃液を流した本人は、危険物だと知らなかったと言ったのですね。
はい、ですが裁判所は別の見方をしました。
危険物と知らなかったという主張はなぜ出てきたのか

もしこの主張が認められれば、無許可貯蔵・流出の罪は成立しない可能性がありました。
そのため被告人の弁護側は、廃液の性質を知らなかったという一点に主張を絞りました。
これが認められれば、無許可貯蔵の罪そのものが崩れる可能性がありました。
しかし裁判所は、この主張をそのまま受け入れませんでした。
知らなかったと言えば、それだけで無罪になりそうな気がします。
その理屈が通らなかった理由を、次で見ていきます。
裁判所は何をもって認識ありと判断したのか

そこから、危険物についての認識があったと結論づけています。
立札や禁煙の掲示は、本人がその意味を理解していたことを推認させる材料になります。
免許取得の必要性を認識していたことや、流出量を正確に把握していたことも、同じ方向を指す事実でした。
複数の事実が積み重なることで、認識の有無は動かしがたいものになります。
立札や禁煙の掲示があったことも、証拠になるのですね。
本人の言葉より、現場に残った事実が優先されました。
知らなかったという言い分はなぜ退けられたのか

ところが、被告人の行動は知っていた人の行動そのものでした。 危険物であることを示す立札を認識していなければ、日常的にその前を通ることに違和感を持つはずです。
喫煙禁止という制約を受け入れていたことも、燃えやすい物質だと理解していたことを裏付けます。
免許の必要性を意識し、流出した量まで正確に把握していたことは、無自覚な扱いとは相容れません。
「知らなかった」という一言では、これだけの事実の積み重ねを覆せませんでした。
うちの現場も、似たような掲示だけはしています。
それだけでも、知らなかったという言い訳を防ぐ材料になります。
現場は何を残しておけば同じ争いを避けられるのか

危険物を扱う現場で、日頃からできることを整理します。 まず、危険物であることを示す表示を、誰の目にも見えるところに掲示することです。
喫煙禁止など取扱いに関するルールを明確にし、関係者に周知しておくことも欠かせません。
取り扱う物質の性質を正確に把握し、必要であれば記録として残しておきます。
資格の要否や保管している量についても、日頃から確認しておくと、いざというときの説明にも困りません。
明日から何を見直せばよいでしょうか。
掲示と記録を、今のうちに点検しておきましょう。
よくある質問
まとめ
知らなかったでは済まないと、よく分かりました。
記録を残すことが、なにより自分を守ります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 昭和49年5月8日 東京地方裁判所判決
- 消防法第10条(当時)
※判決文の引用中の人名は、いずれも役割を示す表記(被告人など)に置き換えています。本記事は確定した判決の内容を要約したものです。判決当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。





