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高圧ガスの事故や盗難はなぜ届出そのものに罰則があるのか|危険な状態の届出との違いを解説

鎖と南京錠で施錠された高圧ガス貯蔵ヤードのフェンスゲートの外観

高圧ガスの施設で漏えい事故が起きたり、容器がトラックごと盗まれたりしたら、あなたはすぐに誰かへ届け出るでしょうか。
「警察に相談すればいい」と漠然と考えている人もいるかもしれません。
実は高圧ガス保安法は、事故や盗難そのものについて、所有者や占有者自身に届出を義務づける条文を別に用意しています。
本記事では高圧ガス保安法第六十三条が定める事故届の仕組みと、危険な状態の届出との違いを解説します。

うちの容器が盗まれたときも、届出って必要なんですか。
被害届を出せば十分な気がしていました。

はい、高圧ガス保安法にも独自の届出義務があります。
条文を順番に見ていきましょう。

以前教わった「危険な状態の届出」と同じ条文なんでしょうか。
似たような義務が何個もあると混乱します。

実は別の条文で、義務を負う人も罰則の重さも違います。
次はその中身を見てみましょう。

この記事の結論
  • 高圧ガス保安法第六十三条は、所有者又は占有者自身に、災害の発生または高圧ガス・容器の喪失若しくは盗難を届け出る義務を課しています
  • 義務を負うのは製造者・販売業者から容器の輸入をした者まで幅広い立場です。
  • 届出先は都道府県知事又は警察官の2者で、様式第五十八号の事故届書を提出します
  • 第三十六条の「危険な状態」の届出とは義務を負う人も届出先も別物です。
  • 第六十三条は不届けそのものが罰則の対象になる点で、第三十六条の届出義務とは扱いが違います。

高圧ガスで事故や盗難が起きたら不届けそのものが罰則の対象になる流れを示す図解

高圧ガスの事故や盗難はなぜ本人が届け出る義務を負うのか

ひび割れから蒸気が漏れる高圧ガス施設と、夜間に容器を積み込む荷台のイラスト
事故や盗難が起きてしまったあと、法律はまず誰にその事実を明らかにさせようとしているのでしょうか。
条文を確認しましょう。
高圧ガス保安法第六十三条第一項(事故届・要旨) 第一種製造者、第二種製造者、販売業者、液化石油ガス法第六条の液化石油ガス販売事業者、高圧ガスを貯蔵し、又は消費する者、容器製造業者、容器の輸入をした者その他高圧ガス又は容器を取り扱う者は、その所有し、又は占有する高圧ガスについて災害が発生したとき、又はその所有し、若しくは占有する高圧ガス若しくは容器を喪失し、若しくは盗まれたときは、遅滞なく、その旨を都道府県知事又は警察官に届け出なければならない
届出をするのは、事故に気づいた人ではなく、高圧ガスや容器を所有・占有していた本人です。
条文が挙げる事由は災害の発生高圧ガス・容器の喪失又は盗難の2つで、どちらも「もう起きてしまった事態」を対象にしています。
自分の施設や容器に起きたことである以上、他人任せにはできません。
まず届出義務が誰に向いているのかを押さえておきましょう。

盗難まで届出の対象になるとは思っていませんでした。
製造業者以外にも義務はあるんでしょうか。

対象になる立場はかなり幅広いです。
次はその範囲を見てみましょう。

誰がどんな場合に事故を届け出る義務を負うのか

配管と弁を備えた高圧ガス製造施設と、容器を積んだ台車を置く販売店舗を並べたイラスト
条文が名指しする立場は、製造の現場に限りません。
どこまでの人が対象になるかを確認しましょう。
高圧ガス保安法第六十三条第一項(再掲・要旨) 第一種製造者、第二種製造者、販売業者、液化石油ガス法第六条の液化石油ガス販売事業者、高圧ガスを貯蔵し、又は消費する者、容器製造業者、容器の輸入をした者その他高圧ガス又は容器を取り扱う者は、次に掲げる場合は、遅滞なく届け出なければならない。
製造から販売、消費、容器の製造・輸入まで、高圧ガスに関わる立場のほとんどが対象になります。
第一種製造者・第二種製造者はもちろん、販売業者やLPガス販売事業者、高圧ガスを貯蔵・消費するだけの事業者、さらに容器の製造業者や輸入業者も名指しされています。
最後は「その他高圧ガス又は容器を取り扱う者」という受け皿になっているため、条文に個別の名称が無い立場でも対象から外れません
自分がどの立場に当たるかを迷う場面は少ないはずです。
次は、実際にどこへどうやって届け出るのかを見ていきましょう。

うちは高圧ガスを消費するだけで、製造も販売もしていません。
それでも対象になるんでしょうか。

はい、消費するだけの立場も対象です。
次は届出の具体的な手続きを見てみましょう。

事故届は誰にどうやって出せばよいのか

都道府県庁の庁舎と警察の記章を掲げる交番を並べたイラスト
届出先と提出書類は、法律本体と規則の両方に定めがあります。
順番に確認しましょう。
高圧ガス保安法第六十三条第一項(再掲) (略)遅滞なく、その旨を都道府県知事又は警察官に届け出なければならない
一般高圧ガス保安規則第九十八条(事故届・要旨) 法第六十三条第一項の規定により、都道府県知事又は指定都市の長に事故を届け出ようとする者は、様式第五十八号の事故届書を、事故の発生した場所を管轄する都道府県知事に提出しなければならない
届出先は都道府県知事又は警察官の2者で、期限は「遅滞なく」です。
様式が決まっているのは都道府県知事への届出で、様式第五十八号の事故届書を、事故が発生した場所を管轄する都道府県知事へ提出します。
「遅滞なく」は具体的な日数を示す言葉ではありませんが、正当な理由なく先延ばしにしてよいという意味ではありません。
さらに第六十三条第二項では、経済産業大臣又は都道府県知事が、日時・場所・原因・数量・被害の程度などの追加の報告を命じられることも定められています。
提出したら終わりではなく、後から詳しい報告を求められる可能性も踏まえておきましょう。

様式が決まっているなら、あらかじめ書式を用意しておけますね。
あとから報告を求められることもあるんですね。

様式のひな形を先に持っておくと安心です。
次は似ている条文との違いを見てみましょう。

危険な状態の届出と何が違うのか

書類を差し出す人に青いチェックマーク、ゴミ箱の中の丸めた書類に赤い禁止マークを添えたイラスト
高圧ガス保安法には「届出」と名のつく条文がほかにもあり、混同しやすいところです。
第三十六条と並べて確認しましょう。
高圧ガス保安法第三十六条第二項(危険時の措置及び届出・再掲) 前項の事態を発見した者は、直ちに、その旨を都道府県知事又は警察官、消防吏員若しくは消防団員若しくは海上保安官に届け出なければならない
高圧ガス保安法第八十三条第一号(要旨) 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、三十万円以下の罰金に処する。一(略)又は第六十三条第一項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をしたとき
同じ「届出」でも、義務を負う人・届出先・罰則の重さがそれぞれ違います。
第三十六条は「危険な状態」に気づいた人なら誰でも対象になり、届出先も都道府県知事・警察官に消防吏員・消防団員・海上保安官まで加わる5者です。届出そのものに罰則は無く、罰せられるのは虚偽の届出をしたときだけでした。
一方の第六十三条は所有者又は占有者本人に限られ、届出先は都道府県知事又は警察官の2者に絞られます。そして第八十三条第一号は、届出をしなかったことそのものを、虚偽の届出と同じ三十万円以下の罰金の対象にしています。
つまり第三十六条は「黙っているより嘘をつくほうが重い」という作りでしたが、第六十三条は黙っていること自体がすでに罰則の対象という、逆の作りになっています。
どちらの条文の話をしているのかを取り違えると、必要な対応を見誤ります。

危険な状態と事故はどこで線引きされるんでしょうか。
迷ったときはどちらを意識すればいいですか。

迷ったら両方の届出先へ連絡して問題ありません。
次によくある質問をまとめます。

明日からなにを確認すればよいのか

チェックリストの用紙を確認する人と、二つ折りのフローチャート資料を並べたイラスト
条文の中身が分かったところで、実務に落とし込みましょう。
確認すべきポイントを整理します。
高圧ガス保安法第六十三条第一項(再掲・要旨) (略)遅滞なく、その旨を都道府県知事又は警察官に届け出なければならない
まず、自社が第六十三条の対象になる立場かどうかを確認してください。
製造・販売・消費・容器の製造や輸入のいずれかに関わっていれば、ほぼ確実に対象です。
次に、様式第五十八号の事故届書のひな形を事前に用意し、事故発生地を管轄する都道府県知事の窓口を調べておきましょう。
第三十六条の「危険な状態」の届出と、第六十三条の「事故」の届出は別の義務なので、社内の対応フローでもこの二つを分けて整理しておくと迷いません。
不届けそのものが罰則の対象になる以上、事故や盗難に気づいたら先延ばしにせず届け出てください。

様式のひな形、社内で共有しておきます。
危険な状態と事故の届出を分けて整理してみます。

窓口の事前確認が一番の備えになります。
次によくある質問をまとめます。

よくある質問

Q容器を盗まれただけでも届出は必要ですか?
Aはい。高圧ガス保安法第六十三条第一項第二号は、高圧ガス又は容器を喪失し、又は盗まれたときを災害の発生と並ぶ独立した届出事由として定めています。
Q届出を怠ったらどうなりますか?
A高圧ガス保安法第八十三条第一号により、三十万円以下の罰金の対象になります。虚偽の届出をした場合も同じ号で同じ罰則が定められています。
Q第三十六条の届出と両方出す必要はありますか?
A場面が重なることもあります。危険な状態に気づいた発見者としての第三十六条の届出と、事故の当事者としての第六十三条の届出は別の義務なので、両方に当てはまる状況では両方を意識してください。
Q届出はどんな書類で出せばよいですか?
A一般高圧ガス保安規則第九十八条が定める様式第五十八号の事故届書を、事故の発生した場所を管轄する都道府県知事に提出します。

まとめ

高圧ガス保安法第六十三条は、所有者又は占有者本人に事故や喪失・盗難の届出を義務づけています
対象になるのは、製造者・販売業者から容器の輸入をした者まで幅広い立場です。
届出先は都道府県知事又は警察官の2者で、様式第五十八号の事故届書を提出します
経済産業大臣又は都道府県知事は、日時・場所・原因等の追加報告を命じることができます。
第三十六条の「危険な状態」の届出とは義務を負う人も届出先も別物です。
不届けそのものが三十万円以下の罰金の対象になり、虚偽の届出と同じ扱いです
迷ったら先延ばしにせず都道府県知事又は警察官へ届け出てください。

事故届の仕組みがよく分かりました。
うちの緊急連絡フローも見直してみます。

日頃の書式準備が一番の備えになります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 高圧ガス保安法(昭和26年法律第204号)第36条・第63条・第83条
  • 一般高圧ガス保安規則(昭和41年通商産業省令第53号)第98条

※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。個別の届出手続については、所轄の都道府県または警察署にご確認ください

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