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放火の疑いがある火災はなぜ消防と警察の両方が調べに来るのか|消防法第35条の4が定める調査と捜査の関係を解説

火災現場で焼け跡を調べる消防の調査員と奥に立つ警察官の写真

自分のビルで火災が起きたとき、消防だけでなく警察まで調べに来て戸惑う管理権原者の方は少なくありません。
消防の火災原因調査と警察の犯罪捜査は、目的も権限も別の制度として法律で分けて定められています。
消防に協力したから警察への対応は不要だと考えると、思わぬ対応漏れにつながることがあります。
本記事では消防法第35条の4が定める両者の関係と、防火管理者が実務で押さえておくべき対応の分かれ目を解説します。

うちのビルで小火があったとき、消防の人だけじゃなく警察の人も来てて驚きました。
両方に同じことを説明しないといけないんでしょうか。

消防は火災の原因を調べる仕事、警察は犯罪かどうかを調べる仕事で、実は目的が違うんです。
だからどちらか一方で済ませられるものではないんですよ。

知りませんでした。
じゃあ消防に協力していれば警察の対応は後回しにしてもいいというわけではないんですね。

そのとおりです。
消防法第35条の4という条文がまさにその関係を定めているので、順番に見ていきましょう。

この記事の結論
  • 消防の火災原因調査と警察の犯罪捜査は、目的も権限も異なる別の手続きです。
  • 消防が調査をしても警察が捜査する責任は免除されません
  • 警察が被疑者を逮捕したあとでも、事件が検察官に送致されるまでは消防が独自に質問できます。
  • 放火・失火を無くすという共同の目的のため、消防吏員と警察官は互いに協力する義務を負います。
  • どちらか一方に対応すればもう一方は不要という考え方は誤りです

消防の調査と警察の捜査は並行して進み一方が動けば足りるわけではないことを示す図解

消防の火災原因調査と警察の犯罪捜査はどう違うのか

消防の火災原因調査と警察の犯罪捜査が同じ建物を別々に調べている図
火災が起きると、消防と警察がそれぞれ別の目的で現場に関わります。
まずはこの2つの制度がどう役割分担されているのかを見ていきます。
消防法第31条 消防長又は消防署長は、消火活動をなすとともに火災の原因並びに火災及び消火のために受けた損害の調査に着手しなければならない。
火災原因調査と犯罪捜査は別の制度です
消防の調査は、今後の火災予防や消防用設備の改善につなげるために、消防長又は消防署長が行う行政上の調査です。
一方で警察の捜査は、放火や失火という犯罪の嫌疑を明らかにし被疑者を検挙するために行われます。
同じ火災現場であっても見ている目的がまったく異なるため、消防と警察の両方が別々に動くのは制度上当然のことです。
管理権原者や防火管理者は、この違いを知らないと「もう消防に説明したのに」と対応を後回しにしてしまいがちです。
まずはこの前提を押さえておきましょう。

消防の人にはもう詳しく話したのに、なんで警察の人まで別に聞いてくるのか不思議でした。
目的が違うと聞いて納得です。

そうなんです。
消防は予防のための調査、警察は犯罪の捜査と覚えておくと整理しやすいですよ。

警察が逮捕したあとも消防は被疑者に質問できるのか

警察官が身柄を確保したあとも消防の調査員が本人に質問している図
警察が先に動いて被疑者の身柄を押さえた場合、消防の調査はそこで終わりになるのでしょうか。
条文を見ると、答えはそうではありません。
消防法第35条の2第1項 消防長又は消防署長は、警察官が放火又は失火の犯罪の被疑者を逮捕し又は証拠物を押収したときは、事件が検察官に送致されるまでは、前条第一項の調査をするため、その被疑者に対し質問をし又はその証拠物につき調査をすることができる
逮捕後も消防は質問や証拠物の調査を続けられます
被疑者が逮捕され証拠物が押収された段階でも、事件が検察官へ送致されるまでの間は、消防長又は消防署長が独自に質問し調査する権限を持っています。
これは警察の捜査が始まったからといって、消防の火災原因調査が自動的に打ち切られるわけではないことを意味します。
ただしこの質問や調査は、警察官の捜査に支障を来してはならないという歯止めが同じ条文の第2項に置かれています。
現場対応としては、消防と警察のどちらから連絡が来ても、それぞれ独立した手続きとして誠実に応じる姿勢が必要です。

警察の方が先に動いていたので、消防の調査はもう終わったものだと思っていました。
まだ続くことがあるんですね。

はい。
検察官に送致されるまでは消防も独自に動けますので、両方からの連絡に応じる心づもりをしておいてください。

消防の調査があれば警察の捜査の責任は消えるのか

消防の調査と警察の捜査が天秤の両側で釣り合っている図
ここまでで消防と警察がそれぞれ別に動くことは分かりました。
では、消防がしっかり調べていれば警察の責任は軽くなるのでしょうか。
消防法第35条の4第1項 本章の規定は、警察官が犯罪(放火及び失火の犯罪を含む。)を捜査し、被疑者(放火及び失火の犯罪の被疑者を含む。)を逮捕する責任を免れしめない
消防の調査は警察の責任を免除しません
消防法第七章が定める火災原因調査の規定は、あくまで消防の側の権限と手続きを整理したものであり、警察官が犯罪を捜査し被疑者を逮捕する責任には一切影響しません
つまり消防の調査と警察の捜査は、片方が進めばもう片方が軽くなるという上下関係ではなく、最初から対等に並び立つ別々の責任として法律に書かれています。
建物の管理者から見ると、消防の聞き取りに答えたことが、そのまま警察への説明を済ませたことにはならない点に注意が必要です。
両方の手続きが同時に進んでいると考えておくのが実務上は安全です。

消防にちゃんと説明できていれば、警察にはあらためて話さなくても大丈夫だと思っていました。
そういうわけではないんですね。

そうなんです。
消防と警察は別々の責任を負っているので、両方に誠実に対応しておくのが安心です。

消防吏員と警察官はどこまで協力しあう義務があるのか

消防吏員と警察官が書類を手渡しながら協力している図
消防と警察が別々の責任を持つとはいえ、まったく無関係に動いているわけではありません。
法律は両者に協力の義務も課しています。
消防法第35条の4第2項 放火及び失火絶滅の共同目的のために消防吏員及び警察官は、互に協力しなければならない
消防吏員と警察官には相互協力の義務があります
この条文は、放火や失火をなくすという共通の目的のために、消防吏員と警察官が互いに協力しなければならないと明記しています。
実務でも、消防が火災現場で得た情報を警察に提供したり、逆に警察の捜査状況が消防の再発防止策に生かされたりする場面があります。
管理権原者としては、消防にも警察にも同じ事実関係を一貫して伝えることが、この協力関係を無駄にしないコツになります。
説明する内容が食い違うと、かえって双方の確認作業を長引かせる原因になりかねません。

消防と警察がバラバラに聞いてくるのかと思っていましたが、裏では協力しているんですね。
説明はどちらにも同じ内容にしたほうがよさそうです。

そのとおりです。
同じ事実を一貫して伝えることが、消防にも警察にも一番助かる対応ですよ。

放火の疑いがある火災で明日から確認すべきことは何か

防火管理者が机で書類を確認している図
消防と警察の関係が分かったところで、実際に火災が起きたときに備えて何を準備しておけばよいのかを整理します。
特別な資格がなくてもできることばかりです。
  • 火災の発生日時・発見の経緯・避難誘導の状況を時系列でメモに残すこと
  • 消防の質問と警察の質問は別の手続きとして両方に対応すること
  • 現場の焼け跡や設備の状態は、指示があるまでむやみに片づけないこと
  • 説明する内容は消防にも警察にも同じ事実関係で一貫させること
  • 対応に迷ったときは所轄消防署や弁護士に早めに相談すること
備えは記録を残すことに尽きます
消防の調査でも警察の捜査でも、最初に聞かれるのは発生時刻や発見の経緯といった事実関係です。
日頃から避難訓練や設備点検の記録を整理しておくと、いざというときに落ち着いて説明できます。
現場を勝手に片づけてしまうと、証拠保全の妨げになり双方の調査が長引く原因にもなりかねません。
消防と警察のどちらから連絡が来ても、慌てずに同じ説明ができるよう準備しておきましょう。

特別なことをしなくても、記録を残しておくことが一番の備えになるんですね。
今日から点検記録の整理を見直してみます。

それが一番の近道です。
日頃の記録がそのまま消防にも警察にも説明できる材料になりますよ。

よくある質問

Q消防に協力すれば警察の聴取には応じなくてよいのですか?
Aいいえ、消防法第35条の4第1項により警察官が犯罪を捜査し被疑者を逮捕する責任は免除されません。消防への説明とは別に、警察の聴取にも応じる必要があります。
Q警察が先に被疑者を逮捕したら消防の調査は終わりですか?
A終わりません。事件が検察官に送致されるまでは、消防長又は消防署長が独自に質問や証拠物の調査を続けることができます。ただし警察の捜査に支障を与えない範囲に限られます。
Q消防と警察には説明を別々の内容で伝えてもよいのですか?
A内容を変えることはおすすめできません。両者は相互協力の義務を負っているため、事実関係が食い違うとかえって確認に時間がかかります。同じ事実を一貫して伝えてください。
Q現場の焼け跡はいつから片づけてよいのですか?
A消防・警察双方の調査が済み、片づけてよいと明確に指示を受けてからにしてください。自己判断で片づけると証拠保全の妨げになるおそれがあります。

まとめ

消防の火災原因調査と警察の犯罪捜査は目的も権限も異なります
消防が調査しても警察が捜査する責任は免除されません
警察が逮捕したあとでも検察官送致までは消防が独自に質問できます
消防の質問や調査は警察の捜査に支障を来してはならないという歯止めがあります
放火・失火絶滅の共同目的のため消防吏員と警察官には相互協力の義務があります
消防にも警察にも同じ事実関係を一貫して伝えることが実務の基本です
現場は指示があるまで片づけず、日頃の点検・訓練記録を整理しておきましょう

消防と警察の関係がよく分かりました!
記録の整理から始めます!

ぜひ日頃の備えを大切にしてください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

まずはWebで無料お見積りを!

お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 消防法第31条・第32条(消防長又は消防署長による火災原因の調査)
  • 消防法第35条・第35条の2(放火又は失火の疑いがある場合の規定)
  • 消防法第35条の4(犯罪捜査との関係及び消防と警察の相互協力)

※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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