建築設備の定期検査といえば、完成した建物の設備そのものに事故が起きたときの届出を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし東京都建築基準法施行細則第14条の3には、これとは別に、建築・修繕・模様替・除却の工事そのものに起因する事故を知事に報告させる規定があります。
対象になるのは工事施工者だけでなく、所有者や設計者まで含まれる場合があり、思わぬ形で自分の義務になることもあります。
この記事では、どんな工事が対象になり、誰がいつまでに何を報告しなければならないのかを、速報と詳細報告の違いに沿って整理して解説します。
実は今、うちのビルで外壁の大規模修繕工事をしているんですが、その最中に何かあったらどうなるんでしょうか。
建物の設備の点検とは別の話ですよね。
はい、工事そのものに起因する事故には別の届出規定があります。
まずは対象になる建物の規模から確認しましょう。
もし工事中に事故が起きたら、それを知事に報告するのは工事業者の役目ですよね。
私たち所有者には関係ないと思っていました。
実は所有者や設計者にも詳細報告の義務が及ぶ場合があります。
速報と詳細報告、それぞれの担当を見ていきましょう。
- 東京都建築基準法施行細則第14条の3は、建築設備そのものの事故(既存記事で解説した第3項)とは別に、工事に起因する事故の報告義務を定めている
- 対象になるのは木造で高さ13mまたは軒高9mを超えるもの、木造以外で2以上の階数を有するものに係る工事
- 敷地内の死者や敷地外の人的被害が出た場合、工事施工者が直ちに事故報告書(速報)を知事に報告しなければならない
- 速報のあとには所有者・管理者・占有者・建築主・設計者・工事監理者・工事施工者が速やかに詳細報告をする義務がある
- この規定は煙突・広告塔・高架水槽・擁壁など一定の工作物にも準用される
▼

目次
建設工事中の事故はなぜ知事への報告義務があるのか

実は工事そのものに起因する事故にも、別の届出規定が備わっています。
建築基準法第12条第5項は、特定行政庁などが工事の施工状況について報告を求められると定めており、この一般的な権限を土台に、東京都は施行細則第14条の3で具体的な報告手続を整えています。
すでに完成した建築物や建築設備そのものに起因する死者・重傷者事故の届出(第3項)は既存の記事で解説しましたが、今回扱う第1項・第2項・第4項は工事そのものに起因する事故を対象にしている点が異なります。
対象になる工事の種類は「建築」「修繕」「模様替」「除却」の4種類で、大規模な修繕工事も含まれます。
まずは、どの規模の建築物の工事が対象になるのかを確認していきましょう。
完成後の事故の届出は聞いたことがありますが、工事中の話は初耳です。
法第12条第5項を土台にした都独自の手続きです。
対象になる工事の規模から見ていきましょう。
どんな規模の建築物の工事が対象になるのか

施行細則第14条の3第1項は、対象になる建築物の規模を具体的に定めています。
木造の建築物は高さ13m超または軒の高さ9m超という規模要件があり、一般的な木造の戸建て住宅の増改築ではこの基準を満たさないことがほとんどです。
一方、木造以外の建築物は高さの要件がなく、2以上の階数があれば対象になるため、鉄骨造・鉄筋コンクリート造のビルは規模が小さくても当てはまりやすくなります。
対象になる工事は「建築」「修繕」「模様替」「除却」の4種類で、外壁改修や設備更新を伴う大規模修繕もここに含まれます。
自分のビルがどちらの構造に当てはまるかを、工事の発注前に確認しておくとよいでしょう。
うちは鉄骨造の3階建てなので、高さに関係なく対象になるということですね。
そのとおりです。
木造以外は2階以上で対象になるので、工事の前に確認しておくと安心です。
死者や敷地外の被害が出たら誰がすぐに報告するのか

まず求められるのは、状況をすぐに知事へ伝える「速報」です。
対象は敷地内における死者が生じた事故、または敷地外における人が危害を受けた事故で、工事に関わる人だけでなく通行人などの被害も含まれます。
「直ちに」という表現のとおり、事故の詳しい原因分析を待たず、分かっている範囲の状況をすぐに別記第二十一号様式の五(事故報告書・速報)で知事に伝えることが求められます。
この速報の義務を負うのは工事施工者であり、所有者や設計者にはまだこの段階での届出義務はありません。
ただし、速報だけで終わりではなく、このあとに詳細な報告が続きます。
事故の原因がまだはっきりしない段階でも、とにかく知事に報告しないといけないんですね。
はい、直ちに速報するのは工事施工者の義務です。
詳しい報告はこのあと別に求められます。
所有者や設計者にも詳細報告の義務が及ぶのか

実はこのあと、所有者を含む関係者全員に別の報告義務が生じます。
所有者・管理者・占有者・建築主・設計者・工事監理者・工事施工者という関係者全員が、それぞれの立場から速やかに詳細を報告することとされています。
つまり、たとえ自分が直接工事を発注した建築主や所有者であっても、事故の詳細報告に無関係ではいられません。
「速やかに」は「直ちに」よりも準備の時間的な余裕を認める表現で、別記第二十一号様式の六(事故報告書・詳細)でまとめて報告します。
工事を発注する立場になったときは、この義務が自分にも及ぶことをあらかじめ知っておく必要があります。
発注しただけの立場でも、詳細報告の義務が及ぶというのは意外でした。
所有者や建築主も含めた全員に義務がある規定です。
契約時に役割分担を決めておくと安心です。
工作物の工事にも同じ規定が及ぶのか

一定の工作物の工事にも、同じ報告の仕組みが及びます。
建築基準法第88条第1項が定める煙突・広告塔・高架水槽・擁壁や、昇降機などの工作物のうち政令で指定するものが対象に含まれます。
同条第2項の製造施設・貯蔵施設・遊戯施設等、第3項の工作物にも同じ第14条の3の速報・詳細報告の仕組みが準用されます。
建物の外にある擁壁や高架水槽の工事だからといって、事故報告の対象から外れるわけではありません。
自分のビルで大規模な修繕工事を発注するときは、契約前に速報・詳細報告それぞれの担当を工事業者や設計者とすり合わせておくと安心です。
高架水槽やブロック塀の工事も対象になるとは思っていませんでした。
工作物にも同じ仕組みが準用されます。
工事の前に役割分担を確認しておきましょう。
よくある質問
まとめ
この記事を読んで、速報と詳細報告の違いがよく分かりました!
次に工事を発注するときは契約書で役割分担を確認します!
その意識がもしもの事故のときに役立ちます。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法第12条・第88条
- 東京都建築基準法施行細則(昭和25年東京都規則第194号)第14条の3
- 東京都建築設備定期検査報告実務マニュアル2025年版
※本記事は東京都建築基準法施行細則にもとづき、㈱防災屋が独自に解説を作成したものです。事故報告の様式や運用は東京都独自のものであり、他の特定行政庁では取り扱いが異なる場合があります。実際の手続きにあたっては所管の特定行政庁や東京都の窓口に必ずご確認ください。





