高層ビルの特別避難階段の附室には、煙を外へ逃がす排煙設備が設けられています。
ところがこの排煙設備を、給気で圧力を高める加圧防煙設備に置き換えている建物があります。
なぜ排煙する設備の代わりに、逆に空気を送り込む設備が消防隊の活動を支えられるのでしょうか。
本記事では加圧防煙設備の性能基準と、代替として使う際に必要な手続きを解説します。
うちのビルの特別避難階段、附室に排煙口じゃなくて空気を送り込む吹き出し口があるんです。
ふつうの排煙設備と違うんでしょうか。
それはおそらく加圧防煙設備ですね。
排煙設備の代わりに使える設備として、国の認定を受けたものです。
排煙するはずの場所で空気を送るなんて、意味が逆に思えます。
煙を追い出すのではなく、拠点の中に煙を入れないという発想の設備なんです。
くわしく見ていきましょう。
- 加圧防煙設備は排煙設備に代えて使う特殊消防用設備等で、総務大臣の認定を受けたものだけが使えます。
- 対象は特別避難階段の附室や非常用エレベーターの乗降ロビーなど、耐火構造の壁と防火戸で区画された消防活動拠点です。
- 消防活動拠点には温度上昇10ケルビン以下・壁面温度100℃以下・扉の開閉力120ニュートン以下などの性能基準が定められています。
- 建物側の判断だけで排煙設備を勝手に加圧防煙設備へ置き換えることはできません。
- 導入後は設備等設置維持計画に従った維持管理を続ける必要があります。
▼

目次
排煙設備は加圧防煙設備に置き換えられるのか

この排煙設備は、条件を満たせば別の設備に置き換えることが認められています。
ポイントは「同等以上の性能」を持つと国が認めたものに限られるという点です。
排煙設備は火災時の煙を屋外へ排出しますが、加圧防煙設備は逆に拠点へ空気を送り込み、煙を寄せつけない仕組みで同じ目的を果たします。
この置き換えは消防法第17条第3項にもとづく特殊消防用設備等の制度によるもので、建物ごとに個別の認定が必要です。
つまり同じ「排煙設備の代わり」という名目でも、認定を受けていない設備を自己判断で設置することはできません。
うちの附室、たしかに排煙口じゃなくて空気を送る口がありました。
これも消防用設備等の一種ということですね。
その理解で合っています。
見た目は逆でも、法律上は排煙設備の代わりとして認められた設備です。
加圧防煙設備はどんな場所に設置されるのか

対象になる場所は、消防隊の活動拠点となる特定の区画に限られています。
具体的には特別避難階段の附室と、非常用エレベーターの乗降ロビーが代表例です。
どちらも耐火構造の床や壁で囲まれ、出入口には特定防火設備の防火戸が設けられていることが前提になります。
この区画そのものを「消防活動拠点」と呼び、加圧防煙設備は拠点の内側を煙から守る役割を担います。
一般の居室や廊下に単独で設置できる設備ではない点に注意が必要です。
附室と非常用エレベーターのロビーだけなんですね。
ほかの場所には使えないということですか。
はい、消防隊が活動する拠点として区画された場所が前提です。
設計段階からこの条件に合わせてつくられています。
消防活動拠点にはどんな性能基準が求められるのか

基準は温度や気流など、複数の数値で細かく定められています。
温度上昇10ケルビン以下・表面温度100℃以下という基準は、防火服を着た隊員が拠点内にとどまれることを意味します。
扉の開閉力が120ニュートン以下とされているのは、加圧した状態でも人の力で開閉できるようにするためです。
さらに拠点は水平距離50メートル以内で建物の各部分を包含し、連結送水管の放水口や防災センターとの通話装置も備えている必要があります。
つまり加圧防煙設備単体ではなく、拠点全体のしくみとして基準が組まれています。
温度や力の単位まで細かく決まっているんですね。
普通の排煙設備よりずいぶん厳しく感じます。
消防隊員が実際に中へ入って活動する前提だからです。
だからこそ国の個別認定が必要になります。
実務で見落としやすいのはどこか

見落としやすいのは、設置して終わりではないという点です。
加圧防煙設備はこの義務を代替する手段であり、建物の関係者が任意に選べる標準仕様ではありません。
導入するには総務大臣の認定と、あらかじめ作成した設備等設置維持計画への適合が前提になります。
認定を受けた後も、計画にない改修や仕様変更を無断で行うと認定の前提が崩れてしまいます。
つまり設置後の点検や維持管理も、計画に記載された内容どおりに続ける必要があります。
うちの建物も改修のときに設備を変えたことがあります。
その場合も届出とか必要になるんでしょうか。
認定を受けた設備である以上、勝手な変更はできません。
変更を検討する際は、必ず事前に所轄消防と相談してください。
明日からなにを確認すればよいか

新築でも改修でも、早い段階で押さえておきたい手順です。
- その設備が総務大臣の認定を受けた加圧防煙設備かどうかを、認定書や設計図書で確認する
- 設備等設置維持計画に記載された点検項目と周期を把握する
- 改修や模様替えを行う前に所轄消防署に事前相談する
- 附室や乗降ロビーの防火戸が常時閉鎖できる状態かを日常点検で見る
認定書や設計図書に設備等設置維持計画への適合が明記されているかを、まず確認してください。
次に計画に定められた点検項目と周期を把握し、日常点検の中に組み込みます。
防火戸が常に閉鎖できる状態にあるかは、加圧防煙設備の性能を左右する基本的な確認事項です。
改修を検討する段階になったら、着手前に所轄消防署へ相談することが遠回りに見えて一番確実です。
まずは認定書があるかどうかを確認してみます。
点検の記録もあわせて見ておきます。
それがいちばん確実な確認方法です。
何か気になる点があれば、いつでもお声がけください。
よくある質問
まとめ
附室の設備の意味がやっと分かりました!
点検の記録から確認してみます!
お力になれてなによりです。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法第17条第1項・第3項
- 消防法施行令第28条
- 平成18年11月30日消防予第500号(問67)
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





