防火管理者は、消防計画や避難マニュアルに避難勧告という言葉を残していませんか。
令和3年の災害対策基本法改正で、避難勧告は避難指示に一本化されました。
きっかけは、避難のタイミングがわかりにくく「指示待ち」の住民が多かったという調査結果でした。
実はこの改正、警戒レベルの呼び方だけでなく、緊急安全確保措置という新しい避難行動も加わっていることまでは、意外と知られていません。
「避難勧告」という言葉、もう使ってはいけないんですか。
実は令和3年の法改正で避難指示に一本化されたんです。
警戒レベルの中身まで含めて、順番に見ていきましょう。
この記事の結論
- 令和3年の災害対策基本法改正で、避難勧告は廃止され避難指示に一本化されました。
- 対象は水害・土砂災害等の避難情報で、警戒レベル4避難指示が住民に避難を求める情報です。
- 警戒レベル5緊急安全確保は必ず発令される情報ではなく、警戒レベル4避難指示までに必ず避難する必要があります。
- 緊急安全確保措置は、屋内での待避だけでなく近傍の堅固な建物への退避等も含みます。
- 施行日(令和3年5月20日)より前に発令された避難勧告は、経過措置により避難勧告のまま効力が続きます。
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避難勧告はなぜ廃止されて避難指示に一本化されたのか
避難情報は長く「避難勧告」と「避難指示」の2段階で運用されてきました。
まずは一本化に至った経緯を確認します。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について 令和3年5月10日 府政防第601号・消防災第60号)避難勧告を「避難の準備を始める段階」等と誤って認識している人が多く、実際に避難するタイミングが避難勧告であると回答した人は約4分の1と限定的であった。また、避難勧告と避難指示の違いが理解されておらず、避難指示が発令されるまで避難しない、いわゆる「指示待ち」の人が依然として多いことも明らかになった。(略)2段階あると避難勧告では避難しなくていいと誤解され、指示待ちにつながるおそれがある等の理由から、避難勧告と避難指示を避難指示へ一本化することとした。
避難勧告は、住民に十分伝わっていませんでした。
住民アンケートでは、
避難のタイミングが避難勧告だと答えた人は約4分の1にとどまりました。
市町村長へのアンケートでも「2段階あると避難勧告では避難しなくていいと誤解される」との意見が出ました。
これらを踏まえ、
令和3年の法改正(災害対策基本法第60条第1項関係)で避難勧告と避難指示が避難指示へ一本化されました。
次は、この避難指示が誰にいつ発令されるのかを見ていきます。
避難勧告と避難指示、正直あまり区別していませんでした。
警戒レベル4避難指示は誰にいつ発令されるのか
避難指示は、誰に対しても一律に出されるわけではありません。
条文の定義を確認します。
(災害対策基本法第60条第1項)災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、人の生命又は身体を災害から保護し、その他災害の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の必要と認める居住者等に対し、避難のための立退きを指示することができる。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)この規定に基づき、水害・土砂災害において、市町村長は警戒レベル4避難指示を発令し、住民の避難を促すこととなる。同避難情報の発令及び基準の検討に当たっては、「避難情報に関するガイドライン」(令和3年5月(内閣府防災担当))を参考にされたい。
避難指示は、市町村長が必要と判断した地域の、必要と判断した居住者等だけに発令されます。
浸水想定区域のマンション低層階など、
上層階で安全を確保できる住民は対象から外れることもあります。
水害・土砂災害では、
警戒レベル4として避難指示が発令され、住民に避難を促します。
発令や基準の検討には「避難情報に関するガイドライン」(内閣府防災担当)が参考にされています。
次は、さらに一段階上の警戒レベル5緊急安全確保措置を見ていきます。
うちのマンションは高層階だから、対象にならないこともあるんですね。
立地や構造によって対象が変わります。
次は警戒レベル5を見ていきましょう。
警戒レベル5緊急安全確保措置は何を求めているのか
警戒レベル4避難指示の、さらに先の段階を確認します。
条文の定義を見ていきます。
(災害対策基本法第60条第3項)災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、避難のための立退きを行うことによりかえつて人の生命又は身体に危険が及ぶおそれがあり、かつ、事態に照らし緊急を要すると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の必要と認める居住者等に対し、高所への移動、近傍の堅固な建物への退避、屋内の屋外に面する開口部から離れた場所での待避その他の緊急に安全を確保するための措置(以下「緊急安全確保措置」という。)を指示することができる。
緊急安全確保措置は、避難のための立退きがかえって危険なときに指示される行動です。
旧法の「屋内での待避」に加え、
近傍の堅固な建物への退避という屋外への移動も含むよう拡張されました。
これは
警戒レベル5にあたり、既に災害が発生し、又は切迫した段階で発令されます。
高所への移動や、屋内でも窓から離れた場所への移動もこの措置に含まれます。
次は、この段階を待ってはいけない理由を見ていきます。
近くの頑丈な建物に逃げ込むのも、正式な避難行動なんですね。
屋外への移動も含めて認められています。
次は注意点を見ていきましょう。
実務で見落としやすいのはどこか
ここで、勘違いしやすい点を確認します。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)緊急安全確保は必ず発令される情報ではないことから、住民に対して、警戒レベル5緊急安全確保の発令を待つことなく、警戒レベル4避難指示までに必ず避難すべきことについて十分に周知されたい。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)なお、改正法施行日の以前に発令された避難勧告については、改正法の経過措置により、改正施行後も避難勧告としての効力が継続することとなることに留意されたい(そのため、解除も避難勧告として解除を行うこととなる。)。
警戒レベル5緊急安全確保は、必ず発令される情報ではありません。
市町村が状況を把握できないまま、
発令されずに被害が拡大するおそれもあります。
そのため、
警戒レベル4避難指示までに必ず避難するという原則が周知されています。
また、令和3年5月20日の施行日より前に出された避難勧告は、
経過措置により避難勧告のまま効力が続きます。
古い避難勧告の記録や掲示物を、避難指示だと誤読しないよう注意が必要です。
「レベル5が出るまでは大丈夫」と思ってしまいそうです。
それは危険な思い込みです。
レベル4までに避難してください。
明日から何を確認すればよいのか
最後に、建物の防災体制で確認しておきたい手順を整理します。
要配慮者への配慮もあわせて確認します。
(災害対策基本法第56条第2項)市町村長は、前項の規定により必要な通知又は警告をするに当たつては、要配慮者に対して、その円滑かつ迅速な避難の確保が図られるよう必要な情報の提供その他の必要な配慮をするものとする。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)この規定に基づき、水害・土砂災害において、市町村長は警戒レベル3高齢者等避難を発令し、避難に時間を要する要配慮者の避難を促すこととなる。また、普段から避難行動要支援者名簿及び個別避難計画の作成等を通じて、要配慮者の把握及び具体的な避難方法の検討に努めるとともに(略)情報の入手方法等について周知に努める必要がある。
まず、消防計画や避難マニュアルの「避難勧告」という表記を、避難指示に書き換えます。
あわせて、
警戒レベル3高齢者等避難の段階で、要配慮者の避難行動をどう始めるかを確認します。
要配慮者には、
避難のタイミングが伝わる情報提供を早めに行う配慮が法律上も求められています。
訓練や避難計画の説明でも、警戒レベルの数字と行動をセットで案内すると伝わりやすくなります。
制度は変わっても、最後に判断し行動するのは現場の防火管理者です。
数字と行動をセットで覚えれば、訓練でも説明しやすそうです。
要配慮者への早めの声かけが鍵になります。
よくある質問もあわせてご確認ください。
よくある質問
Q避難勧告という言葉は、もう一切使われないのですか?
A新たに発令される避難情報としては使われません。ただし、改正法の施行日より前に発令された避難勧告は、経過措置により避難勧告のまま効力が続き、解除も避難勧告として行われます。
Q警戒レベル5緊急安全確保が発令されるまで避難しなくてよいのですか?
Aいいえ。警戒レベル5緊急安全確保は必ず発令される情報ではありません。市町村長が状況を把握できないまま発令されないこともあるため、警戒レベル4避難指示までに必ず避難する必要があります。
Q緊急安全確保措置は、屋内にとどまることしか認められませんか?
Aいいえ。屋内で窓から離れた場所にとどまる方法に加えて、高所への移動や近傍の堅固な建物への退避という屋外への移動も含むよう改正されました。
Q避難指示は、地域の住民全員に発令されるのですか?
Aいいえ。改正後は「必要と認める地域の必要と認める居住者等」に対象が限定され、浸水想定区域のマンション低層階などに絞って発令できるようになりました。
まとめ
✔避難勧告と避難指示は、令和3年の法改正(災害対策基本法第60条第1項関係)で避難指示に一本化されました。
✔きっかけは、指示待ちの心理と情報の分かりにくさを示した住民アンケートの結果でした。
✔警戒レベル4避難指示は、必要と認める地域の必要と認める居住者等に発令されます。
✔警戒レベル5緊急安全確保措置(法第60条第3項関係)は、近傍の堅固な建物への退避等も含みます。
✔緊急安全確保は必ず発令される情報ではなく、警戒レベル4避難指示までに必ず避難する必要があります。
✔施行日より前に発令された避難勧告は、経過措置により避難勧告のまま効力が続きます。
✔要配慮者への警報の伝達(法第56条第2項関係)にも、円滑かつ迅速な避難のための配慮義務が加わりました。
それが一番の備えになります。
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この記事を書いた人
㈱防災屋Web編集部
元消防士、行政書士、高専卒など
防火管理者には「セルフ選任」と「プロ代行」の2択があることをもっと多くの方々に知ってもらい、世の中の防火管理レベルをもっと上げていきたい。
0にはできない火災リスクとの向き合い方を伝え、救える命を増やし、悲しみの総量を減らしたい。
後悔してからでは遅すぎる火災予防に、Webの力で取り組む㈱防災屋の編集部です。
監修・編集者
青木 俊輔
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
主な活動
参考・出典
- 災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について(令和3年5月10日 府政防第601号・消防災第60号)
- 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第56条第2項・第60条第1項・第60条第3項
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。