建築基準法第35条は、一定の用途・規模の建築物に対して、廊下や階段、出入口などの避難施設と排煙設備について、避難上及び消火上支障がないよう政令で定める技術的基準に適合させることを義務付けています。
建てた当時は基準を満たしていた建築物でも、その後の増築や改築によって状況が変わることがあります。
こうした「既存不適格建築物」が増築や改築をしようとすると、原則としては避難階段や排煙設備についても建物全体を現行基準に合わせる必要が生じます。
けれども一定の要件を満たせば、建築基準法施行令第137条の6の2により、この負担が一部緩和されます。
うちの建物には避難階段や排煙設備を設置していて、以前からそのまま使っています。
増築するなら、それらも今の基準に合わせないといけませんか。
いいえ、要件を満たせば増築しても今の避難階段や排煙設備のままで構いません。
建築基準法施行令第137条の6の2という緩和の規定があるんです。
緩和があるんですね、少し安心しました。
どんな増築や改築が対象になるんでしょうか。
対象になるのは、法第3条第2項により避難施設や排煙設備の技術的基準の適用を受けない建築物の増築や改築です。
この記事で、対象と要件を順番に確認していきましょう。
- 既存不適格建築物も、要件を満たせば避難階段や排煙設備の基準を維持したまま増築や改築ができます(建築基準法第86条の7第1項)。
- 対象となるのは、法第3条第2項により現行の第35条の階段等に関する技術的基準の適用を受けない建築物です(施行令第137条の6の2)。
- 緩和には2つのルートがあり、区画によって別の建築物とみなす方法と、床面積を基準時の延べ面積の20分の1以内に収める方法があります。
- 区画による方法は、増築等に係る部分とその他の部分をそれぞれ第117条第2項や第126条の2第2項の区画基準に適合させ、かつ増築等の部分自体を国土交通大臣が定める基準に適合させる必要があります。
- 居室の部分に係る増築については、床面積の割合による方法は使えず、区画による方法だけが対象になります。
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目次
なぜ避難施設や排煙設備の基準は増築のたびに問題になるのか

建築基準法第35条は、この避難施設と排煙設備について、政令で定める技術的基準に適合させることを求めています。
建てた当時はこの基準に適合していた建築物も、その後の増築や改築で状況が変わることがあります。
これが建築基準法第3条第2項が定める「既存不適格建築物」で、そのまま使い続けること自体は認められています。
問題になるのは増築や改築をするときで、原則としては工事にあわせて避難階段や排煙設備についても現行の第35条の基準に適合させなければなりません。
建てたときは基準を満たしていたのに、増築するとやり直しになるかもしれないんですね。
何か救済はないんでしょうか。
増築や改築の内容によっては、今の避難階段や排煙設備のままで構わないことがあります。
次の章で対象と範囲を確認しましょう。
増築や改築で緩和を受けられるのはどんな範囲の建築物か

対象になる建物と工事の範囲は、法律と政令の両方で決められています。
建築基準法第86条の7第1項は、第3条第2項により第35条など複数の規定の適用を受けない建築物について、政令で定める範囲内で増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合に、その規定を適用しないと定めています。
このうち避難階段や排煙設備に関する増築・改築の範囲を具体的に定めているのが、次の章で見る施行令第137条の6の2です。
この条項が対象とするのは第五章第二節(廊下、避難階段及び出入口)のうち第119条(廊下の幅)を除いた部分と、第三節(排煙設備)の技術的基準です。廊下の幅の基準はこの緩和の対象に含まれません。
廊下の幅は対象外なんですね。
避難階段や排煙設備の方は、具体的にどんな要件を満たせばいいんでしょうか。
要件には2つのルートが用意されています。
次の章で条文を確認しましょう。
緩和を受けるための2つのルートとはなにか

施行令第137条の6の2は、増築や改築に係る部分について、次の2つのルートのいずれかに該当することを求めています。
第一号の区画による方法は、増築等に係る部分とその他の部分が、それぞれ第117条第2項各号に掲げる「別の建築物とみなせる部分」となり、かつ増築等の部分自体が国土交通大臣の定める基準に適合することを求めます。
第二号の床面積の割合による方法は、増築等に係る部分の床面積の合計が基準時における延べ面積の20分の1を超えず、かつその他の部分の避難の安全上支障とならないことを求めます。
いずれか一方を満たせばよく、両方を満たす必要はありません。
区画するか、床面積を抑えるか、どちらか選べるんですね。
どちらを選んでも同じように使えるんでしょうか。
実は、増築の内容によっては選べる範囲が狭まります。
次の章で見落としやすい点を説明します。
居室の部分に係る増築ではなぜルートが1つに絞られるのか

条文の書き出し部分に、この制限が明記されています。
「居室」とは、居住、執務、作業、集会、娯楽その他これらに類する目的のために継続的に使用する室のことです。
条文は「次の各号のいずれか」としながら、括弧書きで居室の部分に係る増築については「第一号」だけに限定しています。
つまり居室の増築では、区画による方法(第一号)しか使えず、床面積の合計が20分の1以内であることを理由に緩和を受けることはできません。
倉庫や機械室など居室に当たらない部分の増築であれば、この限定は及ばず、どちらのルートも選べます。
居室かどうかで使えるルートが変わるんですね。
実際に計画するときは何を確認すればいいでしょうか。
はい、条項ごとの範囲に注意してください。
最後に実務での確認手順をまとめます。
増築や改築を計画するときは何を確認すればよいか

判断に迷う部分があれば、早めに専門家へ相談するのが安全です。
- 自分の建築物が法第3条第2項の適用を受ける既存不適格に当たるかを確認する
- 増築や改築の対象部分が「居室」に当たるかどうかを区別する
- 居室の部分に係る増築なら、区画による方法(第一号)しか使えないことを確認する
- 居室に当たらない部分の増築や改築であれば、床面積の合計が基準時の延べ面積の20分の1以内に収まるかを試算する
- 区画による方法を選ぶ場合は、増築等の部分を国土交通大臣が定める基準に適合させられるかをあわせて確認する
- 廊下の幅(第119条)は緩和の対象外であることを取り違えないようにする
設計が固まってから要件を満たさないと分かると、計画の手戻りが発生します。
居室かどうかで選べるルートが変わることを踏まえて、早めに確認しておけば無理のない計画ができそうです。
次はよくある質問も見てみます。
はい、あわせてご確認ください。
次によくある質問をまとめました。
よくある質問
まとめ
増築や改築の計画を立てるときは、居室かどうかとルートの区別を確認しながら進めます!
建築物の増築や改築をお考えの際は、いつでもご相談ください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第3条・第35条・第86条の7
- 建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)第117条・第119条・第126条の2・第137条の6の2
※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄の特定行政庁または専門家にご確認ください。





