海外から輸入した化学品を、港で受け取って工場や倉庫まで運ぶ場面を思い浮かべてください。
その荷物が消防法の危険物だと知らないまま運ぶ人や預かる人が動くと、事故のときに対応が遅れます。
消防庁は令和4年12月13日、荷物の危険物情報を把握する発注者(荷主)を主体に、関係事業者へ情報を共有するよう依頼しました。
この記事では、消防危第277号とその根拠になった調査結果をもとに、荷主が何を確認すればよいかを解説します。
輸入した薬品は、通関の会社が分かっていれば足りるのではないですか。
消防庁の調査では、通関業者には伝わっていても、運ぶ人や預かる人には十分伝わっていませんでした。
伝わっていないと、どんな困りごとが出るのですか。
事故のときに危険物だと分からず、消防の対応が遅れます。
品川区の流出事故がその例です。
- 消防庁危険物保安室は令和4年12月13日付け消防危第277号で、危険物の輸送時に発注者(荷主)を主体として関係事業者間で情報を共有することを業界団体へ依頼しました。
- きっかけは令和2年2月に東京都で起きた品川区の流出事故で、詳細な危険物情報がなく消防活動が遅れたことです。
- 調査した40社では、荷主から通関手続業者への伝達は89.2パーセントでしたが、その他の関係事業者への伝達は十分ではありませんでした。
- 通知が求めたのは2点で、輸送事業者がイエローカードを携行できるようにする伝達と、輸送前後に貯蔵・取扱いを行う事業者への伝達です。
- 危険物の運搬は、消防法第16条により政令で定める基準に従って行うものとされ、類を異にする危険物の混載などは政令と規則で禁じられています。
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目次
危険物の輸送で荷主の情報伝達がなぜ問題になったのか

流出事故のとき、積荷が危険物だという情報が現場に届いていなかったことが問題になりました。
令和2年2月、ドラム缶48缶を積んだコンテナトレーラーから、危険物約165リットルが流出しました。
積荷は第4類の第3石油類8,839リットルと第4石油類813リットルで、指定数量の倍数は4.6倍でした。
報告書は、事故対応のときに詳細な危険物情報がなく、消防活動が遅れ、災害対応も困難だったと述べています。
消防庁は令和2年3月に事業者団体へ情報共有を依頼し、その後の検討会の結果を踏まえて今回の通知を出しました。
品川区の事故が、この通知のきっかけなんですね。
はい。
危険物情報が伝わっていなかったことが出発点です。
この通知はだれになにを依頼しているのか

別紙の依頼文には、加盟会社へ周知してほしい2点が書かれています。
2 輸送前後(例えば、輸送途中での港湾バースにおける一時保管等)で危険物の貯蔵・取扱いを行う事業者において適切な貯蔵・取扱いが徹底されるよう、発注者(荷主)から当該事業者に対して危険物情報を適切に伝達すること。とあります。
依頼文は、一般社団法人日本化学工業協会と一般社団法人日本化学品輸出入協会の会長あてに出されました。
1点目は、輸送事業者がイエローカードを携行できるように、荷主から荷物の危険物情報を伝えることです。
2点目は、輸送の前後に危険物を貯蔵・取扱いする事業者へも、荷主から危険物情報を伝えることです。
都道府県あての本文では、管内の市町村へこの旨を周知するよう求めています。
うちは荷主ではないので、関係ない話でしょうか。
通知が向いているのは荷主から関係事業者への伝達です。
受け取る側も、伝わっているかを確かめておくと安心です。
40社の調査で情報の伝わり方はどこが弱かったのか

結果は、伝わっている場面と確認が薄い場面に分かれました。
| 調査した場面 | 「伝達している」「確認している」の割合 |
|---|---|
| 荷主から通関手続業者へ危険物であることを伝達 | 89.2パーセント |
| 通関手続業者から輸送者・バース管理者へ伝わったことの確認 | 51.4パーセント |
| 荷主から海外の事業者へ危険物であることを伝達 | 43.2パーセント |
| 船会社から港湾のバース管理者へ伝わったことの確認 | 34.3パーセント |
| 海外の事業者から船会社へ伝わったことの確認 | 28.6パーセント |
※検討会の報告書(令和4年12月)第3章の記載から作成。「該当する事例がない」を除いた割合。
荷主から通関手続業者への伝達は進んでいましたが、それ以外は半数前後かそれ以下でした。調査は令和3年9月21日から10月29日に行われ、2団体に加盟する40社すべてから回答が得られました。
荷主から通関手続業者へ危険物であることを伝えていた割合は、89.2パーセントです。
一方で、海外の事業者への伝達は43.2パーセント、船会社からバース管理者へ伝わったことの確認は34.3パーセントにとどまりました。
報告書は、確実に危険物情報が共有されたかが不透明だと分析しています。
通関の会社まで伝わっているなら、安心してよいのでは。
その先の輸送者やバース管理者へ届いたかを確認していたのは、半数ほどです。
情報が伝わらないとどんな事故につながったのか

どれも、関係事業者が積荷の危険性を正しく知らなかったことが背景にあります。
| 発生 | 事故の概要 | 情報の伝達状況 |
|---|---|---|
| 平成20年7月 大分県 | ドライコンテナ内で硝酸が流出し、ブトキシエタノールと接触して出火 | 通関手続業者とバース管理者は、危険物があると認識していなかった |
| 平成30年5月 東京都 | 化粧品を運搬中のコンテナセミトレーラーから出火 | 荷主は危険物と認識していたが、危険物に該当する標記のない英文のSDSを渡しただけだった |
| 令和元年9月 兵庫県 | 輸入したドライコンテナから貨物を取り出すとき、ポリ容器9本に漏えいの跡 | 多数の企業が関わって役割が分散し、消防への通報まで7日間かかった |
※検討会の報告書(令和4年12月)第3章の記載から作成。
危険物の運搬は、その容器、積載方法及び運搬方法について政令で定める技術上の基準に従つてこれをしなければならない。
危険物の規制に関する政令第29条第6号
危険物は、総務省令で定めるところにより、類を異にするその他の危険物又は災害を発生させるおそれのある物品と混載しないこと。
危険物の規制に関する規則第46条第1項第1号
令第二十九条第六号の規定により、危険物と混載することができない物品は、別表第四において、混載を禁止されている危険物(略)とする。
品川区の事故では、関係事業者が危険物だという認識に欠け、運搬基準等に係る消防法令に違反していたことが明らかになったと報告書は述べています。
大分県の事例では、第4類と第6類の危険物が積まれており、報告書は、この混載が規則の別表第四で禁止されていると注記しています。
東京都の事例では、荷主が危険物と分かっていながら、危険物に該当すると伝えていませんでした。
兵庫県の事例では、多数の企業が関わったために危険性が正確に認識されず、消防への通報まで7日間かかっています。
SDSを渡していれば、伝えたことになるんじゃないですか。
東京都の事例では、危険物に該当する標記のない英文のSDSだけで、危険物だと伝わっていませんでした。
荷主は明日からなにを確認すればよいのか

報告書には、進んでいる会社の取組みが推奨事例として挙がっています。
- 輸入する化学品が消防法の危険物に当たるかを、SDSなどの書類で確かめる
- 海外の事業者や通関手続業者へ、危険物に該当することをはっきり伝える
- 荷物に、消防法の危険物に該当する旨のラベルを貼る
- 輸送事業者へイエローカードを渡し、携行してもらう
- 関係者へ伝わったことの報告を求め、輸送前後に保管する事業者にも伝える
通知が求めているのは、荷主から関係事業者へ危険物情報を伝えることです。
イエローカードは、平成7年に日本化学工業協会が制定した、事故時の応急措置などを記したカードです。
自社の輸送の流れを、海外の事業者から届け先まで図に書き出すと、情報が届いていない相手が見つかります。
見つかった相手には、危険物情報を伝え、伝わったかの報告まで求めておきましょう。
まず自社の荷物の伝え先を書き出せばいいんですね。
はい。
伝え先ごとに伝わったかの報告まで確認しましょう。
よくある質問
まとめ
伝える相手を書き出して、伝わったかの確認まで進めます!
危険物を扱う現場の防火管理も、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 危険物輸送時における発注者(荷主)を主体とした関係事業者間の情報共有について(令和4年12月13日 消防危第277号 消防庁危険物保安室長)
- 危険物輸送の動向等を踏まえた安全対策の調査検討報告書(令和4年12月 危険物輸送の動向等を踏まえた安全対策の検討会)第3章
- 港湾地区での危険物輸送時における関係事業者間での情報共有について(令和2年3月19日 消防危第70号)
- 消防法(昭和23年法律第186号)第16条
- 危険物の規制に関する政令(昭和34年政令第306号)第29条
- 危険物の規制に関する規則(昭和34年総理府令第55号)第46条・別表第四
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





