平成24年3月30日、消防庁は消防予第130号で、特別養護老人ホーム等の2階建て準耐火建築物設置事業の全国展開を通知しました。
きっかけは、構造改革特区の特例措置が、全国で使えるようになったことです。
通知は、要件を満たす施設の相談を受けたら、施設の実態を踏まえて対応するよう消防機関に求めています。
この記事では、通知が出た経緯と対象、3つの要件と見落としやすい点を、消防庁の通知と現行の条文をもとに解説します。
新しく計画している特別養護老人ホームは2階建てです。
2階に居室を置くと、耐火建築物が必要になるのでしょうか。
まず、消防庁が通知を出した理由と対象を見ていきましょう。
結論は、要件を満たせば準耐火建築物にできる場合がある、です。
消防署に相談しておけば、それで足りるのでしょうか。
いいえ。
通知が示した3つの要件を、順にお伝えします。
- 消防庁は平成24年3月30日の消防予第130号で、構造改革特区の特例が全国展開されたことを受けた厚生労働省の通知を都道府県等に伝え、消防機関にも運用への配慮を求めました。
- 対象は、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・短期入所生活介護事業所・介護予防短期入所生活介護事業所の4つです。
- 2階又は地階に居室等を設ける場合でも、3つの要件を満たしていれば準耐火建築物とすることができるとされました。
- 基本設計の段階で消防長又は消防署長に相談し、避難時間が各区画の限界時間を下回ることを示す資料を提示します。
- 運営開始後も、昼間及び夜間の避難訓練と地域住民等との連携体制が、都道府県知事等の監査で確認されます。
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目次
特別養護老人ホームの2階建て準耐火建築物はなぜ全国で認められたのか

通知が述べる理由は、厚生労働省の省令改正が、通知と同じ平成24年3月30日に公布・施行されたことです。
標記の件について、今般、厚生労働省より別添のとおり通知が発出されました。別添通知は、「厚生労働省関係構造改革特別区域法第2条第3項に規定する省令の特例に関する措置及びその適用を受ける特定事業を定める省令等の一部を改正する省令」(平成24年厚生労働省令第53号。以下「改正省令」という。)が、本日公布及び施行されたことに伴い、「所在地を管轄する消防長(消防本部を設置しない市町村においては、市町村長)又は消防署長と相談の上、非常災害に係る具体的計画に入所者の円滑かつ迅速な避難を確保するために必要な事項を定める」等の要件を満たしている場合には、2階又は地階に入所者の日常生活に充てられる居室、静養室、食堂、浴室及び機能訓練室を設ける場合であっても、特別養護老人ホーム等(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、短期入所生活介護事業所及び介護予防短期入所生活介護事業所をいう。以下同じ。)を準耐火建築物とすることができることを主な内容とするものです。
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、指定短期入所生活介護事業所及び指定介護予防短期入所生活介護事業所(以下「特別養護老人ホーム等」という。)については、原則として耐火建築物でなければならないこととされており、2階及び地階に居室(療養室)その他の入所者の日常生活に充てられる場所(以下「居室等」という。)を設けていない場合のみ準耐火建築物とすることとされているが、構造改革特別区域法(平成14年法律第189号)に基づく特例措置として、一定の要件の下で、2階に居室等を設ける場合等にも準耐火建築物とすることが認められているところである。今般、当該特例措置について、「構造改革特別区域において講じられた規制の特例措置の評価に係る評価・調査委員会の意見に関する今後の政府の対応方針」(平成23年3月30日構造改革特別区域推進本部決定)において全国展開することとされたことに伴い、特別養護老人ホーム等が、安全性に係る一定の要件を満たしている場合には、2階に居室がある場合等においても準耐火建築物とすることを可能とするため、所要の省令改正を行う。
通知は消防庁予防課長から、各都道府県消防防災主管部長、東京消防庁、各政令指定都市消防長へ宛てて出されました。
特例は、構造改革特別区域法に基づく特例措置として認められていたものです。
政府の対応方針(平成23年3月30日構造改革特別区域推進本部決定)で全国展開することとされ、省令が改正されました。
消防機関には、改正省令に基づく相談があった場合に、施設の実態を踏まえた対応をお願いしています。 通知の概要は、次の表のとおりです。
| 項目 | 通知の内容 |
|---|---|
| 通知 | 平成24年3月30日 消防予第130号「構造改革特別区域における「特別養護老人ホーム等の2階建て準耐火建築物設置事業」の全国展開について」 |
| 発出 | 消防庁予防課長 |
| 宛先 | 各都道府県消防防災主管部長、東京消防庁、各政令指定都市消防長 |
| 別添 | 厚生労働省老健局長通知 平成24年3月30日 老発0330第3号 |
| 理由 | 特区の特例措置の全国展開に伴う、厚生労働省の省令改正(平成24年厚生労働省令第53号)の公布・施行 |
| 施行期日 | 公布日(平成24年3月30日) |
事故が起きて出された通知ではないのですね。
はい。
制度の全国展開に伴う通知なので、まず何が変わったのかを押さえましょう。
この通知の対象になる施設はどこまでなのか

原則は耐火建築物で、準耐火建築物にできるのは要件を満たした場合に限られます。
特別養護老人ホーム等が、以下の要件を満たしている場合には、2階又は地階に居室等を設ける場合にも準耐火建築物とすることを可能とする。
特別養護老人ホームの建物(入所者の日常生活のために使用しない附属の建物を除く。)は、耐火建築物(略)でなければならない。ただし、次の各号のいずれかの要件を満たす二階建て又は平屋建ての特別養護老人ホームの建物にあっては、準耐火建築物(略)とすることができる。
(略)
通知が示した関係規定は、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、短期入所生活介護事業所、介護予防短期入所生活介護事業所の基準に分かれています。
特別養護老人ホームの現行の基準(第11条第1項)は、二階建て又は平屋建ての建物に限って準耐火建築物を認めています。
つまり、この特例を使えるのは、2階建てまでと読めます。
通知が示した関係規定を、施設・事業所ごとに並べると、次の表のとおりです。
| 施設・事業所 | 通知が示した関係規定(通知時点) |
|---|---|
| 特別養護老人ホーム | 特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準 第11条第1項、第35条第1項、第55条第1項、第61条第1項 |
| 短期入所生活介護事業所 | 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 第124条第1項、第140条の4第1項 |
| 介護老人保健施設 | 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準 第4条第1項第1号、第41条第4項第1号 |
| 介護予防短期入所生活介護事業所 | 指定介護予防サービス等の事業の人員、設備及び運営並びに指定介護予防サービス等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準 第132条第1項、第153条第1項 |
対象は、特別養護老人ホームだけではないのですね。
はい。
4つの施設・事業所が対象で、根拠になる省令もそれぞれ別です。
2階に居室を置くときに満たす3つの要件は何か

現行の基準は、これらを「全てを満たすこと」と定めています。
イ 所在地を管轄する消防長(消防本部を設置しない市町村においては、市町村長。以下同じ。)又は消防署長と相談の上、非常災害に関する具体的計画(以下「計画」という。)に入所者の円滑かつ迅速な避難を確保するために必要な事項を定めること。
ロ 避難、救出等の訓練については、計画に従い昼間及び夜間において行うこと。
ハ 火災時における避難、消火等の協力を得ることができるよう、地域住民等との連携体制を整備すること。
居室等を二階又は地階に設けている場合であって、次に掲げる要件の全てを満たすこと。
イ 当該特別養護老人ホームの所在地を管轄する消防長(消防本部を置かない市町村にあっては、市町村長。以下同じ。)又は消防署長と相談の上、第八条第一項に規定する計画に入所者の円滑かつ迅速な避難を確保するために必要な事項を定めること。
ロ 第八条第二項に規定する訓練については、同条第一項に規定する計画に従い、昼間及び夜間において行うこと。
ハ 火災時における避難、消火等の協力を得ることができるよう、地域住民等との連携体制を整備すること。
第1に、所在地を管轄する消防長又は消防署長と相談の上、非常災害に関する具体的計画に、入所者の円滑かつ迅速な避難を確保するために必要な事項を定めます。
第2に、避難や救出等の訓練を、計画に従い昼間と夜間に行います。
第3に、火災時の避難や消火等の協力を得られるよう、地域住民等との連携体制を整えます。
通知は、これらを満たしている場合に、準耐火建築物とすることができるという内容です。 通知の要件と現行の基準を並べると、次の表のとおりです。
| 要件 | 通知の内容 | 現行の基準(特別養護老人ホーム) |
|---|---|---|
| イ | 消防長又は消防署長と相談の上、非常災害に関する具体的計画に避難確保に必要な事項を定める | 第11条第1項第2号イ(計画は第8条第1項) |
| ロ | 避難、救出等の訓練を、計画に従い昼間及び夜間に行う | 第11条第1項第2号ロ(訓練は第8条第2項) |
| ハ | 避難、消火等の協力を得られる、地域住民等との連携体制を整備する | 第11条第1項第2号ハ |
つまり、消防との相談と、昼夜の訓練と、地域との連携がそろえばよいのですね。
そのとおりです。
3つとも満たすことが前提です。
消防への相談では何を示し、どこを見落としやすいのか

見落としやすいのは、相談の時期、避難時間を示す資料、意見の書面、運営開始後の監査の4つです。
① 申請者は、施設又は事業所(以下「施設等」という。)の基本設計段階において、所在地を管轄する消防長又は消防署長と相談を行う際に、当該基本設計に基づき建設された場合において、適切な避難活動を行えば安全な避難が可能なことを示す資料を提示すること。
② 具体的には、当該基本設計で定める施設等の建設計画、構造、設備等について、(略)に基づき、施設等の建物内の各区画等の滞在可能時間(限界時間)を設定し、想定される最も避難が困難な入所の状況(施設等が満床であり、かつ、全ての入所者又は利用者が自ら避難することが困難な者である場合等)及び夜間等の最も職員配置が希薄な状況において、避難上不利な場所で火災が発生した場合における避難時間等を算出し、当該避難時間等が各区画等の滞在可能時間(限界時間)を下回るものであることを示すものであること。その際、避難時間等が各区画等の滞在可能時間(限界時間)を超える場合においては、当該基本設計で定める施設等の建設計画、構造、設備等について見直しを行うこと。
③ 申請者は、消防長又は消防署長から、相談に関する意見を書面で受領し、認可、許可又は指定の申請の際に、都道府県知事等に提出すること。
都道府県知事等は、特別養護老人ホーム等が運営を開始した後、監査時において、計画に従い昼間及び夜間において避難、救出等の訓練が実施されていること及び火災時における避難、消火等の協力を得ることができるよう、地域住民等との連携体制が整備されていることを確認すること。
第1に、相談は建物ができてからではなく、基本設計の段階で行います。
第2に、満床で全員が自力避難困難、夜間で職員が最も少ない状況でも、避難時間が各区画の限界時間を下回ることを示します。
限界時間の設定は、通知が挙げる夜間の防火管理体制指導マニュアル(消防予第36号)と、小規模社会福祉施設の特例通知(消防予第231号)に基づくとされています。
第3に、消防長又は消防署長の意見は書面で受け取り、認可等の申請の際に都道府県知事等へ提出します。
第4に、運営開始後の監査で、昼夜の訓練と地域住民等との連携体制が確認されます。 相談から運営開始後までの流れを、次の表に整理しました。
| 段階 | だれが | なにをするか |
|---|---|---|
| 基本設計の段階 | 申請者 | 消防長又は消防署長に、安全な避難が可能なことを示す資料を提示して相談する |
| 認可等の申請 | 申請者 | 消防から受けた相談に関する意見を書面で受領し、都道府県知事等へ提出する |
| 認可等の審査 | 都道府県知事等 | 消防長又は消防署長との相談が適切に行われたことを確認した上で、認可・許可・指定を行う |
| 運営開始後 | 都道府県知事等 | 監査時に、昼夜の訓練と地域住民等との連携体制を確認する |
基本設計が終わってから、消防署に相談すればよいと思っていました。
いいえ。
通知は、基本設計の段階での相談を求めています。
明日から何を確認し、どう備えればよいのか

計画や施設に当てはめて、次の5点を確かめてみてください。
① 要介護度の高い者又は認知症を有する者などの自力避難が困難な入所者については、一階に入所させる等、十分な配慮を行うこと。
② 火災時の非常事態に即応するため、入所者等の状態を日常的に把握し、その状態に応じた適切な搬送体制を確立すること。
③ 夜間は、職員の配置が希薄となること等から、避難誘導に著しく混乱を生ずることもあるので、これに対処できるよう避難体制を整備すること。
通知は都道府県知事等への通知ですが、内容は施設を計画する側が自分で確かめるときの手がかりになります。
次の5点を、計画や施設に当てはめて確認してみてください。
- 居室等を2階又は地階に設ける計画かを確かめ、建物が2階建て以下に収まるかを見る
- 基本設計の段階で、所在地を管轄する消防長又は消防署長へ相談する日程を組む
- 満床で全員が自力避難困難、夜間の職員が最も少ない状況で、避難時間が各区画の限界時間を下回るかを算出しておく
- 消防長又は消防署長の意見を書面で受け取り、認可等の申請書類と一緒に都道府県知事等へ出せるようにしておく
- 昼間と夜間の避難訓練と地域住民等との連携体制を計画に定め、自力避難が困難な入所者は一階に入所させるなど配慮する
まず、うちの計画が2階建て以下かを確かめます。
所在地を管轄する消防署への相談も、早めに進めてください。
よくある質問
まとめ
計画の階数と相談の時期を確かめて、早めに動きます!
避難や消防設備の備えの相談も、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 「構造改革特別区域における「特別養護老人ホーム等の2階建て準耐火建築物設置事業」の全国展開について」(平成24年3月30日 消防予第130号 消防庁予防課長通知。別添:平成24年3月30日 老発0330第3号 厚生労働省老健局長通知)
- 「社会福祉施設及び病院における夜間の防火管理体制指導マニュアルについて」(平成元年3月31日 消防予第36号)、「小規模社会福祉施設に対する消防設備等の技術上の基準の特例の適用について」(平成19年6月13日 消防予第231号)
- 特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第46号)第8条・第11条 e-Gov法令検索
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





