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既存の小規模ビルで避難器具の設置を免除できるのか|昭和の質疑五問を現行の規則と照らして解説

既存の小規模ビルで避難器具の設置を免除できるのか

古い小さなビルでも、法令が変わって、新たに避難器具を付けなければならなくなることがあります。
隣の建物との間が数十センチメートルしかなく、避難器具を付ける場所すら取れない建物も少なくありません。
昭和の消防庁の質疑応答には、そうした既存の小規模ビルで避難器具を免除できるかを問う五つの事例が残っています。
この記事では、その五つを、消防法施行令第32条 や消防法施行規則第26条 などの現行の条文と照らして読みます。
免除できた条件と、できなかった場合の考え方を、順に確かめます。

古いビルに避難器具を付けろと言われても、付ける場所がないことがありますよね。

はい。
令第32条の特例が使えるかどうかが、昔から問われてきました。

今の条文とは、どうつながるんでしょうか。

一つずつ確かめます。
現行の条文に当てはめて読みます。

この記事の結論
  • 令第25条第1項第5号の改正で避難器具が必要になった既存の建物について、消防庁は、令第32条に基づく特例基準を示す予定はないと答えました
  • 主要構造部が耐火構造の小さな建物は、自動火災報知設備・非常警報設備・誘導灯を基準どおり設け、防火区画がなされているなら、令第32条を適用して免除して差し支えないとされました
  • 建物が木造の場合や、防火区画のない屋内階段の場合は、免除できないとされ、設置するなら階段と反対側に付けるよう指導されました
  • 隣の建物との間が狭いときは、隣接する建物の関係者と協議のうえ避難橋等を階段の反対側に設けるよう指導するとされました
  • 階段室は耐火構造の壁で区画して自動閉鎖装置付きの防火戸を設け、床面積が100平方メートルを超える階は100平方メートル以内ごとに区画することが条件でした

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既存ビルの避難器具免除五題として、免除の基準は個別に判断する、耐火造は警報設備と区画がそろえば免除を検討、木造は免除できず階段の反対側に設ける、隣の建物と協議して避難橋を設ける、階段室と百平方メートルの区画を確かめる、を並べた図解

避難器具が新たに必要になった既存ビルに、特例基準は示されたのか

ベージュの小さな三階建ての細いテナントビルが小さな敷地に建ち、建物の側面に沿って灰色の屋外階段が前面に走っているイメージ
避難器具は、令第25条で設置する防火対象物と階が決まっています。
昭和53年11月の改正で、既存のビルの中にも、新たに避難器具が必要になる建物が出ました。
問(要旨) 昭和53年11月1日の消防法施行令第25条第1項第5号の改正により、既存の防火対象物で新たに避難器具の設置が必要となる場合、その防火対象物の位置、構造又は設備の状況から極めて容易に避難できるものについて、令第32条を適用する際の特例基準を示す意向はあるか。あるとすれば、その時期はいつごろか。
答(要旨) 現在のところ、消防法施行令第32条の規定に基づく特例基準を示す予定はない。
(昭和55年6月10日 消防予第115号 消防庁予防救急課長から山形県生活福祉部長あて)
特例基準は示さず、個々の建物で判断するという答えでした。
問いは、改正で新たに避難器具が必要になった既存の建物について、基準を一括して示す考えがあるかを尋ねています。答えは、示す予定はないというものでした。
令第25条第1項第5号は、別表第一に掲げる防火対象物の3階(一部の用途は2階)以上の階のうち、地上に直通する階段が二以上設けられていない階で、収容人員が10人以上のものに、避難器具を求めています。
令第32条は、消防長又は消防署長が、位置、構造又は設備の状況から判断して、基準によらなくても火災の発生又は延焼のおそれが著しく少なく、被害を最少限度に止められると認めるときは、この節の規定を適用しないとしています。
また、令第25条第2項第1号のただし書は、避難上支障がないと認められるときは、総務省令で定めるところにより、避難器具の個数を減らし、又は設けないことができるとしています。現在は、これを受けた消防法施行規則第26条に、減免の条件が定められています。

特例基準は出ないけれど、今は規則に免除の条件があるんですね。

はい。
個別判断と、規則の減免の二本立てです。

耐火造の小さなビルは、警報設備と区画がそろえば免除できたのか

ベージュの廊下の壁に、灰色の四角い小さな自動火災報知設備の受信機と、丸いオレンジ色の警報ベルと、扉の上の紺色の四角い誘導灯が取り付けられているイメージ
二つ目の事例は、隣の建物と20〜30センチメートルしか離れていない耐火構造の2階建てです。
屋外階段があり、2階に十人ほどのテナントが二つ入っています。
問(要旨) 図1の既存の防火対象物(主要構造部が耐火構造の2階建て。屋外階段部分を除いて四面とも隣の建物と20〜30センチメートルほどしか離れておらず、外壁には排煙窓のほか開口部がない。避難空地とするための隣地の借用はできない。2階の各テナントの収容人員は10人)は、令第25条第1項第5号の改正で避難器具が必要になる。令第32条を適用して免除できないか。免除できない場合は、階段の反対側に設けなければならないか。
答(要旨) 次に適合する場合は、令第32条を適用して避難器具の設置を免除して差し支えない。
(ア)自動火災報知設備、非常警報設備及び誘導灯が、令第21条、第24条及び第26条の基準に従って設けられていること。
(イ)建築基準法施行令第112条第9項及び第15項の規定により区画がなされていること。
(昭和55年6月10日 消防予第115号 消防庁予防救急課長から山形県生活福祉部長あて)
警報・避難誘導の設備と防火区画が、免除の条件でした。
条件は二つです。一つは、火災を知らせて避難を促す設備を基準どおりに設けること、もう一つは、建築基準法施行令の規定による区画がなされていることです。
令第21条は自動火災報知設備、令第24条は非常警報器具又は非常警報設備、令第26条は誘導灯及び誘導標識の基準です。
区画の条項は、当時の建築基準法施行令第112条第9項と第15項を挙げています。現行の同条は項の番号が改められており、たとえば竪穴部分の区画は、第11項から第13項に定められています。当時の項番号のまま現行の条文に当てはめず、区画の中身から確かめる必要があります。

設備が基準どおりで、区画もあれば、免除できたんですね。

はい。
逃げ遅れないための備えを別の形でそろえることが前提でした。

木造や区画のない屋内階段の建物でも、避難器具は免除できるのか

ベージュの古い二階建ての家屋の片方の端に灰色の屋内階段が見え、二階の反対側の端の窓の下に折りたたんだ灰色の避難はしごが下がっているイメージ
同じ事例には、建物が木造だった場合や、階段が屋内階段だった場合の問いも続いています。
条件を一つ変えると、答えがどう変わったかを見ます。
問(要旨) 前の建物について、耐火構造ではなく木造の場合はどうか。また、階段が屋外階段ではなく、防火区画のない屋内階段の場合はどうか。それぞれの場合に、令第32条を適用して免除できるか。
答(要旨) 避難器具の設置を免除することはできない。なお、避難器具を設置する場合は、階段の設置位置と反対方向となる場所に設置するように指導されたい。屋内階段などの場合も同様とする。
(昭和55年6月10日 消防予第115号 消防庁予防救急課長から山形県生活福祉部長あて)
木造や区画のない屋内階段では、免除できないという答えでした。
答えは、免除できないうえで、設けるなら階段と反対方向の場所にするよう指導するというものです。階段のそばに付けると、階段が使えなくなったときに器具も使えなくなるおそれがあるためと読めます。
現行の消防法施行規則第26条第5項は、避難器具を設けなくてよい場合を定めていますが、第1号から第3号までのいずれも「特定主要構造部を耐火構造としたもの」であることを求めています。木造の建物は、この免除の対象になりません。
ただし、令第25条第2項第1号のただし書の減免があるため、個別の建物で避難上支障がないかどうかは、所轄の消防機関に確認します。

木造だと、免除の入り口にも立てないんですね。

はい。
耐火構造であることが出発点になっています。

隣の建物との隙間が20〜30センチメートルしかないとき、避難器具はどこに付けるのか

ベージュの二棟の建物が狭い隙間を挟んで並び、その隙間の上階の間を薄い灰色の避難橋が渡しているイメージ
避難器具は、階段が使えないときに逃げる先を用意するための設備です。
隣の建物とすき間なく建っていると、地上に降りる器具を付ける場所が取れません。
問(要旨) 図2の既存の防火対象物(木造の2階建てで、2階は座席のある店舗。道路に面した部分を除いて隣の建物と20〜30センチメートルほどしか離れておらず、避難空地とするための隣地の借用はできない。階段は一般的な屋外階段で、1階も同種の用途)は、令第25条第1項第5号の改正で避難器具が必要になる。設置の効果をあげるため、階段の反対方向の場所に設置させなければならないか。
答(要旨) 火災発生時に安全な避難を行うため、隣接する防火対象物の関係者と協議のうえ、階段の設置位置と反対方向となる場所に避難橋等を設置するよう指導されたい。
(昭和55年6月10日 消防予第115号 消防庁予防救急課長から山形県生活福祉部長あて)
隣の建物の関係者と協議して、階段の反対側に避難橋等を設けるよう指導するとされました。
避難橋は、令第25条第2項第1号の表で、2階などの階に適応する避難器具として掲げられている器具の一つです。隣接する建物へ渡って逃げる形をとれば、地上に降りる場所を取れない敷地でも、逃げる方向を階段と分けることができます。
ただし、隣の建物に渡るには、その建物の関係者の了解が要ります。答えが、まず「協議のうえ」と書いているのはそのためです。
現行の消防法施行規則第26条第4項にも避難橋が出てきますが、これは、耐火構造の建物の屋上広場に設けた避難橋を数えて、避難器具の個数を減らす規定です。この事例の避難橋とは使い方が違うので、混同しないようにします。

隣の人と話し合わないと、避難橋は付けられないんですね。

はい。
敷地の外との協議が、避難の実効性を左右します。

階段室の区画と100平方メートルごとの区画は、何のために求められたのか

ベージュの建物の一階分の床が灰色の厚い壁で二つに分けられ、壁に頑丈な灰色の防火戸が一つ付き、端の階段室にも頑丈な扉と天井の白い丸い煙感知器があるイメージ
最後の事例は、階段が屋外にも屋内にもある、店舗の入った簡易耐火構造の建物や、耐火構造の複合用途の建物です。
階段室の区画と、床の区画がどう条件に加わったかを見ます。
問(要旨) 図3及び図4の防火対象物(簡易耐火構造の2階建て。2階の店舗などに屋外階段と屋内階段があり、階段は不燃材料で造られ、各階の1部屋の収容人員は10人以上50人未満)は、2階に避難器具が必要になるが、直通階段が避難経路として確保されているので、令第32条を適用して免除できないか。また、図5(2階に避難器具が必要だが、開口部が1か所しかなく取付けが困難。屋外階段がある)と図6(準防火地域内の鉄骨耐火造4階建て、延べ面積340.96平方メートルの複合用途)の場合はどうか。
答(要旨) 図3は、前の条件(自動火災報知設備等の設置と区画)のほか、次のとおりであれば免除して差し支えない。階段室は、開口部を除き耐火構造の壁で区画し、階段の出入口の防火戸は、随時開くことができる自動閉鎖装置付きのもの、又は随時閉鎖でき煙感知器の作動と連動して閉鎖できるものであること。図4も図3による。図5は、主要構造部が耐火構造で、図1と同じ条件に適合すれば免除して差し支えない。図6は、これらに加えて、床面積が100平方メートルを超えるものは、100平方メートル以内ごとに耐火構造の床、壁、甲種防火戸又は乙種防火戸で区画されていること。
(昭和55年6月10日 消防予第115号 消防庁予防救急課長から山形県生活福祉部長あて)
階段室の区画と、100平方メートル以内ごとの区画が加わりました。
階段は、避難器具を免除する代わりに、人が逃げる主な経路になります。そのため、階段室を耐火構造の壁で区画し、出入口の防火戸は自動で閉まる構造にすることが条件になりました。煙感知器と連動して閉まる方式も認められています。
延べ面積が広い図6の建物には、床面積が100平方メートルを超える階は100平方メートル以内ごとに区画するという条件も加わっています。火災が広がる範囲を抑える趣旨と読めます。
現行の消防法施行規則第26条第5項第3号は、居室から直通階段に直接通じる耐火構造の建物について、開口部に特定防火設備である防火戸で自動閉鎖装置付きのもの等を設け、直通階段が建築基準法施行令第123条の構造であり、収容人員が30人未満であることを免除の条件としています。当時の甲種防火戸・乙種防火戸の区分は、現行の条文では別の言葉に改められています。

階段が主な逃げ道になる分、階段室を守る条件が付いたんですね。

はい。
器具の代わりに階段を守るという考え方です。

よくある質問

Q消防法施行令第32条の特例は、誰が判断しますか?
A令第32条は、消防長又は消防署長が、防火対象物の位置、構造又は設備の状況から判断して、基準によらなくても火災の発生又は延焼のおそれが著しく少なく、被害を最少限度に止められると認めるときに、この節の規定を適用しないとしています。
Q避難器具が必要になるのはどんな階ですか?
A令第25条第1項が、用途ごとに階と収容人員を定めています。同項第5号は、3階(一部の用途は2階)以上で、地上に直通する階段が二以上設けられていない階のうち、収容人員が10人以上のものを対象にしています。
Q避難器具を設けなくてよい条件は、今の規則にありますか?
A消防法施行規則第26条第5項が、避難器具を設けないことができる場合を定めています。第1号から第3号のいずれも、特定主要構造部を耐火構造としたものであることが前提です。
Q昭和の回答は、今もそのまま使えますか?
A回答は発出当時のもので、条番号や防火戸の区分などが変わった部分があります。現行の令第25条と消防法施行規則第26条と、所轄の消防機関で確認します。

まとめ

✔避難器具が新たに必要になった既存ビルに、令第32条の特例基準は示されなかった
✔耐火造の小さな建物は、警報設備と区画がそろえば令第32条で免除して差し支えないとされた
✔木造や区画のない屋内階段の建物は免除できず、設けるなら階段の反対側とされた
✔隣の建物と隙間がない場合は、関係者と協議して避難橋等を階段の反対側に設ける
✔階段室の区画と、100平方メートル以内ごとの区画が免除の追加条件だった
✔今の免除の条件は、消防法施行規則第26条第5項で確かめる
✔質疑応答は、今の条文の意味を理解するために読む。個別の適用は所轄の消防機関に確認する

質疑応答が、条文とつながりました。
うちの古いビルの避難器具も、今の規則で確かめてみます!

質疑応答も、今の条文の意味を理解するために読めます。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

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お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 消防法施行令第25条・第32条
  • 消防法施行規則第26条
  • 避難器具の設置に係る疑義について(昭和55年6月10日 消防予第115号 消防庁予防救急課長から山形県生活福祉部長あて回答)
  • 消防実務六法 質疑応答編

※本記事は公表されている法令および通達に基づく一般的な解説です。掲載した回答は発出当時のもので、条番号や機関の名称、単位等は当時のものです。その後の改正により運用が変わっている場合があります。個別の事案についての適用は、所轄消防署にご確認ください。

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