大規模な火災のとき、市町村だけでは手が足りず、都道府県の航空消防隊がヘリコプターで応援に入ることがあります。
しかし現場に来た都道府県の職員が、市町村の消防吏員と同じように警戒区域を張ったり建物を使ったりできるのかは、別の条文を読まなければ分かりません。
消防法はこの場面専用の読み替え規定を第30条の2に置いています。
条文をたどると及ぶ権限と及ばない権限がはっきり線引きされていることが見えてきます。
大規模な火災のとき、都道府県の航空消防隊が応援に来ると聞きました。
来た職員は、うちの市の消防吏員と同じことができるんでしょうか。
そこは消防法第30条の2という読み替え規定で決まっています。
消防吏員と同じ権限が、条文に挙げられた範囲でだけ及びます。
範囲が決まっているんですね。
全部そのまま使えるわけではないんですか。
はい。
消防長や消防署長としての権限のように及ばないものもあります。
- 都道府県の航空消防隊が市町村の消防を支援するときは、消防法第30条の2により消防吏員と同じ一部の権限が都道府県職員に及びます(消防組織法第30条第1項)
- 及ぶのは情報提供の要求・警戒区域の設定・消防対象物の使用処分・従事命令の4つです(消防法第25条第3項・第28条第1項及び第2項・第29条第1項及び第5項)
- 読み替えの対象は航空消防隊に属する都道府県の職員に限られます。都道府県庭舎の事務職員は含まれません
- 消防長や消防署長としての権限は都道府県職員には及びません
- 警戒区域からの退去命令に従わなかった者への罰則は、都道府県支援のときも同じ消防法第44条第21号が適用されます
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目次
都道府県の航空消防隊は火災現場でどんな立場になるのか

消防組織法に根っこがあります。
支援するのは救急だけでなく、消火や警戒といった消防活動そのものも含まれます。都道府県知事は規則で航空消防隊を設け、市町村長とあらかじめ協定を結ぶこともできます。
ただし支援に入っただけでは、都道府県の職員が市町村の消防吏員と同じ権限を持てるかどうかは、この条文だけでは決まりません。
その答えを定めているのが消防法第30条の2です。
次の項で、この4つの権限の中身を具体的に見ていきます。
航空消防隊は救急だけだと思っていましたが、消火の支援も含まれるんですね。
はい。
その支援の現場でどこまで権限を持てるかを、第30条の2が定めています。
読み替えでどの4つの権限が都道府県職員に及ぶのか

それぞれ原文で確認します。
消防法第二十八条第一項 火災の現場においては、消防吏員又は消防団員は、消防警戒区域を設定して、総務省令で定める者以外の者に対してその区域からの退去を命じ、又はその区域への出入を禁止し若しくは制限することができる。
消防法第二十九条第一項 消防吏員又は消防団員は、消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のために必要があるときは、火災が発生せんとし、又は発生した消防対象物及びこれらのものの在る土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる。
消防法第二十九条第五項 消防吏員又は消防団員は緊急の必要があるときは、火災の現場附近に在る者を消火若しくは延焼の防止又は人命の救助その他の消防作業に従事させることができる。
ひとつ目は建物の構造などを関係者に尋ねる情報提供の要求、ふたつ目は退去や出入りを制限する警戒区域の設定です。
みっつ目は延焼防止のために建物や土地を使い処分する権限、よっつ目は現場付近の人に消火活動への従事を求める権限です。
どれも通常は市町村の消防吏員又は消防団員だけに認められた強い権限で、それが読み替えによって都道府県職員にも及ぶ形です。
どれも強制力のある権限ばかりですね。
そうです。
だからこそ、誰に及ぶかの範囲が狭く絞られています。
読み替えの対象はどこまでの都道府県職員か

条文の読み替え文言をもう一度見ます。
消防組織法第30条第3項により、都道府県知事は規則で航空消防隊を設けます。現場に派遣されるのはこの航空消防隊に所属する職員です。
都道府県庭舎で防災計画を担当する事務職員や、協定事務だけを扱う職員は、航空消防隊に属していなければこの読み替えの対象になりません。
現場で誰が権限を行使しているのかを確かめるときは、その職員が航空消防隊の所属かどうかが分かれ目になります。
都道府県の職員なら誰でも同じ権限を持てるわけではないんですね。
そのとおりです。
航空消防隊に属する職員という限定が条文にはっきり書かれています。
消防長や消防署長としての権限は都道府県職員に及ぶのか

第30条の2が挙げているのは第29条の中でも第1項と第5項だけです。
二十一 第二十八条第一項又は第二項(第三十条の二及び第三十六条第八項において準用する場合を含む。)の規定による退去の命令又は出入の禁止若しくは制限に従わなかつた者
条文がわざわざ「第30条の2において準用する場合を含む」と書いているので、都道府県の航空消防隊が設定した警戒区域から退去しない者も、市町村の警戒区域と同じく30万円以下の罰金又は拘留の対象になります。
一方で、消防対象物の使用処分や従事命令(第29条第1項・第5項)に違反した場合を直接罰する号は、第44条のどこにもありません。
さらに、消防長・消防署長・消防団の長だけに認められた第29条第2項から第4項(破壊消防の指揮や損失補償の決定)は、第30条の2の準用リストに入っていません。都道府県職員が持てるのは現場の吏員・団員としての権限までです。
警戒区域だけ罰則があって、従事命令には罰則が無いというのは意外です。
条文を数えても出てきません。
条文ごとに下流の扱いが違うことは覚えておいてください。
従事命令でけがをした場合の補償はどうなるのか

罰則とは逆に、こちらは補償の対象からもれていません。
第30条の2自体の準用リストに第36条の3は出てきませんが、第36条の3自身が「第30条の2において準用する場合を含む」と条文に明記しています。
つまり都道府県の航空消防隊に属する職員から従事命令を受けた人がけがをした場合も、支援を受けた市町村が補償する仕組みです。
補償の基準や手続きは条例で定められるので、実際の運用は所轄の消防本部に確認しておくと確実です。
罰則は見落としやすい一方で、補償はきちんと及んでいるんですね。
そうです。
条文の数え方だけで判断すると見落とす箇所なので、気をつけてください。
よくある質問
まとめ
及ぶ権限と及ばない権限の境目がよく分かりました。
航空消防隊の職員だとまず確かめてみます。
権限の範囲と身分は別の話だと分けて考えてください。
条文の数え方まで見ておくと現場で迷いません。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防組織法第30条
- 消防法第25条第3項
- 消防法第28条第1項及び第2項
- 消防法第29条第1項及び第5項
- 消防法第30条の2
- 消防法第36条の3第1項
- 消防法第44条第21号
- e-Gov 法令検索
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





