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消防庁長官はなぜ大規模火災の原因調査に乗り出すのか|消防法第35条の3の2が定める要請の仕組みを解説

大規模火災はなぜ長官まで調査が及ぶのかを示すアイキャッチ

大きな火災が起きたとき、原因調査は誰がどこまで担うのでしょうか。
消火活動を終えたあとの調査にも、法律で決まった役割分担があります。
通常は市町村の消防長・消防署長の仕事ですが、特殊な火災では国も動く仕組みがあります。
消防庁長官が自ら調査に乗り出すのは、条件を満たすごく一部の火災だけです。

うちみたいな建物の火災でも、消防庁まで調べに来ることがあるんですか。

通常はありません。
ただ、燃え方が特殊だったり被害が大きい火災は、長官まで調査が上がる仕組みがあります。

うちの消防長が調べるのと何が違うんですか。

権限の範囲が違います。
まず条文でその3段階の仕組みを確認しましょう。

この記事の結論
  • 火災原因調査は原則として市町村の消防長・消防署長が行います(消防法第31条)。
  • 消防本部を置かない市町村では、都道府県知事が代わって調査します(第35条の3)。
  • 消防庁長官が調査できるのは、消防長または知事から求めがあった場合と、長官自身が特に必要と認めた場合に限られます(第35条の3の2)。
  • 対象は社会的影響が極めて大きい火災と燃焼の性状が特殊な火災で、通常の調査では原因究明が困難なものです。
  • 要請はまず口頭で、そのあと別添の様式を使って消防庁防火安全室を経由して行います。

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火災原因調査が消防長から知事長官へとつながる4段階の流れを示す図解

大規模火災の原因調査はなぜ消防庁長官まで動くことがあるのか

消防署の調査書類と特殊な煙が上がる建物のイラスト
ふだんの火災調査は、消火活動にあたった消防本部がそのまま担当します。
ところが、原因の見立てが技術的に難しい火災では、国の機関にまで話が上がる仕組みがあります。
消防安第13号「消防法第35条の3の2の規定による火災原因調査の消防庁長官への要請について」(平成14年5月16日) 火災原因調査は、消防法第31条の規定により、消防長(消防本部を置かない市町村については、市町村長)又は消防署長の責務とされていますが、近年の火災事例には、大規模火災や火災の燃焼性状が特殊であって、その原因究明に高度な技術を必要とするものが見られます。
消防法第31条 消防長又は消防署長は、消火活動をなすとともに火災の原因並びに火災及び消火のために受けた損害の調査に着手しなければならない。
原因調査の出発点は、いつも市町村の消防本部です。
消防法第31条が、消防長・消防署長に調査開始を義務づけているからです。
ただし、建物の燃え方が普通と違っていたり、被害が極めて大きい火災では、市町村だけで原因を突き止めるのが難しいことがあります。
そうした火災を想定して、国会の審議でも「通常の調査体制では原因究明が難しい火災は、消防庁長官による調査を速やかに求めるべきだ」という方針が示されました。
この方針を実務に落とし込んだのが、今回の通知です。

うちの消防本部が普通に調べてくれるものだと思っていました。

通常はそのとおりです。
ただ、燃え方が特殊だったり被害が大きい火災は別枠があります。

どんな火災なら長官への要請の対象になるのか

大きな黒煙を上げる高層建物と小さな煙の住宅を比べるイラスト
対象になるかどうかは、建物の種類ではなく火災そのものの性格で決まります。
通知は、国会の附帯決議に沿って2つの類型を挙げています。
衆議院総務委員会附帯決議(参議院総務委員会も同旨) 「多数の死者が発生するなど社会的影響が極めて大きい火災、燃焼の性状が特殊である火災であって、通常の火災原因調査ではその原因究明が困難と考えられるものが発生した場合等には、消防法第35条の3の2による消防庁長官の火災原因調査を速やかに求めるべきことについて地方公共団体に対し周知すること」
対象は、死者の数や燃え方そのものが普通でない火災です。
通知が挙げるのは社会的影響が極めて大きい火災と燃焼の性状が特殊な火災の2つの類型で、どちらも「通常の調査では原因究明が困難」という条件が付きます。
つまり、被害が大きいだけでは足りず、原因を突き止めること自体が技術的に難しいことが前提になります。
逆にいえば、原因がはっきりしている大規模火災は、この仕組みの対象にはなりません。
規模の大小ではなく原因究明の難しさで線引きされている点が、この通知の急所です。

うちみたいな小さな建物は関係ない話ですよね。

建物の大きさではなく、燃え方や被害の性格で判断されます。
油断せず基本の備えを続けましょう。

消防法は原因調査の役割をどう3段階に分けているのか

市役所の建物から書類が大きな国の建物へ渡るイラスト
長官が調査するといっても、いきなり国が乗り出すわけではありません。
消防法は、調査の担い手を3段階に分けています。
消防法第31条 消防長又は消防署長は、消火活動をなすとともに火災の原因並びに火災及び消火のために受けた損害の調査に着手しなければならない。
消防法第35条の3 消防本部を置かない市町村の区域にあつては、当該区域を管轄する都道府県知事は、当該市町村長から求めがあつた場合及び特に必要があると認めた場合に限り、第31条又は第33条の規定による火災の原因の調査をすることができる。
消防法第35条の3の2 消防庁長官は、消防長又は前条第1項の規定に基づき火災の原因の調査をする都道府県知事から求めがあつた場合及び特に必要があると認めた場合に限り、第31条又は第33条の規定による火災の原因の調査をすることができる。
調査の担い手は、市町村・都道府県・国の3段階です。
まず消防長・消防署長が消防法第31条に基づき調査します。
消防本部を置かない市町村では、第35条の3により都道府県知事が同じ調査を担います。
そして消防庁長官は、消防長または知事からの求め(または長官自身が特に必要と認めた場合)に限り、第35条の3の2に基づいて調査できます。
長官は特別な存在ではなく、この段階の一番上に位置づけられているだけです。

うちの消防本部が調べるのと、長官が調べるのとで何が違うんですか。

権限を持つ主体が変わるだけで、調査の根拠条文はどちらも同じです。
第31条・第33条を使って調べる点は共通しています。

消防庁長官は自分の判断だけで調査に乗り出せるのか

電話の受話器から国の建物へ点線がつながるイラスト
「長官が動く」と聞くと、国が独自に乗り出してくる印象を持つかもしれません。
しかし条文を読むと、要件はかなり絞られています。
消防法第35条の3の2 消防庁長官は、消防長又は前条第1項の規定に基づき火災の原因の調査をする都道府県知事から求めがあつた場合及び特に必要があると認めた場合に限り、第31条又は第33条の規定による火災の原因の調査をすることができる。
長官が自分だけの判断で動けるのは、実は限られた場面です。
条文は「消防長又は知事からの求めがあった場合」と「長官自身が特に必要と認めた場合」の2つしか挙げていません。
つまり実務上は、現場の消防本部が特殊な火災だと気づいて要請ルートに乗せることが、長官が動く最初のきっかけになります。
要請が無ければ、長官は自分から出向いてくるわけではありません。
現場が気づいて声を上げなければ、この仕組みは動き出しません。

何も言わなくても、大きな火災なら長官が自動的に調べてくれるんですか。

いいえ、求めがなければ長官は動きません。
気づいた側から声を上げる仕組みです。

要請の手続きは何から始めればよいのか

電話の受話器から封蝋付きの封筒へ点線がつながるイラスト
いざというとき、どこに何を連絡すればよいかを知っているかどうかで初動が変わります。
通知が示す手順は、驚くほどシンプルです。
消防安第13号「記」 消防庁長官に火災原因調査を求める場合、まず口頭により防火安全室を経由して要請することとする。その後、別添の様式を用いて防火安全室を経由して要請することとする。
手順はたった2段階です。
まず口頭で、消防庁の防火安全室を経由して要請します。
その後、別添の様式を使って、同じく防火安全室を経由した文書での要請に進みます。
都道府県は、この手順を管内の市町村にも周知する役割を担っています。
まず電話で一報を入れる、という初動さえ知っておけば十分です。

いざというとき、まず何をすればいいかよく分かりました。

まずは口頭での一報です。
様式はそのあとで整えれば大丈夫です。

よくある質問

Q消防庁長官はすべての大規模火災を調査するのですか?
Aいいえ。対象は社会的影響が極めて大きい火災や燃焼の性状が特殊な火災のうち、通常の調査では原因究明が困難と考えられるものに限られます。
Q消防本部がある市町村でも、都道府県知事が調査することはありますか?
Aありません。都道府県知事が調査できるのは、消防本部を置かない市町村の区域に限られます(消防法第35条の3)。
Q消防庁長官は誰の要請もなく自分の判断だけで調査に乗り出せますか?
A要請が無くても、特に必要があると認めた場合には調査できます。ただし実務上は、消防長または都道府県知事からの求めが前提になります。
Q要請はどこを経由して行うのですか?
Aまず口頭で消防庁防火安全室を経由して要請し、その後は別添の様式を用いて同じく防火安全室を経由して要請します。

まとめ

✔火災原因調査の出発点は、市町村の消防長・消防署長です(消防法第31条)。
✔消防本部を置かない市町村では、都道府県知事が代わって調査します(第35条の3)。
✔消防庁長官が調査できるのは、求めがあった場合と特に必要と認めた場合に限られます(第35条の3の2)。
✔対象は社会的影響が極めて大きい火災と燃焼の性状が特殊な火災の2類型です。
✔どちらも通常の調査では原因究明が困難と考えられることが前提になります。
✔要請はまず口頭で、消防庁防火安全室を経由して行います。
✔そのあと別添の様式を用いた文書での要請に進み、都道府県は管内市町村への周知も担います。

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 消防安第13号「消防法第35条の3の2の規定による火災原因調査の消防庁長官への要請について」(平成14年5月16日、消防庁防火安全室長)
  • 消防法第31条・第35条の3・第35条の3の2

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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