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ホテルニュージャパン火災で社長個人の過失はなぜ認められたか|スプリンクラー未設置と防火管理者への監督が問われた最高裁決定を解説

ホテル火災で社長個人の過失はなぜ認められたかを示すアイキャッチ画像

建物を持っているのが会社なら、防火管理の責任は会社だけが負えばよいのでしょうか。
昭和57年に東京都千代田区のホテルニュージャパンで起きた火災では32名が亡くなり、ホテルを経営する会社の代表取締役社長が業務上過失致死傷罪に問われました。
最高裁は平成5年に上告を棄却し、社長個人の過失が確定しています。
この決定が示しているのは実質的な権限を持つ社長が、設備と防火管理体制の不備を放置すれば個人として責任を問われるということです。

防火管理者を選任していれば、社長は安心なんですか。

この事件では選任していても社長の過失が認められました。

建物の持ち主は会社なのに、どうして社長個人なんでしょう。

その言い分は通りませんでした。
何が義務とされたのか、この記事で順に見ていきます。

この判例の要点
  • 昭和57年のホテルニュージャパン火災で、ホテル経営会社の代表取締役社長の有罪が確定しました
  • 社長は消防法第17条第1項の関係者であり、第8条第1項の管理権原者でもあったとされました
  • 決定は、社長にスプリンクラー設備または代替防火区画を設置する義務があったとしました
  • あわせて、防火管理者を指揮監督して消防計画の作成と訓練、設備の点検を行わせる義務があったとしました
  • 社長は不備を知っており、措置を採るのを困難にさせる事情はなかったとされました

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ホテルニュージャパン火災の決定で、社長個人にスプリンクラー設備等の設置、防火管理者の指揮監督、管理権原者としての責任が問われ、不備を知りながら放置したことが過失とされたことをまとめた図

どんな火災だったのか

複数の棟が角度をつけてつながった高層ホテルの上の2層が紺色で示された建物のイメージ
まず、どんな建物でどんな火災だったのかを押さえます。
決定が前提とした事実だけを並べます。
  • 昭和57年2月8日午前3時16分〜17分ごろ、東京都千代田区のホテル9階の客室で、宿泊客のたばこの不始末によりベッドから出火した
  • 建物は地下2階・地上10階・塔屋4階建てで、Y字形の複雑な構造をもち、客室は約420室、宿泊定員は約782名だった
  • 法令により、昭和54年3月31日までにほぼ全館へスプリンクラー設備を設けるか、代わりに一定の防火区画(代替防火区画)を設けることとされていた
  • 出火当時、4階から10階にはスプリンクラー設備がなく、代替防火区画は4階と7階にしかなかった
  • 防火戸は火災時に自動で閉まらないものが多く、非常放送設備も故障などで一部使えない状態だった
  • 従業員を大幅に減らした後も消防計画と自衛消防隊の編成は見直されず、社長の就任後に行われた訓練は形式的な1回だけだった
  • 当直の従業員は組織的に動けず、119番通報も大幅に遅れ、宿泊客32名が亡くなり、24名が負傷した
消防からの指摘は何度も届いていました。
消防はほぼ半年に1回立入検査を行い、そのたびに防火管理者らへ、工事の未了、防火戸の不良、消防計画の未修正、訓練の不実施などを指摘していました。
昭和54年7月以降は、スプリンクラー設備などの工事を急ぐよう毎月のように指導していたと認定されています。
当直の従業員は一度は消火器で火を消しましたが、約1分後に再び燃え広がり、廊下や天井裏、配管のすき間を通って9階と10階に延焼しました。
自分の施設で、消防から受けた指摘のうち手つかずのものがないかを一度確認してください。

消防の指摘を受けたまま、何年もたっていたんですね。

設備と体制の両方が欠けたままでした。

社長個人は何を問われたのか

中央のてんびんの両方の皿に書類の束がのり、左にホテルの模型、右に机と役員用のいすが置かれた、会社と社長の立場を比べるイメージ
起訴されたのは、ホテルを経営する会社の代表取締役社長と、防火管理者だった支配人です。
ここでは最高裁まで争った社長の側を見ます。 争点は社長個人に過失があるかどうかでした。
社長は昭和54年5月に就任し、ホテルの経営と管理の事務を統括する立場にありました。支配人は総務部長も兼ね、防火管理者に選任されていました。
検察官は、社長が設備の不備を知りながら工事をせず、防火管理者を指揮監督して防火管理体制を整える義務を怠ったと主張しました。
社長の側は、近代的なホテルでこのような火災が起きるとは予見できなかった、直接の原因は従業員の初期消火の不手際だ、経営が苦しく工事の資金がなかった、と争いました。
控訴審では、建物を所有し管理しているのは会社そのものであり、管理権原者は自然人の社長ではない、という主張も加わりました。
第一審の東京地方裁判所も控訴審の東京高等裁判所も社長を有罪とし、社長が上告しました。

防火管理者がいるのに、社長まで問われるんですね。

最高裁は社長の過失を正面から検討しました。

裁判所が義務違反と認めたのはどこか

ホテルの廊下の天井に赤い配管とスプリンクラーヘッドが並び、下に閉じた防火戸、右の壁に非常放送用のスピーカーがある様子を示したイメージ
最高裁は上告を棄却したうえで、職権で社長の過失を検討しました。
社長が負っていた義務を、決定は次のように述べています。
被告人は、代表取締役社長として、本件ホテルの経営、管理事務を統括する地位にあり、その実質的権限を有していたのであるから、多数人を収容する本件建物の火災の発生を防止し、火災による被害を軽減するための防火管理上の注意義務を負っていたものであることは明らかであり(略)被告人は、(略)消防法令上の基準に従って本件建物の九階及び一〇階にスプリンクラー設備又は代替防火区画を設置するとともに、防火管理者である(支配人)を指揮監督して、消防計画を作成させて、従業員らにこれを周知徹底させ、これに基づく消防訓練及び防火用・消防用設備等の点検、維持管理等を行わせるなどして、あらかじめ防火管理体制を確立しておくべき義務を負っていたというべきである。
義務は設備と体制の2本立てでした。
1本目は、法令の基準に従ってスプリンクラー設備か代替防火区画を設けることです。決定は、支配人の権限に属さない措置は社長が自ら行うべきだったとしています。
2本目は、防火管理者に任せた業務がきちんと行われるよう、社長が指揮監督することです。
決定は、スプリンクラー設備があれば出火した部屋の外へは広がらなかったこと、代替防火区画があれば延焼が区画内にとどまったこと、さらに点検・消防計画・訓練が整っていれば死傷を避けられた蓋然性が高いことを、原判決のとおり認めています。
社長は就任当時から9階と10階に設備がないことを知っており、消防計画や訓練の不備も知っていたので、火災で宿泊客に危険が及ぶことを容易に予見できたとされました。

設備を付けることと、防火管理者を動かすことの両方なんですね。

不備を知っていたことが予見できた理由とされました。

管理権原者は会社だという言い分はなぜ通らなかったのか

木の机の上に白紙の決裁書類の束と紺色の印鑑とファイルが置かれ、右の床に小さな金庫がある、社長の決裁と支出の権限を示したイメージ
ここが、この決定で他の記事では触れられにくい部分です。
社長の側の言い分がどう扱われたかを見ます。
被告人は、本件建物を所有して本件ホテルを経営していた(ホテル経営会社)の代表取締役社長として(略)防火、消防関係を含む本件建物の改修、諸設備の設置及び維持管理並びに従業員の配置、組織及び管理等の業務についてもこれを統括掌理する権限及び職責を有していた者で、消防法上の防火対象物である本件建物に関する同法一七条一項の「関係者」及び同法八条一項の「管理について権原を有する者」でもあった。(略)そして、被告人がこれらの措置を採ることを困難にさせる事情はなかったのであるから、被告人において右義務を怠らなければ、これらの措置があいまって、本件火災による宿泊客らの死傷の結果を回避することができたということができる。
会社が持ち主でも社長が管理権原者とされました。
控訴審は、法人が建物を所有・管理している場合、消防法第8条第1項の管理権原者は法人そのものではなく自然人で、原則としてその代表者と解されると判断していました。
最高裁も、改修や設備の設置、従業員の配置を統括する権限と職責をもつ社長を、第17条第1項の関係者であり第8条第1項の管理権原者でもあったと認めています。
資金がなかったという言い分については、少額の支出まで社長決裁とする極端な支出削減のもとで点検や改修が行われず、工事は資金的にも十分可能だったと認定されました。
従業員の初期消火の失敗が原因だという言い分も、設備と体制の措置があいまって結果を避けられたという判断の前で、過失を否定する理由になりませんでした。

決裁を握っている人が動かないと、工事も点検も進まないですもんね。

権限を持つ人に義務があると判断されました。

明日からなにをすればよいのか

木の机の上に線だけの建物の平面図とファイルと電話機が置かれ、右の壁に非常ベルとスプリンクラーの制御弁がある、日々の確認事項を示したイメージ
決定が認めた範囲の事実から、管理権原者と防火管理者が確認できることを整理します。
一般論ではなく、この事案で問題になった点に絞ります。 確かめることは設備・体制・指摘の3つです。
管理権原者は、建物に法令上必要な消防用設備等がそろっているか、経過措置が切れて設置が必要になったものがないかを確かめます。
防火管理者に任せた消防計画の作成、訓練、設備の点検が実際に行われているかを報告させ、従業員の数や配置が変わったら計画と自衛消防の編成も見直させます。
防火管理者は、自分の権限で進められない工事や支出を、管理権原者の判断に早めに上げます。現在の消防法施行令第3条の2第3項も、必要に応じて管理権原者の指示を求めると定めています。
立入検査で受けた指摘は、是正の予定と結果を記録に残し、未了のまま次の検査を迎えないようにします。
㈱防災屋でも、消防計画の見直しや訓練の記録整備、指摘事項の整理をご相談いただけます。

消防の指摘事項の一覧を作って、経営側に上げます。

是正の予定と結果も残しておいてください。

よくある質問

Q会社が建物を所有している場合、管理権原者は会社ですか?
Aこの事件では、経営と管理を統括する権限をもつ代表取締役社長が管理権原者とされました。
Q防火管理者を選任していれば、管理権原者の責任はなくなりますか?
Aこの決定では、防火管理者がいても社長には指揮監督する立場があり、その義務を怠った過失が認められました。
Q資金が足りないことは、設備を付けない理由になりますか?
Aこの事件では工事は資金的にも十分可能だったと認定され、措置を採ることを困難にさせる事情はなかったとされました。
Qスプリンクラー設備の代わりになるものはありましたか?
A当時の法令では、一定の代替防火区画を設けることで代えることもできるとされていましたが、9階と10階にはどちらもありませんでした。

まとめ

✔昭和57年のホテルニュージャパン火災で、経営会社の社長個人の有罪が確定しました
✔社長は消防法の関係者であり管理権原者でもあったとされました
✔スプリンクラー設備か代替防火区画を設ける義務を怠ったとされました
✔防火管理者を指揮監督して消防計画・訓練・点検を行わせる義務も怠ったとされました
✔会社が所有者だという言い分や資金難の言い分は、過失を否定する理由になりませんでした
✔消防から再三の指摘を受けていたことが、不備を知っていた根拠の一つになりました
✔設備の不足、計画と訓練の実施、指摘事項の是正を今日から確認できます

設備の不足と消防の指摘を、経営側と一緒に見直します。

防火管理者も管理権原者もそれぞれの立場で義務を負います。
㈱防災屋でもご相談を承っています。

防火管理はプロにお任せ下さい

まずはWebで無料お見積りを!

お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 平成5年11月25日 最高裁判所第二小法廷決定 平成2年(あ)第946号(上告棄却)
  • 平成2年8月15日 東京高等裁判所判決 昭和62年(う)第1154号(控訴審)
  • 昭和62年5月20日 東京地方裁判所判決 昭和57年刑(わ)第3600号(第一審)
  • 消防法第8条第1項、第17条第1項(当時の条番号。現行法で確認済み)、第17条の2の5(当時は第17条の2)
  • 消防法施行令第3条の2
  • 刑法第211条

※決定文の引用中の人名と会社名は、いずれも役割を示す表記(支配人・ホテル経営会社など)に置き換えています。本記事は確定した決定の内容を要約したものです。決定当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。

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