ホテルの自動火災報知設備が火災を感知しても、ベルが鳴らなければ宿泊客は逃げ遅れます。
昭和58年に山形県の温泉地のホテルで起きた火災では、受信機の音響スイッチが切られたままで、宿泊客11名が亡くなりました。
経営者で防火管理者でもあった代表取締役は業務上過失致死傷罪に問われ、有罪の判決が確定しています。
この判決が示しているのは受信機が正常に作動する状態かを確かめることも防火管理者の注意義務だということです。
非火災報が続くと、ついベルを止めたくなります。
止めたままにしたことが過失とされた事件です。
スイッチを切ったのが自分でなくても、責任を問われるんですか。
この判決ではそうでした。
判決がどこに線を引いたのか、この記事で順に見ていきます。
- 昭和58年の山形県のホテル火災で、代表取締役で防火管理者だった経営者の有罪が確定しました
- 自動火災報知設備を常に正常に作動し得る状態に置くよう管理することが、業務上の注意義務とされました
- 受信機は経営者が執務する事務室にあり、スイッチ注意灯で確認は極めて容易だったと認定されました
- 夜間はベルを切るよう指示したという検察官の主張は、確証がないとして認められませんでした
- 誰が切ったかにかかわらず、状態を確認せず見逃したこと自体が過失とされました
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目次
どんな火災だったのか

判決が認めた事実だけを並べます。
- 昭和58年2月21日午前3時過ぎ、山形県の温泉地のホテル本館2階東側の男子便所付近から出火した
- 原因は電気配線の一部の過熱で、本館・別館・隣接する旅館など7棟が全半焼した
- 本館は昭和4年ごろに建てられた木造4階建ての老朽建物で、延床面積約1,596平方メートル、客室28室・宿泊定員107名だった
- 3階は東西に区画されて行き来できず、1階から2階への階段と2階から3階への階段が離れていて直接連絡できない構造だった
- 冬季はスキー客が多く泊まり、適切な通報や誘導を欠けば早く安全に避難させることが難しい建物だった
- 受信機は昭和56年6月ごろ本館1階の事務室に設置され、主音響スイッチか地区音響スイッチの一方でも断になるとスイッチ注意灯が点滅する仕組みだった
- 出火時は音響スイッチが断のままで非常ベルが鳴らず、判決は宿泊客11名が一酸化炭素中毒で亡くなり、宿泊客2名が負傷したと認定した
受信機を設置して1年ほどたった昭和57年夏ごろから非火災報が出るようになり、業者が点検して感知器の一部を取り替えても止まりませんでした。
経営者は昭和58年1月ごろ、受信機をおもに操作していた従業員から相談を受け、一時的に音響スイッチを切ってもよく、切るかどうかは従業員の判断に任せる旨を話したと認定されています。
火災の前夜も、経営者は午後10時30分ごろに事務室を出るとき、受信機の状態を確かめていませんでした。
起訴されたのは、ホテル会社の代表取締役で、自ら防火管理者にもなっていた経営者1人です。
ベルが鳴らない状態に、誰も気づかなかったんですね。
確かめれば気づける場所にありました。
経営者は何を問われたのか

経営者の側の言い分とあわせて見ます。 争点は音響スイッチが切られていた理由でした。
検察官は、経営者が誤作動を防ぐために従業員へ夜間は音響を断にしておくよう指示し、そのうえ状態を確かめなかったと主張しました。
あわせて、宿泊客に避難経路や防火器具の扱い方を説明していなかったとして、避難経路の周知徹底を図る義務も怠ったと主張しています。
これに対して経営者の側は、スイッチは従業員が自分の判断で切っていたもので、見逃しはあっても指示はしていないと反論しました。
指示の有無と、見逃しだけで過失になるのかが問われたことになります。
指示していなければ、責任は軽くなりそうに思えます。
裁判所は別の点を重く見ました。
裁判所が過失と認めたのはどこか

受信機の状態を確かめなかった点が過失の中心です。
判決は、受信機が経営者のふだん執務する事務室にあり、音響スイッチが一方でも断ならスイッチ注意灯が点滅するため、確認は極めて容易だったと認めています。
さらに経営者は、従業員が非火災報のときに一時的にスイッチを切ることを知っていました。
それでも火災の前夜に事務室を出るとき確かめなかったため、ベルが鳴らず早期に火災を知る機会が失われ、避難の開始が遅れたと判断されました。
老朽化した木造の建物に多数の宿泊客がいる事情のもとで、自動火災報知設備を常に作動し得る状態に置く義務が認められています。
スイッチ注意灯を見れば、すぐ分かったということですね。
判決はそう認めています。
検察官の主張で認められなかったのはどこか

検察官の主張のうち2つは、有罪の根拠とされませんでした。
受信機はおもに従業員が操作し、経営者や家族、支配人も操作することがあったため、いつ誰がなぜスイッチを切ったのかは確定し難いとされ、夜間は切っておくよう指示したとは認められませんでした。
それでも過失が否定されたわけではなく、指示がなくても、切られていることを見逃した点で責任を問われています。
避難経路の説明については、避難路を知っていたはずの従業員らも亡くなっていることから、説明していれば安全が確保されたとするには疑問があるとされました。
判決は、自動火災報知設備の管理を怠った過失だけで、刑事責任を問うのに必要かつ十分だとしています。
指示していないという言い分では、責任は逃れられなかったんですね。
見逃しだけで過失は成り立つとされました。
明日からなにをすればよいのか

この事案で問題になった受信機の扱いに絞ります。 確かめるのは受信機の状態と戻し忘れです。
受信機のある部屋を最後に離れる人が、音響スイッチとスイッチ注意灯を見て正常な状態かを確かめる手順を決めます。判決は、この確認が極めて容易だったことを過失の前提にしています。
非火災報が続くときは、スイッチを切ったままにせず、点検業者に原因を調べてもらって改修を進めます。現在の消防法第17条第1項も、関係者に消防用設備等を技術上の基準に従って維持することを求めています。
この事件では、切るかどうかを従業員の判断に任せたまま、元に戻ったかを誰も確かめていませんでした。一時的に止めるなら、誰が戻しを確かめるかを決めて記録に残します。
㈱防災屋でも、受信機の点検や非火災報の原因調査、日々の確認手順の整理をご相談いただけます。
事務室を出るときに、受信機のスイッチを見る手順を決めます。
非火災報は原因から直してください。
よくある質問
まとめ
事務室を出る前に、受信機のスイッチを見るようにします。
ベルは鳴るべきときに鳴る状態を保ってください。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 昭和60年5月8日 山形地方裁判所判決(確定)
- 消防法第8条第1項、第17条第1項(いずれも当時)
- 刑法第211条(当時)
※判決文の引用中の人名は、いずれも役割を示す表記(従業員など)に置き換えています。本記事は確定した判決の内容を要約したものです。判決当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。






