防火管理者を選任しないと、6か月以下の懲役になるって本当ですか?
ネットでよく見かける説明ですが、2つの点で正確ではありません。順番に見ていきましょう。
- 消防法の罰則は「懲役」ではなく「拘禁刑」(2025年6月1日施行の刑法改正)
- 防火管理者を「選任しないこと」自体に直接の罰則はない。まず命令が出て、その命令に違反して初めて罰則
- 一方で選任・解任の届出を怠った場合は、命令なしで直接罰則の対象(30万円以下の罰金または拘留)
- 命令違反には両罰規定があり、法人にも罰金が科される
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目次
罰則は「2段階」で適用される
消防法第8条は5つの項で構成されています。第1項=業務義務/第2項=届出義務/第3項=選任命令/第4項=措置命令という構造です。
ここで重要なのは、罰則の条文(第41条〜第44条)が「第8条第1項」を引用していないという点です。つまり「防火管理者を選任しない」という状態それ自体を直接処罰する規定は存在しません。
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罰則に至るまでの実際の流れ
この状態それ自体には、直接の罰則はありません。まずは立入検査などで違反が把握されます。
消防法第8条第3項に基づく選任命令です。行政処分にあたり、事前に弁明の機会が与えられます。
命令を受けてもなお選任しない場合、消防機関は告発を検討します。
6月以下の拘禁刑 又は 50万円以下の罰金(消防法第42条第1項第1号)。法人にも罰金が科され得ます。
罰則の一覧
| 違反の内容 | 罰則 | 根拠 |
|---|---|---|
| 防火管理者を選任しない | 直接の罰則なし → 選任命令の対象 |
法第8条第3項 |
| └ 選任命令に違反した | 6月以下の拘禁刑 又は50万円以下の罰金 |
法第42条第1項第1号 |
| 業務が法令・消防計画に従って行われていない | 直接の罰則なし → 措置命令の対象 |
法第8条第4項 |
| └ 措置命令に違反した | 1年以下の拘禁刑 又は100万円以下の罰金 |
法第41条第1項第2号 |
| 選任・解任の届出を怠った | 30万円以下の罰金 又は 拘留 命令を経ずに直接適用 |
法第44条第8号 |
「選任はしたけれど届け出ていない」状態が、実は法律上いちばん直接的にリスクがあります。
違反はどう見つかり、どう是正されるのか
違反が発覚する主なきっかけは立入検査です(消防法第4条)。消防長・消防署長は火災予防のために必要があるとき、資料の提出を命じ、報告を求め、消防職員に立ち入って検査させることができます。全国では年間およそ79万回の立入検査が行われています(令和5年度/消防白書)。
そこから先の流れは、消防庁の「違反処理標準マニュアル」に整理されています。
| 段階 | 内容 | 法的な性質 |
|---|---|---|
| ① 検査結果の通知・指導 | 立入検査結果を通知し、是正を求める | 行政指導 |
| ② 警告 | 是正しない場合、命令・告発で対処する意思を示す | 行政指導(強制力なし) |
| ③ 命令 | 選任命令・措置命令。事前に弁明の機会が与えられる | 行政処分(不利益処分) |
| ④ 告発/使用停止命令 | 命令に従わない場合の措置 | 刑事手続/行政処分 |
ただし、火災の予防上猶予できないと認められる場合は、警告を経ずに直ちに命令されることもあります。
命令を受けると建物に「標識」が掲げられる
ここは見落とされがちですが、影響が大きい部分です。防火管理者の選任命令・措置命令を受けると、その旨を公示することが法律上の義務とされています(消防法第8条第5項 → 第5条第3項の準用)。
つまり建物に標識を掲げられ、それを拒むことはできません。消防庁のマニュアルでは「標識は、当該防火対象物に出入りする人々が見やすい場所に設置する」「命令が効力を失うまでの間、維持する」とされています。市町村の公報やホームページに掲載されることもあります。
- 公示=消防法上の義務。命令を出したときに標識の設置等で知らせる(第5条第3項)
- 公表=各市町村の火災予防条例に基づく任意の制度。全国一律ではない
「防火管理者を選任していないと建物名が公表される」という説明は、正確ではありません。 (※東京消防庁では、遊技場・飲食店・特定用途を含む複合用途ビルに限り、他の管理義務違反と同時に2つ以上あり、かつ過去3年以内に同様の違反がある場合に限って公表対象となります。制度の内容は消防本部ごとに異なるため、詳細は所轄消防署にご確認ください。)
命令に従わないと「使用停止命令」もある
罰則だけが制裁ではありません。選任命令や措置命令が履行されず、引き続き危険があると認められる場合、消防長・消防署長は防火対象物の使用の禁止・停止・制限を命ずることができます(消防法第5条の2第1項第1号)。
| 違反 | 法定刑 | 法人への罰金(両罰) |
|---|---|---|
| 防火管理者の選任命令違反 | 6月以下の拘禁刑 又は 50万円以下の罰金 | 50万円以下 |
| 防火管理業務の措置命令違反 | 1年以下の拘禁刑 又は 100万円以下の罰金 | 100万円以下 |
| 使用停止命令違反 | 3年以下の拘禁刑 又は 300万円以下の罰金 | 1億円以下 |
| 立入検査の拒否・虚偽報告 | 30万円以下の罰金 又は 拘留 | なし |
使用停止命令に違反した場合、法人には1億円以下の罰金が科され得ます(消防法第45条第1号)。営業そのものが止まる影響とあわせて、経営に直結するリスクです。
「懲役」は「拘禁刑」に変わりました
令和4年法律第68号(刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律)により、2025年6月1日から懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されました。
現行の消防法の罰則章に「懲役」の語は一つも残っていません。解説記事や社内資料が「懲役」のままになっている場合は、古い情報ということになります。
法人も罰せられる——両罰規定
消防法第45条は両罰規定を定めています。法人の代表者や従業者が業務に関して違反行為をしたとき、行為者を罰するほか、法人にも罰金刑が科されます。
| 違反 | 両罰規定 | 法人に科される罰金 |
|---|---|---|
| 措置命令違反(法第41条第1項第2号) | あり | 100万円以下 |
| 選任命令違反(法第42条第1項第1号) | あり | 50万円以下 |
| 届出の懈怠(法第44条第8号) | なし | — |
実際に処罰された事例
「実際には摘発されないのでは」と思われがちですが、消防庁は違反処理標準マニュアルの中で、告発され罰則が確定した事例を公表しています。
- 防火管理者選任命令違反(奈良県):延べ1,676㎡の複合用途ビル。選任命令に従わず告発され、経営者に罰金の略式命令
- 使用禁止命令違反(山梨県):命令に従わず使用を開始。告発され、経営者に拘禁刑(執行猶予付き)の判決。違反内容には防火管理者の未選任・消防計画の未作成も含まれていた
いずれも「命令 → 不履行 → 告発」という、この記事で説明してきた流れをそのままたどっています。命令が出た段階で対応すれば、刑事手続には至りません。
罰則より怖いのは「実質的なリスク」
命令が出るまでは大丈夫、ということですか?
いいえ。火災が起きたときの責任はまったく別の話です。ここが本当のリスクです。
刑事罰の適用に至るケースは多くありません。しかし、防火管理が形骸化した状態で火災が発生すれば、民事上の損害賠償責任や業務上過失致死傷が問題になり得ます。過去の重大火災では、防火管理体制の不備が厳しく問われてきました。
また、消防長・消防署長の命令には公示の制度があり、命令を受けた事実が公表されます。建物の信用という観点でも軽視できません。
よくある質問
まとめ
- 罰則は「命令 → 命令違反」の2段階で適用される
- 届出の懈怠だけは直罰(30万円以下の罰金または拘留)
- 「懲役」ではなく「拘禁刑」(2025年6月1日〜)
- 命令違反は法人にも罰金(両罰規定)
- 本当のリスクは火災時の民事・刑事責任と信用の失墜
参考・出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)第8条、第41条、第42条、第44条、第45条、第46条の5 e-Gov法令検索
- 刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(令和4年法律第68号)
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※本記事は2026年7月時点の法令に基づいています。個別の判断は所轄消防署または㈱防災屋までご確認ください。




