消防法第36条の3は、火災の現場で消火活動等に従事して死傷した人への損害補償を定めています。
平成6年の法改正でその対象範囲が広がり、マンションやテナントビルの区分所有を前提とした細かい判断が示されました。
専有部分とは何か、共用部分から延焼した場合はどうなるのかは、管理組合やビルオーナーにとって身近な問題です。
この記事では区分所有された建物における損害補償の扱いを消防庁の質疑応答に沿って整理します。
自分の家が火事になって、消そうとして怪我したら補償されるんか。
そこは対象外です。
自宅の火災に駆けつけた行動は自力救済とみるべきとされ、補償の義務はないと解されています。
ほなマンションで隣の部屋の火事を消しにいったらどうなんや。
そこが平成6年の改正で整理されました。
専有部分ごとに判断され隣の部屋の火災なら補償の対象となり得ます。この記事でまとめて解説します!
- 自宅の火災に駆けつけて消火や搬出をした場合は自力救済とみるべきで補償の義務はない
- 専有部分に該当するためには構造上独立していることと利用上独立していることの2つの要件を満たす必要がある
- 専有部分に延焼した火災は当該専有部分において発生したものとみなすこととなる
- 親世帯と子世帯がそれぞれ別個に使用しているケースではたとえ隣室であってもこれには該当しない
▼
目次
自宅の火災で消火や搬出をしても補償の対象にはならない

昭和39年8月11日付け自消丙予発第83号は、自家火災における負傷事故についての照会です。
事案はAは自宅の火災を外出中知り急いで駆けつけたが、その時は既に消防隊到着後であつた。消防職員はAの行動を知らず従事要請していないが、Aは家財の搬出又は消火作業中に負傷したというものでした。
自分の家を守る行為は別扱いです。
消防作業への従事として補償されるのは、あくまで他人のための消防作業という位置づけです。
自分の財産を守る行為は自力救済であり、公務災害補償の枠組みには入らないという整理になります。
関連して、通報の途中で事故に遭った場合についても照会があります。
昭和40年10月19日付けの回答では第36条の2の規定は現実に火災現場にあつて消火若しくは延焼の防止若しくは人命の救助その他の消防作業に直接に従事した者について、そのこうむつた損害を補償するという趣旨であり、設問の場合はこれに該当しないとされました。
専有部分は構造上と利用上の二つの独立性で判断される

平成6年12月27日付け消防予第327号は、消防法の一部改正に伴う損害補償の対象範囲の拡大についての通知です。
その執務参考資料の冒頭で専有部分とはどのようなものをいうのかが問われています。
構造上の独立性については、当該部分が、壁や間仕切り等によつて他の部分と遮断され、明確に区分されている必要があるとされています。
利用上の独立性についても具体的に示されています。
外部との行き来が独立してできることや、独立して建物としての用途に供するに足る設備を備えていることが必要であろうとされ、これらの要件を満たすか否かは、具体的な事案に応じて個別に判断していくことになると結ばれています。
専有部分の各部分は、専有部分となりうる最小の単位を指す。例えばマンション、雑居ビル等は複数戸、複数区画等で一つの専有部分となりうるが、そのうち個々の戸、区画はそれぞれ専有部分の各部分となるとされています。
共用部分から延焼した火災は専有部分で発生したものとみなされる

火災が共用部分で起きた場合と専有部分で起きた場合とで、扱いが変わるのかも問われました。
まず専有部分以外の部分すなわち共用部分において火災が発生し、専有部分へ延焼した場合に、消火活動等に従事して死傷等をした場合は法第36条の3第2項の適用はあるかという問いです。
逆の場合についても示されています。
専有部分において火災が発生したことにより、法第36条の3第2項の適用はあることとなるから、共用部分へ延焼した場合、延焼後に消火活動等に参加して死傷等をした者も補償の対象となり得るとされました。
マンションの火災で出火した部屋の隣人が、出火した部屋における消火活動に参加したが、その後自分自身の部屋に延焼し、かつ延焼後に自分の部屋以外において死傷等した場合には、消火活動に参加した時点では該当する者ではなかつたことから、補償の対象となり得るとされています。
参加した時点で判断されます。
隣室でも世帯が別なら一の住居にはあたらない

複数の住戸を一つの住居として使っている場合の扱いも問われています。
照会ではマンション等の共同住宅において子供夫婦が親世帯の隣室に居住しているような場合はどのように考えるのか。また2世帯住宅の場合はどうかと尋ねられました。
隣でも別世帯なら別です。
2世帯住宅については判断の順序が示されています。
まず専有部分が存在するか否か、すなわち構造上の独立性及び利用上の独立性を満たすか否かが問題となり、そのうえで一体的に使用されているかどうかを判断することとなるとされました。
具体例も挙げられています。親世帯と子世帯の居住部分が完全には区分されておらず、また台所や浴室等の設備を共用しているような場合には、各々の居住部分が専有部分とはいえないことから法第36条の3第2項の適用はないとされています。
デパートは全体で一の営業だがテナントビルは区画ごとに見る

事業用の建物についても判断が示されています。
一の営業又は事務若しくは事業のための用途に供している場合かどうかは、具体的にどのように判断するのか。例えばデパートやテナントビルの場合はどのように考えるのかという照会です。
そのうえでデパートの場合、その内部にある個々のテナントはそれぞれ営業活動を行つているものの、その営業形態からみてデパート全体で営業を行つているとみなしうるケースが多いとされています。
ただし例外も示されています。
一方でデパートと同じ建物にあつても、構造的にこれと区分されており、かつ、全く独立して営業活動を行つているような場合には、デパートとは別個の営業とみなすこととなろうとされました。
会社が同じなら一体で見ます。
なおこれに準ずる団体という語についても法人格を有しない政党や町内会、複数の個人や法人の集団のほか、マンション等における複数の区分所有者が、規約により構造上区分された建物部分を共用部分としている場合には、当該複数の区分所有者はこれに該当することとなると説明されています。
よくある質問
まとめ
- 自宅の火災に駆けつけて家財の搬出や消火作業をした行動は自力救済とみるべきで補償の義務はない
- 通報の途中で事故に遭った場合も現実に火災現場にあつて消防作業に直接に従事した者にはあたらない
- 専有部分に該当するには構造上独立していることと利用上独立していることの2つの要件が必要である
- 専有部分の各部分は専有部分となりうる最小の単位を指し個々の戸や区画がこれにあたる
- 専有部分に延焼した火災は当該専有部分において発生したものとみなすこととなる
- 消火活動に参加した時点で該当する者でなかった場合はその後延焼しても補償の対象となり得る
- 親世帯と子世帯が別個に使用しているケースはたとえ隣室であっても一の住居に該当しない
- デパートは全体で営業を行つているとみなしうるケースが多いが構造的に区分され独立していれば別個である
自分の部屋か隣の部屋かで、こんなに変わるんやな。管理組合にも伝えとこ。
そのとおりです。
まずは避難と119番通報が最優先です。共同住宅の消防用設備の点検や更新もご相談ください。
参考・出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)第25条・第29条・第36条の2・第36条の3 e-Gov法令検索
- 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第52条 e-Gov法令検索
- 建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号) e-Gov法令検索
- 自家火災における負傷事故について(昭和39年8月11日付け自消丙予発第83号 予防課長から福岡県民生部長あて回答)
- 火災通報者の災害補償について(昭和40年10月19日付け 教養課長から室蘭市消防長あて回答)
- 消防法第36条の2による消防作業に従事した者の公務災害補償について(昭和44年5月8日付け消防防発第197号 防災救急課長から千葉県総務部長あて回答)
- 消防法の一部改正に伴う損害補償の対象範囲の拡大について(平成6年12月27日付け消防予第327号 消防庁予防課長から各都道府県消防主管部長あて)別添 執務参考資料
- 「消防実務六法 質疑応答編」(消防実務研究会編・東京法令出版)の消防作業従事者等の災害補償に関する質疑応答を参考に、独自に解説を作成
※本記事は2026年8月時点の法令解釈に基づく一般的な解説です。個別の運用については所轄消防署にご確認ください。




