保安距離が足りないとき、塀を立てれば認めてもらえるのか。
政令には防火上有効なへいという言葉があり、これを設ければ距離を緩められる場面があります。
ただし消防庁の質疑応答を追うと、へいで押し切ろうとした照会はいずれも退けられています。
この記事では防火上有効なへいがどこまで認められるのかを整理します。
距離が足らんのやったら、高い塀を立てたらええんちゃうんか。
それが通らなかった事例があります。
回答は耐火へいを設けることにより防火上安全である、とは解し難いと述べています。
ほな防火上有効なへいっちゅうのは何のためにあるんや。
制度としてはあります。
ただし認定基準は具体的に判断すべきであるとされ、一律の数値は示されていません。この記事でまとめて解説します!
- 防火上有効なへいの認定基準は施設の構造や敷地の周囲状況等により具体的に判断すべきである
- へいの位置及び構造は施設の位置や構造や設備と当該市町村の消防力等具体的条件によつて決められるべきもの
- 住居から5メートルないし8メートルの位置に設ける計画に対し政令第9条第1号ただし書を適用することは適当でない
- 耐火へいによる保有空地の緩和については政令第23条の規定の適用の余地はない
- 耐火へいを設けることにより防火上安全である、とは解し難い
▼
目次
防火上有効なへいの認定基準は具体的に判断すべきものとされている

まず制度の入口です。
危険物の規制に関する政令第9条第1項第1号の後段には防火上有効なへいという言葉があります。
昭和37年4月6日付け自消丙予発第44号は、奈良県からの「防火上有効なへい」の認定基準を示されたいという照会に答えたものです。
高さ何メートル以上、厚さ何センチメートル以上といった数値は示されていません。
何を貯蔵しているか、どう扱っているか、周囲に何があるかを見て個別に判断する、という組み立てです。
基準がないということは、設ければ自動的に認められるものではないということでもあります。
一律の数値はありません。
へいの位置及び構造は市町村の消防力等の条件で決められる

判断の材料をさらに具体的に示した回答があります。
昭和39年6月13日付け自消丙予発第57号は、山梨県からの照会に答えたものです。
甲府市内の石油会社の油槽所で、屋外タンク5基を全面的に変更する計画についての照会でした。
そのうちの一つがこのただし書にいう防火上有効なへいの位置及び構造は如何にすべきかという問いです。
注目すべきは当該市町村の消防力等という要素が入っている点です。
同じ構造のへいであっても、消防力の異なる市町村では評価が変わりうるということになります。
設計側だけで結論を出せる話ではありません。
所轄との協議が前提です。
住居まで5メートルの計画にただし書を適用することは適当でない

同じ照会のもう一つの問いが、この記事の核心です。
計画の中身はかなり具体的に述べられています。
図面に示されたタンクの容量は、ガソリン540キロリットル、灯油220キロリットル、B重油220キロリットル、A重油125キロリットルなど大規模なものでした。
その周囲には住宅が並んでいます。
ただし書の制度そのものは否定されていません。
しかしこの規模のタンクを住居から5メートルないし8メートルに置くという計画に対しては、適当でないと明確に退けられました。
規模と距離で判断されます。
耐火へいによる保有空地の緩和には政令第23条の適用の余地がない

へいを保有空地の代わりにできないか、という問いもありました。
昭和38年8月1日付け自消丙予発第44号は、長野県飯田市消防長からの照会に答えたものです。
準工業地域の準防火地域にあった政令不適合施設を取り除き、その跡に地下タンク5基を埋設して、その地上にタンクローリー積場及びドラム詰場を設置する計画についてのものでした。
回答は政令第23条の規定の適用の余地はないものと解するです。
さらになお、政令第9条第2号の規定は設問のような施設に適用される趣旨のものではないので、念のため申し添えるとも付け加えられています。
保有空地は、へいで置き換えられるものとして設計されていない、という整理です。
なお同じ回答では、地下タンク5基を一括して地下タンク貯蔵所として規制し、ローリー積場及びドラム詰場をそれぞれ一般取扱所として規制するとされています。
耐火へいを設けることで防火上安全であるとは解し難い

同じ照会には、外壁間の保有距離についての問いもありました。
こちらはへいの高さで勝負しようとしたものです。
相手の建物と同じ高さ、あるいはそれ以上のへいを立てるという提案です。
これに対する回答は明確でした。
へいの高さを上げれば安全になるという考え方は採られていません。
前の三つの回答と並べると、一貫した姿勢が見えてきます。
防火上有効なへいという制度はあるものの、距離が足りないことをへいで埋め合わせるという使い方は認められていない、ということです。
距離の代わりにはなりません。
よくある質問
まとめ
- 防火上有効なへいの認定基準は危険物の性状及び取扱方法や施設の構造や敷地の周囲状況等により具体的に判断すべきである
- へいの位置及び構造は施設の位置や構造や設備と当該市町村の消防力等具体的条件によって決められるべきものである
- 屋外タンク5基を住居から5メートルないし8メートルの位置に設ける計画に政令第9条第1号ただし書を適用することは適当でない
- 敷地の広さから5メートル以上の空地を保有できない場合に耐火へいで緩和することはできない
- その場合に政令第23条の規定の適用の余地はないものと解される
- 政令第9条第2号の規定はローリー積場やドラム詰場のような施設に適用される趣旨のものではない
- 既存住宅と同じ高さ又はそれ以上の耐火へいを設けることにより防火上安全であるとは解し難い
- 防火上有効なへいは距離が足りないことを埋め合わせる手段としては認められていない
塀で何とかしようと思たらあかんっちゅうことか。
まずは配置から考えることです。
保安距離と保有空地をふまえた計画づくりも、所轄消防署との事前協議からお手伝いします。
参考・出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)第10条 e-Gov法令検索
- 危険物の規制に関する政令(昭和34年政令第306号)第9条・第11条・第23条 e-Gov法令検索
- 「防火上有効なへい」の認定基準について(昭和37年4月6日付け自消丙予発第44号 予防課長から奈良県地方課長あて回答)
- タンクローリー積場およびドラム詰場の取り扱いについて(昭和38年8月1日付け自消丙予発第44号 予防課長から長野県飯田市消防長あて回答)
- 屋外タンク貯蔵所の保有距離について(昭和39年6月13日付け自消丙予発第57号 予防課長から山梨県総務部長あて回答)
- 「消防実務六法 質疑応答編」(消防実務研究会編・東京法令出版)の危険物の規制に関する政令の質疑応答を参考に、独自に解説を作成
※本記事は2026年8月時点の法令解釈に基づく一般的な解説です。個別の運用については所轄消防署にご確認ください。




