昭和61年6月、東京都の特別養護老人ホーム松寿園で発生した火災は、自力で避難することが難しい入所者に多数の死傷者を出し、防火対策の見直しを迫りました。
国はこの教訓を踏まえて検討委員会を設け、消防法施行令等の改正とあわせて、病院や診療所など医療施設向けの対策づくりを進めます。
昭和63年2月、厚生省から医療施設における防火防災対策要綱が示され、消防庁もこれを都道府県に周知しました。
この記事では、要綱が病院に求める管理者の責任、火気の取扱いと火元責任者、消防計画と訓練の内容を解説します。
うちの病院では防火管理者を選んでいるだけで、特別なことはしていません。
これで十分なのでしょうか。
要綱は火元責任者の配置や火気の取扱いまで具体的に求めています。
病院という理由だけで、何か特別な扱いになるのですか。
はい。
入院患者という特有の事情を踏まえた要綱が別に定められています。
- 松寿園の火災を受け、厚生省は昭和63年2月の健政発第56号で医療施設における防火防災対策要綱を制定し、消防庁もこれを都道府県に周知しました
- 対象は消防法施行令別表第一(6)項イに掲げる病院、診療所、助産所のうち、収容人員が10人以上で防火管理者の選任義務があるものです
- 管理者には病室内の禁煙や火元責任者の配置など、具体的な火気管理の実行が求められます
- 消防計画には自力避難が困難な患者の把握と搬送体制を明記することが標準とされています
- 訓練は年2回以上の防火訓練と避難訓練を基本に、うち1回は夜間実施に努めることとされています
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目次
病院はなぜ火元責任者を置く防火防災対策要綱を定められたのか

では、要綱という追加の仕組みがなぜ必要になったのでしょうか。
松寿園の火災を受けた検討委員会の報告は、まず消防法施行令等の改正という形で結実しましたが、それだけでは病院に入院する患者特有の事情まではカバーできません。
そこで厚生省が昭和63年2月に健政発第56号を発し、医療施設における防火防災対策要綱を制定しました。
この通知は消防庁予防課長からも各都道府県消防主管部長に周知され、衛生部局と消防機関が連携して指導するよう求められています。
要綱の目的は「患者を入院させている等施設に特有な事情を考慮し、特に人命尊重の見地から行う」ことだと明記されています。
消防法施行令の改正だけでは足りなかったのですね。
入院患者の避難に関わる運用面を要綱が補っています。
次の章で対象を確認しましょう。
どの病院のどんな患者がこの要綱の対象になるのか

まずは自分の施設が対象になるかどうかを確認します。
特定診療科を持つ病院か一般の病院かにかかわらず、収容人員が10人以上であれば防火管理者の選任義務があり、要綱の対象になります。
この対象の考え方は、昭和63年の通知が出た当時から現在まで変わっていません。
要綱が特に重視するのは、自力で避難することが難しい患者がどの病棟にどれだけいるかという実態です。
うちは小さな診療所で、入院設備もありません。
それでも対象になるのでしょうか。
収容人員が10人未満であれば防火管理者の選任義務の対象外になります。
まずは自施設の収容人員を確認してください。
要綱は病院の管理者に何を求めているのか

どのような内容が求められているのかを見ていきます。
管理者は病室内の喫煙を禁止し、特定の喫煙場所を設定すること、放射形や自然対流形の石油ストーブ等を順次強制排気型等に変更していくことを求められます。
放火対策として、廊下や階段等に可燃物を放置しないことも明記されています。
そして、各部門に火元責任者を配置し、現場レベルで火災予防の目が行き届く体制を作ることが要綱の柱のひとつです。
消防計画(消防法第8条)と、必要に応じた建築物等の維持保全計画(建築基準法第8条第2項)も、あわせて定めるべきとされています。
火元責任者は防火管理者とは別に必要なのですか。
はい。
防火管理者とは別に、各部門ごとに配置する現場の担当者です。
実務で見落としやすいのはどこか

通知が特に注意を促している点を確認します。
要綱は「2のうち1回は夜間に実施するよう努めること」という表現にとどめており、現行の消防法施行規則第3条第10項でも別表第一(6)項の訓練回数は年2回以上と定められていますが、夜間実施までは義務付けられていません。
努力目標だからこそ、自施設の判断で夜間訓練を計画に組み込まないと、日中の人員が多い時間帯の訓練だけで終わってしまいます。
また、自力避難が困難な患者の把握と搬送体制は「日常的な把握」が前提であり、入退院のたびに更新しないと、実際の火災時に名簿が実態と食い違うおそれがあります。
患者・付添人へのパンフレット配布も、入院時の一度きりで終わらせず、長期入院患者には定期的に教示し直すことが望まれます。
夜間訓練が努力目標なら、やらなくても問題ないのでしょうか。
いいえ。
夜間は職員数が最も少なくなる時間帯なので、計画的に取り入れる価値があります。
明日からなにを確認すればよいのか

大がかりな工事をしなくても、今日から始められることがあります。
まず、各部門に火元責任者が実際に配置されているか、病室内禁煙と石油ストーブ等の更新状況を確かめます。
次に、自力避難が困難な患者の名簿が最新の状態に更新されているか、消防計画の搬送体制の記載と一致しているかを確認します。
最後に、年2回以上の防火訓練・避難訓練の実施予定を立て、そのうち1回を夜間に回せるかどうかを検討し、地域の消防機関や医療機関との連絡体制もあわせて見直します。
この一連の流れを、次の消防計画に基づく訓練から取り入れてみてください。
設備の工事が必要な話だと思っていました。
そうとは限りません。
まずは人の配置と名簿の見直しから始められます。
よくある質問
まとめ
つまり、うちの病院でも火元責任者の配置から見直す価値がありそうですね。
はい。
要綱の考え方を知れば、何から手を付けるべきかがはっきりします。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 医療施設における防火防災対策要綱の制定について(昭和63年2月6日 健政発第56号 厚生省健康政策局長)
- 病院等における防火安全対策の推進について(通知)(消防庁予防課長)
- 消防法(昭和23年法律第186号)第8条
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第1条の2第3項第1号イ・別表第一(6)項イ
- 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第3条第10項
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





