防火管理者を選んでいない小さな飲食店でも、火災が起きれば店の責任者が刑事責任を問われることがあります。
昭和53年に新潟市のビルにあったスナックで起きた火災では、客と従業員の11名が逃げ遅れて亡くなりました。
店の経営者と、着任して間もない店長の2人が業務上過失致死傷罪に問われ、有罪の判決が確定しています。
この判決が示しているのは防火管理者がいなくても消火・通報・避難の手順と訓練は店の責任者の義務になるということです。
小さな店だと、訓練まではなかなか手が回りません。
その言い分が退けられた事件です。
防火管理者に選ばれていない店長まで、責任を問われるんですか。
この判決ではそうでした。
経営者と店長のそれぞれに、裁判所がどんな義務を認めたのかを順に見ていきます。
- 昭和53年の新潟市のスナック火災で、経営者と店長の2人の有罪が確定しました
- 経営者には、防火管理者を選ぶか自ら消防計画を作り、従業員に訓練をさせる義務があったとされました
- 店長には、消火・通報・避難の手順を定めて訓練する義務と、火災時に通報し避難させる義務があったとされました
- 小さな店の経営者に訓練まで求めるのは酷だという言い分は、過酷なものとはいえないとして退けられました
- 店長になって2か月余りだという言い分も、その期間で十分できることだとして通りませんでした
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目次
どんな火災だったのか

判決と事件の経過から、事実だけを並べます。
- 昭和53年3月10日午前0時9分ごろ、新潟市内のビルの2階にあったスナックで出火した
- 出入口に通じるトンネル状の通路の天井裏に配線されていた電線からの漏電が原因とされた
- 通路やホールの天井と壁には、燃えやすい内装材が張られていた
- 店には防火管理者が選ばれておらず、消防計画も作られていなかった
- 従業員は早い段階で火に気づいたが、店内への通報や避難誘導、備え付けの消火器による消火は行われなかった
- 火は内装材に急速に燃え広がり、客9名と従業員2名の計11名が亡くなり、3名が負傷した
1人は店の経営や管理の一切を取り仕切っていた経営者で、営業時間中はほとんど店にいませんでした。
もう1人は、調理場の責任者から昭和53年1月初めに頼まれて急に店長になった従業員で、火災は店長になって2か月余りのことでした。
2人は業務上過失致死傷罪で起訴され、新潟地方裁判所は昭和56年2月19日、2人に禁錮1年6月・執行猶予3年を言い渡しました。
検察官が刑が軽すぎるとして控訴し、東京高等裁判所は昭和57年12月22日に第一審判決を破棄して、2人に禁錮1年の実刑を言い渡しました。
経営者の上告は最高裁判所が昭和58年5月10日に棄却し、店長は上告を取り下げたため、控訴審の判決が確定しています。
火に気づいていたのに、誰も知らせなかったんですね。
手順も訓練もない店でした。
経営者と店長は何を問われたのか

2人の側の言い分とあわせて見ます。 争点は小さな店の責任者にどこまで求めるかでした。
検察官は、経営者が防火管理者を選ばず、消防計画も訓練もないまま営業し、通路や内装の改善もしなかったと主張しました。
店長については、火災時の手順を定めて訓練しておかず、火災のときに通報や避難誘導も消火もしなかったと主張しています。
これに対して経営者の側は、天井裏の漏電による出火は予想できず、この規模の店の経営者に消防計画や訓練の義務を負わせるのは実情に合わず酷だと反論しました。
店長の側は、急に店長になって職務の指示もなく、2か月では訓練をする時間的な余裕がなかったので、ほかの従業員より重い責任を問われる理由はないと反論しています。
なったばかりの店長の言い分は、分からなくもないです。
裁判所の答えは逆でした。
裁判所が義務違反と認めたのはどこか

防火管理者がいない店で、誰が何をすべきだったのかが書かれています。
経営者については、防火管理者を選んでその人を通じて行うか、選ばないなら自ら消防計画を作成し、従業員を指揮して訓練することが義務とされています。
あわせて、消火・通報・避難の設備や器具を点検・整備し、避難の妨げになる通路の幅を広げ、内装に燃えにくい材料を使うといった店の改善も義務に含められました。
店長については、防火管理者に選ばれていなくても、店長として手順を定めて訓練することと、火災のときに直ちに知らせて避難させ、消火器で消火にあたることが義務とされています。
2人がこれを怠ったため、従業員が早く火に気づいたのに通報も避難誘導もされず、逃げ遅れた11名が亡くなったと判断されました。
防火管理者を選んでいないなら、経営者が自分でやるということですね。
判決はそう認めています。
経営者と店長の言い分はなぜ通らなかったのか

2人の言い分は、どれも有罪を覆す理由になりませんでした。
経営者の予見できなかったという言い分には、狭い通路で酔った客がたばこを落とすなどして火災になる危険は容易に予測がつき、漏電の予見が難しいことだけで出火の予見を否定するのは相当でないとされました。
内装材が燃えやすく有毒ガスが出ることも、経営者は捜査段階で認めていたと認定されています。
店長の言い分には、経営者がほとんど店にいない店では店長が全責任を持つのが通常で、手順を定めて訓練する程度のことは2か月余りで十分できると判断されました。
改善には限度があるという言い分も、極めて不十分な対策しかなかった以上、通路や内装の改善は結果を避ける有効な手段になり得たとして退けられています。
なったばかりという理由では、責任は逃れられなかったんですね。
手順を決める程度なら間に合うとされました。
明日からなにをすればよいのか

この事案で問題になった初動の備えに絞ります。 まず誰が何をするかを決めておきます。
現在の消防法第8条第1項も、一定の防火対象物の管理について権原を有する者に、防火管理者を定めて消防計画の作成や消火・通報・避難の訓練などを行わせることを求めています。
選任が必要な店なら、まず防火管理者を選び、消防計画を作って届け出る手続きを進めます。
そのうえで、火に気づいた人が誰に知らせ、誰が客を出口へ誘導し、誰が消火器を使うかを決め、店長を含む従業員で実際に動いて確かめます。
㈱防災屋でも、防火管理者の選任や消防計画の作成、訓練の進め方をご相談いただけます。
まずは知らせる人と誘導する人を決めて、一度動いてみます。
店長が替わったら手順も引き継いでください。
よくある質問
まとめ
店のみんなで、火災のときの役割を決めておきます。
決めたら一度は実際に動いて確かめてください。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 昭和56年2月19日 新潟地方裁判所判決(業務上過失致死傷被告事件)
- 昭和57年12月22日 東京高等裁判所判決(控訴審)
- 昭和58年5月10日 最高裁判所決定(上告棄却・確定)
- 消防法第8条第1項(当時・現行)
- 刑法第211条(当時)
※判決文の引用中の人名は、いずれも役割を示す表記(経営者・店長)に置き換えています。本記事は確定した判決の内容を要約したものです。判決当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。






